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神鳥使いと呼ばれた男  作者: TUN
第七章 悠久の想い ~忘れられた者への鎮魂歌~
471/531

469話 『剣聖』救出作戦:最終段階③

 

「『ゲイボルグ』!」

「『クイックスラスト』!」

「『見斬り』、『障壁』!」

「「ッ……!?」」

「くっ……! 今だ! 放てぇっ!」

「『ピアスショット』!」

「っ! 『衝破弾』!」

「グハッ!?」


 こちらへ放たれてくる無数のスキルは【剣術】に【体術】、そして魔法を駆使して対応し、中庭を踊るように駆けまわる。

 絶えず動く理由としては城の内部からも弓兵によって狙われ始め、その場に留まっていてもただの良い的にしかならないと感じたためだ。現に今も矢に打ち抜かれるところだった。


 これだけ数が揃うと、個々の武装にも違いが少しずつ表れてくる。レイピアや斧、片手剣に盾。大剣とまではいかないが両手剣の使い手に、二刀流の使い手もいる。俺が扱わない武器の使い手やスタイルの人が山程いるのだ。

 俺はこれまで身体の覚えている限りの経験と知識のみでやってきた身だ。色々な戦い方を見れるのは貴重でもあり、今後の糧になる。

 続々と掛かって来る兵士達を一人ずつ迅速に蹴散らし、中庭に転がる兵士を増やしていく。

 一斉にまとめて掛かっても太刀打ちできないと思ったのか、少し襲い来る兵士の波に間が出来たような気がした。


 そこだ! 加減するからちょっとの打撲は我慢してくれよ!


「隙アリ――なっ!?」


 既に数十に及ぶ兵士を倒したつもりだが、兵士達の連撃は緩むどころか更に苛烈さを増していくばかりだ。それ故に連撃の合間を見つけることが難しい。


「『千薙』!」


 一人片付けた後、大きく振るわれた槍の薙ぎ払いを上に跳躍して躱す。そして高くなった視線を元に、上空から比較的多くまとまっている場所に向けて最低出力の『千薙』を放つ。


「「「ぐわぁあああああっ!?」」」


 一振りの刃の斬撃は飛来の最中に無数に分裂し、千の群れを成して兵士達を襲う。

 この出力だと切れ味も見込めず威力もまるで期待できないが、広範囲を補う攻撃としては足止めが出来れば十分だ。実際、吹き飛ぶ兵士の数からも効果は予想通りであった。


 今はもう、この中庭全てが戦場! 全員一丸になって掛かって来い!


「むうっ……!?」

「べ、ベイガード隊長!?」

「今のが『千薙』だと……!? こ奴、一体どれ程の力を……!?」


 見て反応し、『千薙』を防いだ者が何人かいる中、上官と思しき人物はやはり練度もそれなりに上であるらしい。皆鋼の甲冑を標準装備として纏っているが、数人程見受けられる色付きの鋼の甲冑を装備する人らは剣や槍を手に各々防いでいたようだ。中には珍しくも身体を隠せる大きさの盾に身を隠し、周りの人らへの攻撃を防いだ人もいる。


 自分以外も守るとは上司の鏡ですな。


 だが――!


「続けて行かせてもらいますよ……!」


 驚くにはまだ早すぎんよ隊長さん達。こんなのまだまだ序の口だ。


「もらった! ハァアアアッ! ――ッ!? なにっ……!?」


 今の『千薙』を見ても臆さず、果敢にも着地した瞬間かつ俺の死角を突こうとした兵士が後ろから槍を手に攻撃を迫ってくるのが分かった。

 甲冑の擦れる音が近づき、それ以上に槍の切先はもう背中に当たる直前であることだろう。ギリギリまで引き寄せてから俺は『転移』で真横に瞬間移動し、槍が脇を通り抜けるのを見届けて躱す。


「どわっ!?」


 手応えのない全力の突きが空振りし、前のめりに体勢を崩した兵士が俺に背中を見せた。

 一度も見ずに躱されたことに驚愕する兵士には申し訳なかったが、そのまま片足を軸に振り返ってくる身体に回転蹴りをかまし、『千薙』で足を止めた兵士のまとまりに向かって吹き飛ばす。


 ボールを相手に向かってシュゥゥゥーッ!


「「「ぐあぁあああっ!?」」」


 超! エキサイティン! 

