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神鳥使いと呼ばれた男  作者: TUN
第七章 悠久の想い ~忘れられた者への鎮魂歌~
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459話 『剣聖』救出作戦:第一段階③

遅くなりました。

区切り付かなかったんで多少ブツ切りしてます。

 


 螺旋階段を上り、途中の見張りは素通りして一気に駆け上がる。


 ほぼ一直線な分、移動速度もこれまでと段違いだ。気楽さも違う。

 すぐに突き当りまでやってくると、これまで雰囲気の違う扉が俺を待っていた。


「……」


 この奥か。多分、この扉の奥に『剣聖』さんが……。

 あと扉の前に誰かいるな……。

 自分の気配を絶っている分、周りの気配がより鮮明に感じられる……気がする。


 実際、今の俺は多少だが周りの気配が分かる感覚がある。

 それは先日の夜、あの謎の力を発揮してからだ。


 セシリィにあれこれ抱えていた秘密を話していた際、セシリィからも色々と当時の状況での疑問があった。

 なんでも、あの時の俺は目が金色に切り替わっていたらしい。どうやら普段は茶色をしているらしいのだが、だからやたらと顔を見られていたのかと、セシリィの反応も今思えば納得できなくもない。


 攻撃手段の増加、また移動の足場や防御に応用でき、身体能力もかなり上昇していたように思う。

 感覚的に全て理解したからこそ分かるが、あの力は尋常じゃなかった。なんせほんの少し発揮しようとしただけでこれなのだ。限界はまだ遥か先にあることも感覚として分かる。


 ルゥリアの言った、世界に見つかるという心配。そして使う場面がここではないということ。

 神獣達が望む来るべき刻で発揮すべきものであるのだろう。俺にこんな力がまだ残されていたことに驚く一方で、ここまでの力を使わないといけない場面が来るなど、俺には想像もつかない。


 だが多分あの力は……有限だ。使っていればいずれ消えてなくなってしまう。それも含めて使うなって言ったのかもしれない。


 例の力の感覚はまだあるし、いつでも引き出せるようにはなっている。

 今はこの力の存在を理解したからか、恩恵として周りの気配が多少分かるようになっていた次第だ。ぶっちゃけこれだけでもすっごい便利。

 感覚が鋭敏になったというか、今までできていたことができるようになったというか……上手く言えんけど。




 ――ふう。一回深呼吸しよう。

 ここに至るまでの道中、聞いていたよりも人が多かった気もするけど、取りあえず無事到着したようでなによりだ。

 ここがあの女のハウスね! ……いや、実際どんな顔してらっしゃるのか知らんのだけどもね。


「……? 誰だ? ――う゛っ!?」

「ごめんなさい」


 私、背後霊。今貴方のお命頂戴したの。


 部屋をノックし、見張りの兵士が扉を開けた瞬間に背後に『転移』で回り込む。

 そして首を絞めて一瞬で意識を刈り取り、邪魔にならないよう兵士の身体を部屋の脇へと移動させる。

 応援を呼ばれない状況を作った後、ようやく部屋の全体を俺は眺め回した。


 思ったよりも広い造りだ。この棟の中で一番広そうな……まるで大広間みたいになっているな。


 俺が外から見て確認した棟の隙間からは光が差しており、漂う埃と塵を照らしている。

 昼間だと言うのに、その差し込んでくる光以外に大きな灯りは一切なく、部屋全体は薄暗い。

 実際はそうでもないが、陰鬱を思わせる暗さはここがジメジメしていると錯覚しそうになりそうだ。明るさというものの大切さがよく分かる。


「何方ですか!?」


 この部屋についての感想を内心つらつらと述べていると、とにかく際立っていた鉄格子の奥から声が飛んでくる。


 綺麗な声だな……女神か何かか? そうですと言われても信じちゃいますよこれだと。


 凛とした声にそんな印象を覚えつつ、これが『剣聖』さんの声なのかと認識する。


「何故このような場所に? こんなことをしては打ち首程度では済まされませんよ」

「急な襲来ですみません。とある事情がありまして……『剣聖』さんでお間違いないで――!?」


 何から話せばいいのやら、というのが本音だった。

 一先ずは必要もないことだとは思ったが、俺は本人確認から入ろうとした。しかし、声の姿を確認しようと鉄格子に近づき、奥に鎮座している人影を見た瞬間……声が出てこなかった。




 ×××……!




