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神鳥使いと呼ばれた男  作者: TUN
第七章 悠久の想い ~忘れられた者への鎮魂歌~
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441話 隠された秘密②

「っ……さっきのだらしない顔とはまるで違いますねぇ。遂に本気の顔になりましたか」

「……」


 惜しみなくアイズさんに睨みをぶつけると、そんな俺をアイズさんがそう評した。


 この状況で減らず口が利けるなんて大した余裕だな。被り物の下がどうなってるかはさておき。


「しかし認めるんですねぇ? この事実を」

「下手な言い返しをして切り抜けられる人じゃないでしょ? ――特にアンタみたいな用意周到を絵に描いたような人は」

「フフフ……! それは褒め言葉、と捉えさせていただきましょうか。いやぁゾクゾクしますねぇ」


 俺が観念したのが大層嬉しそうのかアイズさんの声が若干大きくなる。

 通常なら縮こまりそうな局面で快感を覚えている様子なのは、やはり変態故にか。

 奇抜で考えが読めず、何をしても問題ばかり起こす。一時の感情と私利私欲のために全てを注ぎ込んでいると思いかねない行動だけと思いきや、その先に真の目的を見据えている計算高い人。


 ――この人はそういう人だ。ただの厄介者じゃない。


「好きにしてくれ……。それよりも――」

「ハイ。ではタネ明かしといきましょう。まず仰る通りセシリィちゃんの正体については昨日の時点で私は把握していました。今もセシリィちゃんを天使だとして認識してますし、今日に至ってはずっとそのことで頭が一杯になるくらいには考えている程です」


 それでいて昨日のセシリィは微塵も不安な素振りは見せていなかったし、アイズさんとも普通に会話している瞬間もあったということになるわけだ。

 こんな事実をセシリィが俺に隠すとは思えない。それはつまり、セシリィが純粋に気が付けなかったということである。


「ならどうして? あの娘はその思考をいとも簡単に見抜ける。……実際、俺もセシリィのその力を体験したことはありますから」

「そうでしょうねぇ。天使の持つ力というのは聞く限りじゃ全て常識を遥かに凌駕しています。『法術』と呼ばれるマナとは別の力が引き起こす超現象。まるで人類の欠点を改善したかのように思えるどの種族にも劣らない身体能力の高さ。……そして、特に注視すべき他者の心を読み取るという力。どれも一級品の特異な力と言えるでしょうが、心を読み取る力に至っては異能の中でも特にズバ抜けていると言ってもいい。その精度の凄まじさは会話をするのと遜色ないと言われているそうですし……実際そうだったのでしょう?」

「……」


 俺が体験したであろうことをさも知っているかのようにアイズさんが語ってくるも、その言葉について特に異論はなかった。

 全て事実であったからだ。


 やっぱり流石に色々と知ってんだな。軍に所属しているのは伊達じゃない。


「それが何故私相手にはできなかったのか? 当然の疑問だと思います。……どうやら私の『眼』の力はそれに対抗できるようでしてねぇ。上手いこと心の声を隠すことができたようです」

「心の声を隠す……?」


 アイズさんが胸に手を当てる所作をする一方で、俺は感じた疑問が口で踏みとどまらずそのまま外へと出ていってしまうだけだった。気が付けばその疑問に俺の注意は向けられてしまっていたのだ。

 何故ならそれは、考えたくもない最悪の存在がいることを示していたからである。


「正確には漏らさなかった、と言ってもいいかもしれませんねぇ。私のこの『眼』に宿る力は一つではありませんので」

「っ!」


 やっぱりか! まだ力を隠し持っていたのは当たりだったみたいだな。


 アイズさんが自分の『眼』を指差して説明し、打ち明けられる真実。まだ隠していることがあると疑ったのは間違いじゃなかった。抱えた不信感が更に高まり、もしも間違っていたらという不安が消えていく。

 しかしその裏では、未知の脅威が増すことで別の不安が高まってもいたが。


 ということはアイズさんは二つの異能の保持者ってことか――。


「先日話した善悪を見抜ける異能というのは数ある私の異能の中の一つに過ぎません。実は異能はあと四つ程あるのですよ」

「な……!?」


 まだ他にもあるのかよ……!? しかも四つだと!?


