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神鳥使いと呼ばれた男  作者: TUN
第七章 悠久の想い ~忘れられた者への鎮魂歌~
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456話 言葉の綾

区切り付かなくて長引きました。

遅れたのは許してくんさい。

 



 身体のざわつきが進行し、まだその強さを増していくと、その影響が出たのか俺の視る世界が変わっていった。


 暗闇なのに、昼間とほぼ変わらない景色が見えるし分かる。それどころか、元以上の視力が今宿っているようだった。

 建物の形状は勿論、細部の凹凸や劣化によるヒビ割れも確認できるし、何処に何があるのかがハッキリ分かる。空に浮かぶ雲の形から模様までもくっきりと見える他、遥か地平に並ぶ山も今は覗けている。


 ここまで変わった自分の視力に対しそれでも驚いたりすることがなかったのは、多分俺がこの力そのものについて思い出したからだろう。

 いきなり、靄が晴れたように思い出せたのだ。どのような力なのか、どう使うものなのかも全て。


 ただ、誰の力なのか(・・・・・・)だけは分からなかったが。


「――見つけた」


 そして今、何かが飛来してきた方角を眺めていると……移動する人影がいた。

 どうやら顔はフードを深く被って伺えないが、漆黒の外套を纏っているようだ。城近くの細道、大通りから死角になった入り組んだ地形の場所からこちらを狙っていたらしい。


 うん、明らかに不審者だなあれは。

 しかもこっちが視えたことに気が付いたのか知らんけど、斜線切ろうとしとるし。

 勘付くの早くないッスかね? 一体どんな視力してんだ。


「『羽兵』展開」


 でも見えたらこっちのもんだ。

 逃がすかよ……!


 こんな夜更けに出歩く人はそういない。人違いだったという可能性も極めて低く、現在取っている行動が不審極まりない。

 俺が目を向けた時点で身を翻していたことで、犯人と断定するには十分だった。


「そら!」


 俺は周囲にほんのりと淡く光る羽を漂わせ、その一つを指で挟んで放った。ダーツを投げるように。

 それは目標地点目掛けて突き進み、銃弾の如く犯人へと距離を一気に詰めていく。


 結界は小動物程度の抱えるマナには反応しない。

 それはつまり、その程度の物量とマナなら結界を透過できるということである。

『羽兵』の元となる『羽針』は非常に軽量かつ極めて硬度の高い性質を持った羽だ。それこそ鳥の羽毛のように。

 把握するために仕込んである魔力も僅かだし、物量としても質量としても軽微なもの。結界に反応するとは思えない。


 ただ、それでも刃先をとにかく鋭利に変形した貫通力はエグイけどな。今回は多少抑えるけど。


「っ!? ちょっと逸れたか……!」


 狙った相手の部位は右足だ。……だが、どうやら見通しが甘かったらしい。

 弾道が少々悪く、俺の描いた思い通りの地点を通らなかったのはすぐに分かった。

 そうなれば当然、この距離の誤差は致命的だ。当たるわけがない。

 撃った『羽針』は足にではなく、その手前に落ちて地面に突き刺さってしまった。


「次は当てる――!」


 うわやらかした。ぶっつけ本番は流石に調子に乗りすぎたか。

 けど感覚は掴んだし、何より今ので取り戻せた。

 狙った場所に次は必ず当てられるはずだ。今度こそ逃げられると思うなよ……!


 相手は俺が外したことに安堵しているだろうか? それともほくそ笑んでいるだろうか?

 どちらにせよ油断してくれているなら好都合ではある。




 次は一発じゃない。三発同時にいく――!


 建物から建物を横切る、その時顔を出したところを狙い撃つ。

 逃げ足は速いが、最速で撃ち込めばこっちの弾の方が遥かに速い。偏差射撃する必要もないだろう。

 気を取り直して再度構え、来たる瞬間を俺は待つ。


 もっと……もっとだ……! 

 感覚を研ぎ澄ませろ。見ているもの、触れるもの全てに集中しろ。思考をそのまま現実にするには、もっともっと集中が必要だ。


 まだまだこんなもんじゃないだろ……本領発揮は!


「今だ――!」


 一定の呼吸でタイミングを計り、見当を付けて見張っていた位置に相手の姿が晒された。

 そこで構えていた手を振りかざし、『羽針』を撃ち出そうとした時だった――。


『今はまだお止めなさい。それでは世界に見つかりますよ?』

「っ!?」


 寸でのところで、俺の挙動が止められてしまった。

 高めていた力が暴発してしまいそうになり、漏れ出してしまわないよう無理矢理力を内側に押し留めた。




 この声は……!?




