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神鳥使いと呼ばれた男  作者: TUN
第七章 悠久の想い ~忘れられた者への鎮魂歌~
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443話 知らぬが仏

 



「さて、天使とは何故忌み嫌われ淘汰されようとしているのか。その原因が分かった今、次の問題はそのような力とは一体何かの解明に尽きますねぇ」


 しんとした空気を裂き、アイズさんが顎に手を添えて話題を変えた。

 一層楽な気持ちで対話に望めようかという程に、もう俺らの間に隔たりはなくなっていた。


 ……つっても、俺から隔たりを急遽作ってただけなんだけどな。これについては本当に反省だ。


「次元の違う存在の干渉が原因でしょう?」


 アイズさんの声に俺は既に出ている事実を再確認させるために返答する。


 所謂神様的存在が原因だな。理不尽極まりないがこんなものどうしようもない。

 だからオルディス達も諦めてる始末だ。


「それはそうなんですが、誰かしらの存在がなんらかの意思の力を働かせて認識に作用しているとしたら、その力に説明をつけることはできると思うんです」

「……というと?」

「弱いとはいえ私も他人の認識に干渉できますからねぇ。それに近しいのではないのかとは思います」


 言われてみれば……確かに。

 身近に感じているってところかな?


 アイズさんの意見に、ふと忘れていたように納得できてしまう自分がいた。


「もっとも、こんな世界規模での範囲ですから比べるのも違っていそうなものですがねぇ。――それでも、神の力の一端を知れるかもしれません。それは非常に興味深い」


 そう単純な話ではないだろうが、類似点からその力について知ることはできないか? アイズさんはそう考えているようだ。


 神的存在って考えると理屈どうこう考える余地はないって思ってたけど、よくよく考えると規模が桁違いなだけで内容は近しいものがあるんだよな。

 例えば、アイズさんの持つ力がかなり持続するみたいな? これは簡素すぎるけどそんなイメージっていうか。


 アイズさんの場合は力を解除すれば効果は消える。

 それなら、神的存在とやらの力の発生を止められればこの植え付けられている認識も解除される……のだろうか? 

 一応意思の力は大分弱まってるっていう話だし恒久的なものではないと思われる。自然消滅を期待して待つという考えもできるかもしれないが、多分その頃にはもう天使達は……。


 一人では思いつかないことでも、誰かの声があることで気が付けることもある。

 俺は今その恩恵にあやかれたことに有難さを覚えそうだ。


「一つ何か知ればそこから先へと繋がります。小さな積み重ねが後の大きな結果となる。……それが研究というものですよ」

「ふむ……」


 その通りだと俺も思う。

 俺がこうして考えていることも、積み重ねれば答えという結果になるのかもしれないのだ。決して無駄じゃない


「俺はそこまで辛抱強くありませんから到底真似できることじゃないですね。それよりも目の前のことから目を離さないようにするので精一杯ですよ」


 だが、そんな悠長に時間を使っている暇はないだろうけども。

 そんなことをしていたらその間に天使達の被害は広がり続けるだろう。それこそ全滅の勢いで。


 それだけは絶対に避けたい。

 セシリィの希望を潰えさせるわけにはいかないし、それを指を咥えて見ているだけなのも嫌である。

 天使達より優先された俺という存在を自覚している今、俺はそれを見過ごせる立場では名実共になくなったのだ。この問題についてれっきとした当事者となった以上奔走していく道以外はないし、選べない。


「ハァ……死ぬのを覚悟で神獣には是非お会いしてみたいものです。まだ他にも手掛かりとかありそうですし」

「……多分あるんでしょうね。俺が会ったオルディスも話せないところはだんまりでしたけど、そもそも聞かれない限り必要以上に喋っていなかったですから。まだまだ他に知ってることはあるでしょうけど話せない内容なんでしょうね」


 アイズさんが溜息をつきながら、歯がゆそうに手の届かない存在との対話を望む。

 だが話すことが『流れ』を変えてしまう可能性を多分に含んでいる以上、オルディスは迂闊に情報を漏らすことはできない枷がある。俺はアイズさんの考えを肯定しつつ、それは難しいと遠回しに説明しておく。


