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神鳥使いと呼ばれた男  作者: TUN
第七章 悠久の想い ~忘れられた者への鎮魂歌~
457/531

455話 内なる力①

 


 ◇◇◇




「なんだかんだ言って、昼間より物騒な夜の方が安心っていうな。しかも開放的だ」


 人の目の心配は殆ど要らなくなった夜間。俺は堂々と大して周囲を気にすることなく、上空から街全体を眺め回していた。

 既に街中の人の気配はほぼ薄まり、寝静まっているのが伺える。

 まだ生活感の見える雰囲気のある場所は精々飲み屋くらいなものだろう。それももうじき閉められようかという時間帯だった。


「綺麗だね。上からだと、光がこんなに沢山……!」

「うん。月も綺麗だし今日は良い夜だな。予想はしてたけど、上空から見ると街の違った一風が楽しめるなぁ」


 足元に敷いてある大きめの『エアブロック』越しにセシリィが感嘆の声を上げ、俺もそれに頷いた。

 下だけではなく、眺め回せば街には建物から零れる灯りや、街の至る所に設置された魔道具の街灯が照らしている。


 今まで立ち寄った街では火を使った灯りが多かった分、赤くない明るさのある夜なんてココくらいかな? 綺麗な夜景だ。


「あっちは……まぁ似たようなモンか」


 街を眺め回すのも程々にし、黒い大きな影が待ち構える方を向く。

 言わずもがな、この街にある城だった。暗い分、その佇まいはより存在を大きく見せているように感じる。

 城の根本まで行ったらその巨大さがもっと分かりそうなものだ。


「……アスカさん、大丈夫かな?」

「なぁに、心配要らないだろ。あの人なら大抵のことなら上手く対処できるだろうし。仮にアイズさんが色々仕掛けてても普通に乗り越えてるって」


 つい先程、同時に動き出して別行動を取ったアスカさんをセシリィが心配するが、俺はというとあまり心配はしていなかった。

 何故かというと、腕が立つというのもあるが……アスカさんにはそう感じさせるだけの信頼感が既にあったからだ。

 ちなみに大きな根拠は特にない。敢えて言うならば、多分俺達の中で一番まともという点からそう思えたのかもしれない。


 更に顔良し、性格良し、感性良し。しかも謙虚でめっちゃ好青年だもんなぁあの人。

 属性盛り盛りで羨ましい限りだわな。天は二物を与えずとか嘘やん。

 そんな人がヘマをやらかすとも思えんし、まぁ大丈夫でしょ。




 アスカさんが別で動いてくれている間、俺も気になることの確認のために動き出した形なわけであるが――。


 アスカさんの目標は、アイズさんとの接触及びその容体の程度の確認が主な内容だ。

 俺の渡した物で回復が図れるなら狙い通り、連合軍側に進展があるなら詳しい話も聞いてきて欲しいが、それさえできたなら十分である。


 そして俺の目標はというと、当日に実際に動き回ることになる実地の状態を見ておきたいというのが一つ。

 どうしても地図だけでは確認しきれない現場の構造や懸念すべきものがあるなら頭に入れておいて損はない。少しでも成功率を高めるには必要と感じたのだ。

 ――ただ、外に出るという危険を承知で動いた最大の理由は、初日の疑問解消をしておきたかったのが実情だったりするが。


 あの日、何故あんな遠方から見えるはずのない地点を俺は確認できたのか。

 壁際の人影に鉄格子。ややボケていたとはいえ、あの映し出されたものが俺の思い込みによる錯覚だなどとは思えない。必ず、見えた理由があるはずだと踏んでいる。


 その疑問が少しでも分かればいいんだが……。


「……お兄ちゃん?」

「ん、ちょっと考え事というか……思うことがあったというか……」


 セシリィが俺の顔を覗きこんできたので、思うままを伝える。

 少し俺が黙っていたことに何かを感じたのかもしれない。流石こういうことには機敏なようだ。


「……」

「……?」


 うーん……。あの光景も気にはなるんだけど……それよりもなんだろう、この感じ。

 既視感、か……?


 あの時みたく城の方をジッと見ていると、その今の自分の姿が妙に引っかかる気がした。


「……なんで、懐かしいって思うんだろうな……」

「え?」


 気が付けば俺は心の声をそのまま口にしていた。


 俺は、この光景に見覚えがある……? 

 それどころか、なんだかこんな風に隠密に計画もしたことがあるような……?


