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神鳥使いと呼ばれた男  作者: TUN
第七章 悠久の想い ~忘れられた者への鎮魂歌~
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451話 善行と偽善

前話のあとがきで今日中とか記載してすんませんでした。

あれ今週中の間違いです……なにやってんだ私。

しかも間に合ってないッスね(白目)




「……お兄ちゃん、なんで分かるの?」


 アスカさんが部屋を出ていってから数秒後、ポツリとセシリィが口を開いた。

 なんでというのは察するに、俺がどうしてセシリィの隠し事に気が付いたのかということだろう。


「……勘?」


 でもなんでかって言われてもねぇ……。そんな気がしたからなだけだしなぁ。

 こういうのってそういうものじゃないのかねぇ? 


「すごいなぁ……」

「んなことないって。俺の場合表面上から感じ取って、言ってみて当たってたら儲けもん程度に考えてるから。それで間違ってたらそっかーで済むだけだしな」


 セシリィは俺と一瞬だけ目を合わせると力無く笑う。

 どことなくポニーテールの揺れもか弱く見え、身体全体が気力を失くしてしまっているようだった。


「大体ずっと一緒にいるんだから些細な変化くらい分かるさ。これでもセシリィのことはよく見てるんだからな?」

「そっか……」


 セシリィの場合視ただけで全部分かるから、俺とは大分違うものが普段見えてるもんな。

 視えていないのに心情を察するのは珍しいか。多分セシリィなりに本気で隠そうとしてただろうから、余計にそう思えるのかもしれない。


 大袈裟に言うなら、俺がエスパーでも使ったのかと思われたと言えなくもない。


「あのね、私……多分取り返しのつかないことしたと思う」

「お、おう……」


 セシリィが膝の上に重ねた両手をキュッと握ると、口の奥底から絞り出すように話し始める。

 視線は俺の方を向いておらず、本気で合わせる顔がない様子が見て取れてしまう。


 取り返しのつかないこと、か。やっぱガチなやつだこれ。


「言う事聞かなくてごめんなさい……。お兄ちゃんとの約束、守らなかったから……!」

「……話してみ。分かる範囲で、ゆっくりでいいから」


 今謝られたとしても俺はまだ何も知らない。

 何も知らないのでは何か言う事はできないし、まずは話を聞いてみるところからだ。


 セシリィは間違いを犯した自覚を持っているから既に焦りもピークのはず。

 これ以上焦らせないためにも、セシリィのペースに合わせることを念頭に、俺は震える声を拾っていった。




 ◆◆◆




 ふぇぇぇ……俺達の未来既に詰んでるかもしれないよぉ……!

 たしゅけて神様ぁ……!


「――つまり、男の子の泣いてる声が聞こえたから外に出て助けに行った。その時法術もちょっと使ったけど、もしかしたらそれが見られてしまっていたかもしれないと?」

「はい……」

「それで、見られたってのがまさかのロアノーツなる人物本人で、さっき兵士がたくさん集まってたのはそれが原因だった。動けなくなってたところを運良くアイズさんに助けてもらってやりすごして今に至る――うん、大体分かりました」


 セシリィから一通り話を聴き終え、腕組みしながら何度か頷いて事態を把握する。


 内心ではさっきから驚愕と情けない悲鳴が耐えていないが、顔はあくまで涼しい顔をしてたりします。

 だって俺が取り乱したら余計不安煽りそうなんですもん。ぐすん。


 よりにもよってロアノーツさんが登場してくるとは思いもしていなかった。最初聞いた時は思わず噴いてしまったものだ。お恥ずかしながら。


 それに多分だけど、話を聞く限りじゃアイズさんはセシリィを逃がすために『眼』の力まで使ってくれてるっぽい。

 他者を操る力でもなきゃ、動けなくなったセシリィを強制的に動かすなんて芸当はできるわけがないし。

 こりゃアイズさんには馬鹿デカい借りが出来ちまったなぁ。次会った時しこたまお礼言わないと。


 ……でもあの人大丈夫なのか? 魔力空っぽで死んでないといいけど。


 魔力の欠乏による脱力感は侮れない。

 少しずつ消耗してゼロになるならともかく、一気にゼロに近づいた場合は身体の対応がまず追い付かなくなる。その消耗の幅が大きければ大きい程身体への負担は跳ね上がり、代償である症状も脱力感以外にも多く併発してしまう。

