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神鳥使いと呼ばれた男  作者: TUN
第七章 悠久の想い ~忘れられた者への鎮魂歌~
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447話 瞳力の秘密①

 

「ロアノーツさんなら公に動かないと思ったのに……これは予想以上に大きく動かしちゃったみたいですねぇ。ここまで大きくはならないと踏んでたのですが……」


 ちょっとアンタ!? 時限爆弾仕掛けてきたとか私達聞いてないんスけど!?


 少しだけ読み違えてしまった程度――。アイズさんはその程度の認識でこの状況を捉えているようだった。そこに焦りや不安は感じられず、逆にそこに俺とアスカさんが焦りや不安を覚えていた。


「なんで騒ぎにならないって思った!? てかなんでそう思える!?」

「へ? だっていつものことですし?」


 だってで済む内容じゃありません!

 意味分からん。んなもんアンタだからに決まってんだろーが! なんでこう、自分のこと理解しといてこういう変なトコで危機意識がないんだこの人……!

 書置きの内容は知らんけどアンタの残したメッセージなんて最優先の対処項目だよ! 

 人類滅亡の予知書並にヤベーじゃねーか!


「俺に目立つなとか言っといてアイズさんも大概じゃないですか! 何やってんですか!」

「だ、大丈夫ですって。ちゃんと理由があってやってることなんですから。ちょっとした確認のつもりだったんですよぉ。別に私が出て行けば収まるでしょうしそんな騒がなくても……」


 これが騒がずにいられるか。

 アイズさんのちょっとがちょっとじゃないってのは簡単に想像つくんだよなぁ。

 とにかく嫌~な匂いがプンプンですよ。俺の腹の内もそらプリプリするってなもんだ。


「でもどうする? 人目があるんじゃここから出るのは中々危ないと思うぞ」


 俺が騒いだからなのか、今にも出そうな言葉を呑み込みつつ、対照的に落ち着き払っているアスカさんが言った。


「どの程度の規模で動いているのかは不明ですが商業区域でこれですからねぇ。迂回して別の場所から出ようにもそちらにも兵が回っている可能性は高いでしょう。恐らくここはまだ手薄……他はココ以上の人員が徘徊していると思われます。――いやはや、決めつけるには情報が少なすぎるのが正直なところですが……」

「……つまり?」

「これでは動くに動けません。八方塞がりってことです」

「アンタこれでよく自分は悪くないみたいに言えたなオイ」


 アンタここで殺ったろか?

 犯人が自分は無関係ですって言ってるみたいな空気出してるんじゃないよ。大体アンタは元々犯人みたいなもんでしょうが。

 器物破損、傷害、不法侵入、挙げたらキリがないくらい罪状があるのは知ってる。

 しまいにゃ手足縛ってそこの水路に棄てて流すぞこの野郎。


「ハァ……分かりましたよ。ここは私が人肌脱いで隙を見て一度ここから出ていきましょう。敢えて見つかってくるんで、頃合いを見て二人は安全に宿にでも戻って下さいな」


 俺がアイズさんに向かってとにかく思うことをありったけ連ねていると、肩を落とした様子でアイズさんがアスカさんと位置を代わり、壁に手を押しやった。


 そのやれやれ的な雰囲気はまさに火に油をそそぐようなもの。その後ろ姿にまたカチンときたのはアスカさんも同じだっただろう。灯りに照らされた表情は曇りに曇っているようだった。


「それでなんとかなるものなのかい?」

「なると思いますよ? まあ私のいつもの奇行ってことにすればいいだけですし。身柄を確保された方が手っ取り早いです」


 自分の扱いが軽すぎるなこの人は。これは爆弾が歩いてるも同然ですわ。

 兵士さん達、ここにお目当ての爆弾がありますよー。早く撤去してあげてください。

 あと仕方なくないから。一肌脱いで当然だから。自分のケツは自分で拭う。至極簡単かつ明快な責任の取り方です。


「それじゃ私はここで……。んしょっと」


 そうと決まれば即行動とでも言うように、アイズさんが出口を抉じ開けて外へとするり抜け出した。一瞬の開閉はこれまでに幾度となく使用していることを思わせる所作であり、無駄に洗練されていた。

 恐らく誰にも目撃されなかったことだろう。間近にいながら物音も殆どしなかった程だ。


 まぁ別に俺とアスカさんならまだ何も悪さとかしてないから何も気にする必要はそもそもないんだけども。

 でもなんですかね、これから悪事を働くとなるとやたらと周りの視線を気にしちゃうのは。……そういう心理でも働くんだろうか? 

 ああ……間違ってないんだろうけど自分が汚れていく気分ですわ。さっきアイズさんが犯罪者云々って考えたけど、よくよく振り返れば俺も違法な渡航でこっちに渡ってきてるわけで。