 二つだけと思ったはず異能が実は半分にも満たなかったこと。一瞬でも二つが最終確定と考えたのが馬鹿らしく思え、驚きで挙動が乱れてしまう。

 既に平常心を装うことなど無理で、ただただあるがままの真実のみが容赦なく情報として押し寄せてくる。


「今回漏らさなかったのは二つ目の異能の力によるものとなります。今まで試すような相手もいませんでしたから、私自身どこまで通用するのか(・・・・・・・・・・)は昨日初めて知りましたよ。半ばヤケクソだったんですけどね。――本来ならこのような使い方はしないのですが、私は他者に物事の認識を曖昧にさせることができるんです」


 アイズさんは自身の持つ二つ目の異能の力をさらりと告げると、自分のことながら感心したようにしみじみと二、三回程首を縦に振る。

 ――が、こちらはそんなに感傷に浸っていられる余裕など当然ない。俺はすぐさまその異能について更に追及する。


「それって……まさか幻術の類じゃ……?」


 幻術を使える人は厄介この上ない。

 戦闘にも日常においても、おかしいと感じさせずに効力が切れるまで相手を惑わし、全てを攪乱させる力。簡単に言えば右と左を分からなくさせるような力が幻術だと俺は思っている。

 力や効力の矮小さは重要じゃなく、問題は効いてしまうかどうかだ。一度効いてしまえば相手の術中に嵌ったも同然で、全てを掌握されてしまうようなもの。


「へぇ? このような力についても理解があるのですか。ということは私以外にもこのような力を使う方はいらっしゃるということですか……ふむ」


 こういうものがあるということは何故か俺は知ってた。

 アイズさんの言わんとすることも不思議と理解できるし、決して無い力ではないということを記憶にはないが俺自身が何より知っている。そういう感覚が俺を現実逃避したい気持ちから今踏みとどまらせている。


 でもこんな、こんな力まで持ってやがんのかよ……!?


「……コホン。既にご存知なのかもしれませんが、能力としてはそこまで力は強くはありません。精々一つの事柄を対象にその認識を別の認識へと捻じ曲げたり、また綺麗サッパリ一時的に消去するだけ。しかも一度に複数人は巻き込めないですし、力を解除すれば当人は全てを正しく認識して思い出します。当然矛盾や間違いにも気が付きます」


 幻術の類を俺が既知だと分かってアイズさんは特に動揺を見せなかった。むしろ薄気味悪いくらい愉しそうな声で俺の反応を観察しているような気さえする。

 俺とアイズさんの間には、確執的な余裕の違いが如実に表れていると言っても過言じゃない。


「……オイ。アンタそれをセシリィに使ったって言うのか?」


 今の流れだとその線が濃厚だということになるわけだが……?

 実害が加えられているわけじゃないが、あの娘に何かしたというのならもう無理だ。

 言い訳なんていらない。害がなくてもセシリィに向かって何かしらの力を差し向けたという事実だけで危険極まりない。


「っ……! 疑問は……ご尤もです。ですがセシリィちゃんには使っていませんからご安心を。……というか怖いんで睨むの止めてもらっていいですか? 貴方一体どこまで豹変するんですかもう……」


 うるせぇ。これが睨まずにいられるか。少しでも威圧になるんならするに越したことはねぇだろうが。

 敵になる可能性がより濃厚になった奴相手に臆しているだけだと思ったら大間違いだ。


 何か妙な真似を起こせば即座に潰す。今アンタが起きてられているのは俺にまだ疑問が残されているからだ。

 そこを履き違えてもらっちゃ困る。


「セシリィに使っていないのだとしたら、一体誰に対して使ったって言うんですか? 俺とアスカさんに使ったわけじゃないでしょうし……」


 俺とアスカさんに心を読み取る力なんてないのだから使ったところで意味はない。

 じゃあ一体誰に……? そもそも幻術だけなのか……?


