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神鳥使いと呼ばれた男  作者: TUN
第七章 悠久の想い ~忘れられた者への鎮魂歌~
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433話 作戦会議④


「二つめの救出案ですが、こちらはさっきの案とは正反対と言ってもいいです。行程は三段階構成。決行する時間を昼間にし、敢えてこちらの存在を連合軍側にバラしていくというものになります」

「こっちの正体をバラすんですか?」


 一つめの案とは打って変わりすぎた第二の案が明かされ、その趣旨の違いにはいきなり驚かされる。


 穏便系ではなく次は過激系か? 不用意な衝突は出来るだけ避けたいからあまり気が進まないな……。


「バラすと言ってもそのままの姿ってわけではないですよ? 最低限の変装はしてもらいます」

「最低限って……。この時点でかなりリスクの高そうな案な気がするな……」


 アスカさんが不貞腐れた状態から立ち直り、真面目な回答を述べた。


 全くだ。変装にも限度というものがある。

 見た目は変えられても骨格までは変えようがないし声色だって変えられない。表だって姿を晒すのは変装を解いた後の危険性が確実に増す不安要素としか言いようがない。

 声色に関しては喋らなければいいだけかもしれないが、それ以外は完全に隠しきれはしないだろう。見た目を偽ったとしても、視覚的な情報や雰囲気で怪しまれたらお終いだ。

 それこそアイズさんのような人がいたら即アウトに近い。


 ……なんか既に嫌な予感がプンプンしてるんですが? まぁ聞くだけ聞きますけども。


「一つめの案と比較すれば、間違いなくこちらのリスクは高いでしょう。その分結果次第ではリターンも大きいでしょうがねぇ」

「ハイリスクハイリターンですか」

「ええ。……幸いにも、想定したハイリスクを安全圏まで下げてくれるような人がこちらにはいますからねぇ。問題点はありますが、それ故にこの案を実行する価値はあると考えました」

「……」


 アイズさんはそこまで言うとキラリと仮面の奥の瞳を俺へ向けてくる。それが一体何を意味しているのかは語るまでもなかった。


 やっぱりその実行者は俺一択なんですね、その人使いの荒さ流石です。

 ということは……問題点ってのは俺らの今後ってのが妥当かな? 確かに、今回の目的の第一に考えるのは『剣聖』さんの救出とその後だしな……。


「流れは『剣聖』さんのいる場所まで誰にもバレずに到達する点は最初の案と変わりませんが、そこから先は大きく異なります。ここまでを先程と同様に第一段階。第二段階はまずフリードさんは見張り番の方を気絶させて鍵を奪取、牢を開けて『剣聖』さんと共に東棟を一番下まで下ります」


 お、おう……。いきなり気絶させる方向性なのか。


 アイズさんは新たな図面を取り出し、元々広げてあったセルベルティア全域の地図の上に乗せる形で広げ始める。その図面にはある建物とその内部と思しき図が描かれており、すぐに今の話である東棟の図面であると察した。


「棟は螺旋状の階段になっていて視界には映りづらいですが、途中何カ所か踊場に兵がいるはずです。階段に一人、そしてすぐ近くに併設された部屋に基本的にもう一名がいて交代制で見張っているそうです。その方々を全員残らず気絶させながら下ってもらいます」

「……まるで通り魔みたいだな」


 ですよねー。やることが初っ端から悪質極まりないとは俺も思う。


 アスカさんの呟きにまさしくそれが正しいと感じざるを得ない。


「だけどそうか。一方通行だからこそ戻る際は相手を気絶させても問題ないわけか。少なくとも背後を気にする必要もないし、カリンを連れる以上はそうするのが最善か……」

「その通りです。ただやり過ごしても危険が増すだけになってしまう。向かう道中は無理でも、一番後ろから順次潰していけばもう背後を心配する必要はありません。目の前だけに集中して進めるはずです。誰も背後から責め立ててくるとは思いもしないでしょうから」


 まぁ例えるなら自分の家の奥にある鍵付きの部屋から急に現れるようなもんだよな。それ。

 普通なら家の外とかに注意を向けるはずだから完全に意表をつけるだろうさ。厳重に警戒しているからこそ、内側には目は向ける訳がない。


 ヤベェ、完全に言い逃れできない犯罪行為だコレ。

 必要なのは分かるんだけど……気絶どうやってさせっかねぇ? 下手に殴って再起不能にでもさせたら取り返しがつかないし、ちょっと考えとかないとな……。


「東棟は中央棟に繋がる連絡路のある三階までは一本道ですから道に迷う心配はありません。連絡路に通じる部分は大きく見晴らしが良いので通過する際は慎重に進む必要はありますが……人目は多くないので見つかる可能性はあまりないと言えます」