 自分の中に共鳴するように引っかかる、記憶とは言えないものであり感覚が妙に浮き立っているかのようだった。

 今の俺の行いそのものが、何故か懐かしく感じる。


「懐かしい? お兄ちゃん、もしかして何か思い出したの?」

「……いいや、思い出したってレベルの話じゃないんだけど……そんな気がするだけ。実際どうかは知らんし、当てにはならないな」

「そう……」

「――でも、もしかしたら俺はこの街に来たことがあったのかもしれない」


 俺に記憶が戻ったと勘違いして驚くセシリィを宥めつつ、今はそう締めくくって置いた。


 俺の抱くモノの答えを知る術はない。だからセシリィには曖昧な返事しかできなかった。

 恐らくこれも全てはオルディス達を始めとする、天上の存在のみぞ知ることなのだろう。

 しかしそれらの秘密は秘匿されてしまっているのが現状だ。そして無理に聞くことも、俺が聞いてしまうこともタブーである。


 真実がどうかはともかく、俺がこの光景を前にそう思えたのは確かな事実だ。その感覚だけは俺は信じていいはずだ。


 こんな普通じゃない光景を見て感じたくらいだ。どうせ過去の俺は何か今みたいにやらかそうとしてたって話なら納得しないこともない。

 ぶっちゃけそうなら苦笑いしかないですけどね。現に今だってやらかそうとしてることに苦笑いしたくなる程ですし。


「思い切って動いてみたのは正解だったかもしれないな――っ!?」


 足元の『エアブロック』の範囲を更に広げ、もう少しこの光景を眺めようと気を抜いた時だった――。


 城の暗闇の中を見つめていると、何故だか危険な予感がした。多分、これは勘だったのだろう。

 その後、暗闇に紛れて一つの黒い点がこちらに近づいてきていることに俺は気が付き、瞬時にセシリィの頭を押さえて身を伏せさせていた。


「あぶねっ!?」


 何だ今の攻撃!? 一体何処から!?


 身を屈めていなければ間違いなく直撃していたことだろう。俺は飛翔物体を追って視線を一瞬後ろに向けたが、暗すぎてよく見えなかった。

 辛うじて分かったのは、前方下方向から鋭い棒状の何かが突き抜けていったということくらいか。

 城自体からというよりかは、その付近からの攻撃だったようだ。


「っ――なに……今の……!?」


 俺が身体を無理矢理抑え込んだためセシリィが大層驚いた様子ではあったが、勢いよく風を切って過ぎ去る音はセシリィにも聞こえたはずだ。

 その見えない脅威に身体を硬直させ、危険な事態に直面していることは理解した様子だった。


「いきなりなんだってんだよ……!? 暗いし遠いしで何も見えねぇし……! というか何でバレたか分かんねーぞ!」


 急な襲撃に意表を突かれ、少し慌てさせられてしまった。

 正確無比にこちらを射抜こうとした時点で、相手はこちらの位置をこの暗さの中でも把握しているのは間違いない。


 速度からして相当な威力は察せるし、無防備に当たれば間違いなくヤバい。

 だが結界からはかなり距離があるし、警報だって鳴ってないわけで……。アイズさんが配備したという迎撃システムが発動したというわけじゃなさそうだ。

 でも……それなら何故城の方から攻撃が飛んでくるんだ? 


 結界がある限り、内側からも外側からも、何か接触があれば必ず警報が鳴る仕組みじゃなかったのかよ。

 何が夜の方が危なくない、だ。滅茶苦茶危ねーじゃねーかよ……!


「『障壁』!」


 脅威が何処に潜んでいるか分からないため、前方だけではなく四方に『障壁』を張って守りを固め、次の攻撃に対し備える。

『障壁』越しなら相手の攻撃も見通せるので、どんな攻撃なのか確認するには打ってつけだ。……まぁ非常に怖いっちゃ怖いが。

 でも非常に有り難い性質をしているのは確かである。


「お兄ちゃん……」

「大丈夫だ。俺にしがみついてろ」


 俺は隣のセシリィをくっつかせ、両手で自由に構えを取る。

 視覚で不利な以上、見てから動くのでは対応が遅れる可能性がある。一応見てからでも対応できなくもないだろうが、危ない橋はできるだけ渡りたくはない。

 なら事前に魔法での対処が得策か。


 一体今何が起こっているのかはよく分かっていないが、素直に迎撃されるわけにもいかない。

 集中しないと。



 次の出方を伺い、暗い中目を凝らしてジッとする。

 上空のやや強い風だけが俺達の耳を騒がせていると――。


 風の音が、一瞬止んだ。


「っ! 『アトモスブラスト』!」


 その不自然に起こった無音は明らかに異様なものだった。すると、突然唸りを上げる風が斬撃のように『障壁』を傷つけ始める。

 実体のない攻撃に対し対処できる方法は限られる。俺はすぐさま衝撃波を周囲に放ち、一帯の空気ごとまとめて吹き飛ばすことを試みた。

 衝撃波が風を押し出すと音はパッタリと止み、『障壁』を傷つける斬撃の音もなくなり辺りは静まり返る。


「今度は何だ? 風の刃か? 魔法じゃなさそうだが……」


 依然気は抜けないままだが、攻撃が止んでできたこの猶予を使って俺は可能な限りこの状況を整理する。


 そして一つの回答へと至った。これは城の迎撃システムではなく、誰かが(・・・)俺らを狙っているのだと。


 そもそも迎撃システムは一個人に対して向けられるような機能までは搭載できていないはずなのだ。

 魔道具はまだ開発段階のモノが多く、セルベルティアで街中でも街灯やらが普及しているのはアイズさんの試みの一つであり、連合軍の施策だ。まだ魔道具自体から得られる多くのデータを必要とする段階で、その何段階も先を行った技術は急に生まれはしない。


