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神鳥使いと呼ばれた男  作者: TUN
第七章 悠久の想い ~忘れられた者への鎮魂歌~
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458話 『剣聖』救出作戦:第一段階②

 



「お?」


 結界を越えて通路を進むと、袋小路となっている地点へと俺は辿り着いた。

 そこは小さな横道などもなく、石の壁に囲まれてどこにも行けそうもない。唯一小さな水路が壁の下を通って流れているが、とても人が通れるような大きさはしていなかった。


「……これか」


 一見行き止まりに見えるこの袋小路。だが、俺の潜入ルートではこの場所で合っている。

 壁の端に置かれた魔道具の灯りが天井へと不自然に向けられ、その理由を語っていた。


 鉄製の上蓋があるな。じゃあこの上が敷地内に繋がってんのか……。


 地下を通っているからか、既に城の敷地内に入り込めていたことが実感し辛く感じてしまう。

 自分の足で来たはずなのに、イマイチ長距離移動した気がしないというか。こういう錯覚って偶にあるよな。


 そう思いながら、設置した『エアブロック』を足場に上蓋に俺は手を掛ける。


 ではでは……お邪魔するわよー。

 もしお邪魔するならネンネンコロリの刑だから気を付けてくださいませ。地面とお友達になりたい方からどうぞいらっしゃい。


 頭で天井を押し上げ、こっそり……こっそ~りと上を覗きこむ。


 なんか目線が地面スレスレの位置というのは背徳感を感じなくもないが、成程。モグラってこんな気分なんスね。

 スカート履いた女性でもいたら鼻血出ること必至だな! 全くスケベったらありゃしないぜ!



 長らく使われていなかったからなのか少し重く、鉄さびの匂いが鼻を刺激するのを感じながら、右から左と……周りの気配を俺は探った。

 一応人気のない建物であるし、あまり見つかる可能性はないと事前に言われていたが念には念をだ。

 そしてうっすらした室内であるが、天窓から差し込む木漏れ日を頼りに確認しても人の気配はないようだ。


「よいしょっと」


 誰もいないことを確認し、迅速に身を乗り出して地下から抜け出す。そのまま抜き足差し足で出入り口へ向かい、身体を押し付けて外の様子を窺った。

 使っていないという割に、幸いにも鍵は掛かっていないようで、すぐに入口は開けることができそうだ。

 これは多分、アスカさんの事前の仕込みのお蔭だろう。ドアノブだけ埃が被っていない。




 へぇ……流石に敷地内だけあって綺麗なもんだな。


 ドアを少しだけ開いて外を覗くと、一面が鮮やかに青々とした光景で埋め尽くされていて目に留まった。

 芝生である。景観のためか敷地内で管理されて生い茂っているのだ。

 街中では基本石で地面が覆われており、舗装されていた箇所が目立っていた。その分、いきなり青々とした芝生が綺麗に地面を覆っている光景は、なんというかそれだけこの領域と外とが別世界を表しているように思えたのだ。


 それだけ、ここが特別な場所であるということにもなるわけで……。


「……よし!」


 綺麗な光景に安らぎそうになってしまったが、その光景に惑わされてはいけない。

 ここは既に敵地のド真ん中だ。視界に入るもの全てが敵であるということを忘れてはいけない。


【隠密】発動――!


 どうも、連合軍並びにセルベルティア王家の皆様方。通りすがりのダンゴムシがお邪魔しちゃいますよ~。

 どうか今は私の事はお構いなく。後で一方的にお構いするんで暫しお待ちを。


 気配を絶ち、俺は地図に従って右手の方へと進路を取る。

 昼のこの時間帯なら丁度日陰が出来、若干薄暗さが得られる通路があるはずだ。人気も少なく、常に巡回している兵士もいない他、巡回ルートに組み込まれたりもしていない。まずはそこまで行く。