『その力、使うべきはここではありません。来たる刻を待つのが良いでしょう』

「……?」


 どこからともなく、声が続ける。

 俺が急に動きを止めたことはセシリィも感じたのだろう。多少驚きに包まれた表情をしていたものの、俺の不自然な動きに首を傾げていた様子だった。

 オルディスが言っていたように、やはりこの声達は俺にしか聞こえないようだ。


 昼間の消え入りそうな声とは違う、ハッキリした声。

 それに脳に直接響いてくる念話のようなこれは間違いない……!

 神獣か。


『あら? もうあまり驚かれないのですね?』

「……もうその手には慣れちゃったよ」


 そらもう既に経験させられてたらなぁ。

 多少は慣れるってもんだろうよ。


『そうでしたか。私なら取り乱す自信がありますのに』

「ならいきなり声掛けてくんじゃないよ……。悪いけど今取り込み中なんだけど?」


 おっとりと微笑むように笑いながらしてくる告げ口に、俺は若干苛立ちを覚えそうになった。


 折角もう少しってトコだったのに。

 あーあ、斜線切られちまったじゃねぇかよ。もうこれじゃあ追い切れないぞ……。


「お兄ちゃん? 誰かと話してる……?」

「あー……すまん。今からちょっと独り言言うから可哀想な目で見ててくれると助かる」

「へ?」


 後で、セシリィには俺の事情をある程度話しておいた方がいいな。多分もう隠せないというか手遅れだろうし。


 いきなりこんな会話のような話し方を自分以外にしていたら驚くのも無理はない。それもこんな場所でだ。

 セシリィにはそうとだけ伝えておき、俺は脳内に語りかけてくる声に集中する。


 なんでいきなり介入してきたのか知らんが、この神獣、多分ルゥリアってのだろ。

 やたらおっとりしてる気がするし、真っ先に思い浮かんだわ。


 オルディスとの会話で知っていた情報を基にそう結論付けると、その思考がそのまま向こうへと伝わったらしい。


『その通りでございます。我が名はルゥリア。我が主より創造されし、古来より大地の統括を任されている者です。急にお告げしたことについては謝罪致します』


 ハイ心の声まで筒抜けと。相変わらず神獣様相手には俺にプライベートも糞もないッスね。

 あらゆる内心がいつもお上の方々に検閲された状態と。重要参考人か何かか俺は。

 まぁ何をどうしても防げないからしゃーないけど。




 ふむ……海ときて今度は大地。

 それと名前は当たってたみたいだ。


『そう気を張らずとも警戒はもう必要ないでしょう。どうやらお相手に敵対の意思はもうないようですし、ただの威力偵察だったみたいですわね?』


 未だに力を一定状態解放し、常時警戒を続ける俺にルゥリアが言った。


「威力偵察?」

『理由については流石に分かりかねますが……今の一連の攻撃は悪意を持っての行動ではないようです』

「は? 攻撃されてんのにそりゃないだろ。悪意があるから攻撃してくるんじゃないのか?」

『さぁ? そのように感じましたのでそれ以上のことまでは分かりかねます』

「……」


 馬鹿を言うなと強く物申したい気持ちはあるが、それが嘘でないなら呑み込んで受け入れるしかない。

 どうやらルゥリアってのは今の出来事に対し、危険や焦り、悲観するものと捉えているわけではないらしい。妙に落ち着き払っているのがそう思わせてくるし、なにより神獣達は俺の行動に対し文句をつけるとすれば、それは『流れ』を乱しかねない場合に尽きるという。


 今の攻撃してきた人物が誰なのかは非常に気になるし、放っておいてよいものかと疑問が残る点はある。

 だが俺自身、認めたくないが今の発言が嘘とは思えないと感じた部分もあるのは事実だ。そのためルゥリアの言葉に一定の信用を既に持ってしまってもいる。

 知りたい部分を分からないと言い切られてしまっては何も返せず、ストレスだけが俺の中に残ったのが分かった。


「……わざわざ声を掛けてきた理由は? 俺がこの力を使うのを止めに来ただけか?」


 周囲に漂わせた『羽兵』達を一瞥し、俺はルゥリアに問う。

 まだこの程度の力の解放は、この力事体の上澄みを掬い取っただけのものにすぎない。抑えが利くとしたらまだこの段階だろう。

 一度最後まで解放したら、それこそ尽きてしまうまで止まらない。


 この力のことも分かってて声を掛けて来たのか……?


