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神鳥使いと呼ばれた男  作者: TUN
第七章 悠久の想い ~忘れられた者への鎮魂歌~
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448話 瞳力の秘密②(別視点)

 


「「っ――!?」」


 鉢合わせた瞬間、二人の足取りが同時に止まった。

 その距離、おおよそ二十メートルといったところだろうか。この距離まで接敵されていたという事実にアイズは不覚と思う他なかった。当然相手側もアイズを眼前で発見するとは思いもしていなかっただろう。


「い、いたぞ――ウ゛ッ!?」

「(悪いですけど暫く縛り付けさせてもらいますよ! ここで大勢に集られるわけにはいきません!)」

「ぁ……くっ……!?」


 硬直状態から先に動いたのは兵士の方だったが、アイズもほぼ同時に手を打っていた。

 アイズは間一髪のところで大声を上げようとした兵士の声を無理矢理制止させ、声どころか身体全体を硬直させてその場に崩れ落ちさせる。勿論『眼』の力によって。


 兵士が声を発しなければならないのに対し、アイズの場合は視るだけだ。そのアクションの差は咄嗟の状況において大きな差を生む。対応が出遅れていてもアイズが勝った結果だった。


「(あっぶなー……! 心臓止まるかと思いましたよ。通じて良かった……)」


 声すらまともに発せない金縛り状態にさせたアイズは、崩れた兵士に内心申し訳なさを感じながらも一旦その視界から消えるように裏路地へと入っていく。

 仮面の内側、頬から顎へと通じた汗は焦りの証拠だ。アイズは人目を気にしつつ汗を拭い、騒ぐ心臓を落ち着かせることに勤める。


 アイズに授けられし『眼』の異能の一つである、他者の動きを封じる力。これはアイズが使う異能の中でも制限が低めであり咄嗟の使用が可能な部類に入る。

 使用の際は相手の全体像を直接捉えるという条件を満たせば発動可能であり、即効性もある。使用による疲労も低く、虚弱なアイズでさえ数回使っても疲れを感じない程だ。

 そして効きさえすれば少しの間だが相手の動きを封じ、その封じ方も多種多様に調整ができるのである。


 この効果に対しこの条件の軽さはまさに破格の性能と言えるだろう。ただ一見不自由なく使えるように見える力であるが、致命的な欠点とも言うべき一点はやはり存在する。


 例えこの力が通じる相手であっても、不思議と全く効かない場合とがあるのである。要は効くか効かないかが、毎回不明瞭に存在する確立に左右されているのだ。

 また一度使用すると連続での使用ができず暫くの間は時間を必要とすることもあり、余りこの力に頼ることもできないという致命的な実情が付き纏う。


 そのため、アイズ自身はこの力の使用頻度は数ある異能の中でもかなり低かったりする。

 今回効いたのは運良くであり、一応は万が一に備えアイズは見つかったという認識を曖昧にしてやり過ごす予防線も張っていたが、その心配は要らなかったようである。


「(ふぅー、やっと落ち着いてきました。――さて、気を取り直してと……)」


 汗が引き、心臓の高鳴りも収まった。アイズは裏路地の片隅で再度周囲の感知を試みてよく『眼』を凝らした。


「(周囲の安全良し。……で、ロアノーツさんの傍らに見えるもう一つの輪郭……これ多分子どもでしょうけどもしかして……? 距離があるから確証はないですが、既視感がやたらとあるんですけど……)」


 周りの安全を確保しロアノーツの存在を確認したアイズだが、先程から気になっていたロアノーツの隣にいる存在に対し、若干またも汗が出そうになってしまうのは抑えられそうもなかった。

 その存在の炎の輪郭は推測にすぎないが、恐らく大きさからして子どもだったのである。そして本人の自覚があるかはともかく、子どもながらにしてそれなりの力を持つ人物と言えばつい最近の出会いで心当たりがあった。

