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神鳥使いと呼ばれた男  作者: TUN
第七章 悠久の想い ~忘れられた者への鎮魂歌~
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440話 隠された秘密①

 



 ◆◆◆




「――神獣の実在……そして我々が天使達へ向けられているというこの意識の改変……。ふむ……」

「ざっと俺に開示できる事実は(・・・)こんなところですかね。これ以上出せと言われたら困りますが」


 アイズさんの要求通り、話しても問題ないと判断した俺が知っていることをそのまま伝えると、ようやく打ち止めまできた。

 話している間は初めて会った時のように興奮して手が付けられなくなるんじゃないかと警戒していたものだが、案外終始落ち着いた様子しか見せなかったのは意外だった。


「……フリードさんも要ります?」

「いや、俺は遠慮しときます」


 一時の沈黙が過ぎ、アイズさんはその間を潰すようにまた持参している例の飲み物を自分のカップに注ぐ。

 俺もと誘われたが、流石に先程の光景を見たばかりの心境としては気が進まなかったため丁重にお断りはしておく。

 未だなおアイズさんの隣ではアスカさんの屍が築かれたままだ。


「まあそれもそうですよねぇ。――ふぅ」


 苦笑しているような含み笑いを声に、アイズさんがカップに口を付けて一息入れる。


 まさにティータイムならぬ賢者タイムですね。こんな状況でそんな考えが働く俺……うん、確かにヤベー奴かもしれん。


「こんなに面白い情報をお持ちとは……。フフフ、想像以上の対価をどうもありがとうございます」

「事実として知ってることを話したまでですよ。ご満足いただけたなら話した甲斐がありました」


 アイズさんが一体どこまで納得してくれるかは疑問だったが、どうやら俺が話した内容については満足のいくものであったようだ。口元に浮かぶ口角の上がり具合がそれを物語っている。


 ……ふぅ。なら俺もこれでようやく賢者タイムに入れるってもんですよ。

 これで納得できないとか言われたらどうしようかと思ってたけど、あ゛~一区切りつきましたわ~。


「となると……成程、これならそう言っていたことにも繋がりますねぇ。時間がないという点にも頷ける」

「……?」


 はい? どないしましたか?


「フリードさん、アスカさんがどうかは知りませんので彼が眠っている内にもう少しだけよろしいでしょうか?」

「……なんでしょう?」


 区切り、と思っていたがまだついてはいなかったようだ。いや区切り事体はついたのは確かだが、すぐに次の段階へと進んでしまったというのが正しいか。

 アイズさん独り言の後、会話は第一幕から第二幕へと休みなしに移行していく。


 この時、アイズさんの口元が未だに笑みを浮かべたままであったことに安心を覚えていたはずの俺だが、それが不気味に早変わりした気がしたのは気のせいなんかじゃなかった。


「フリードさんが話してくれたことに対して私は一部を除き一切疑っちゃいません。全てを事実として受け止めますし、問答無用で納得しましょう」

「ありがとうごz「でも貴方、まだ一番重要なこと隠してますよねぇ?」

「……一番重要なこと?」

「ええ」


 いきなり心臓を掴まれた気がした。仕草からは大して恐怖を感じないのに、この逃がすまいとする感覚の襲いが途轍もない。

 俺の余計な茶々入れを微塵も許さない姿勢から逃れられない。


「貴方しか知らないことがあるように、私にも私しか知らないものはあります。あの娘……セシリィちゃんのことについて私は聞きたい」


 ドクン――。


 心臓を掴む感覚が更に強まった。

 生唾を飲み込むと一気に喉がカラカラになって身体が水分を欲し、その続きを言うのは止めろと心の中で俺は口走っていた。


「……」

「なんでここでセシリィちゃんが出てくるのか……多分私以外なら分からないと思います」

「……そうですね。今の会話で何でセシリィが出てくるのかちっとも分かりませんが?」


 自然な態度で疑問を口にし、俺は決して表情には出すまいと振る舞う。内心では心臓が熱く暴走しそうなくらいにバクバクしているし、全身からは汗を噴き出しながら。


 まさか……アンタ気づいて……?

 いや、でもそんな……。頼む、嘘であってくれ……!