『そう、ですわね……。こちらについては偶然の産物ではありましたが。……ただ一番の目的はある言伝をするためですわ』

「言伝?」


 それ以外にも理由が? 

 言伝ってことは、誰かのメッセージ?


『此度は我が同胞であるオルディス。彼より貴方にお伝えして欲しいことがあると言われていたのです。……この地は海から遠く離れすぎています故、神獣とはいえ無駄に力を使いかねません。ですから私がその役目をオルディスに代わり務めさせていただいた次第なのです』

「オルディスが俺に? なんだろ……」


 オル君どしたのよ? もしかして伝え忘れてたことでもあったのかい?

 それともなに? 寂しくなっちゃったのかな? 愛い奴め。


 神獣繋がりということでオルディスの名前が出るのは不思議なことじゃない。この時点で大抵のことはもう仕方がなかったと割り切る考えに変わった。

 ピリピリした苛立ちが少し収まるのを感じ、あるかもわからぬ思考に俺は意識を割く。


 ――が、俺の思考はルゥリアに無視される結果になったようだ。

 それについては少し虚しい気持ち半分、ある意味優しさ半分の気遣いを感じることにはなったが、次の真面目な話にそれも当然だと思うのだった。


 話の展開は、いつだって唐突だ。


『海原にて途方もない力を持つ人の子を発見。その者らは貴方方を追っているとのことです』

「……それって……」


 誰が、とは聞くまでもない。後ろから俺らを追って来る奴らがいることは知っていたし、時間が限られているのは分かっていた。

 たた、この連絡で問題だったのはそこではなかった。


『はい。既にご存知のようなら話が早い。彼らはオルディスの妨害も突破して既にこの大陸に到着し、数日と経たずにこの地に戻ると予測されます。人の子にしては随分な速度での行軍をしているかと』


 ……はい? 今なんと?


「オルディスの奴、足止めしようとしてくれてたのか……。でもちょい待ち、あの『嵐』の力で止められなかったのか?」

『ええ、そのようです。一応過干渉にならぬよう、多少の手心は加えていたようですが……』

「それでも十分じゃないかね……。うわぁ……なんて厄介そうな。想像以上っつーか、滅茶苦茶ヤベー奴ら追って来てるの確定かよ」


 多少の手心というと、それはあの魔物の使役は控えたとかですか? 

 規模がデカすぎて手心とか意味なさそうだけどな。アレ。


 俺が打ちのめした連中が対抗できる手段を持っているとは思えない。あんな簡単に片づけられる輩がオルディスに止められないわけがないのだから。

 となると、随伴しているもう片方の組が問題ということになる。


 アイズさんの言っていた『英雄』の実力……。それは過大評価でもなんでもなかったということか。


 今一度、俺の『英雄』に対する見方が変わった。


「……『英雄』、か……」

『恐らくはそうでしょうね……。付き人の者達も只人ではないようです。どうやら貴方同様(・・・・)……。その者の力の影響を受けているのでしょう。人の子の中でも特異な力……戦力としては世界に類を見ない方々と言えます』


 神獣をして傑物と言わせるような奴らが勢揃いってわけか。そんな奴らがここまで追ってきたらアイズさんが言ってたように障害になるに決まってる。

 アスカさんクラスの人がたくさん来ると考えて良さそうだな。


 俺の認識が甘すぎたか。


 でもなんにせよ――。


「そっか……じゃあ俺への注意喚起が目的だったってことか。ごめん、ありがとう。連絡助かったよ」


 今さっき相手を取り逃したことも、苛立ちを露骨に出してしまっていたことも、もう水に流せるなら流してもらいたい。


 俺が悪ぅございました。この度はなんとお詫びをしたらよいか……。

 俺に出来ることならなんでもしますので何卒……。何卒……!


