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神鳥使いと呼ばれた男  作者: TUN
第七章 悠久の想い ~忘れられた者への鎮魂歌~
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462話 『剣聖』救出作戦:第二段階②(別視点)

 

 ◇◇◇




「(――動いた! 想定通りそっちに行きましたか……!)」


 地下でフリード達と別れた後、アイズはひっそりとある機会を伺い、その時がようやく巡ってきたことを悟った。

 フリードとは別の侵入口から城の敷地へと入って身を潜めていた身体が、重い腰を上げるように動き出し、一点に向かって進み始める。


 アイズが瞳に映すのは、背を高くして迸る炎だ。

 その場からじっと張り付いて動かなかったはずの炎は動き出し、僅かな逡巡の後に明確に焦点を定めた様だ。動きに迷いがなく、狙いを断定するには十分であった。



「――どうもお疲れ様です。ちょっと失礼しますねぇ」

「えぇっ!? ま、マーロック室長!? ど、どのようなご用件で!?」

「あ、どうかお構いなく。鬼の居ぬ間に少し探ろうと思いましてねぇ」


 アイズが赴いた先はつい先程までロアノーツがいた執務室だった。

 ノックもせず入ったためかアイズの突然の出現に素っ頓狂な声を上げた兵士であったが、その失礼と思われかねない態度は軽く流されて事なきを得る。

 それ以前にアイズはそんなことは気にしない上、今は時間が惜しい気持ちで一杯の為どうでもよく思っていたのが実情だったが。


「探る……? それは一体何をですか?」


 アイズが急に訪問してきた理由が分からないまま、兵士は疑問を訪ねていた。


 それもそのはずだ。アイズにとってロアノーツは天敵に近い対象である。

 毎回摘発される原因が全てアイズにあるのはさておき、わざわざアイズがロアノーツのいることの多い場所に赴くなどこれまでに殆どなかったことなのだ。そのアイズが姿を表せば動揺の一つくらいは当然と言える。


