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神鳥使いと呼ばれた男  作者: TUN
第七章 悠久の想い ~忘れられた者への鎮魂歌~
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457話 『剣聖』救出作戦:第一段階①

 



「では私はこちらですので。皆さん、くれぐれも気を付けてくださいねぇ?」

「そっちもね」

「フリードさんは……まあ心配するだけ無駄ですね多分」

「ちょっと、それはそれで酷いのでは?」

「ハハハ、冗談ですって――」


 少し道なりに歩くと、俺らの分かれ道となる三叉路に行きついた。

 そこで軽い冗談を言われつつ、アイズさんは自分の持ち場へと向かい消えていく。

 昨日であらかた話し終えたとはいえ、これがアイズさんと最後の会話になるのかと思うと少し寂しい気もする。どことなく後ろ姿は声の快活さとは裏腹に気落ちしてる雰囲気を出しているような気さえする。


 アイズさん……。

 キチガイだったけど、裏の裏の裏くらいに隠されたところで優しさを持っていた。

 救えないくらいキチガイだったけど、憎たらしいくらい狡猾と思える程頭が回る協力者だった。

 何度死ねと思ったか分からないキチガイだったけど、関係を作ることができたのはある意味良かったのかもしれないしそうじゃなかったかもしれない……。


「……」


 いや、良い所より悪い所が目立つ時点でホンットどうしようもないキチガイだったな。今更だけども。

 そう考えると寂しさより安堵? の方が強いわ。いや、根っこの根っこくらいは良い人ではあったのだけどさ。


 思い返せばアイズさんには割と振り回された気がしなくもない。

 アスカさんと一緒に体験とは名ばかりの人体実験から始まり、隙あらば狂気を向けて来たのも一度や二度の話じゃない。実際昨日の最終会談でも、最後だからと謎の装置の罠に嵌められたばかりだ。

 

 何あの後の倦怠感。多分魔力吸われたんじゃね? ってくらい膝にガクッと来たんですけど。




 ――結論、多分会っても会わなくても良かった。以上。

 でも感謝はしている。それだけです。

 魔力についてはもってけドロボーだ。セシリィの一件があるからそれくらいはまだ許せるし。


 ……まぁ、多少友情を感じたのは間違いないんだけどな。


「僕達も行こう。アイズさんの準備に間に合わなかったら大変だ」

「そうですね。行きましょう」


 アイズさんの去った方向を見つめていた俺を、アスカさんが後ろから声を掛けて引いてくれる。


 俺らが向かうは城の敷地内へと通ずる方向だ。

 アスカさんとセシリィは最初俺と一緒の方向だが、結界直前の場所にて待機することになっている。無論、『剣聖』さん救出後にそこで身柄の受け渡しがあるからである。

 俺は二人の待機場所よりも更に奥へと進み、城の敷地内へと潜入。ひっそりと『剣聖』さんの元まで辿り着くのが第一段階の流れだ。

 そしてアイズさんは終始地下と地上を行き来しつつ、これまで裏工作して準備したものの制御や作動といった裏方に徹してもらう手筈となっている。


 作戦の内容は先日決めた内容とほぼ変わらない。

 多少注意事項は増えたものの、救出劇の大筋はそのままだしあまり支障もない。

 この作戦は絶対に成功させる!


 ただ唯一気がかりなのは、先日の夜に奇襲があった件か。

 昨日その旨をアイズさんに話しておいた際、一瞬だが何か考える素振りを見せていたのが気に掛かる。


 その後に神獣の言う事ならばと、そのイレギュラーを聞かなかったものとして処理することにしたのには驚いたけど、流れのままに言いくるめられた感が拭えないんだよなぁ。

 てっきり念には念を入れて対策や追加のプランでも考案してくるかと思っていた分、拍子抜けしてしまったのが本音だ。


 やはりあれか、神獣達には納得できてしまう摩訶不思議な作用でも働いていたりするのか?

 なにそれズルい。

 YESマンを量産するのは良くないと僕思います。そういう僕も言いたいことを言えなかったのは良くなかったと思います。これは反省。




 もう割り切ってはいることだけど、あの件はとりあえずルゥリアの言ったことを信じるしかない。

 あの件は忘れて今目の前に集中する。それだけ考えておけばいい。俺に必要とされている努力はそれに尽きるというものだ。



「チチッ!?」

「おっと、ネズミか」


 足元にいつの間にかいたのか、小さなネズミが驚いて走り去っていくのが見える。


 いやぁこうも視界が確保されてると楽だな~。

 これぞ雲泥の差。楽々進めるわ。


 先日までに利用した時と打って変わり、暗闇に閉ざされてはいない地下に思わず感嘆してしまう。

 移動手段に使う地下通路には、前もってアイズさんが灯りとなる魔道具を要所要所に設置してくれているのだ。しかも道に迷う心配もなく、この灯りのある方向に従って歩けば確実に目的地には辿り着くようになっている。まさに至れり尽くせりの状態だった。