 ……なんだろう? 無性にこのフレーズを心の中で叫びたくなってしまった。理由は知らんけども。


 流石にブチ当てたところで人の身体がド派手に弾け飛ぶなんてことはなかったが、雪崩のように大部分の巻き込まれた人達が慌てふためいたまま地べたと平行になった。


「死角を突いても無駄だ。気配で諸君らの動きはすぐ分かる」

「くっ……賊一人になんてザマだ……!」

「ど、どうすりゃいいんだよこんな奴……!? 滅茶苦茶だ!?」


 何もしなければいいんだよ。そっちが動くからこっちは動いてるだけだ。

 被害をこれ以上出したくないならそのままジッとして――。


「下がれぃ小童共っ! 儂が出る!」


 って思った傍から来るんかーい。


 弱音を吐く兵士達に希望を湧かせるかの如く、城の方角から野太く勇ましい声が突然聞こえてきた。兵士達につられて俺も声の方に顔を向けてみると、歩くだけで地を踏み均せそうな厳つい男性が目に入る。


「ホントか!?」

「おい! レオニダスさんが来たぞ!」


 各地で喜びの声が挙がり、士気が引き上がっていく様子がよく分かる。それだけこの場において頼りになる人が来た、ということなのだろう。


 あれま。なんてめっちゃガタイのイイ人なんでしょ。拳で岩を砕き割りそうな筋肉してますねぇこれは。

 しかもうわ……その後ろには別の団体さんのお出ましときたか。ぞろぞろと精鋭っぽいのたくさん来てんですけど……。


 男性に後ろに続いてやってくる新たな兵士の数と見慣れない恰好に、俺は目が釘付けになった。

 周囲にいる兵士達同様の姿のまま、正当に練度を高めた人が大半ではある。しかし、武器はそのままに甲冑は身に纏わず、若干兵士とは思えない軽装をした人も多くいたからである。

 普段の俺みたくローブのみの人もいたりと様変わりしており、曲者揃いと称するのが適しているように思えた。


「怪我した奴は下がってろォ! 動けない奴には手を貸してやれ!」


 巨躯の男性……無精髭を生やした偉丈夫の男が身体を乗り出すと、俺の周りにいた人達が離れていった。俺に近づく男性との間は道が開かれ、真正面で向き合う形が出来上がっていく。


 身長はゆうに2mを超えていそうだ。筋骨隆々としたその見た目は鎧で覆い隠すにはあまりに勿体なく、他の兵士達の身体がお粗末と思う程とも言える。当然実際はそんなことはないのだが、見た目から抱ける印象はそんなところだった。


 これ、鎧は特注してるんだろうなぁ。費用が馬鹿にならなさそうだ。

 筋肉の鎧を鎧で守る二重の構えというやつですね。分かります。


「お前らも前には出ンなよ? 怪我したくないならなァ」

「出ないから安心しろ。それよりも目の前の奴に集中しろ。……これは手強い相手だぞ……!」

「だろうな」


 後ろに控える眼鏡をかけた知的そうな男が冷静に周りの状況を見渡してから進言すると、偉丈夫の男は俺の方を見たまま言葉を返す。すると、向かってくる足を止めて偉丈夫の男を俺へと送り出すのだった。


「中々派手なことしてるじゃねぇか」

「……」


 俺と偉丈夫の男が対面する。男はこの惨状に軽く笑みを浮かべて俺に言うと、目でそのことについて言及するかのようにこちらを見つめてくる。


 明らかに力を誇示するような見た目は本人にその気がなくても相手を確実に威圧する。

 しかも注目すべきはその手に持っている武器だろう。背中に隠すには少々大きすぎ、肩にぶら下げていたのが時折顔を出して見えていたのでもしやとは思っていたが……。


 あのー……ちょっとこれは予想外と言いますか、本当にあるんかいなって気持ちが込み上げております。はい。

 これが俗にいうモーニングスターってやつですか? そんなの使う人本当にいたんですね……。とても四十代半ばくらいの人が使う武器とは思えぬ。


「オイ小さいの。随分暴れまわってくれたようだな?」


 オイ大きいの。随分洒落た得物(モン)持ち出してきたようだな?


