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神鳥使いと呼ばれた男  作者: TUN
第七章 悠久の想い ~忘れられた者への鎮魂歌~
440/531

438話 素

 ◆◆◆




「お待たせしました」

「どうも。お待ちしてましたよ」


 ――翌日。


 今日も快晴この上なく、日差しが強く照り付けている。

 昨日と同じように東の草原に集まった俺とアスカさんは、既に待っていたアイズさんと挨拶を交わした。


「おや? セシリィちゃんは来ていないのですか?」


 カップを右手にティータイムを嗜むアイズさんが、一人少ないことに気が付き声を掛けてくる。

 石机の上には昨日とは違って貴婦人の休日ご用達のものが置かれ、時間潰しのためか随分と余裕ある洒落た一服を満喫しているようだった。

 ちなみに俺と同じく『アイテムボックス』が使える人である。どうやって持ってきたのかは聞くまでもない。


「ちょっと宿で留守番してもらってます。昨日色々買ったんでその整理をしてるんだと思います」


 アイズさんとは趣向が違うが、きっとセシリィは今頃宿で一服している最中のはずだ。

 当然だがセシリィには計画当日に役割分担がないためここに来て論議する必要性はあまりない。関われるといっても意見等が精々である。

 昨日の今日だ。今まで落ち着いてできなかったことを存分にやってもらおうと思い、俺達が集まっている間に楽しんでもらおうと思った次第で置いてきたわけである。


 それにセシリィも早く色々試したそうにしてウズウズしてたからな。昨日の夜も買い込んだ戦利品を広げて色々やってたが、あの様子だと多分力尽きるまで起きていたであろうことは想像がつく。

 そのため『アイテムボックス』に戦利品は全部しまって強制的に寝かしつけたくらいである。多少不満そうにしてたが素直に言う事を聞いてくれたのは助かったが。


「そうでしたか……」

「……? どうかしました?」


 俺がこの場にいない理由を説明すると、アイズさんが何やら首を傾げるように肩を落としていた。


「いえ、特には。ただこの集まりに華がなくなったなぁと」

「何言ってんですか……。この集まりに華はむしろない方がいいでしょうに」


 なんだ、そんなことかよ。

 逆に考えるんだ。あんな純真な娘をこんな逆賊の集まりに参加させちゃいけないと。

 セシリィが闇落ちしたら俺は泣くぞ。




「――じゃあ早速始めますか」


 俺とアスカさんが席について間もなく、雑談を交わすことなく本題へと移行する。これに対し俺とアスカさんも異論はない。


「でもまずは昨日の件のことを聞きたいです」

「……」


 ……ですよねー。真っ先に来ると思ってたよ、うん。


 やや真剣に声のトーンを落としたアイズさんが早速俺が懸念していた事についての話題を振って来る。迷いなく俺の方に目を向けられ、俺は引き攣った笑みを浮かべる他なかった。


 正直昨日これをやらかしたのはかなりマズったと思う。


「いきなり警報が鳴って驚きましたよ……。フリードさん一体何したんですかもう」


 仮面の下では若干眉を潜めているような、そんな聞き方だった。

 大事にならなかったからこそなのだろうが、これでもし取り返しがつかなくなっていたら俺は今叱責を受けていただろう。


 昨日セシリィとの買い物中の話になるが、危惧していた結界の警報が街中に響き渡って一時騒然となった。

 無機質なノイズのような合成音を聞いた人達は一斉にその手を、足を、自分の時間を忘れたように止めて一瞬制止した後、たちまち不安を隠せない様子に変わる光景を俺は間近で確認した。

 まさに蜂の巣を叩いたような街そのものの慌てっぷりに、この結界の警報とやらの効果がどれ程のものか伺えたくらいである。その引き金を自分は引いてしまったのだと自覚した時には既に後の祭りだ。


「いやぁ……これには深い事情がありまして」


 勝負に出過ぎたと言えばそれまでだ。欲張りすぎて身を滅ぼす……よくある話である。


 しかぁし! 理由なくこの私めがそんなことをするわけあるまい!