 流石アイズさん、準備良すぎて最早笑えてくる。

 よくあれだけマークされていながらこれだけの準備を施せたもんだ。アイズさんののらりくらり体質が成せる技だよなぁこれ。

 だってヤバくね? 裏方作業、アイズさん全部一人でやってんだぜ? 一人何役してるんだってくらい働いてるよ。


 アイズさんに対して貧弱ぶりを何故ここで発揮しないのかと、ここは不思議に感じるところである。

 そのまま灯りが零れて主張している次の角を右に曲がり……そこで俺は少々通路の様子が違うことに目を凝らした。


「これが言ってたやつか……!」

「良かった。まだ始まってはいなさそうだね」


 アスカさんと一緒に、心が安堵の色で染まった。

 ここの通路だけ、通ってきた灯りの色が違ったのだ。

 これまで通路を照らしていた薄黄色の灯りから、緑色の灯りが通路の闇を照らしており、少しおどろおどろしい雰囲気が勝っている。


 これはアイズさんから言われていた合図を……いやなんでもないです。よ、要は気遣いだ。


 この色が示す内容は、要所であるという知らせだということ。ここの場合だと、この通路が作戦開始までの待機場所だったりする。


 結界の中に俺が入るには、警報が鳴らないように解除しなければならない。

 それも、城を覆っている結界をだ。視認できるものじゃないとはいえ、発動している時とそうでない時では微細な空気の振動や気配、どうやら五感系に違和感を感じる程差が出てしまう影響があるらしい。常時発動中の今だと感覚が慣れきっていて気付かないそうだが。


 急に解除すれば結界の近くにいる人はほぼ妙な感覚の変化に気が付くし、結界に異常がないか状態を確認する整備員も複数人いるようで、それら担当の人は間違いなく異常を察してしまう……というのがアイズさんの見解だ。


 それを軽微な異常として収めるには、解除をほんの一瞬だけの時間に留めるしかない。

 まだこの段階で騒ぎになられては困る。『剣聖』さんの元まで辿り着き、地下まで連れてくるのが困難になってしまうのは避けたい。

 極力、イレギュラーは引き起こしたくはないからだ。

 ベストは『剣聖』さんをアスカさん達に任せてから陽動を開始させることである。そうすれば時間も大分稼げるし、俺の役目としては都合も良い。


「っ……」


 息を呑んで、その時を俺達は待つ。通路の真ん中に横切るように入った線の手前で、その先を見つめながら。

 ここまで来ると、俺らの間にある空気間も徐々に険しいものに変わっていくのが感覚として分かってしまう。


 この線の先には、結界が存在している。俺の魔力に抵触するかしないかの瀬戸際のラインをギリギリ計った、絶妙な位置取りだ。

 その線の手前で、俺は内心ヒヤヒヤしつつ身体全体をほぐすため動かす。


 結界が消えるのはほんの数秒間だけ。その間にこの通路は一気に通過してしまわなければならない。

 灯りが三度消えて、次に点いた時が通過する合図だ。これはリアルタイムで連絡を取れる手段がないためにそう決まったことである。


 アイズさんは本当は通信できる魔道具を用意したかったらしいが、時間が足りずに用意できなかったらしい。

 なんでも通信という高性能な機能を実現するためには希少な素材の性質を利用しているらしく、それが中々手に入れられるような代物ではないとのこと。それに希少な素材の注文自体も足が付きやすいので手を出しづらかったようだ。

 こればっかりは急な作戦なので文句は言えまい。


「わ!?」

「――っ!? 始まった……!」


 そして今、灯りが一度消えて真っ暗になった。いち早くセシリィが反応して声を出す。


 三度の消灯は心の準備を整えるため、少しだけ感覚を長くしてくれるようにすると言っていた。

 ハイ、これについては些細だけでも間違いなく気遣い神。仕事はキッチリやるから困る人だよ全く。


 アイズさんの計らいに感謝しつつ、その間を利用して最後の会話を俺らも交わしておく。


「出番はまだだけど、なんだか僕も緊張してきたよ。フリード君は平気かい?」

「当然。ガチガチに緊張してますとも」


 俺? なんか手汗で滑ってきてますよ。程よい具合にね。


「え!? だ、大丈夫なのかい……?」

「冗談ですよ。緊張はしてますけど覚悟は決めてありますから。支障はないですよ」


 アスカさんが少し大げさに反応するものだから

 心配してくれていたのかもしれない。でもやらなきゃいけないことはやらなきゃいけないんだし、緊張とか関係ないですから。

 結果を出すか出さないか。厳しく言やそれだけだ。


 そもそも、ある程度緊張を感じるのは仕方ないことだと俺は思う。

 初めて行うことなら当然だし、大きなことを成す時であるなら尚更だ。それが大きな役割を担っているのならしない方がおかしい。


 俺はアイズさんと違って心臓に毛は生えちゃいない。どんな時も一定の緊張は感じている。

 それは多分、俺の根が小心者だからなのだとは思う。……あ、態度は別ですよ? あと心の声も。


「あ……」


 ここで、二回目の消灯がきた。


「お兄ちゃん、気を付けてね?」

「おお、いっちょやってくるわ。アスカさん。セシリィを頼みます」

「うん。任された」


 暗闇の中、多少心配そうな顔で声を掛けてくれるセシリィを不安がらせないためにも、俺は意気込んで体を慣らしながらそう伝える。


 ……ようやく、作戦開始だ。

 先鋒の俺が、まずはキッチリ役目をこなす。

 後に続く人達に繋げられるかはまずそこからだ。


「よし、じゃあ先に行ってくる。『剣聖』さんに会う準備済ませといてくださいよ?」

「分かった。よろしく頼むよ」

「それじゃ」


 そして、三度目の消灯――からの点灯。

 それを合図に、俺はセシリィの頭をひと撫でしてから前へと全力で前進した。ただ一心に、最速で移動するという考えのみを抱いて。




 俺が駆け抜けて別の灯りの色の元に辿り着く頃には――結界は無事、作動していなかったようだった。

 それを確認し、俺はそのまま歩を進めた。


 ミッションスタートだ!


※9/29追記

次回更新は明後日です。

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