 言葉よりもその見た目が圧となっていた。凹凸のような棘を無数に生やした鉄球に繋がれた鎖がジャラジャラと鳴って存在を強調し、否応なしに視線を奪われて仕方がない。


 どこぞの蛮族だよオイ。


「暴れるのは別に構わねぇが、場所は選ぶべきだったなァ? 生憎とここは神聖なる王家がいる場所だ。……ちっと度が過ぎるってモンだぜ」


 内心見た目から連想できる罵詈雑言を期待していたりしたものの、純粋な非難の声をぶつけられて困惑しそうになったのは内緒である。


 意外と常識的な発言とは……それ言われるとこっちはなんも言えませんわ。素直にすんませんした。

 それにさっきも倒れた兵士さんを引き下げるように言ってましたもんね。……まさかの野蛮な紳士であったか。一体どっちやねん。

 失礼だけど山賊とかしてた方がよっぽど似合うと思います。ヘイお頭って言いたいし。


「一撃で叩き潰してやろう!」


 お頭がゆっくりと、縦に鉄球の付け根から鎖を回し始め、次第に根元から鎖を徐々に放していく。そこから頭上で縦から横回転するように持っていくと、圧巻の一言に尽きる大道芸が目の間で繰り広げられるのだった。


「おぉ……相変わらず凄い! よくあれだけの重量を軽く……!」

「オイ後ろ! もっと離れろ! 巻き込まれたらひとたまりもないぞ!」


 一斉に俺の背後にいた兵士達までもが離れていき、両脇に兵士達が集中する形が取られていく。

 振り回しただけで風圧を感じる辺り、鉄球故に重量はそれなりにありそうである。更にその重量をものともしていない膂力にも驚きだ。身体も微動だにせず安定しているし、これはかなり重い一撃が予想される。


 これじゃ近づくだけで危ないな。こんなのまともに食らったら怪我しちゃうかもしれないでしょーが。

 というか仮面が割れたらどうしてくれる。そっちの方が心配だぞ俺は。


「ほう? 逃げも隠れもしないつもりか。その意気やよし!」

「こうして一体一を作る程だ。ここまでの騎士道精神を見せられてはこちらも誠意で応えるのが道理というものだろう?」

「フッ! 随分と変わった賊みてぇだな。ならその自信と共に砕け散れぃ!」


 動く素振りもなく微動だにしない俺の態度が良かったのだろうか? お頭はニヤリと不敵な笑みを浮かべ、一本欠けている歯を覗かせた。

 その後すぐに、振り回していた鉄球が狙いを定めて放たれた。俺の前方の黒い塊が眼前へと迫り、重力を無視して身体を粉砕しようと迫りくる。

 こんな攻撃くらい普通なら躱せばいいだけだ。放った直後の今なら隙があるし完全な無防備も同然。いくらでも付け入ろうと思えばできる。


 だが……ここは敢えて受けて立つ! 流石に空気は読むとも。


「っ!」

「やったか!?」

「ふん……ぬ!」


 一瞬期待した声が挙がったが、すぐにその期待は意味のないことだったと知られたようだ。

 接触の直前ほんの一瞬だけ後ろに跳び、鉄球の衝撃を殺しつつ俺は攻撃を捉えることに成功した。懐に抱え込んだ鉄球はその重量と遠心力で増した力がとんでもなく、腹を突き破ろうとする勢いで俺の身体を押し込んでくる。


 あっぶね……!? こんなの他の人がまともに受けたら身体がバラバラになるわ。こっわ!

 もう少し下で受けてたら俺の股間も吹っ飛んでたかもしれん。ヒェッ……。

 新品のまま廃棄とか男が廃るわ! まだまだ性欲真っ盛りの健全男子やぞこちとら! 


「な……なにィイイイッ!?」


 足で踏ん張り、勢い全てを俺が地面へと逃がして相殺する。中庭の芝が抉れて土が深く露出し、二本のレールが真っすぐに敷かれた。

 その一部始終を見ていたお頭が驚きの声を上げ、勢いの無くなった鎖を床に垂らした。


 え? まさか俺のナニの心配してくれてんの? それはそれはお気遣い感謝感激ですわ。

 まぁ多分違うだろうけど。


「ば、馬鹿なっ!? レオニダスさんの一撃を受け止めたぞ!?」

「こ、この重量だぞ……!? 何故易々と受けきれる!?」

「有り得ん……なんなんだコイツは……!? 見た目と力が一致してないぞ!?」

「お、オイオイ……コイツは一体どういうことだ? 今のは儂の渾身の一撃のつもりなんだが……?」

「この程度の一撃を受けられん程ヤワな鍛え方はしていないだけさ。見た目に騙されたな、剛力な戦士よ」


 俺自身どう鍛えて今の自分が出来上がったか覚えとらんから何の根拠もないんですけどね。

 それはさておき敵でありながら俺を気遣ってくれたお礼だ。――よろしい! ならばキャッチ&リリースで称え合うとしようじゃありませんか。

 俺ノーコンだから下手投げで投げるけど、重たいから気を付けてね?