 そこまで行けば城の内部に通ずる入口があるはずだ。そこから侵入し、東棟の最上部を目指して『剣聖』さんと対面する。――プランに抜かりはない。


 なるべく開けた場所では姿を長く晒さぬよう、常に高速かつ物陰から物陰に『転移』を使って移動して東棟の入口へと向かう。

 余程目の良い人でもない限り姿を捉えることはできない……と思う。自分の速さはよく知らんけど。


「(取りあえず人の目は無し、と。――んで、あの隅っこのやつがアイズさんの言ってた建物かな?)」


 見上げて城の巨大さを目の当たりにしつつ、移動中に頭に入れておいた追加で入った連絡事項を思い返し、実際にその目に焼き付けておく。

 俺が侵入してきた建物の丁度反対側、そこにもう一つ別の建物が見える。

 あちらも物置きのように大したものがあるわけではないらしいが、佇まいはこちらと引けを取らないように感じる。


 何故そんな別の建物を気にしたかといえば、なんでもアイズさん曰く、中に大量の魔道具が保管されているから決して壊さないようにして欲しいとのこと。

 それ以外にも、何かが刺激要因となってしまいでもしたら魔道具が暴発してしまう危険性も否定できないそうで、俺ではその可能性が高まりそうで怖いとのことらしい。結界と同じ理屈である。

 アイズさんも今回の作戦で一定の被害は黙認を決め込んでいるが、連合軍の今後に過度な障害が発生しすぎないようにできるだけ努めたいようだ。

 アイズさんの肩身を狭くさせすぎるのはこちらとしても忍びないので、この要項については守りたいところではある。




「(っ! 一人……いや、二人か)」


 そうこうしている内に、目的の場所を発見した。死角になっている物陰から顔だけ出して様子を窺うと、丁度出入り口付近に兵士がたむろしているのが見えてしまった。


 オイオイ、そんな所でたむろしてるんじゃないよ。こちらの通行の邪魔でしょうに。


「もうすぐ昼飯の時間だな……。お前は今日も愛妻弁当か?」

「ん? ああ、まあな。そっちは相変わらずか?」

「相変わらずな。羨ましいもんだよ、毎日お手製の弁当作ってもらえるなんてな」


 敷地内が割と静かな事もあり、聞き耳を立てていると兵士たちの会話が意外と聞こえてくる。

 会話の内容もそうだが、思い切り邪魔な位置取りをしていることにプラスして内心不満が炸裂する。


 なんと贅沢な。独り身のお兄さん、俺はアンタを応援すんぜ! 

 大丈夫、なんも上手いこと言えないけど……ま、頑張ろうや。


 片方の兵士にエールを送り、もう片方にはブーイングを送り込んだ後は、意識を切り替えて突破の案を考える。

 扉は開いていて中を見る限り奥にも人はいなさそうである。突っ切って侵入することは可能だろう。

 このままここに留まる方が発見される危険性は高い。上から人が見ているとも限らないのだ。移動と潜伏のメリハリは大切にしないといけない。


「っ……!」

「「――」」


 なんとなく、二人が会話に深く没頭していると思ったタイミングに合わせ、物陰から思い切り飛び出して一気に駆け抜ける。

 俺が二人の会話が聞き取れないくらい一瞬で通過すると、二人は気づいた様子もなく会話を続けているようだった。


 よし、【隠密】はちゃんと機能してる。

 これなら練度の低い人なら気付かれずに進むのは問題ないな。


【隠密】の効果が問題ないことを無事確認し、一先ずは小目標達成。

 十字路となった踊り場に立ち、次の小目標へと動き出そうとしたところで――。


「っ!? (誰か来る――!)」

「最近バルザックに出たっていう大型モンスターの討伐はどうなった? 完了したのか?」

「それなら先日討伐完了の報が入ってたはずだ。無事行商も再開して平常運転してるみたいだな。前みたいに物価の高騰の心配は要らなそうだ」


 上階へと続く階段から人の気配がしたと思ったら、もうその誰かの足が見え始めていた。


 咄嗟に吹き抜けになった天井に飛び上がり、支柱に足を掛けて彼らが通過するのを上から眺めて待つ。

 また別の兵士二人組だったようだが、彼らはこちらに気が付いた様子はない。そのまま会話をしながら素通りしていくのを確認した後、静かに着地して彼らの下りてきた上階へと目を向ける。


