46話 生徒との対面
「それで、これからどうするんだい?」
少し場が落ち着いた後、学院長が口を開きそう聞いてくる。
どういう意味だ?
「? どういう意味です?」
「いや、今の話を聞いて今後どう動くのかと思ってね…」
ああ、そういうことね。
「別にどうもしませんよ。仕事をするだけです」
「…そうかい。てっきり仕事を取り消されるかと思ったのだが…安心したよ」
「いやいや、んなことしませんって。一度引き受けた手前断れませんよ」
学院長さんや、仕事の放棄はよろしくないんでしませんよ?
やむを得ない理由があれば別だけど、今回のことは別に仕事を放棄する理由にはならんでしょうし…。
最後までやりますよ。
「…ありがとう。こちらとしてもそれは助かる。今からじゃ代役も手配が間に合わないし、授業のカリキュラムに支障が出る。よろしく頼むよ。…そしてすまなかったね」
「はい。…まぁ学院長はそこまで悪くないですしね。元凶はギルドマスターですよ」
「君には黙っていようとしていたんだ、同罪だよ」
「そうですか…。まぁ、この話はもう終わりにしましょう。今日のことについて教えて貰えます?」
俺は話を終わらせ、今日の予定について聞く。
思えば随分と時間が押していることを忘れてた。初日から遅刻とか流石に勘弁。
生徒にただでさえ冷たい視線向けられてるんだから、これ以上悪化させたくないわ。
「む? もうこんな時間か…言いたいことはまだあるが、仕方ない」
「ええ、お願いします。…それで、担当の教師の方は? 朝会うって昨日言ってましたけど…」
「ああ、そのつもりだったんだが…どうやら体調不良のようでな。今日は欠席するそうだから無しだ」
「あ、そうッスか…」
「急遽プランを変えて、予定していたクラスとは別のところに行ってもらう」
「了解です」
そうして俺は今日のことについて学院長から話を聞くのだった。
◆◆◆
「ではよろしく頼むよ。最初は私も一緒に行こう」
「分かりました」
学院長が立ち上がり、移動を始める。
きっと教室に向かうんだろう。それを理解した俺は学院長の後についていく。
俺たちは学院長室から出た。
廊下を歩きながら、学院長から聞いた話を思い出す。
学院長から話を聞いた話だと、どうやら今回俺が担当する生徒というのは最上級生らしい。そんで相手をするのは貴族ではなく平民だとか…。正直助かる。
地球でいうところの高校3年生を相手にするようなもんだが、まーなんて生意気そうな学年なんでしょう。しょうがないけど…。
臨時講師だから1日にそんなに授業があるわけではないと思ってたが、初日は別で、朝から授業を観察して雰囲気を感じてほしいとのこと。
ぶっちゃけ一緒に授業を受けろということだな。
なんか学生に戻った気分だ…。一応今もですけども…。まぁそれが指示なら従いますよ。
ただ、仕事してる気がしないからなんか申し訳ない気がする。
こんな感じ。
廊下を2人で歩く。
それなりに歩いているが、この時間は生徒は皆教室に入っているのか誰も見当たらない。
HRとかあるのかな? あの視線に晒されないなら好都合だが。
しばらく歩いて、ある教室で学院長が立ち止まる。
「ここだ、入るがいいか?」
「問題ないです」
準備はとうに出来ていたので即答する。
ガラッと扉を開き、学院長は教室へと入る。
そして俺も続く。
「学院長!? おはようございます!」
「相変わらず凛々しい…」
「一体どうしたんだ?」
中に入ると、学院長がいることに驚いた生徒が挨拶や個人的なことを言ってくる。
生徒の数は…30くらいか? 予想してた数よりも少し少ない。
てかやっぱり存在感パネェな。学院長が一目置かれてるのがよく分かる。
まぁ学院長なんだから当然かもしれんが…。
そして…
「あれが例の?」
「ジャンパー?」
「ちっさ!」
「冒険者なの?」
「チビじゃん」
この差である。
学院長と比べると随分とお粗末な言い様だ。
俺が臨時講師としてくるということはもう知っていたはずだろうから、生徒それぞれで事前に情報は入手しているだろう。クラスが変わったところでそれは変わらないと思うし。
朝のことも情報通の奴は知っているかもしれない。
あと、チビはストレートに言われると心が痛むんでやめてください。
呪い殺しますよ? んなもん俺が一番よく分かっとるわ!
人の身体的特徴を馬鹿にするのよくない。いいね?
「学院長? どうしたんですか一体?」
俺がそんな風に思っていると、担任と思わしき人が声をかけてくる。
事前に知らせてなかったのか…。
「初日だし、皆に私から一言言いたいこともあったから来たんだが…邪魔だったか?」
「ああ、そういう理由でしたか。そんなこと全然ありませんよ」
「済まないね。…ツカサ君! 自己紹介してくれるかい?」
「はい」
学院長の言葉に俺は返事をする。
そして教卓の前に立ち、挨拶をする。
「えー、今回この学院の臨時講師をやることになりました。冒険者のツカサ・カミシロです。このような機会を経験したことはないので不慣れなことも多いですが、よろしくお願いします」
と、無難な挨拶をしておく。
もっとマシなこと言えやとどこからかツッコミが来そうな感じだけど、だってそれ以外に言葉が思いつかないんだもん。
仮に思いついていたとしてもそんなこと言うつもりなんてないけど…。
いや、だってそうじゃん?
ここでカッコいい自己紹介とかしたところで、馬鹿にされる・キモがられるってのがオチってもんですよ。
カッコいい台詞ってのは、それを言うに相応しい身なりをしたイケメンに限るって相場が決まってるんだ。常識的に考えて…。
だから私にゃ無理ですん。加えて小さいし…。
…。
俺は自己紹介を終えた後、生徒の様子を確認する。
まぁ案の定、半分くらいの生徒は冷ややかな目をしている気がする…。
もう半分は…そうでもなさそう…?
『今年は大丈夫なのか?』
『本当にコイツ実力あるの?』
『講師に見えない』
なんかそんな感じ。
思ってたよりかはマシだと思うけどね。
「皆、彼から色々と学ぶように!」
担任の教師が生徒たちに向かって言うが、反応はあまりよろしくないが…。
分かっていたこととはいえ意外と傷つくぞ…。
「そういうことだ。しっかりと学んで今後に活かしてくれ」
「「「「…はい」」」」
学院長には反応するんかい…。
「それと…」
ん?
「今この学院には冒険者を軽く見るという変な風潮があるみたいだが、今までの考えを改めることだ」
「「「「…?」」」」」
学院長の言葉に皆耳を傾ける。
そして…
「彼は…君たちじゃ足元にも及ばないぞ?」
…それ、忠告のつもりで言ってるんでしょうけど、挑発になってない?