「そーれ」

「「「あっ――!?」」」


 お返しすんぜ! これが俺の精一杯の気持ちだゴラァ! 

 受け止めたら死ぬと思ってくんなぁ!


 抱え込んだ鉄球を両手で上空高くに放り投げると、天地に黒く丸い影が一つずつ落とされた。放物線を描いて上昇した鉄球は次第に勢いを失くし、この場の絶句した兵士達の反応と同じタイミングで一瞬上空で静止したようにさえ見える。


 時が止まるってこんな瞬間のことを言うんだろうな。

 後はもう落下を待つだけ……。さぁ早く逃げんと潰されるぞぉ?


「「「うわぁあああああっ!?」」」


 鉄球が落下を始めると、落下地点にいた兵士達が悲鳴を上げて一目散に逃げる。

 当たれば死という意識はパニックを起こすには十分で、冷静に考えれば少し距離を取るだけで済む只の移動を非常に困難なものに変貌させたようだ。足をもつれさせながら必死に逃げ惑う姿が語っているようだった。


 そして鉄球が中庭に落ちると、重低音と共に芝に突き刺さるように少し埋め込まれた。その衝撃に驚いた兵士が数名転びかけていたが、お頭は一人俺の方を見つめたまま微動だにしていなかった。

 お頭は自分の後方で騒いでいる惨状を見ることもなく、目は見開かれ真っすぐに俺へと向けているようだ。


「っ……化物かお前……!? セルベルティア一の怪力の儂でもこんな真似は……!?」

「私ならできるというだけのことだ」

「馬鹿な……っ!? グ……オォォォォォッ……!?」


 へぇ、お頭ってセルベルティア一の怪力だったんか。なんとなく想像はついてたけども。

 ……んじゃ、ここらで休憩入っててくれや。


「厄介そうだからすまんな。寝ててくれ――あ」

「ッ~~!? カッ……ア゛……!?」

「レ、レオニダスさぁあああんっ!?」


 鉄球を放り返したわけだが、鉄球が鎖で繋がれている以上また次の攻撃を放たれる機会を与えてしまうだけだ。

 それなら使い手を機能させなければ良い。立て続けに左手から『衝波弾』を撃ち、お頭の身体を吹き飛ばして気絶させる――だけのつもりだった。お頭の声と心配の悲鳴を聞くまでは。


 しくった……今の『衝波弾』、多分股間に当てちゃったわ……。

 なんかこっちまで痛くなるような縮こまり方してるし声が悲痛すぎるんですけど……。し、白目剥いてるとかガチやん。


 最初はただ蹲っただけのように見えた。しかし声にならない声を上げ続けるお頭の姿に違和感を覚えた頃にはすぐに察してしまった。悶絶する恰好はどこか見覚えがあったから。


 うーん……一撃必殺、南無阿弥陀仏って言いたかったのに。これじゃナニ阿弥陀仏ですわ。なんかそっちが機能しなくなったらすまん。

 で、でもわざとじゃないんや! 俺のこの手がいけないんですぅ兵士さん!

 どうしよ……ホントに駄目になったら『リバイバルライフ』使った方がいいかな? こんな見た目でアレが不能って可哀想すぎるやろ。

 ホントごめんよ、お頭のお頭。だからどうか元気出して? 


「は、早く医務室へ運べ!? 手遅れになるぞ!?」

「下手に動かすな! 担架持ってこい!」

「(それにしてもおかしい……。聞いてたロアノーツって人が見当たらない。真っ先に出てくると思ってたのに……)」


 お頭が駆け寄った兵士達に介抱される様を黙祷しながら眺めながら、俺は気にしていたあることを思い出す。

 ロアノーツなる人物が、依然姿を見せていないということを。


 別格の強さと風格を備えるというからには、現れれば見て分かると思っていた。またお頭や精鋭達が増援として来た際の士気の上がりようから、兵士達の反応も段違いであるのは恐らく正しいだろう。

 しかし、全くその反応がない。俺が騒ぎを起こしたことを認知したとして、伝達されてここに駆け付けるまでの時間は敷地内であれば十分にあったように思う。


 大体とにかく勘が鋭いってのは聞いてるし、この騒ぎに鋭くならないとは思えないんだが……。


 まさか……!? これが陽動だって勘付かれた……?