「昨日『英雄』一行から伝令があったと言いましたが、その時とある情報も流れて来たんです。アニムで遭遇したという天使は小柄な金髪をした少女。そしてその少女を守っていたのは黒髪のこれまた小柄な男であったという容姿について」

「……」


 意識していなければ驚きを口にしてしまいそうだった。今全力で身体は俺に向かって警鐘を鳴らしている。


 考えてみれば容姿という当たり前の情報は流れて当然だった。というか一番重要とさえ言える。

 昨日はそのことについては言ってこなかったし、詳しく話を聞けてないというアイズさんの言葉を鵜呑みにしていただけだったが……それに安堵しきっていた自分が恨めしい。

 やられた……。


「部隊は選りすぐりの者に加え傭兵も雇って万全を期していました。その部隊をものともせず壊滅状態に陥らせたと聞いた時は耳を疑いましたが、今となっては納得しかない。この容姿の特徴が当てはまり、彼らをものともしないと断言できる該当者はもう……貴方方しか。時期的にも真っ先に貴方方のことだと確信しましたよ。アスカさんからもお二人共アニム方面から来たって聞いてますし」

「……」


 そんな話いつ聞いた!? もしかして昨日二手に分かれた時にそんな会話に……?

 くっそ、アスカさんが悪いわけじゃないけど……嘘だろ……!


「フリードさん。これだけ秘匿情報が集まれば知っている人なら自ずと辿り着けます。セシリィちゃん……あの娘はきっと天使なんでしょう? 違いますか?」


 血の気が引いた。

 今とても身体が熱くなっているはずなのに、感覚はとても凍り付いているようだった。たったその一言はあまりに今の俺にとって致命的かつ衝撃的すぎた。


 よりによって知られちゃいけない人にバレるのかよ……!?


「貴方があの娘と普段から付かず離れずの行動をしているのもそれが理由。貴方に会ってからのセシリィちゃんへの過保護っぷりも恐らく正体が露見することを極力防ぐ措置なのでしょうねぇ。――いや、多分それだけが理由というわけでもなさそうですけど……」


 うるせーよ。半分は個人的感情で悪かったな。


 アイズさんの言葉に内心で短く返しつつ、即座に思考を切り替える。

 今はいつものように受け答えしている余裕なんてない。正直表情を取り繕うこととこの先をどうやり過ごすかが最優先であり、余計な真似をしている場合じゃなかった。


「まあフリードさんが何故セシリィちゃんをそこまでして守っているのかは知りませんが、きっと貴方の性格のことだ。自前の力もあることですし善意……いやこの場合は悪意(・・)ですか。その衝動から行っているんでしょう」

「……」

「あら? だんまりですか? 他にも色々と気になる点はありますよ? 今回貴方方が助けたいという『剣聖』さんも天使の安寧を望んで囚われました。人目につくような危険な行動を犯すのはご法度な貴方達がなんで彼女を助けようとするのかは不思議でしたけど、セシリィちゃんが天使なら納得です。要は数少ない味方を求めたのではありませんか?」


 アイズさんの告げてくることに一切反論が出来ない。何故なら言われていることがほぼ事実だから。

 反論のしようはなく、仮にしようものなら一気にこちらが崩されて最後のボロが出るだけだろう。


 アイズさんのことだ、きっと俺からの明確な言質が取りたいんだろう。


「こんなご時世で『剣聖』さん程の強力な味方は早々いないでしょうしねぇ。私がそちらの立場なら喉から手が出る程欲しいですし、あの手この手でコンタクトを取るでしょう。『剣聖』さんが実際のところどのような真意でいるかは知りませんが、味方とまではいかずとも話は聞いてくれそうですし助ける価値はありますもんねぇ? 例え味方ではなかったとしても、少なくとも自身を救ってくれるような方に対し不義理を働くような人ではそもそもないですから、助けた後のリスクも限りなく低い。うん、メリットが勝る」


 ああそうだよ。『剣聖』さんの人柄は世間が証明している通りだ。情報屋もその人柄を世間と全く相違なく認識しているしこれは本物だろう。

 だから俺達は今回それに賭けたし、最初からそのつもりでここに来た。


「ですから昨日言ってた時間がないという意味もよく理解しましたよ。確かに時間はないですねぇ。『英雄』さん達が戻るタイミングが貴方方の本当のリミットだ。挟撃のタイミングが貴方方の正体の完全な発覚に繋がるわけですから、それまで何をしようがその事実の前には結果は一緒。今後軍は貴方方を追い回すことになるでしょうねぇ」