 最悪意識を保てなくなることすらある程だ。魔力とマナが同じものであるなら同じ症状が出ていると思われる。


 さっきアイズさん、特に操る力に関しては相当な理由がないとやらないって言ってた。だからセシリィが動けなかったからこそ使ってくれたんだろう。

 セシリィに力が及ぶのかは賭け染みたところがあったはずなのに決行してくれたことについては、本当に運が良かったのとアイズさんの英断だ。感謝しかない。


 アイズさんの容体がちょいと気になるところだな……。


「ふぅ……。さてセシリィ、ちょっと顔を上げぃ」

「……?」


 アイズさんのことと今後のことと。気に掛けないといけないことは幾らでもある。

 だが俺にはこっちの問題の方が先だった。


 椅子を離れてセシリィの元へと寄り、ゆっくりと顔を上げた瞬間を見計らう。


「てぇい」

「っ!? ……ぇと……?」


 ちぇすとー。

 いつまでもしょんぼりしてないでシャキッとしましょうよ。


 力のない、更に抑揚もない声を適当に上げ、俺はセシリィの頭にすとんと手刀を当てる。

 相手が赤ん坊であっても泣かない程問題ないくらいの優しさだ。これで痛いと言われたら正直困る。というか俺が泣く。


 手刀越しにセシリィの挙動が直に感じられ、かなり驚いているのが伝わってくる。困惑し、見開いた目もそう訴えてきている。

 そのまま俺はセシリィへと声を掛けた。


「ちょっと確認な。セシリィは自分の立場は理解してる?」

「うん」

「……まあそうだよな。なら俺から伝えておくのは今ので全部かな……。次から気を付けような?」


 今の回答と普段のセシリィのことを考え、確認するまでもないことは言うまでもない。


 ならよし! 

 伝えたいことは今の手刀に全部込めたつもりだ。これ以上の言及は要らないだろ。


「怒らないの……?」


 恐る恐る、セシリィが俺を見上げて聞いてくる。

 それはまるで自分から叱責を求めるようでいて、困惑が更に強まっているようだった。


 でもな――。


「ん? もう怒ったぞ?」


 既に私の怒りは爆散した後だしなー。

 怒りがもうないのに怒れってのは中々に過酷だぜお嬢様。


「え? い、いつ……?」

「これ」

「これ……? もしかして、お兄ちゃんのこの手のこと……?」

「そうそう。これで怒るのはもうおしまいだから元気出してこー。OK?」


 自分の手刀を指差しながら説明し、これ以上の叱責がないことを示唆する。

 そして気休めになるかも分からない投げかけをしておき、俺の中にあるわだかまりはこれで一度収束した。


「だ、だって私、勝手に外に出て自分から危険な目に遭ったんだよ? なのに……」


 ――まぁ、お嬢様の方は収束してはいないようだったが。


 どうやらセシリィは俺の態度に納得できないと言いたげだった。

 何を思ったのか俺が滅茶苦茶怒る想像でもしていたのだろうか? もっと怒って欲しかったのにそうならなかったことがおかしいと、逆に言及されてしまっているようだった。


 ……あり? なんで俺がセシリィに怒られてるみたいになってんでしょ? この状況で不謹慎だけどなんか新鮮だわ。

 責任感強い人程こうやって自分の非に対して制裁を求める傾向とか強そうだけど、セシリィは間違いなくそういう娘だろうな。うん。


「お兄ちゃん達の作戦が上手くいかなくなっちゃったかもしれないんだよ? 私の身勝手のせいで……」

「でもその男の子を助ける為だったんだろ? それなら仕方なくね?」

「それは……。でも――」


 でもじゃありません。んなもん結果論に過ぎんのですよ。


「セシリィはさ、その男の子を助けたことを後悔してるか?」

「ごめんなさい……。後悔は……してない」

「ん。もう謝る必要ないって。これで後悔してるなんて言われたら次はもう少し強めのチョップをするところだった。正直な気持ちを言ってくれてありがとな」


 多少言いづらそうではあるものの、セシリィの主張は確かに俺へと届いた。


 嘘を吐かずに自分の主張ができるのは良いことだ。しかもそれが自分の置かれた立場が危うい状況だからこそその言葉には価値がある。

 本心というもののな。


 それに俺のこの手刀は安くないんやで? 