 だとしたらそれはつまり――。




「っ!?」

「余所見とは舐められたものだなっ! ぐふっ!?」

「……この気配は……?」


 ここで突然、身体が反射するように自然と城壁越しに遥か彼方の方角を向いてしまう。俺の不意に見せた隙だらけの姿が癪に障ったのか一人斬りかかってきたが、今はそんなことを気にしている場合ではなかった。適当にあしらい、意識を集中して俺はその正体に探りを入れた。

 近づいてくる命の気配は凄まじく大きく、一際飛び抜けた力を誇示しているかのようだ。詳細を知ろうとすればする程にその桁違いの圧さが伝わり、この存在を無視するような真似から遠ざける。


 なんなんだこの馬鹿みたいな力は。もしかしてオルディス並……?

 しかもこの速さ……もうすぐそこまで来て――!?


「……あれは……!」

「ハァ……ハァ……! ここに、いたのか……!」

「えっ!? お、オイ!? あれを見ろ!?


 気配が近寄る早さが急激に高まったと思った時には、既にその脅威は間近にまで迫っていたようだ。俺の呟きを感じ取った周りの兵士も俺の視線に気が付いたようで、気づいた者からその情報が一気に拡散して知らされていく。

 見る人の心を奪うように、彼は一斉にこの場の視線を瞬く間に集めた。


「まさかスーラからここに来てるとは思わなかったよ。友好的にしたかったんだけど、どうやらそういう人じゃなかったみたいだね……!」

「っ!?」


 何故俺がスーラにいたことを知っているのか驚きそうになったが、彼の特徴的な髪色は俺の記憶を揺さぶってとある場面を思い起こさせる。

 城壁の上から中庭を一望するその彼と目が合った気がしたのは気のせいではなかったようだ。


「ようやく……見つけたよ……! それと、暴挙はそこまでだよ!」


 やっぱそうなる、よな……! 


 まだ距離はあると思っていたものの、ここへと至るまでの速さからある程度の予想はついていた。

 城壁の上にあった彼の姿は、突然消えた。次の瞬間にはいつの間にか腰から抜き去ったのか神聖な雰囲気を放つ剣を構え、俺の眼前へと距離を詰めていたのだ。

 消えたと見間違いそうになる速力は最早圧倒的と言っても過言ではない。事実、先程『ソニックスライド』というスキルを使用した人達が遅く見える速さを今見せつけてきている。


「ハアッ!」

「ぬっ!? (重っ……!)」

「「「うわぁあああっ!?」」」


 彼が剣を振りかぶる動作に合わせて俺も自前の大剣を使って待ち構え、その強襲に対応する。俺の大剣と彼の剣が交錯すると、刃同士の間からはすさまじい衝撃波が発生し、周りに展開していた兵士らも巻き込んで一気に吹き飛ばした。

 恐らく周りの兵士達には今何が起こったのかさえ見えてはいないと思われる。


 オイオイ、そこまで肉付きなさそうなのにお頭より力あるんじゃねーのこれ?

 いきなり強さが飛躍しやがった……! なんだコイツ……!?


 衝撃波の影響を受け、俺ら二人を残して周囲の芝には円形にスペースが生まれる。その中で俺と彼の鍔迫り合いが始まり、互いに腕を震わせながら驚き合う。


「っ……!? 受け止めた……!?」

「随分な挨拶だな。どこの誰だか知らないが、こんなトコまでいらっしゃい……!」

「うわっと!?」


 剣越しに間近で見る彼の顔には見覚えしかなかった。一度思い出すと鮮明に当時の自分の印象までをも思い出していき、苦笑いしてしまいそうになる。

 俺が彼の剣を無理矢理突き放すように押し返すと、彼は宙返りしながら見事に着地して俺と対峙するのだった。


 ああ、一度俺はアンタを見たことがあるな……! スーラって聞いてすぐに分かったよ。

 そうだ完全に思い出した……あの時宿屋の前で見た人だ。初めて見たこんな俺と唯一同じ黒髪をした人を忘れるわけがないもんな。


「やっぱりオーラ通りか……。これは一筋縄ではいかなそうかな」


 彼が剣を握りなおし、俺から目を逸らさぬまま構えを取り直す。その動作だけで分かる練度と集中力はこちらにも伝染し、俺も油断できないと構えを自然と取らされてしまう。


 こんな人がいるって話は聞いてないんだが……何者だアンタ……?

 ロアノーツって人も気になるけど、今の動きで只者じゃないってことはないだろ?


※12/31追記

次回更新は本日の夜です。

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