「っ……」

「貴方達はそれを理解していたからこんな突拍子もない作戦を今回練るに至ったのでしょう。『剣聖』さんと親しいアスカさんと出会ったのはさぞ運が良かったのでは? 果たしてこれが本当に運が良かったのか悪かったのかは知りませんが」




 ヤッベェ……時すでに遅しってのはこういう状況の事か。

 想像以上に詰んでんな。もしここでアイズさんがツンデレでデレてくれるんなら一縷の望みもあるってもんだが……。ハハ、流石にんなわけねーよな。

 ここまで追い詰められてりゃ緊迫してても馬鹿の一つでも言いたかなるわ。

 チクショウ……!


「以上が私の今の考えです。大方当たってませんかねぇ?」


 アイズさんが俺へと問いかける。

 もう時間のない中で、一秒を凝縮して思考をフルに俺は使っていた。


 この人の前に小細工は無意味だ。既に自分の中で答えを見つけている人の考えを覆すのは難しいし、そんな人がよりによってこの人だ。俺の浅はかな知恵では抵抗しても虚しいとしか思えない。


 どうする? 天使に対する憎悪のスイッチの入り方は人それぞれだ。特に一番スイッチの入りやすい場合というのは天使の存在を確信した時が一番高いとオルディスはあの時言ってた。

 アイズさんは何がきっかけだ? ここまで理解しながらスイッチが入ったように見えないってことは、俺の口から真実を知ることがきっかけになったりするのか……? それともやっぱりセシリィの翼を見るまで平気……?

 どちらにしろ口にした瞬間から憎悪を剥き出しにしてガチで敵に回る可能性はあるわけで……。


「結構イイ線いってると思うんですけど……あれ?」


 ならいっそ賭けるか? 憎悪を剥き出しにするようならこの場でアイズさんを行動不能にして作戦は前倒しで無理矢理俺とアスカさんだけで決行。不完全だが『剣聖』さんを救出するしか……。


 俺なら……無理矢理にでもやれる。誰に邪魔されようと全部力づくで……有無を言わさず捻じ伏せてやれる。

 それだとアスカさん達の今後はお先真っ暗になるけど……もうそれしか……。


「フリードさ~ん? 実際どうなんですかねぇ?」




 馬鹿だ俺は。これまで……何でもかんでも上手く行くと思ってたのがおかしかったんだ。

 イレギュラーは起こり得る。それがコレだっただけのことだろうが。

 最初から分かってたじゃんか。ずっとイレギュラーはあるあるって自分でも何回も言ってたのに、当の自分がそれを一番受け入れてないとか馬鹿の極みかよ。ホンットどうしようもねぇ……。


「――ふぅ」

「およ?」


 腹括れ……! 俺にとって一番大事なのは何だ?


 深呼吸し、ぐちゃぐちゃになった思考と暴れていた心臓が一気に落ち着いていく。それと同時にアイズさんの煽りも落ち着き、俺の次の言葉を待ち始めているようだった。


「昨日の段階で知ってたってことは……昨日の時点で貴方は俺達に嘘をついていたってことですか」

「……ええ、まあそうなりますねぇ」


 でもさ、分からないんだよなぁそれだけは。

 アンタ一体それをどうやった? 俺らそれだけは最後吐いてもらわないと困るんだよ。


「今の話の通りならセシリィがその嘘に気が付かないわけがない。……どうやって隠したっていうんですか」

「っ……!?」


 だから最後に教えてくれ。なんでセシリィの力をやり過ごせたのかを。

 普段の異端さに隠れがちだけど、アンタのその『眼』とやらの力も常軌を逸しているとしか思えない。

 アンタも一体何を隠している? まだ何か明かしてない力を持ってるんじゃないのか?


 俺の言葉に反応したアイズさんがビクッと身体を震わせた。

 仮面越しに合う瞳が、これまでにないくらい一際大きく見開かれていた。


※5/17追記

次回更新は20日(水)辺りを予定してます。

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