 一発でセシリィの嫌われ度がどれだけ削られるか分かったもんじゃないからな。

 例えるなら『ゼロ・インパクト』を放つようなもんだわ(白目)。


「――確かに俺らの今の状況は危うくなったかもしれない。でもさ、だからと言って目の前で苦しんでる誰かを助けなかったことが正しかったとは俺は思えないんだ。……俺はセシリィは最善を尽くしたと思うよ」


 当時の助教においての最善を尽くす。

 それが例え結果的に裏目に出たのだとしても、その行いを真っ向から全否定される言われはない。

 それが仮に結果を知っている人であってもだ。俺はそう思う。


「だから助けた行為を身勝手とか言わなくていい。もし身勝手なんて言われたら俺だってセシリィを助けなきゃ良かったってことになっちゃうしなぁ」


 それは一体何の冗談だよってな。

 セシリィをあの時助けたのは俺にとっちゃ誇りに近いことなんだぞ?


「ぁ……! ごめん、なさい……」

「いーよ。分かってるから」


 セシリィが身体を震わし、ハッとなったようにまた謝ってくる。

 俺は一度押し当てた手刀を解き、代わりにその頭を撫でることにした。


 なるべくこの優しい娘を慈しむように。この先、この優しい心が変わって欲しくないと願って。


「俺だって同じだ。セシリィを助けたことを後悔したことなんてないよ。今動かないと後悔する……。そう思ってあの時連中からセシリィを助けたんだ。――俺の場合、その時から記憶なくて今どころか先のことなんてまるで考えちゃいなかったって違いはあるけどな」

「……」

「有り得ない話……未来の結果を知り尽くしてでもいない限り、助けに入らないなんてことはしないしできないと思う。だって未来のことなんてなんにも分かんないんだから」


 例えばの話、そいつが殺人鬼で助けたらその後誰かを殺すみたいな外道だったら俺だって助けることを無視してるだろう。

 流石に確実に未来に悪影響を及ぼす要因であれば排除しておかない理由がないからだ。


 ――でもそんな未来の話なんて分かる訳がないんだ。だって俺らは今この時間を生きているんだから。

 だから助けたいと思ったから助ける。それはおかしいことなんかじゃない。


「今回は運が悪すぎたんだよ。そんな場所にロアノーツさんが出てくること自体誰も予想してなかったもんな。この運命の方を俺はふざけんなって怒りたいくらいだ」


 世界の意思といい運命といい、なんでこの娘をこれ以上苦しませてくるのかねぇ。

 いつか絶対目にもの見せてやる……! 必ず。


「それに無鉄砲な優しさはさ、個人的に俺嫌いじゃないんだよ。なりふり構わず助けてくれる奴と打算的に助けてくれる人とじゃえらい違いだしな。自分がキツい時に真っ先に助けに来てくれる人がいたら嬉しいだろ?」

「うん。嬉しい」


 あの人を助けておくと自分には好都合だ。

 今は余裕があるから今回は助けておこう。

 助けないと後で何か言われるから助けなきゃ。


 ――なんだそれ。果たしてそれは自分にとってどう映る?

 モヤモヤして俺はそんな考え方はしたくないとしか思わない。


 セシリィの行いはその偽善を越えた先にあるもの……つまりは真の善行だろうと俺は思っている。

 偽善で助かるものもある以上それを全否定するわけじゃないけど、本物と比べりゃそっちに敵うわけがないんだよ。


 今回セシリィは危険を承知でなりふり構わず外へと飛び出した。誰かの助けとなるために。

 そしてトラウマ級の人に真正面から一人で向き合ってきたんだ。


 そこまでした行いは称賛するべきものだろう。


「今回セシリィはそうしてきたんだよ。だから……余計なことは気にするな」

「でも気にしないのは難しいよ……。何か起こしちゃった後、自分でどうすることもできないんだもん。これじゃ迷惑掛けちゃう……」


 あらら? 結構食い下がってきますねぇお嬢様や。

 そこら辺は俺の願いとして妥協してもらいたいところではあるのですが……。


 何も今から俺らと同じ土俵に立つ必要はない。

 区別は少々変かもしれないが、流石に大人と子どもとじゃこの差はデカい。特に立場の部分に関してだが……もっと言えば天使である以上は。


「まだ子どもなのにそんなに背負い込まなくてもいいんだよ。そういう面倒な部分は大人に押し付けておきなさい。いずれ大きくなった時、小さな子に同じことが言えるようにな」