「研究は光明の糸口を見つけるまでが大変ですが、それは既に見えている。――くぅっ……! いっそこの身、海に投げうてば見かねて拾ったりしてくれませんかねぇ……!?」


 無理を押し通したいのか、冗談みたいなことを本気で言ってくるアイズさん。両手で自分のことを抱きしめるポーズには少し引いた。


「多分見向きもせず捨てられると思いますけど……」

「ガックシ……! ですよねぇー」


 ここで変に希望を持たせてもこの人を余計に期待させて暴走させてしまうだけだ。俺がオルディスの考えと性格、そこから分かる結論を即答して突きつけるとアイズさんは勢いよく項垂れてしまう。


 うん、多分通らんと思うぞ。普通に見捨てられて海の藻屑になることまっしぐらかと。

 基本的にオルディス達は俗世に干渉してこないはずだから認知はしてても無視されるのがオチだ。

 しかもオル君結構割り切ってたから俺の知り合いとか言っても通じないだろうな。

 Yesマンじゃなく無理なものは無理と言えるだろうから、流石各領域のトップたる存在感やで。


「むむむ……! こうなったら遠征っていう名目で他の神獣さん達のところに行くべきですかねぇ?」

「あ、それ無理です。オルディス同様に全員有り得ない場所に居座ってるらしいんで。多分アイズさんの虚弱っぷりじゃ辿り着けないし、その前に死ぬと思いますよ?」


 てかアンタの長期外出なんて軍が許すわけないと思うんですが? そもそも場所も知らんだろうに。

 第一オルディスは深海最深部の前人未踏の住処にいるし、他の神獣達も住処にしている環境が過酷すぎたり見つけられなかったりで偏屈らしいからなぁ。一番マシなのでルゥリアって奴か。

 ……特にちょろっと聞いた限りじゃヴォルカウルって神獣は行こうとする気にもならない場所にいるらしい。どんなことを思えばそんな場所に行く気になるか教えて欲しいくらいだ。


 とまぁ、神獣の皆さんは人目に付くわけがないヤベーところに普段陣取ってるわけです。滅多なことでは領域内から動くことすらないとかなんとか。

 人に見つからないのは至って自然である。多分見つけられたらそいつ人じゃないわ。


「う゛ぁ゛あ゛あぁああ……! そんな、殺生なぁああああ……!」


 奇声を上げるな奇声を。ただでさえ不審者なのに完全に逝ってる人だぞそれだと。


 両手で頭を抱えたアイズさんが喉を震わし、俺の耳につんざく。

 ここが草原で良かったもので、街中であったら兵士がどこからともなく駆け寄ってきていたかもしれない。


 ――丁度その時だった。


「う……」

「「あ」」


 二人揃って声を出してしまった。

 そろそろ頃合いではないかなとは思っていた。すぐに目が覚めるとは言っていたし、話している間いつ起きてしまわないかとぶっちゃけ心配していたくらいだ。


 アイズさんの奇声の直後、石机に突っ伏していたアスカさんが目を覚まし動き出す。

 急遽眠りについてしまった関係で変な体勢だったためか、額には石机の凹凸によってできた跡が残されている。角度によっては痛々しく見えなくもない。

 まだ意識はハッキリとしていないようだが、ようやくお目覚めのようだった。


「……あれ? もしかして、寝てた……?」


 アスカさんがうつらうつらと重たそうに首を揺らしている。開きかけの瞼も重そうであり、声もやはりのんびりとしていて一見二度寝してしまいそうな印象だ。


 会った時からシャキッとした声しか聞いてなかったから違和感凄いな。

 それにしても奇声が目覚めの歌声になるとはツイてない王子様だ。


「ええ。ぐっすり寝ておられましたよ?」

「え゛……本当かい!? 僕としたことが……」


 ああ。ぐっすり寝かしつけられてましたよ? そこの人に。


 アスカさんは意識がまだハッキリしない状態でも言葉一つですぐに自分の失態を理解したようだった。表情は大して変化しなかったが、愕然としている声を漏らす。


「おかしいなぁ……体調には気を遣ってるハズなのに……」


 昨日の自分を思い出しているのか、アスカさんが器用にも眠そうなまま難しい顔をして唸っている。


 うわーお、真面目な性格ってこういうとこで出るなぁ。

 本当は真実を告発したいけど、アスカさんまでさっきの話諸々を知ってしまうと俺としても不都合が働いてしまう。

 ……すまん、ここはアイズさんに乗らせてもらうけど許してくんなまし。貴方は寝不足で寝てたんやで?