『あら? では今回貴方様達が進めている件を済ませた後は、東の果てより次なる大陸である魔族の地へと向かっていただいても? どうかそこで我が同胞と会っていただければ幸いです』

「へ? 同胞って……というか待て待て! いきなりすぎません!?」


 軽はずみに口にした……否、正確には口にしてはないが、伝わってしまった思考を読み取ったルゥリアが突拍子もないことを言い出した。

 これには面食らってしまい、自分の頭が軽いことを後悔した。


 今こっちの問題に取り組んでる最中だってのに、もうその次の話ですかい? 気が早いよ全く。

 たった今厄介度が増したと思ったばかりなのに……。

 話しかけてきた目的に多分それもあっただろ。オイ。


『なんでも、なのでしょう?』

「言葉の綾ってもんがあるでしょうよ!?」

『落ち着いてください。取り乱すとその娘が心配しますよ?』

「っ!? う……!?」

「……?」


 ルゥリアに言われてセシリィを見る。

 誰もいないのに声高に喜怒哀楽を表現している俺は今、さぞ不気味に映っていることだろう。完全にキチガイのそれだ。

 セシリィは口を開けたまま目を点にしており、この娘のこんな表情など今まで見たことがないだけに自分の危機感を覚えてしまう。


 セシリィさん、ち、違うんです。これにはちゃんとわけがあるんです!? 

 や、やめてー! そんな目で私を見ないでー! 見るなら私の内側をちゃんと視ておくんなましー!


『その娘は貴方様の心を視たりしなかったのでは? ちゃんと口にしないとその声は伝わりませんよ?』

「くっ……!」


 それが迂闊にできないこと知ってますよねぇ!? 何簡単に言ってんですか!?

 つかその話、オルディスから聞いたのか? 口が軽すぎるよオルディスさんよぉ!


『口にはしていませんよ。だって我々は基本念話ですから』


 やかましいわ!

 そしてルゥリアさん、アンタは意外にSッ気ありすぎや!? なんだよそのおっとりボイス、滅茶苦茶詐欺じゃねーか! 

 俺を叩いたらボロしか出ないのは分かり切ってるだろ!? 俺で遊ぶのはここじゃない、次の機会にしてくれ!


 これ以上醜態を晒せばセシリィが更に俺への不信感を増すだけだ。しかし、既に誤魔化せない段階をとうに過ぎているように思う。

 いとも容易く手玉に取られてしまっているのが分かるが、言葉による誘導や心理状況の探り合いではちっとも勝てる気がしない。

 それ以前に俺程搦め手の類が苦手な奴もそういない自負がある手前、俺がこの場の主導権を握れるはずもない。


 ここは観念するしかないようだ。これが一番俺の被害を減らせる、そう思った。

 ……なんか解せぬ。


『今後の方針は、その認識で構いませんか?』

「……へいへーい。どうせアテもないからそうさせていただきますよーぅ」


 口を尖らせ、やる気のない声でせめてもの反抗をしたが惨めだった。


 ……疲れた。もうどうでもええわ。

 でもアテがないのは本当なので、何処に向かおうが正直構わない。

 せめて連合軍の規模が小さいところに行けたらなぁくらいには思っているが、今回の一件の影響でそんなことも言っていられなさそうだしな。


 本当なら天使を探していたいところだが、探したところで見つかるようなものじゃない。それは神獣も然り。

 神獣を探すくらいの気概がなければ見つかることはないだろう。そう思えば丁度良い。


『詳細は会えば理解できるかと。……その大陸の最も遠き場所に我が同胞はいます。……どうかお願い致します。彼に是非お会いなさって下さい』

「遠き場所、ね。ん、了解」


 これも遠回しな言い方なのだろう。

 大陸の最も遠きということは距離を示しているのかね……? そこら辺踏まえるとみえてきそうだけども。オルディスが深海にいた的な。


 ……ふぅ。なんで俺を会わせたいのか分からんが、これも『流れ』なんだろうな。

 じゃなきゃ俺らの行動を指定するような介入の仕方をしてくることに説明がつかない。


 ということは――。


「昼間に微かに聞こえてきた声も、もしかしてアンタだったのか?」


 あの時はほんの僅かにしか聞こえなくて、男性なのか女性なのかの区別もできなかった。

 念話も万能じゃないし、ある程度対象を補足する必要があることは俺も知っている。

 俺が理由をつけてルゥリアに確認を取ってみると――。



『昼間? ……いえ、そのようなことをしてはおりませんが……?』

「あ、あれ? 違うのか……?」

「ええ。何か私以外にも声を?」

「いや、聞いた気がしたんだけど……。やっぱり気のせいだったのかな?」

「……」


 どうやら俺の予想は外れたようだった。

 聞かれたルゥリアも困惑したような反応なので、本当に心当たりがないのだろう。俺の言うことが理解できないといった感じだった。


 じゃああれは何だったんだ? 気のせい……じゃないはずなんだけどなぁ。

 色々と声だけ聴こえてくる機会が増えてるから、本当に気のせいなのに幻聴とか聴こえ始めてるとかじゃないよな?

