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神鳥使いと呼ばれた男  作者: TUN
第七章 悠久の想い ~忘れられた者への鎮魂歌~
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446話 爆弾発言

 ◇◇◇




「ハァッ!」

「ギャウッ!?」


 数メートル先が暗闇に包まれた視界の悪い中、唸り声とほぼ同時に図体に似合わぬ甲高い断末魔と共にネズミ型のモンスターが事切れた。

 力を失くした身体が暗い地下通路に横たわり、埃を舞い上げて重々しく地面を震動させると、獣臭さと悪臭の入り混じった気分を害する匂いが鼻腔に纏わりついてくる。


 生理的嫌悪を感じた俺は躊躇なく眉を歪め、その経緯を見守っていた。


「お見事。流石鋭い一閃ですねぇ」

「……まだちょっと寝ぼけてるかなぁ。首を斬り落としたつもりだったんだけど……」


 刀を鞘に納めるアスカさんをアイズさんが称賛する。


 一瞬の手際が流れるように見えたと錯覚させる動きは、アスカさんが先を読み完全に上回ったことを物語る。速い動きが遅く感じるようであったことはアイズさんにも伝わっていたらしい。

 しかし当人は十二分に力を発揮できていないことがやや不服そうだったが。


 どちらにしろ、不完全な状態であっても暗がりでも正確に首を狙う辺り、アスカさんの力量が垣間見えるというもの。本人のたゆまない練磨が不調を悟らせずに光っている。

 なんというか、動きに迷いがないし無駄もない。これは猛者中の猛者ですわ。

 んで話によると『剣聖』さんってアスカさん以上にヤバい技量をお持ちなんでしょう? なにそれ、剣の道って果てしないッスね。




 会談を終えた俺達であったが、水路を使って街へと戻る最中にちょっとした障害に今出くわしていた。

 恐らくこの地下にいつしか住みつき、ひっそりと成長したであろうネズミがいたのである。体長二メートル程ともなれば流石に害獣の区分を越えてモンスターと呼んでも何ら不思議ではない。急に襲い掛かられたので迎撃し、その対処が丁度終わったところであった。


「やっぱりこういうところはモンスターが定期的に発生しますねぇ。もう一度掃除した方がいいでしょうか……」


 死体を見つめながらアイズさんが溜息を吐きながら言う。


 そういやマッピングの時に駆除も一緒にしたとか言ってましたね。

その時にはこんな大物はいなかったんだろうか? あんまり警戒してるようには見えなかったから似たサイズに遭遇してたのかな。


「当日脱出路として使うんですし、俺が今日か明日にでも駆除やりましょうか?」

「いや、フリードさんは城の地下付近の結界に抵触しそうなんで、お任せするとなるとアスカさんですかねぇ」

「あー、そうですよね」


 滞りなく当日を乗り切るためなら労力は厭わないつもりだったものの、どうやら俺は適任ではないとのこと。

 言われてみて確かにそうであり、俺は昨日誤作動させてしまったばかりだ。地下の深さ的に結界に影響を及ぼす可能性は十分あり得る。


「僕は構わないぞ? どうせやることないし。地図と灯りさえあればなんとかやってみよう」

「あ、じゃあ好きな時にお任せしますよ。どうぞこちらを」

「これ、当日にでも返せばいいのかな?」

「スペアあるんでよろしければ差し上げますよ」


 どうしたものかと思う間もなく、即座にアスカさんの申し出により俺の代役があっさりと決まった。

 アスカさんは地図を頼りに進んでいたアイズさんから例の地図を受け取ると、帰路の道案内役を代わりつつ全体を眺めまわしているようだった。


 しかしまあよくそんな二つ返事で了承できるもんですわ。条件的に割と怖い状況下での仕事の請負いは俺なら万全な状態が整えられないならまず尻込みするだろう。

 個人的に暗いのは単純に危ないし怖いからNGである。暗闇ってのは心を不安にさせるには十分すぎる悪条件の一つだとさえ思う。

 それをただの肝試し的な感覚でやるやるなんて言うなんて俺には無理ですわ。俺だったら地下全体に灯り散りばめて視界確保に全力を注ぐと思う。


「有難いですねぇ。多分このネズミが私の睡眠を邪魔してた元凶っぽいですし、これで安眠が確保できましたよ。最近壁越しに何か走ったり削るような音も聞こえてきたりで気が散ってたんです」

「よく気が散るで済ませてましたねアンタ……。というかこの死体どうします? 放置するってのは流石に……」

「勿論回収していきますよ。死体なんて害獣の発生原因そのものですからねぇ」


 そう言うと、アイズさんは隠し持っていたパイルを持ち出し、『アイテムボックス』を展開してネズミの死体を収納していく。


『アイテムボックス』は発動者の魔力量に応じた収納スペースが確保されているはずだが、アイズさん的にはどれくらい余裕があるんだろうか? 