「お疲れだったんでしょう。アスカさんの心情では作戦が完了するまで心安らぐ一時もないでしょうからねぇ」

「そう、だったのかな……?」


 ちゃうで。


「人って自分が思っている以上に脆いものですよ。アスカさんも知らないところで疲れているのですよ、うん。特に貴方みたいな方はねぇ」


 せやな。これは確かに突かれてますわ。不意打ちをな。


「……まだあんまりハッキリしてないからあやふやだけど、分かった。肝に銘じておくよ」

「ええ、そうしてくださいな♪」


 こ、この人って奴は……。

 白い目を向けたいくらいの嘘をよく平然と言えんなぁオイ。


 アイズさんを全く意味のない納得まで誘導したアイズさんは、最後俺にしか分からないとびきり嬉しそうな声でそう締めくくる。


 確かに上手く騙せているのでこれはこれでいいのだが……それでも良心というものはあるわけで。

 俺が罪悪感を覚えてる一方でアイズさんがそれを微塵も感じさせない姿はまるで対象的と言えるだろう。

 ……俺が屑ならこの人はド屑だな。似たようなもんだけどさ。




「ま、話すべきことは話しましたし街に戻りますか」

「……そうですね。お腹も空いてきましたしそうしましょっか」


 自分の意識を改めているとアスカさんからお開きの声が掛かり、俺もそれに便乗する。

 実際これ以上話せることもなくなってきていたし、作戦に直接関わるものではないものが大半だ。アスカさんが目覚めてしまったからには当初の予定通りこの秘密の会は打ち切るしかない。


 アスカさんがもしも寝ていた空白の時間の話を聞いてきたら俺が適当に辻褄を合わせて答えてあげればいい。

 今日の午後から準備で忙しいアイズさんと違って、幸い俺とアスカさんはまだ時間だけは有り余っている。一緒にいる時間も多いはずだから特に不都合もないだろう。



 ――ま、前日に最後会う機会があるので何かあればその時にでもすればいいさ。

 アイズさんのことだから情報を必ず整理してくるに決まっている。また興味深い話と考察でも聞けるかもしれないしな。


「そうか……っ! ――っとと!?」

「急に立ち上がっちゃ危ないですって。大丈夫ですか?」

「な、なんとか……」


 まだ薬が抜けきってない影響か、俺とアイズさんが席を立つとアスカさんも遅れて立ち上がろうとした。

 ――が、その支える足はしっかりしていても平衡感覚がまだボケているらしい。グラついてもう一度座り直してしまい、片手で机に手をついていた。


 アイズさんの話では後遺症とかはないそうだから、もう少しすれば完全に意識が覚醒するのかな。それまでは思うように身体が動かなそうに見える。


「手、貸しますよ」

「ありがとう。すまないな……」


 アイズさんのせめてもの償い? だろうか。率先してアスカさんに手を差し伸べている光景を見ながら、俺はアスカさんの状態について自分の場合であった時のことを当てはめていた。


 ……俺もああいう直接的な手段を取られた場合は無抵抗になるのかもしれない。

 外からの見てくれは強靭でも身体の内部までは分からない。口とかに魚の骨とか普通に刺さるし、外が駄目なら内みたいな感じで俺もすんなりイチコロにされる可能性はある。


 今後狙われることになるのだから、些細だが口にするものとかにも注意した方がいいか。




『……ミ……タ……』

「……?」


 なんだ……? 今変な気配を感じた気が……。


 セシリィもそろそろ俺達の帰りを待っている頃合いだ。昨日買った弓の練習もしたがっていたし、俺も早く戻りたいと思っていた時の事だった。

 風の音に紛れ、微かに何かが聞こえた気がした。


 気のせい、か? もしかしたら君主様の可能性もあるか。


 感覚を集中して耳を研ぎ澄ますも、聞こえてくるのはアスカさんとアイズさんの声だけだ。物音一つ聞こえてきやしない。


 少し後ろ髪を引かれる思いだったが、一度姿も見えない相手の声を聞いた経験が俺を後押しする。

 それにただの偶発的な物音が幻聴に似て聞こえるという場合もあるため、気にせず俺達は一度この場を後にしたのだった。


※6/10追記

次回更新は明日予定です。

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