 危ない危ない、上ってる最中に遭遇しなくて良かった~。


 最悪のタイミングを免れたことに安堵しながら階段を慎重に駆け上がり、次こそはスムーズにと願いたかった。

 しかし、二階に出ようとしたところでまた俺は足を止められてしまった。


 おっと人の気配、またかよ……。

 人的資源溢れすぎだろ。


「そうだな。こちらの隊も大分練度も高まってきたところだから丁度良い」

「じゃあ合同で決まりだな。それで明後日に控えている訓練内容だが――」

「……」


 私、地縛霊。今貴方達を真横で見てるの。


 出入り口の直角になった死角。間近で右から左へと階段を横切って兵士達が通過していく。

 案の定また兵士の二人と鉢合わせるところだったらしく、咄嗟に足を止めて気配を殺したのは正解だったようだ。

 内心こっちに来ないかヒヤヒヤものであったが、なんとか運が味方したらしい。

 声が聞こえなくなるまでその場に留まり、ひょっこりと通路を見渡して安全確認をする。


 うわあっぶね~! 次から次へと通りかかるなぁ全く。

 もしあのまま進んでたら――。


「あーん、いった~い☆」

大丈夫かい(何奴っ)!?」

「ぁ……(ドキッ)」


 ――ってなってただろうし。うんうん。

 そう考えると……ゾッとする。色んな意味で。

 ド定番のハートフルコメディならぬハードフルコメディが展開されてたに違いない。

 怒号あり、血涙ありの真っ黒ストーリーここに開幕だよ。


 ……まぁそうなったらそうなったで、私暴力系ヒロインだから彼らをどついて物語終了ですけどね。

 次の巡り合わせにご期待下さいで締めくくられるのがオチだ。作戦の打ち切りとも言う。

 それは一体誰得な展開だよオイ。




 ……なぁに馬鹿なこと考えてんだって思ったところで、次だ次。俺も次の出会いを求めて進軍だおらー。

 真面目にさっさと移動しないとここも危ない。時間も限られてることだし、無駄な時間の浪費はしたくない。




 ◆◆◆




 それから、いくつか難所を乗り越えて城の内部を進んでいった。

 最初の怒涛の危機以上の場面はなく、身軽なフットワークを活かして兵士達の視線を掻い潜るのはそれほど難しいことではなかった。内部の広い構造も味方していたが。


 ――だがそれもそのはずだ。まさか城の内部に外部からの侵入者がいるとは思いもしないだろう。

 結界という最初の壁があり、各所に兵士が配置され多くの目がある。騒ぎもなく、いきなり城の内部に侵入者がいるとは考えることはないだろうし、必要以上に警戒する意識を持つわけがない。


 そんな意識の相手に見つかるようなヘマは流石にしないし……ないわ。

 まぁ、最初危ない場面結構あったから口を強くして言えたことでもないが。


「――この上に……!」


 やがて最終到達地点へと繋がる、東棟の入口まで俺はやってきた。

 ここまでの道中で街を間違えたりしなかったのは、まさにアイズさんの事前の情報の賜物だろう。まるで見たことがあるように進むことができたのは、詳細すぎる内部構造を書き記した資料あってこそだ。なければもう少し手間取っていたかもしれない。


 あとはもう道なりに進むだけだ。脇道もないし、一気に駆け上がるに限る。


 行こう――この先に、『剣聖』さんがいるはずだ。 


 東棟の入口はここだけ錠の掛けられた扉があるようで、鍵がなければ無理矢理中に入る以外の方法は取れなさそうだった。

 ――だが俺にはあまり関係ない。道を封じられたところで、魔力さえ通っていればそこは俺にとっては通り道だ。余計な騒ぎを起こすまでもない。


『転移』で扉の向こうへと移動し、俺は螺旋に曲がりくねって続く階段の先を見据える。

 息を切らしたわけでもないのに、何故だか妙に胸がざわついていたのは、恐らくこれから『剣聖』さんと対面するからだろう。或いは第一段階の完遂に安堵してのことかもしれない。


「……っ……」


 でも僅かに、そのどちらでもないような気もしてしまう。

 どちらにせよすぐに分かることだと思うことに決め、俺は気にせず前へと進んだのだった。


 遥か後にして思えば、これは至極当然のことだったと繋がるのであるが。


※10/8追記

次回更新は明日です。

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