 結局は似たようなものか。


 一応アスカさんの和装はここらじゃ目立つ格好だから、その物珍しい視線を避ける意味合いということで良しとしましょう。


「彼にはもう少し慎重に動いてもらいたいところだね」

「もう少しどころじゃないですよ。何を考えてるのかは知りませんがやりすぎです。自分が警戒されてる状況で取る行動じゃないんですから」

「まぁまぁ。確かにそうだけど、言ってたように彼のことだから上手く収めるとは思うし、もう信じるしかないよ。これがもし必要なことならね」

「これが必要ってどんな算段なんだか……。俺には到底分かりませんけどね」


 アイズさんの奇行に二人で頭を悩まし、ひっそりと外を傍観するように観察しながら会話をする。

 俺にはアイズさんの狙いなんて分からないが、仮にもし狙いがあるのだとしても要警戒人物と余計な接触を招くようなリスクを背負ってまで行うメリットが想像もつかない。

 まずはとにかく避けるべきという考えが真っ先に浮かぶからである。

 俺らの完全な目標達成はかなり困難であることを踏まえると、やはり安全第一を考えとする上で真っ向から相反するこのやり方は少し容認し難いところがある。


 それになんつうか違和感なんだよな……やってることそのものが。

 ロアノーツって人をやたらと警戒していると豪語する割に、アイズさん自身が警戒しているように見えないというか。

 まあいつもヘラヘラしてるような人だからそう捉えちゃってるだけかもしれないけど。


 ふと感じた違和感を問いただそうにも、当の本人はもうここにはいない。

 次アイズさんと会う機会は作戦前日の三日後だ。この三日間待たされるとなるともどかしい気持ちが隠せない。


 今はまだ外に出られそうもない。少し、ここで待つしかないか。




 ◇◇◇




「(さーてと、フリードさん達もご立腹みたいですしちゃちゃっと収拾しちゃいますか)」


 水路から外へと抜け出したアイズは一度壁際に身を寄せると、事態の収拾を図るために行動を開始した。


「(既に巡回した後でしょうか……? 慌てているわけじゃないみたいですねぇ)」


 アイズが事前にフリード達に言っていた通り、外には街中では本来見かけないような甲冑を身に纏った兵士が周囲を巡回しているようだった。


「(あー……やっぱり私のこと探してるっぽいですねぇ)」


 不規則に一定速度で動き回り、特にまとまって行動しているわけでもない。それぞれが単独で動いていることから兵士達は何かを探しているのだろう。そして的確な指示を受けているのではなく、大雑把な指示で動いている段階である推測をアイズは内心で立てるのだった。


「(流石に昼時ですし一般人も多い。これは見分けるのも一苦労だ)」


 今アイズには薄暗い視界の中にボンヤリと映る、青白い炎のような揺らめきを放つ人型が複数人見えていた。


 これはアイズの持つ異能の一つ――通常の視界と『眼』による視界を切り替えることで、そこに在る存在を力として可視化することができる力によるものである。

 元々存在を可視化することができるだけの力であるが、善悪と力の強さを見抜く力と組み合わせることにより、強き力を持つ者の炎は激しく空高くまで伸びて揺らめき、弱き力を持つ者は静かに小さく炎が揺らめくように視えるのだ。

 この力達の前にはいくら力と身を隠していようと丸分かりとなり、逃れる術がない。全てアイズに筒抜けとなる。

 生命反応を示す炎は遮蔽物関係なく見通すことが可能で、一定の距離までであれば地中の中も関係なく感知することが可能だ。そのため屋内や高低差による視認ができていなくとも何処に誰がいるかを把握することもできる。一種の千里眼のような側面もある力と言える。


 幸いにもアイズの立つ水路の側溝は建造物の並ぶ地点とは高低差があるので、端に寄っていれば片側から見られる心配はない。

 炎の歩いている方向や挙動からどの方向を向いているのか。限られた情報の中で必要なものを得ることで、アイズは兵士だけでなく一般人の誰からも目撃されることなく慎重に、着実に歩みを進めていく。

 敢えて見つかるにしても場所は選ぶ必要がある。できるだけ地下通路の入口に近い場所で見つかることは避けるためである。


 この力に唯一欠点があるとすれば、使用中は炎以外のものが黒単一の景色となってしまって殆ど何も分からなくなってしまうことが挙げられる。

 しかし荒れ果てた廃墟や土地ならともかく、ここはアイズの十分見知った街の中だ。土地勘のある場所では然程気になることではなく、夜の街を練り歩くかの如く至って普通に歩いている様に見えた。


「(ハァ……ロアノーツさんも全く手が早い――というか……え?)」


 何度か炎をやり過ごし、時折通常の視界に切り替えることを繰り返すこと数分。水路と商業区域を繋ぐ階段までやってきたアイズが丁度階段に足を掛けようとした時、視界ギリギリのところにポツンと二つの炎の輪郭がアイズの眼にフッと浮かび上がり、そちらを見るや否や思わずアイズは目を見張ってしまった。

 非常に大きな炎であり、天高く揺らめく激しい炎が遠くに立ち昇るのが視えたのだ。周囲に点在する炎とは明らかに一線画す、格の違いが歴然としている炎。すぐ傍らにある小さな炎も決して弱いわけではないが、隣にある炎が大きすぎて霞んで視えてしまった。


「(まさかとは思いましたけど、やっぱりそう来ましたか!)」


 その炎の正体をすぐに察したアイズは驚くと共に、この過剰なまでの兵の動員の理由に納得した気持ちにもなった。


 ここいらでフリード程ではないがとてつもないオーラを宿す人物と言われたら、該当者は当然一人しかいない。


「(何かがおかしいですねぇこれは。もしや私に対する『勘』ではない部分に反応している……? となると間接的に関わった部分ということになるわけですが……とにかく確かめる必要がありそうです!)」


 今までと何かが違う――これまでは全てにおいて自分のみしか考える必要はなかったが、協力者が生まれたことで出た新しい弊害であり発見なのかもしれない。

 アイズはそう考えると確証を求めて意気込むのだった。




「――な゛ッ!?」

「っ!? (しまった、見つかった――!?)」




 しかし、一瞬の油断だった。

 注意が一点に集中してある意味散漫となり、考え事をしている僅かな間の行動――それが致命的なミスをアイズにもたらしたようだ。

 階段を上がり終え、最後の一歩を踏み出した時だった。アイズが奇声にも似た驚きの声がした方を向くと、突然アイズを見つけたことで固まってしまった兵士と目が合った。


 流石のアイズもこの事態には自分の身体を硬直させるのだった。


※7/24追記

次回更新は日曜日を予定してます。

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