 一応『眼』の力を使ったりする以上それなりには保有しているのかもしれないか。この辺は個人情報になるので無理に聞くのは憚れるし、そもそも問いただす程のことでもないから黙ってるけど。



「……! 出口に着いたぞ」


 そうこうしている内にアスカさんが壁に手を押し当てながら探りを入れ、足を止めた。

 どうやら出入り口を見つけたらしく、例の商業区域の水路に通じる場所まで戻ってこれたようだった。


 あぁ……やっとシャバに出られる。

 時間感覚狂うからあんま好かんなぁココ。


「……ん? お二人共、出るのはちょっと待って下さい」

「え? なんでだい?」

「……?」


 早く外の空気を吸いたい衝動に駆られるも、その前にアイズさんが俺らを引き留めた。


 何事だろうか? 別に外には誰も……というか水路に人はいないみたいだが?

 早くこんな暗くて不安なトコ出ましょうよ。


 小さな覗き穴を角度を何度も変えて少し外を眺めてみると、特段変わった様子はない。流れる水路が平常を告げているも同然の光景しかない。


「やけに外の気配が多いというか……多すぎます。一……四……あぁこの人は違う……なら六? ふむ、妙ですねぇ」


 それなのにアイズさんが壁越しに首を右から左へとゆっくりと回していた。そして何故だかは分からないがここで数字を口にするのだった。


「何数えてるんですか?」

「いえ、この付近にどうやら兵士っぽい人が相当数いるみたいでして。水路の側溝より右側に四人。左側に二人ばかりいるようですねぇ」


 あ、もしかしなくてもこれ『眼』の力使ってんのか?

 目に見えないものも見通せるって言ってたもんな……。遮蔽物があっても透視できるってことか。アイズさんの『眼』の力すげぇわやっぱ。


 どうやら俺達が見ているものとは別の光景をアイズさんは視ているらしかった。


「え? な、なんでそんなことが分かるんだ?」


 アイズさんのこの急に露見したとも言える察知能力の高さは俺にはどうにか理解できたものだが、その秘密、或いはカラクリを知らないアスカさんには大層不思議かつ奇妙に思えたことだろう。

 この疑問は至って自然だった。


「……ちょっと魔道具の力を借りて軍関係者の位置情報はある程度把握できるようにはしてるんです。これまでに私が誰にも目撃されずにこの通路の存在を秘匿してこれた理由はこれなんですよ」

「そ、そうだったのか……流石に用意周到だね」


 まるで用意していた回答文をそのまま読み上げるように、アイズさんがしれっと虚言を吐いてアスカさんをいなす。

 少し間が空いていたので即興だとは思うが、この反応からして変に怪しまれてはいなさそうである。


 しかしそれっぽい誤魔化し上手すぎませんかね? こういう人って世渡り上手そうだよな……。 

 実際アイズさんって好き勝手やって充実? した生活が送れてそうだし。人生本当に楽しそうなんだよなぁ……見習ったらアカンのだけども。


 まぁともかく、アスカさんに秘密はバレなさそうだな。余計な詮索が入る心配もなさそうか。

 流石アイズさんやな!


「それ程でも。こう見えて私、結構用心深いので」

「……」


 ハイ、そして安心したと思った途端にこれよ。

 オイコラ、後ろに回した手でグッジョブすんな。分かってるから。

 もしアスカさんに見られたらどうする。全部おじゃんだぞ? 褒めて褒めて~じゃないっつの、二回もグッジョブいらんわい!


 俺には一瞥もくれていないくせに、指の動きだけはやたらと軽快で明らかに誇らしげなアイズさんの様子に内心イラッとする。

 その部分も用心深かったら言う事なしなのにと思わずにはいられない。


「少し、今出るのは危ないかもしれないですねぇ。商業区域にこんなに兵士が集まるなんて普段ないはずなのですけど……これは何かあったのかもしれませんねぇ」

「確か今日って普通に出勤の日のはずでしょ? 単純にアイズさんのこと探してるんじゃないですか? いい加減仕事しろ的な感じで」

「うーん……でもそれは日常茶飯事のことですからねぇ。――それかこれは思いの他アレの効果が大きかった……? これは見誤った可能性が……」

「……何か心当たりが?」


 ……はい? 思い当たる節あるの……?

 一体何したんですかアンタ。最初からこちらはもう決めつけにかからせていただきますけども。


「少し当日の為の工作というか布石というか……その一環で各地に書置きを残しておいたんですよねぇ。多分それを見つけたんじゃないかなぁと」

「書置き? 一体何書いたんです?」


 アイズさんの打ち明ける内容を確かめるために聞いてみる。


 ロアノーツさんとやらに既に警戒されているだろうから下手な真似はできないってあれだけ自分で言ってたし、危ない橋を渡ることはないはず……。

 ここは先っちょ程度の面倒事だと予想させていただきましょう。


「んー? 簡単に当日に実験やるんでどうぞお楽しみにって書いただけですけどー?」

「「ッ……!?」」


 ファ~~~~~~~~~~~!?


 心の内限定ではあるが、多分俺のこの驚き具合は冷静なアスカさんと今重なっていたに違いない。アイズさんを挟んで二人して大声で狼狽えるのを通り越し、身体が凍り付いた。今にも割れてしまいそうな程に。

 目と口は点をくり抜いて白くぽっかりと空いたかのようだ。今にも己の魂が抜け出てしまうかもしれないくらい大きく開いていたと思う。




 ホント、ナニヤッテルンデスカアイズサン? 


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