 それも革命的な出会い、或いは遭遇と言える人物との。


「(流石に、まさかねぇ……? いやいやそんなことあるわけないですって)」


 出来れば外れて欲しく、当たって欲しくはなかった。

 第一、そもそも彼女がそこにいるのはおかしいことのはずだ。杞憂であって欲しいが、自分の視てきたものは真実を告げてくるかのようでもある。

 アイズは裏路地を縫うように通り過ぎて近づくも、輪郭が実物大に近づく程に


「(ふぅ……。ではどれどれ、チラリと拝見――っ!? あ゛あ゛あ゛ぁ゛アアアアッ……!)」


 やがて、耳を澄ませばロアノーツの声も聞こえて来そうな距離までどうにかやってきたアイズ。

 壁に背を当て、顔だけを角から覗かせてロアノーツを直接視認したものの、口にしたら喉を傷めているであろう声が内心で発せられ木霊する。


「(うわぁやっぱりセシリィちゃんじゃないですか!? なんてことですか……ここでまさかかさかのセシリィちゃん……! なんでこんな所にいるんですかちょっと……!)」


 同じく壁を背に、セシリィは裏路地の中腹辺りであろうことかロアノーツと横並びに立っていた。


 予想は的中していた。もっと言えば近くまで接近した時点で分かってはいた。それでも実際に目にするまでは儚い希望に縋ってもいいではないかという気持ちがここで今爆散した。

 自分の読みが当たってしまったことに、アイズは内心に存在する自分の像に命じ、その額を用意した壁に何度もぶつけて発狂する。

 そしてフリードの言うとおりこれはやってしまったと思うしかなかった。自分の想像する以上に事態は重いのではないかという確信を抱きつつあったためだ。


 もっとも、あまりにも悪運が重なってしまっていただけという面も実際はあるが。


「(くっ……! というかどうしてロアノーツさんと一緒に? セシリィちゃんがここにいる理由が分からないんですが……)」


 当然の疑問――それがアイズの疲弊した脳内で真っ先に駆け巡る。

 ロアノーツだけならば分かる。自分が意図的に行った仕込みが原因で動いているのは疑いようもないのだから。ここまでの動き……本人自らまでもが動き出すことは想定以上だったとはいえ、まだ許容範囲と言える。

 しかし、セシリィは違う。アイズの仕込みとは全く無関係であるうえ、そもそもフリードなしで外出すること自体が不可解としか思えなかった。

 ましてや聡いあの娘が危険を承知で外に出るとは思えないと考えている程に、これは予想が全くできなかったのだ。


「(うーむ……でもこれ、上手くセシリィちゃんを逃がさなかったら私がフリードさんにヌッ殺されるやつですよねぇ? 私が犠牲になるしかないのがもう運命レベルの事案じゃないですか。なんですかその理不尽。今回ばかりは私ちょっとしか悪くな――いや普通に悪いですね。この状況作った発端でしたし)」


 訪れた不幸に対し現実逃避しようとしたところで、弁論の余地すらないことに自分で気が付き、アイズは自身を戒めた。

 撒いていた小さな火種が手に負えない程に大きくなってしまったのだと。それは過ちであったと考えると共に、教訓にするべきだと思ったのだ。

 そのためにはまず事実を受け入れる必要がある。既に起こってしまった事案はもう書き換えることはできないのだから。


「(……これ以上戦犯になるわけにはいきませんし、いつも通りにいきますかねぇ。多分なんとかなるでしょう)」


 過去の似た状況を潜り抜けてきた記憶を思い返し、アイズはそのあってないような腹を括るのだった。


「はいはーい。お探しなのはこの仮面ですか? この明晰な頭脳ですか? それとも全部ひっくるめてこのワ・タ・シ?」

「む!?」


 アイズは隠していた身を角から影のようにゆらりと、裏路地の真ん中に堂々とその姿を晒した。四方から確認できる立ち位置はその一点を見ていなくとも自然と視界に入り、ロアノーツがビクリと身体を反応させて気が付く。


 会ってはならない同士が、なんてことはないただの商業区域の裏路地にて相まみえる。


「フフ、随分と辺鄙なところ出会ったものです。そこにおわすのは皆のアイドルロアノーツさんじゃありませんか。ホント一体何をしてるんです? 幼女をナンパする趣味がある人とは思いませんでしたが……」


 自分がここに居合わせたのもまた偶然。なるべくそう思わせるような言動でロアノーツに言葉を繰り出すアイズ。

 相手が相手のため出来る手段は限られている。そのため言葉攻めによる話の誘導もその限られた選択肢の一つである。せめてセシリィから自分へと注意を引きつけることが出来るようにと、それを悟られないように振る舞いながらいつものペースで切り出すのだった。


次話は出来れば本日中に投稿したいと思ってます。(多分夜です)

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