「それを貴方が知るには少々危険が高すぎますかねぇ。だから内緒です」

「はぁ……?」


 兵士の疑問にアイズは答えを返さなかった。

 正確には返せなかったのだが、返したところで到底理解される内容ではないので同じようなものだった。


「あ、それと……暫くの間退出してていいですよ?」

「へ? ――っ……!?」


 執務室にいた兵士とは無駄な問答にしかならないと判断し、アイズはここで行動を明確に起こす。

 自らの力である他者を操る力。本来なら滅多に使わないその力をこの場で発動させたのである。

 兵士の身体がアイズの力を目の当たりにし、硬直する。


「『怪我をしたくないなら、どこか安全と思える場所に身を隠してください。いいですね』?」

「……はい」


 仮面の奥底の瞳が兵士を捉えると、兵士はアイズの言うことに頷いてゆっくりと部屋から出て行った。

 多少フラフラした足取りは力の影響を受けてしまったことによるものだろう。


 セシリィに同じ力を掛けた際は意識は奪わずにいたが、今回は認識も曖昧になるように力を重ね掛けしているのだ。

 傍目からでは一人に対し過剰すぎる力の行使と言える。


 そのため、多大なマナを消費する力に別の力も使ってしまった症状は当然出ていた。耐えはしているのだろうが、アイズの身体が一瞬グラつく。

 そこでアイズはアスカ経由でフリードから先日貰っていた例の回復薬を惜しみなく取り出すと、一切の躊躇もなく一気に飲み干した。


「(ふぅ。では今のうちに……)」


 異常な倦怠感を脱して回復すると、アイズは何事もなかったかのように次の行動を起こす。


「(私の勘が正しければ、あるはずです)」


 兵士が執務室を出たことを確認し、アイズはそれから窓を背後に構える机に目を向けた。

 急いでいたのか机の端に山積みされた書類の数々は、ロアノーツを知る人からすればらしくない。束に挟まれた書類がはみ出して見えているのがそう思わせる。


 アイズは今回の作戦における自分の買って出た役割である、結界の解除や仕込み等の数々。それらの補助活動は今なお継続したままである。

 そのミスのできない最中であっても、アイズにはどうしても確認しておきたいものがあった。それが確認できるのは、このタイミングだけだったのだ。

 自分の障害となる者がいなくなる、この一瞬が。


「(ここ最近めっきり見なかったので忘れていましたが、セシリィちゃんのことで思い出しましたよ。あのきな臭い例の降誕儀式のその後は一体……)」


 アイズは書類の束を手に取ると、目的のものをいち早く見つけるために手早く上から捲っていく。

 静まり返った部屋で、紙を擦る音が絶え間なく単調に響き渡る。


「っ!? やはり……!」


 そして……アイズは見つけた。探していたものを。

 見つけるや否や、残りの書類を机の上に放り出し、上から下へと書類の内容にサッと目を通していく。


 目を通していく程、アイズの仮面の内側は険しい顔をどんどん作り上げるのだった。


「(こ、これは……! 全く私以上にロクでもないことをしているみたいですねぇ……)」


 目を通した結果、アイズは最早絶望的な未来しか見えない現状を呆然と理解するしかなかった。


 アイズが今目を通したものは、フリード達と出会ったことで思い出した、個人的に気になっていた内容である。以前までは結果だけはアイズも何度か目にする機会のあったものだった。


 誰が唱えたものなのか、あまりに突拍子もなくあまりに馬鹿げた発想。根拠もなく(まじな)いに近しいことの解明のためだけに行うには非人道的すぎた内容だ。


 アイズすらも呆れて苦言を呈する内容は、成果の出ない結果が報告されてばかりいたため凍結されていたものかと思われた。

 ここ最近報告が一切回ってきていなかったのはそのためだと、アイズは自然とそう思い込まされてしまっていたのだ。


 だが現実は違った。

 それは凍結されてなどおらず、今もなお継続中であった。今この瞬間も動き続け、人知れずに良くない方向に進み続けている。


「(『英雄』が出現した影響がこうも直接響くとは……。フリードさん……もう、貴方の願う世界は見られないかもしれませんよ。私には一切の光も見えてきません)」



 連合軍本部の押印がされ、正規の手順を踏んで回されてきた報告書。

 アイズは軍の上層部のみに閲覧を許される書類を手に、心の中でそう呟いたのだった。




 ◇◇◇




 


「ハァ……ハァ……。やっと、見えてきた……!」


 フリード達の作戦第二段階の開始、同時刻――。


 セルベルティア内にて密かに動き始める者達以外にも、密かに外部からそこへ割って入ろうとする者がいた。


「(休憩なしは流石にやり過ぎたかなぁ。皆にも悪いことしちゃったし)」


 額に滲んだ汗を拭いながら一人の若い少年が、セルベルティアへ通ずる道の真ん中で神妙な顔つきで内心呟く。


 酷く焦り、また疲労しているのだろう。身体から湯気が立ちそうな程に汗をかき、膝に手をついて下を向く姿は如実にそれを表している。


「やっぱり、勘違いなんかじゃ、なかったのか……! あの時、一瞬スーラで見たオーラと同じだ……!」


 疲れは残るが、息を整えた少年は身体を起こして前を見据える。

 そして先日に実際に見た光景がまさに目の前にあることを確信し、決意を胸に息を呑むのだった。


 少年の目には、セルベルティアそのものから滲みだしているのではないかと錯覚する程の不可視のオーラが見えていたのだ。

 これが初見であれば、街自体に何かしらが起こっていると思っても無理はないだろう。それ程の馬鹿げた規模のオーラであった。

 セルベルティアに近づくにつれ、遠くからも確認できていたオーラは次第にその大きさを増し、今にも潰されそうな程に眼前へと迫りつつある。


 何も気づかず、見えていないことが幸せだと感じても不思議ではなかった。


「皆が危ない……! 早く、行かないと……!」


 しかし、少年は知っていた。このオーラが一人の人物が持った力そのものであるということを。


 そのオーラが持つ力の強大さは決して放置できるものではない。

 話を照らし合わせてみると、このオーラを持つ者が連合軍に仇名す者である可能性は十分に考えられ、該当するような者も他にいなかった。

 その事実のみが、この少年を突き動かし、目を背けて逃げるという真似を許させなかった。


「今度は逃がさないぞ……!」


 少年――またの呼び名を『英雄』として知られる若き者。

 天使が今もなお蔓延る世界を収束に導く存在として力を磨く少年が、強大な障害に対し敵意を向けた。


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