「そこに人は配置されていない?」

「いえ、いるにはいます。ただ昨日確認した限りだと警備の意識は低そうでしたので……。このまま一番下に進むと非常時の脱出用扉があるのでそこから中庭に出ることができます」


 アイズさんの指を追いつつ、東棟内部の情報と周囲にある中庭全体の造りも並行して頭に叩き込む。

 連絡路はそれなりに広く、図面を見る限り兵士の小隊が列を作るくらいには幅員があるようだ。しかし、元々端の方の区画であるし通常時は人はいないのだろう。代わりにもし何かあればその道の広さを活かして怒涛の勢いで人が押し寄せるに違いない。


 これだとバレたらすぐに手詰まりになりそうだな。終着点からの進軍じゃ逃げ道もないし。


「丁度城の後ろ側の方の中庭に出るので、すぐ目の前にこの建物……小屋みたいな建物が目に入るはずです。ですからフリードさんは人目に付かないように上手くそこに入り込んで下さい。――ここまでが第二段階になります」


 三段階ある内の半分以上の概要説明が進むとアイズさんが一度図面から指を離し、一息ついた。それに合わせて俺らも一旦これまで聞いた内容の整理をする。


 作戦自体は俺が予想していたよりも複雑じゃないし分かりやすい。ここまでならアイズさんの望むままの結果を叩き出すくらいのことはやってのけられるはずだ。

 ……だけど、半分以上の行程が進んでもまだ城の敷地内か。最後の三段階目で全てが完了することを考えると……ラストがかなりしんどそうだな。


「――さ・て・と。んじゃ、ラスト三段階目の内容をお伝えしましょうか」

「「……」」


 俺らが沈黙している間に、また一人でテキパキと新たな図面を広げたアイズさんが呼びかけてくる。

 いつの間にか取り出したのだろうか。アイズさんの傍らには一見ガラクタにしか見えない塊やボタン付きの機器が置かれ、雑草に半ば埋もれている。


 ……三段階目の作戦で使うのかアレ。用途が分からんけど。


「二段階目の終了時は小屋に潜伏したところまででしたが、一度ここでフリードさんには『剣聖』さんの引率を終了して次の動きに移ってもらいます」

「へ?」

「そこから先はアスカさんに代わってもらいますので」


 話の再開がされた途端、訳が分からなくなった。

 折角整理した行程はともかく、出だしで一気に整理した内容を見返されてしまった。


 ここでアスカさん? 

 俺としてはここでアスカさんを起用することに異論なんてちっともないんだけど……その前に出てくるのが脈絡なさすぎませんかね?


「……一体どういうことだ?  言っておくが僕はお忍びは得意じゃないしフリード君みたいに都合の良い力も持ってないぞ。まさかフリード君と一緒に一段階目と二段階目をこなすってことかいそれ?」


 アスカさんが眉間に皺を寄せて疑問を口にする。


 うんうん。激しく同意。

 身を隠せないアスカさんがその小屋に到達するというビジョンが浮かばないんだよなぁ。


 俺の内心をそのまま代弁するアスカさんと一緒にアイズさんに訴えていると――。


「あ、最初に言ってませんでしたね。この作戦は元々二手に分かれての共同作戦になるんです。一方は『剣聖』さんの救出と引き渡し、もう一方は引き渡された『剣聖』さんをこの街から連れ出すという風に」

「二手に?」

「はい。ですからフリードさんとは別にアスカさんには事前に別口で敷地内に潜入しておいてもらうつもりです。メインは貴方……アスカさんはあくまでサポートですが」


 この疑問はすぐに解消される。

 どうやら事前に待機しているアスカさんの元まで俺は『剣聖』さんをお連れするということのようだ。


 そういうことは早く言ってくださいな。

 てっきりアスカさんも連れて最上階まで到達しろってことかと思ったぞ。スマン、それはしんどいを通り越して全身真っ白になる難易度だ。無理無理。


 無理難題をやってのけろというわけじゃないことが分かり、俺はホッと胸を撫でおろした。


「引き渡しまでが完了すれば『剣聖』さんの脱出自体はほぼ成功します。アスカさんはそのまま『剣聖』さんと共にこの街を脱出するだけとなりますねぇ」

「う~ん……簡単に言うがそもそも脱出なんてどうやってするつもりだい? 小屋の中からなんて動くに動けないだろ。僕は空も飛べやしないし……」

「地上と空は連合軍による視線の雨の包囲網が敷かれていますからねぇ。アスカさんなら捕まりはしないでしょうが、そんなことしたら一生追われる身になって人生終了です。……ただ、このセルベルティアという街は広いが故に脱出する為の手段が他にもあるんですよ。上が駄目なら下に目を向ければいい」