「……これ、子ども扱いで済むことじゃないと思うんだけど……?」

「子どもなんだから子ども扱いの案件です。だからそういうことにしておきなさい」


 子どもはすぐに大人になってしまう。その短い間くらい、大人に甘えられる期間があってもいいじゃないかと思ってるんだけどな。

 はぁ……大人びてるのが裏目に出てる気がする。

 そしてそうならざるを得なくなったのは……この世界の『流れ』が大元の原因か。


 腑に落ちていなさそうなセシリィを無理矢理封じ込め、世界の意思がやらかしたものがこんなところにまで影響を与えている可能性に嫌気が差してしまう。

 意識すればする程に、誰も幸せになれない悪影響しか及ぼさない負の要因だ。


 ――俺にできることなら、こんな要因なんて消してしまいたい。


「今はその振りまいた優しさで困るようなことになるなら、その後のことは全部俺に任せな。そもそもこんな間違った世の中に振り回されて、セシリィのその思いやりで不幸に繋がること自体がおかしいことだからな。そうさせない、そう思わせないために俺がいる。……だからセシリィはそのままでいいんだよ」

「……」


 こんなところでセシリィに変わって欲しくない。

 この状況はなんとしてでも切り抜けるっきゃねぇわな。


「いいかセシリィ。俺ができるって言ったことはほぼ間違いなくできるって思ってくれていい。大丈夫、それくらい俺は他とはかけ離れてるし――今回の件だって失敗に終わらせるなんてことにはさせねぇよ」


 セシリィだけじゃない。アイズさんやアスカさん達の今後も関わってくるんだ。

 こんな不運なことでセシリィに負い目を感じさせたくない。


「んじゃこの話終わり! 取りあえず、次アイズさんに会ったらお礼を言わないとな?」

「……うん。真っ先に言うよ。アイズさんがいなかったら私、まだここにいなかったかもしれないから……」


 辛気臭い雰囲気に収拾がつかなくなりそうだったこともあり、俺はここらで話を区切ることにした。

 なるべく景気よく、前向きに見えるように声を高らかにセシリィへと告げると、セシリィは少しだけ困ったようにはにかみながら頷いてくれた。


 しかし――最悪まだ、じゃなかったかもしれないと思うとゾッとする。

 セシリィは分かってるみたいだから大して言及しなかったけど、それくらい今回の出来事は危険な可能性を孕んではいたわけだ。

 俺の知らない所、手の届かない場所じゃセシリィを守ることはできない。

 世界の意思が余裕ぶっこいてるのかは知らんけど、首の皮一枚で繋がる気分ってこんな感じなのかもしれないな。

 その一点の情けにだけは有難みを感じざるを得ない。


「よし! 話すこと話したら腹減ったろ? というか俺が減った! アスカさん呼んで昼飯行くぞ」

「あ、うん。そういえばお腹ペコペコだ私も……」


 言われて意識が向いたのか、空腹をセシリィも訴える。お腹を手を当てて摩り、小さな腹の虫が今にも鳴きそうであった。

 俺はセシリィを連れだってアスカさんを呼びに一度部屋の外へと出つつ、今日明日の方針について考えを張り巡らす。




 ロアノーツさんとやらが法術を見たという可能性は高い。セシリィは外見上翼が見えないようにしているから、見て判断するだけならそれ以外の理由があまり浮かんでこない。


 ――ただそこで気になるのは、ロアノーツさんがセシリィを特別な娘としか言わなかった点だ。


 法術を知らないならその言葉が出てもおかしいことじゃない。アイズさんみたいに不思議で特別な能力を備えた人もいるし、ロアノーツさんもその辺は勘付いているらしいみたいだからな。


 だが……仮にもここも連合軍の一角だ。そこにおわすトップが天使の法術について理解していないなんてことはあるのか? 

 勘の良さがそこまで働く人なら、その辺を察することくらいしてきそうな気がするんだよなぁ……。


 既に気づいていて泳がせているだけなのか。はたまた単純に分からなかったのか。

 その当時、セシリィがロアノーツさんの心を視る余裕がなかったのはちょっと痛かったかもしれない。


 一応最悪の想定はしておいて、いつでも動けるように準備と心構えだけはしておこう。

 参考と不安解消程度にアイズさんとコンタクトを取って、また状況の把握をまずしておきたいところかなこれは。……またかって言われそうだけども。


 アイズさんには動くなって言われてたけど、この問題を当日まで放置する方がマズい気がしてならない。

 動けるうちに動いておいた方が良い……と思う。アイズさん、間違ってたらスマン。




 人目を忍ぶにしても昼間は人の目が多いから流石に厳しい。

 なら動くなら今夜だ。


※8/18追記

次回更新は今日か明日中です。

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