「ですから最初このような使い方はしないと言ったんです。……別に貴方方の誰にもこの力は使ってませんよ。幻術を使ったのは、私自身にですから」

「は?」


 これまた不可解なことを聞いた気分だった。

 相手に向かって使うはずの力を、自分に使う? それは一体どういう意味かと。


 今の俺の呆けた声と表情は、アイズさん的には滑稽に映っていたことだろう。

 それくらい、俺にあった認識は先入観を持ち過ぎていたと戒めを覚えさせられる。


「私がセシリィちゃんが天使だと理解したのは昨日皆さんと会う直前です。そもそもこの力を使う暇なんてありませんでしたからねぇ」

「自分に使う……? そんなことが出来るのか……?」

「みたいです。現に昨日のセシリィちゃんの態度がその証明でしょう」


 た、確かにそれならセシリィに使わずとも黙り通せたという理屈は通るが……。


「……私は昨日、皆さんと会う前にセシリィちゃんを天使だという認識を一時期的に消去し、人族であるという認識とすり替えたんです。この力を掛ける前に、解除するのはその日の終わりということだけを理解させたままね」

「……」

「ですがその時はやっぱり変な感じは流石にしてましたけどねぇ。自分は今なんでこんな意味も無い力を発動してるんだろうって。それも家に帰って解いた時全て理解しました。その時は思わず興奮ではしゃぎまわっちゃいましたよ」


 アイズさんの言葉は俺に驚きを与えてばかりだ。

 そして自分の無知さと浅はかさが浮き彫りになって、掌で踊らされていることを痛感して耳が痛くなる気がしていた。


 取りあえずセシリィに害を加えていないということが分かったことには安心した。


「これでも私、意外と我慢強いんですよ? 真実の為ならいくらでも我慢できます」


 そうだな。少しは見直しましたよ。

 アンタ程の欲に塗れた人が、すぐ手が届く位置にある答えを一日我慢してたことに関しては驚きを禁じ得ない。


「フフフ……以前も言ったでしょう? 私は自分の『眼』は信じると」

「成程、アンタの『眼』は誤魔化せないってわけか。自分自身に対しても」

「ええ」


 ――が、以前にアイズさんの言っていた言葉を今俺は思い出していた。

 セシリィが自分の力を信じ、俺がそれを信じている様に。アイズさんもまた自分の『眼』の力を信じている。それだけのことなのだ。

 偉そうな言葉になるが、非常に天晴という他ない。


 それにしても、まさか自分自身に幻術を使うとはな。

 俺はてっきり、自分以外にしか使えないと思っていたからこれは盲点だった。回復魔法がその良い例だ。

 いっそのこと、これはもう自己暗示に近い使い方かもしれない。


「――さて、これが私がセシリィちゃんに昨日気付かれなかった理由です。ほぼ賭けみたいなやり方でしたけど、ご納得は頂けましたか?」


 アイズさんが俺の表情を伺うように問いかけてくる。

 俺もアイズさんの今の話が全て眉唾もない話だとは思っていないので、完全に否定することはできない。

 これまた俺自身の経験に基づく感覚だ。自分の感覚は誤魔化せやしないのだから。


「……一応は。けどまだ他に三つも力があるっていうのは? それを聞くまでは完全に納得できませんね」


 だが、他にも力が残されているとなるとそれを聞いた上で納得するかは決める他ない。


 ここにはセシリィもいないし、そもそも相手は心を読み取ることに最早意味がない人だ。

 なら、俺が自分の判断でアイズさんを信じるか信じないかなのだ。本来の在るべき自分の眼力ってやつで見定めるしかない。


 その為に必要な事とは何か? 

 当然会話だ。話さなければその人の意思は何も伝わりはしない。

 そこで何を思い、感じ取り、信じることができるのか……。それが誰しもが日々行ってきている基本的な人との関わり方の基本だ。


 ……生憎とアイズさんの表情が見えないのは都合が悪いけど、この人に関しては見えないのがデフォルトだから文句は言えない。

 とんでもなくハードルの高い人だが、要は信じるか信じないかの二択だ。難しく考えず、俺の心のままに決めればいい。例え記憶にはなくたって、セシリィと出会う前まではずっとそうやってきたはずだ。


 自分が自分の意思で決める当たり前のこと。これならきっと、俺も後悔はしないと思うから。


「まあそうでしょうねぇ。全部お話しますよ、私のこの『眼』の秘密を――」


※5/24追記

次回更新は明日か明後日辺りになります。

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