「下?」


 全体図を見ていると動くに動けない場所からすんなり脱することは不可能に近い。だが、アイズさんにはそれを可能とする方法が頭に浮かんでいるようだ。

 見える部分にではなく、見えない部分を指して足元へ指を向けていた。


「皆さん街に水路が張り巡らされてるのは見ましたよねぇ? この水路って街から少し離れた山の水源を利用してるんですけど、張り巡らせる過程で街の地下には迷宮のような空間が存在してるんですよ」

「地下?」


 ……ハハ、物語だと囚われのお姫様の救出とかでありそうな展開になってきましたなぁ。

 水路が存在する時点で地下が存在しているんじゃないかとは思ったりしてたけど……マジか。


「まさか……その地下迷宮を使って逃げると?」

「その通り。それはもう複雑な構造をしてまして……。何も知らない方が迷い込んだら多分ほぼ抜け出せないくらいですけど――じゃじゃーん。コレ、なーんだ?」


 迷宮を利用することで姿を眩ますということに関して言えば即決で俺はアリだと思う。人目の多い地上よりも人目のない方を選ぶのは当然だ。

 ただ、そんな抜け出せない可能性が高い迷宮を利用するということには不安がないわけじゃない。何分こちらは今その存在を知ったばかり、土地勘ゼロで複雑な構造をしているというその迷宮に足を踏み入れて果たして平気なのかは分からない。


 ――と一瞬考えたものだったが、アイズさんが高らかな声で不意に取り出した一枚の紙に俺達は目を奪われ……その不安を掻っ攫われることになった。

 全体図の上に重ねられた同等サイズの紙を皆で一斉に凝視する。


「これは……もしかしなくても迷宮の地図か?」


 アスカさんがアイズさんに確認する。

 街の全体図の建物のみ記載された簡素な表記とは違い、こちらの図にはただ夥しい程に枝分かれした通路が描かれているのみだ。

 まるで見かたの違う二つの地図の用途は誰でも察することが出来る程だった。


「ええ。暇を見つけて長い時間を掛けて私自らマッピングしたものになります」


 マジかよ。よくもまぁこんな調べたもんだな……。


 アイズさんは自らが描き上げたものだと言うと若干誇らしげに鼻を鳴らしている。正直もっと誇ってもいいことだと俺は思うが、変に調子に乗られても困るのであくまで表情だけに留めておく。


 しっかし、これはまさに張り巡らせる、だな。蜘蛛の巣みたいな水路だ。

 街の地下にこんなのが存在してるなんて……。これは迂闊に入ったら出られないわ。


「――ん? これ、もしかして街の外まで繋がってるのか!?」

「あ、ホントだ。線が四つだけ外まで伸びてるね」


 少々の間地図をじっくり眺めていると、アイズさんが何かに気が付いたように声を挙げた。

 セシリィも気が付いたのか、言うとおり直線ではないものの街の外まで繋がる通路が四つ程あるのが確認できる。それ以外の通路が街同様に丸い円の中に閉じ込められているように押し留められているのに対し、一直線に目的意識の高い印象で外に伸びているのである。

 一つは水源である山間部に、そして残る三つは……草原と街はずれの河口へと繋がっているようだ。


「恐らく有事の際に街の人が緊急で脱出するために造られたのでしょうねぇ。東西南北全てに街の外に繋がる道が存在するのはそのような意図が感じられます」

「この街の地下がこんなことになってるとは……!」

「セルベルティアの各所で時折高低差がある場所が見受けられるのは水路を作る際の工事の跡なんじゃないかと。今は入口らしい場所はかなり限られているので人目に触れることはあまりないようですが、作られた当時は至る場所に入口があったと思われます」


