42話 ディープゲイザー
メーデー、メーデー。
異常事態発生中…誰か助けてぷりーず。
いや、この場合はSOSの方がいいんでしょーか? それともエマージェンシー?
まぁどれでもいいや…。
とりあえずたーすーけーて~!
私が一体何したって言うんですかー!
ハイ。
俺の現在の状況を説明しますと、まぁ案の定捕まっております。
目の前には先ほどの寝間着を掲げた男と取り巻きの連中。そんで俺を連れてきた男子生徒+ギャラリーがおり、なんか見せ物みたいになってます。
やいやい! 俺は見世物じゃないぞ! 野次馬はどっかいってくれや!
金取るぞコンニャロー!
まぁ、イスに座らされて両手は縛られてますけども、特に外傷とかもなくピンピンしてます。
ただ、縛られてるこの時点でもう危ない雰囲気がプンプンなんですが…。さて…コレどうしましょうかね。
逃げるだけなら力づくでなんともなるんだけど、それだとなんかスマートじゃないし嫌だ。
こんな状態だけど結構余裕を感じちゃってたりします。
まぁなんとかなるっしょ。
それに…講師だと言った時の反応を見て見たいのもある。
漫画じゃ似たような展開のはよくあるけど、実際やるとどんな気分なんだろうか? 気になる…。
と、俺が考えていると、寝間着の男が俺の前に出てくる。
「さて転校生。名前は何て言うんだ?」
いきなりその質問? 聞く内容の順番が違くないか?
謝るだろ普通…。
キミ、最初からやり直してもいいんですよ?
内心疑問を感じつつも、一応その言葉には返答しておく。
「ツカサ・カミシロです」
「カミシロ…名字からして東の出身か。それは遠くから大変だったろう?」
「いえいえ、そんなことないですよ? それよりコレ…解いてくれませんか?」
「フッ…面白い冗談だ」
冗談じゃねーよ。
やっぱりダメっスか…。まぁ予想してましたよ。
捉えた捕虜を解放するようなもんだしね。俺は捕虜じゃないけど。
あと…ちゃうねん、俺はアンタらの講師やねん。臨時ですけども…。
そこんところヨロシクお願いしますよ。
「あの~」
俺を連れてきた男子生徒を見ながら声を掛けてみる。
キミ、なんとかしてくださいな。
キミにも非はあるんだよ?
向こうも俺が話そうとしているのが自分だとわかったようで、反応を返してくれた。
…が
「…諦めな」
え~…。
そりゃないっスよ、お兄さん。そんな対応は俺期待してないんですけど…。
まぁ苦笑してるあたりこれが日常茶飯事って感じなんだろうけどさ。
「それで話は変わるが…カミシロ。お前、我々の仲間になる気はないか?」
視線を寝間着の男に戻す。
ん? 突然話が変わったな…。
仲間ってどういうこと?
「仲間と言われましても…何のことを言ってるんですか?」
「我々が所属している神聖なる団体のことだ。入る気はないか?」
入る気…って、両手縛ってるくせに。無理矢理入れる気満々じゃねーかよ。
「詳細教えてくださいよ…。じゃないと話にならないです」
「フフフ…。 ならば教えてやろう! 聞いて驚け!」
色々なマッスルポーズをしながら寝間着の男は喋る。
あ、これは完全に自分に酔っている奴だ、完全に…。
めちゃくちゃキモイぞ。
あと前置きはいいからさっさと言ってくれ。
どうせロクなもんじゃないと思ってるんで…。
「我々が所属する団体は、ゲイをこよなく愛する会…通称『ディープゲイザー』だっ!!!」
「「「イエーーーーーイ!!!」」」
寝間着の男に合わせて取り巻きが声を発する。
やっぱりまともじゃねーじゃねーか!! ってゆうかまんまのネーミング!
なんだ? 俺は変なやつらにでも恵まれてんのか? 神の加護の効力は効いてないのか!?
全然嬉しくねーよ! ふざけんな!
「ちなみに両刀も可だ」
いらねー! そのダメ押し超いらねー!
今日見たあの悪夢と同じようなこと言ってんじゃねーよ! てゆうか思い出させんな!
俺はげんなりとした顔でそんなことを考えていた。
すると…
「その顔を見るに興味があるようだな」
「…そう見えるんなら大した眼力をお持ちで」
「フフフ、それほどでも」
得意げに…長いから寝間着の男でいいや。そいつが笑う。
真に受けてんじゃねーよ! 皮肉で言ってんだよ!!
俺のこの顔見て本気で思ってんなら、その腐った眼球捨てたほうがいいぞ?
「ちなみに、コイツらは今日加わった新たなメンバーだ。我々はこれからもっと団体を大きくしていく予定でな…。オイ、挨拶しておけ」
別にいらないんですけど…。
そんな俺のことも知らず、新入りらしい人…3人の男が前に出てきた。
「掘って掘られて振り振られ…」
「食べていい?」
「ズッポシ…(ポッ)」
Oh…。
全員終わってやがる…。既に挨拶でもなんでもない…。
もう救えねぇ領域まで浸食されてるぞ。大丈夫か人として…。
「お~い。何騒いでるんだ?」
「あ、寮長だ」
そんな俺たちの騒ぎを聞きつけたのか、クルトさんがいつの間にか扉の前に立っていた。
ナイスタイミングですぜ! クルトさん!
待ってましたぁ~。
「む? お主ら何てことをしてるんだっ!? さっさと紐を解かんかい!」
「えっ!?」
あ…来たんじゃね、コレ。
「その人はお主らの講師じゃぞ!!!」
「「「「「……えっ?」」」」」
皆が突然フリーズする。
まぁ、そうなりますよねー。
転校生と思ってたやつが講師なんですから…。無理もない。
さぞかし自分のやっていたことを今見つめなおしていることでしょう。
わざわざ自分の過ちを気づかせてあげるために泥を被る講師…。
俺はナンテイイヒトナンダー。HAHAHAHAHA。
…が
「なんだ…生徒じゃねぇのかよ」
「…ま、こういうこともあるって」
「ちっ、今回は運が悪かったなー」
「うんうん」
あ、あれ~?
なんか思ってた反応と違うんですけど…。
ここは皆ビックリして謝ってくる展開じゃないの? 違うの?
なら俺は今どんな反応してればいいんだ? わからんぞ…。
俺が困惑していると、寝間着の男が俺の後ろに回り込み、そして両手を縛っている紐をほどいてくれた。
あ、どうも…。
自由になった俺はとりあえずイスから立ち上がる。
それと同時に集まっていたギャラリーもぞろぞろと解散していき、各々テーブルに座って飯を食い始めた。
ポカーン…。
状況が掴めず俺は口を開ける。
なにこれ…。