 今の正確にこちらを狙い撃つ攻撃はまさしく、その何段階も先を行った技術が使われていると言えるだろう。

 ――本当に、魔道具による攻撃であるならば。


 城の結界が反応して作動させるのは、あくまで警報を鳴らし、その領域化に入った異物を排除するための設備を起動させるだけのはずだ。しかも迎撃する設備も大雑把なことまでしかできないと聞く。

 それが結界の外に対し、長距離から大雑把にではなく対象を正確に補足して迎撃できるのは話が違いすぎるというもの。

 第一アイズさんが無理だと言った以上の兵器が存在しているとは思えないし、それができるとしたら人の手による力と考えるのが妥当だ。


 だからこれは誰かしらの働きによって起こされたもの、というのが俺の見立てだ。

 こればっかりは俺という存在が根拠になる。だって実際魔道具使わなくてもできちゃうからあり得ちゃうし。




 となると……かなり凄腕の人物ということになるか。

 それも暗い中を物理的に遠方から俺らを正確に狙い撃ちできるうえ、何かしらの力で風まで操れる程の人物。……この時点でハッキリ言ってかなり規格外ですね。


 回せば旋風、穿てば天を衝くだっけ? そんな話があったし、ロアノーツって人が一番該当しそうな気がするけど……アイズさんの話ではここまでとは聞いてないしなぁ。

 そうなると、別の誰かなのか……? それじゃあ一体誰って話になるわけですけども。




「姿が見えないのが痛いな……! 範囲攻撃で炙り出そうにも街の中じゃできないし、そもそも暗いから狙いもつけられんし……」


 なりふり構わないならやりようはあるが、生憎と騒ぎになる事態に発展させるのだけはよろしくない。

 ただ、ここで相手を取り逃してはもっと面倒な事態に発展するのが目に見えているので、事は急を要する。

 動くなら俺も早く動かないとマズいだろう。相手の攻撃を防いでみせたとはいえ、殺意剥き出しの敵意を向けてくるくらいだからこれきり大人しくしてくれるとは思いづらい。


 ――兎にも角にも、まずは相手がこれ以上動けないように牽制する必要があると俺は判断する。


 結界の距離はここからだとおおよそ1㎞ってトコか? まだ距離は詰められるだろうけど、昨日の今日だ。迂闊に近づけば二度目はないかもしれないし、寄るのは不安だな。

 となればこちらもこの遠距離から相手を仕留めなければいけない……が、そのためには前提として相手を視認する必要があるか。加えて結界を誤作動させかねない魔法はNGと。


 ……なにそれ、ハードル高くね? 昼間でも見えなさそうなのに。

 直接出向いてとっ捕まえられたらどれだけ楽なことか。




「でも――」




 無理ではない(・・・・・・)




 昼間セシリィに言えたように、この時俺は内心この条件をクリアできないとは思いこめなかった。

 自画自賛ではないが、こと非常識な力において俺は大抵のことならできる力はある。一見無理と思えるようなことでも、俺ができるできないを判断するよりも前に、身体ができるできないを既に知っているからだ。


 そして今、俺の身体はできないと断言しなかった。いや、或いは感覚か。

 どちらにせよ、この無理難題に対し、俺なりにやり通せる根拠がどこかにあるのは間違いない。


「……」


 今回はその理由を考えるまでもない。

 もしあの時と同じことが俺にできるとしたら……きっとまた見えるはずだ。

 人に見えない距離だとしても、この暗い中だとしても関係ない。狙った獲物は決して逃さず、一度捉えたら目は離さない。あの眼を(・・・・)


 思い出せ、あの時の感覚を。あの時俺は無意識にどんなことを思った?

 何気なく遠くを見ようとしてできたってことは、俺にとってはそれができて普通だったってことだ。

 なにかしらの要因が絡んでいたとしても、あの時の感覚さえもう一度掴めたなら一気に距離は縮まる。


 記憶がないなら感じろ。内に封じられてるならもっと揺さぶるんだ。

 あの感覚を覚えている俺を、今ここで呼び起こすんだ……!


 自分の力を思い出せ……! 俺の力は、今あるこの程度なのか? 




 力を貸してくれ……××――!




 名前の出てこない名を、それでも心の中で俺は呼ぶ。多分、海でふと考えた人物とは違う名の方を。


 その名も無き名を呼んだ途端、身体中に自分でも途轍もないと感じる力が駆け巡ろうとしているのを、俺は満たされる気持ちと共に感じた。


※9/17追記

次回更新は明日です。

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