「っ……!」

「え?」

 

 脳裏を、何かがノイズを立てながら一気によぎっていく。

 突然胸が貫かれるような衝撃が走り、目頭が熱くなった。

 身体が打ち震えるようだった。手足に異常に力が入り、上手く制御できなかった。


「あ……あ……っ……!」


 言葉を発したいのに発せない。喉まで出かかっているのに、その最後の一押しが上手く出来なかった。

 正座で座り、床まで伸びる栗色の長い後ろ髪。大分痩せているが整った顔立ちに加え、纏う雰囲気と振る舞いが俺の奥底の何かを刺激する。

 その『剣聖』さんの姿が朧げながら別の誰かの輪郭と並び、俺を見つめてきているように思えた。

 見れば見る程に想いが込み上げ、現実から目を背けたくなる程だ。無性に、この手を伸ばしてしまいそうになる。


 まるで、身体がずっと欲しかったものを求めていたかのようだ。


「なん、で……?」


 辛うじて動かせた手で瞼を擦っても、溢れてくる涙は留まることを知らない。俺は涙が出てくる理由が分からず、自分を保つために自問自答する。


 だが、俺はこの人によく似た人を知っている。それも深く親密な仲と言って差し支えないくらいに。


 凛としていて、母性があって、芯の強さを備えた人。


 あぁ……よく知っている。

 どんな人であったのか記憶になくても、俺の心はそれを深く覚えている。魂にその生き様を刻み込んでいる。


 でも――どうしても名前が出てこない。

 それに泣いている理由も分からない。嬉しいのか悲しいのか……どっちなんだろうこの気持ちは。

 嬉しいのに悲しいって……意味分かんねーよ。


「何故……泣いているのですか……?」

「ご、ごめんなさい急に。大丈夫ですから……気にしないで」


 急に現れ、そして涙を流し始めた俺を心配してか、『剣聖』さんが聞いてくる。


 いきなり見張りの意識を奪ってしゃしゃり出てきた奴が急に泣き出したら、そりゃ動揺するよな。だって意味分からんもん。


 涙のせいで視界が揺らぎ、『剣聖』さんの素顔がまともに見れない。

『剣聖』さんも対応に困る中、俺も涙が収まるまでの間無言が続いた。




 ◆◆◆




「あの……落ち着きましたか?」

「ええ。なんかホント……ごめんなさいっていうか……」


 やがて俺の涙が止まったのを察したのか、恐る恐る『剣聖』さんが様子を窺ってくる。

 対する俺はというと、平身低頭の姿勢で平謝りするという状態を余儀なくされていた。


 目元がまだ熱い。

 いきなり現れて泣き止むまで見守られてる俺、マジで本当に何しに来たんだって話だ。

 急に怖気づいて泣き出したって思われても仕方ないぞ。とてつもなくダサい。そしてかなり気まずい。


「事情は分かりませんけど、落ち着いたのなら良かった。その……ところでどちら様なのでしょうか?」


 既に主導権が彼女に握られてそうな件について。

 本作戦はかなりグダグダになることが予想される次第であります我が同志達よ。主に俺のモチベーションですけども。


 自分がこれからやらなければいけないことに対し、本当に大丈夫かと他人事のように心配したくなる。

 気の持ちようというのは大事だ。やる気さえあればなんとでもなるような気がするし、できる気がしてくるものであるから。


 ――できるとは言ってませんけどね。

 私? ……気合でなんとかなったら苦労しないと思いますねーハハハ。


「えっと、じゃあ改めまして……。どちら様と言われても悩むところではありますが、俺はフリードって言います」

「フリード様ですか。初めまして……カリン・アイウォルクと申します。このような格好での挨拶をお許しください」


 格子越しに向かい合い、互いに名乗り合う。

『剣聖』さんは牢屋の中でも礼儀正しそうな雰囲気が伝わってくるようで、アスカさんの着る和装に近い雰囲気ある服に身を包んでいた。

 固い床に苦も無さげに正座で座っており、そしてジッと俺の目を見つめているのが分かる程真っすぐ、視線を泳がせることなく焦点を定めている。


 長く閉じ込められているにも関わらず、服装も極端に汚れが目立ってもいない。

 流石に女性……この辺りは気を遣われていたのかもしれない。


 でも監禁生活でここまで精神を保っていられるなんて相当だな。しかも困り果てているという様子でもない。

 彼女を取り巻く事情はアスカさんとアイズさんからある程度聞いているし、偉そうだが大したものだと思う。




 ――だが、その表情から匂わせる違和感には些か疑問を感じずにはいられなかったが。


 まるで自分がこの場にいるのは仕方のないことだと言っているような気がしたのだ。


「フリード様は何故こちらに? 一体何の目的があってこのような真似を……?」


『剣聖』さんが俺の目的について捲し立てるように聞いてくるが、これは当然だろう。

 なので俺が取る手段も単純明快が妥当だと判断する。


「単刀直入に言わせてもらうと、貴女をここから救出するためです」

「え?」


 待っててくれアスカさん。今からそっちにこの人を連れていくから。


 気になることもあるが、それは後で十分に確認する時間が取れる。

 今俺がすべきことは目的を完璧に果たすということ。ただそれだけだ。


次回更新は明日か明後日にでも。

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