 昨日のは事故だ事故。


「一応結界の距離の目安は伝えたはずですが?」

「そのギリギリのラインにお目当ての武器屋があったんですよね……」


 事前に結界周りには近づかないように釘は刺されていたし、安全を取って大体100メートル前後を警戒してくれとは言われてた。

 でも昨日俺がセシリィと入った店は、丁度その規定ラインに抵触するかしないかの位置取りに店が構えられていた。


 フッ、俺としたことが……あの時は少々浮かれてたぜ。

 ちなみにその時の俺の状態を説明しておくと、既に道具屋と薬屋でお目当てのものを無事買い終えた後ということもあってセシリィがかなりご機嫌。言わば当然俺もご機嫌な状態であった。


 つまり――仕方なかったということだ。


「……ということは中央通りにあるあそこですか。確かにあの距離は際どいしかなり危ないですねぇ。……なんで興行区の方を利用しないんですか」


 流石はこの街在住。地下に住んでても街のどこに何があるかは知ってるんだな。

 俺達も最初はそっちを探して回ったんですよ?


「そっちは弓を置いてなかったんですよ。なんか剣とか盾とか……近接系の武器ばっかりで」

「まぁそちらは闘技場参加者用に特化しているでしょうからねぇ。闘技場では飛び道具の類の使用は禁止されてますから、置いてないのは仕方ないでしょう。それより、弓ですか……。成程、それで中央通りの方ということですね?」

「はい」


 そうですそうです。お目当ての物が安全な場所で取り扱っていなかったのですよ。

 な? 仕方ないやろ?


「ですがそれがどうして近づく理由になるんですかねぇ? 歩く凶器である貴方に武器なんて要らないでしょう?」

「俺のじゃなくてセシリィの武器ですよ。あの娘これまでナイフすら持ってなかったので」

「セシリィちゃんに?」

「はい。まだそういうお店の雰囲気とかに慣れてないでしょうし、その……結構人見知りする娘ですからね。それなのに武器屋の屈強な親父なんかにセシリィを一人で会わせられるわけないでしょ? だから不可抗力だったんです。セシリィに何かあったらたまったもんじゃないですから」