 感嘆しか出てこなかった。それは全員がそう思っていたことである。

 昨日歩き回っていた場所の立地には何かしらの意味があってのことだと実感できた思いだったのだ。


 全部繋がってるんだな……こういうのって。

 何か一つやろうとすれば、必ず何かその証が残る的な。純粋に凄いと思う。


「……では、ここで是非皆さんに見てもらいたいものが」


 そして驚きはこれだけに留まらなかった。

 迷宮の地図を一度手に取り、アイズさんは改まった様子で言いながら今度は全体図の下側と差し替える形で差し込む。

 ……最早俺らはアイズさんの有能さを更に目の当たりにしてしまうだけだった。


「街の全体図の紙の下にこの迷宮の地図を敷くと……ホラ。こうなるんです」

「うわ……これって……!?」

「……!」


 アスカさんが驚くのも無理はない。俺も今驚きの真っ最中だった。


「これが本当のセルベルティアの全体図です。こうすると街の隅々にまで水路が張り巡らされていることがよく分かるでしょう?」


 アイズさんがしてみせたこと、それは地上と地下の地形情報の同時実現である。

 街の全体図が裏にある迷宮の地図の通路を透かせる形で浮かび上がらせ、重なった二つの紙がまるで一つのように一体化していた。街のどの部分に地下通路が張り巡らされているかがハッキリ視覚化されており、この街の真実を浮かび上がらせていたのだ。


 しかも――。


「なんて複雑な……。それに、東の方に伸びたこの線って僕達が今いる付近じゃ……? まさか……!?」

「お気づきになりました? ここに集まってもらったのにはこの理由もあるんです。――街の地下迷宮はこの位置まで繋がっているんですよ。丁度ここにね……!」

「「「っ!?」」」


 そこまで言うと、アイズさんは傍らに置いていた小さな機器を手に取った。そして機器に備わっていたダイアルを回すように何かを調整すると、足元から辺り一帯に大きめの震動が引き起こされる。

 急な事態に突如として慌てる俺ら。一方でアイズさんは落ち着いたままだ。十中八九アイズさんがこの事態の犯人であることは明白であった。


「こ、これは……!?」

「ふぅ、一年近く放置してたので起動するか心配でしたが問題ないようですねぇ。安心しました」


 やがて震動はすぐに止まったが、俺達は代わりの驚きを植え付けられてその衝撃が止まらない。呆気に取られ、こうも都合の良いように目の前で起こる事実に頭が追い付かない。


 草原のど真ん中は酷く静かなものだったはずだ。なのに、今は微かにだが見えもしなければあるはずのない水の流れる音が聞こえてくる。

 耳を澄ませば遠くで水の流れ落ちる大音が微かにだが、耳にしっかりと届いてくる。清涼な音が驚いた心を落ち着かせるようにひんやりさせてくれる。


 ……うわぁお。凄すぎてこりゃ草生えますわ。


「誰かが入り口を潰してしまったのかは知りませんが、最初はこの入口は塞がれていました。でも私の緊急脱出路として使いたかったこともありますので、こうして魔道具で開閉できるように改造改築しておいたんです。まさかこんな形で役に立つ日が来るとは思いませんでしたがねぇ」


 今、俺らの背後にあった風景は先程までとは変わっていた。

 俺らの座っていた石の近くにあった木の横の地面がせり上がり、石材のような材質が枠を作る入口が地面ごと持ち上げて出土していたのだ。

 機械的で自然界にはない人工物。入口上部から雑草を生やし、被った土の粒てをパラパラと零すその奥には底知れぬ暗い空間が広がっている。


 地図が示す通り、東に伸びていた一本の通路は本物であった。迷宮の入口兼出口がそこに現れた。


「誰も知らないでしょうが城の敷地内の例の小屋には地下への入口の一つがあるのですよ。そこからここまで地図を頼りになんとか来てもらいます」


 鼻が高そうに軽くふんぞり返るアイズの態度だが、ここは何故その程度の謙虚さを今発揮したのかと苦言したい。


 オイオイ、ガチでアイズさん本当にスゲェなっ!? どんだけ用意周到なんだよ!

 今はそのしているであろうドヤ顔に全然腹が立たない。セシリィもアスカさんも分かってると思うけど、それだけの凄さをこの人は造作もないことのようにやってのけてるよ。

 まぁ仮に? ドヤ顔が如何に腹立だしいものであったとしても顔見えないし? それはどうでもいいんだけど……とにかく御見それしましたと言いたいです。




 まだ説明が途中とはいえこう何度も驚かされては受ける印象が相当なものである。

 既に完成度の高い計画に、俺は第二の案にかなりのめり込んでいる自分がいることを自覚した。



※3/6追記

次回更新はもうちょいお待ちを。

あと2~3日後くらいかなと。


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