 俺、精神状態大丈夫かな……。いや真面目な方の意味で。知らんうちに徐々に蝕まれてたりして……。

 結構san値削られる出来事も多いし、常人なら死ぬ目に遭ってるし、というかセシリィに変な目で見られてる今の時点で死にそうだし。


「恐らく、気のせいではないのですか? 普段から気を張りすぎている貴方のことなら尚更のことでしょう」

「だといいけど……。まぁルゥリア達以外に念話が使える相手もいないことだし、そうなんだろうな。あー恥ずかし」


 ルゥリアのフォローが妙に優し気で気遣われているのが分かる。

 そう思うとこの気遣いが既にグサグサと刺さるものがあるのは内緒だ。……あ、内緒にしたとこで意味ないか。俺のアホ。




『――そろそろ時間ですね。先程の敵意の件については気にすることはありませんし、今後の方針についても話せたので目的は達しました』

「ん、お別れか。姿は見えなかったけど、話せて良かったよ、ルゥリア」

『フフ、私もですわ』


 昼間の声については俺の勘違いということが明らかになったのをきっかけに、ルゥリアとの念話に少し掠れが入り始める。

 そこで念話の中断が持ち掛けられたので、俺も向こうの事情を察した。


 まだ話したいことは沢山あるが、それは次に直接会った時にでもすればいい。

 オルディスと話したように、直接話した方が良いだろうしな。

 旅を続けていれば、いずれ会える気がする。


『それと貴方様に私から忠告がございます。くれぐれも後ろばかりに気を取られることのないよう……お気をつけください』

「それはどういう意味だ……?」

『そのままの意味です。身近……それも近くて遠い境地。目に見えるものだけが貴方様の障害になるとは限りません。現状『流れ』に沿っている以上心配はしていませんが……それでも気に留めるだけでも違うかと』

「……? よく分からんけど、油断はしないようにだけはするさ」

『ありがとうございます。……最期に貴方の声が聞けて良かった』

「……は? 最期……?」


 また会えるという考えが、何故か寂しく不穏に思えたのは……これも気のせいなのだろうか? 

 ルゥリアの言葉が、妙に重々しく突き刺さってくる感覚がした。


 どういう意味だそりゃ? また神獣特有の言葉遊びですか? 

 俺IQ低いから解読に時間掛かるんですけど。

 あの……なんか言葉の重圧凄くないか?


『それではまたお会いしましょう。ご武運を』

「???」


 んんー? 最期って言っておいてまたってなんなんだ? 

 一生サヨナラの雰囲気醸し出しおいて、何食わぬ顔で何処かでバッタリ出会うパティーンの典型かよ。どういうことだ……。


 最後の最後で、ルゥリアは謎の言葉を残して声を閉ざした。




 ◆◆◆◆◆◆




 ――あの日の夜は、そこで急に幕を閉じた。

 新たな邂逅を経て指針をもらった俺は、悪意なく襲ってきた誰かを今は忘れることに努め、

 一人神獣と会話していたことについてセシリィへの事情説明に追われた。

 幸い、天使すぎるセシリィは俺に事情があるのは知っているからと理解を示してくれ、その信頼に対し俺は、作戦が終わった暁に秘密を打ち明けると約束することで収拾したのだった。


 姿なき敵については、翌日もう一度同じ場所で待ち構えたりして相手を釣ろうとしたりもしたが、特に何もされないままだったため完全に姿を眩ましてしまった。

 ルゥリアの言った通り、向こうも何かしらの意図でこちらを攻撃し、そして目的を達成したのだと思われる。威力偵察というのは間違いなさそうだ。


 アスカさんも無事俺の頼みごとを遂行させ、アイズさんの容体もどうやら俺の薬で回復できたようだ。

 翌日以降の裏工作が滞りなく進められて安心したと言っていたし、その工程は無事完了したと聞いた時はホッとしたものだ。




 ――そして、二日が経った作戦当日のこと。


「皆さん、準備はいいですか?」

「ええ、いつでもいけますよ」

「こっちもだ。後は全力を尽くすだけだよ」

「わ、私も平気です!」

「……分かりました。じゃあ手筈通り各自配置へ。それぞれ、各々の目的のために。今日という日を歴史に刻んでやりましょう!」




 アイズさんの掛け声と共に、アイズさんの地下の隠れ家を出て目的地へと俺らは向かう。

 天候は快晴、正午前。いつものように街が平常運転を始めている何気ない一日のことだった。




『剣聖』救出作戦、始動――。


※9/25追記

次回更新は明日です。

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