「途中までは分かったけど不可抗力って……。それよりも武器屋さんのボロクソ具合が酷いんだが」


 多少なりとも隣で相槌を打つように頷いていたアスカさんだが、最後まで理由を話した時点では困り顔で苦言を呈すくらいに打って変わっていた。


 そういう俺も歩く凶器とか結構ボロクソ言われてるような気がするんですがそれは……。


「……でも確かあそこ女性の店主じゃなかったでしたっけ? うる覚えですけど」

「そうなのか?」

「……」


 チッ、なんで知ってるし。


「詳しいな?」

「ハイ。軍も活用している店はありますからねぇ。何度か話には聞いてましたし、直接納品に来られたこともあったようですから」


 そういう繋がりがあったか……。これは盲点だったな。


 うむ、確かにアイズさんの言うとおり中央通りの方の店主さんは女性であった。

 結果として俺の心配は全く要らんかった。しかも店のカウンターから極力出てこないような心配するだけ無駄な人だったぞ。


「つまり……早とちりだったわけか」

「……」


 そ、そんなことねーし。あくまで結果論だし。警戒するに越したことはなかったってだけだし。


「よ、抑止力ですよ、女性の店主でもセシリィあれだけ可愛いんだから身体まさぐったりしてきそうじゃないですか。まだ純情な娘にそんな変態行為されたら嫌ですもん」

「流石にそこまで常識ない人は早々いないと思うぞ? 触ったとしても体格の確認程度のもんだし心配することはないだろ。気にしすぎだ」

「フッ、甘いですねアスカさん。そんな認識じゃ計画の成功率が下がりますぜ? もっと有事に備えて警戒しておく意識を持たないと」

「よく言えるね……。少なくとも結界に引っかかった君よりかは甘くないつもりなんだけど……」


 聞こえなーい。


「大体身内に常識の通じない人がいるんだから仕方ないと思うんですよ、俺」

「え゛……急に私が標的ですか? なんか酷い風評被害を受けた気がしますねぇ」


 立場が危うくなってきたのでここは急遽意識を別の者に向ける手段を使うに限る。

 俺はジッと見つめてくるアイズさんを咄嗟に指差し責任転嫁を図る。


 アンタの場合は風評被害なんて誤差だろうが。第一風評被害でもなんでもないという……。

 仮に言いがかり付けられても気にしないでしょう? 常時仮面付けてるような人だし。


「――コホン。まぁ何が言いたいかと言いますと、避けられない出来事だったってことですよ。うん」

「「……」」


 責任を振ったら後はダラダラ間延びさせずに完結させてしまう。その方が下手に取り繕うよりもよっぽど収束させる確率は高くなると俺は思う。


 しかし、お二人の目はこちらの目論見通りとはいかず一直線に俺へと向けられている。更にジト目というオマケ付きで。

 まあ無理があるのでそりゃそうなのだが。


「綺麗にまとめてるけどそうじゃないよね? 避けられたよね?」

「……テヘ☆」

「「……」」


 図星を突かれ返答に困る俺。二人の視線は冷たく、冷や汗を吹き飛ばす勢いで舌を出して誤魔化してはみたが、二人の無言に一気に滑ったと自覚する。


 やめてくれ。そんなゴミを見るような目で俺を見ないでくれ。ちょっとした茶目っ気を出してみただけなんだ……可愛くなくて悪かったなちくしょう。

 どっかの馬鹿みたいにアヘ顔ダブルピースでもっとお願いしますとかそう言えるキャラじゃないんだ俺は。許してくれよお願いだから……。



 ……どっかの馬鹿って……? あれ……?



「あの、フリードさんって本来こういう人なのですか?」

「多分。僕も初めて見たからなんとも言えないけど、昨日セシリィちゃんから聞いた限りだと随分違うみたいだ。本人がいないから素を出してるんだと思う」

「……よくお分かりで」


 不意に感じた疑問は頭の片隅へと追いやり、その場の会話に合わせることをまず優先する。

 二人は俺の言動が昨日までと違うことに対して驚きというか、反応に困っている様子である。

 少なくとも今の俺は心の声をそのままに出しているようなものだ。会話において自分を取り繕うような意識はあまりしていなかったりするが、これまたギャップが予想以上にあったらしい。


 でも当たり前だ。セシリィの前でこんなどこからどうみてもアホで思考のヤベー奴の人格でいられるかよ。

 セシリィといる時の俺は頼れるお兄ちゃん的ポジションを位置取るような奴だゾ? そこのところはしっかりやってますから。ふふん!


「流石にセシリィの前でこんな素の俺は晒せませんからね。こういう野郎の集まりの時とかだけですよ。お二人共口固そうなのでもういいかな、と」

「別に言いふらしたりするつもりはないけど……その、ギャップがな?」

「ですねぇ。これはまだ晒さないで欲しかったですねぇ」


 俺の曝露に困り顔で頷く二人。


 何二人で頷き合ってんですか? それは俺がお二人を信用していることに感銘を受けていると捉えてよろしいのか? 多分違うだろうけど。


 そして――。


「なんか人格破綻者みたいな人ですねぇ」

「それは心外です。というか人格破綻者みたいな人って何ですか? それもう破綻してる人じゃないですかやだなー」

「それもそうだが、どちらかというと君の方が……。まるで子離れできない親みたいになってないか?」

「違います。子離れしたくない親みたいなものなんです」

「大差ないじゃないか」

「誤差程度に思われては困りますよぅ。俺は至って真面目に言ってますからね?」

「「えぇ……」」


 またもボロクソに言われたため俺は真面目に言葉を返したつもりだった。でもそれがどうやら二人には共感し難いものであったらしい。


 失礼しちゃうわお二人共。一体俺のことどう見てんですか。

 仮にも神獣とその君主に見守られる存在やぞ? 扱い酷くなーい?



「これは……」

「うん。思ってた以上に重症みたいだ」


 鼻を鳴らしてどっしりと構えていると、二人との距離がどんどん遠ざかっていくような気がした。

 というか実際距離を置かれているので間違いじゃない。アスカさんに至ってはいつの間にかアイズさんの隣に席を移している始末だ。


 ぐぬぬ、薄情な。


「「完全に危ない奴だな(ですねぇ)」」


 黙らっしゃいこのプラマイゼロコンビめ。まともと異常のS極とN極を極めた人達にそんなこと言われましても……。

 弁明させてもらうが子離れ云々はできないとしたくないは違うのだ、そうなのだ。

 第一よく考えてみて欲しい。まともな人と異常な人の両方から危ない認定されてるんだぞ? それって要は俺こそプラマイゼロで普通ってことだろ? 

 人類の平均値であり指標そのものだと思うんですけどねぇ……。


「ま、いいです。取りあえず結界の件は誤魔化しておいたんで気を付けてくださいよ? 二度目は流石に擁護できませんから」

「あい。気をつけます」


 嘆息し、一先ずこの場ではお許しを頂けたようだ。アイズさんの隣に並ぶアスカさんも同様らしく、腕組みして呆れてはいたもののそれ以上は何も言ってこなかった。


 お二人の懐の深さにありがとう。

 この前科は今後肩身が狭くなるなぁ……。計画の結果で挽回せねば。



※4/22追記

次回更新はもう少しお待ちくだされ。

今週中に出来ればと思っとります。

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