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神鳥使いと呼ばれた男  作者: TUN
第七章 悠久の想い ~忘れられた者への鎮魂歌~
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430話 作戦会議①

 

 ◇◇◇




「――という感じで出鼻を挫かれてしまって……。くっ……! 私結構頑張ったんですけどこれが限界でしたよ……。申し訳ない……!」


 目の前のアイズさんが惜し気な声と共に拳を握りしめ、歯軋りの音を仮面の下で立てている。


 昼下がり――朝のひと悶着を乗り越え、日差しの火照りをひんやりした風が撫でる快晴の下。俺達三人は再び合流したアイズさんと共に情報交換を始めていた。

 勿論これは前日にお願いしていた情報収集の結果を聞くためであるが、今後俺達がどう動くか明確な方針を決める目的でもある。


「……無理を言った手前細かいことはとやかく言うつもりはありませんけど、半分くらい自業自得な気がしますけどね。もう少し抑えた方が良かったんじゃ?」


 草原の中にポツンと生えた大きな石ももう随分と温まっている頃。アイズさんの語る昨日別れた以降の出来事を聞いて呆れ半分に俺はそう言った。

 確かにロアノーツという人が厄介なのが確信できたし、勘付かれてしまったのはどうしようもなかったと言えるだろう。

 只の勘で狙いすましたように鉢合わせることができるのでは最早回避不能だ。動かずに状況など変えられるわけもないのだからこれは割り切るしかない。

 ――が、悩みの種を本人が撒いているとしか思えない場面もあったのでは言いたくもなる。それとちっとも申し訳なさそうにも感じないのだから。


「フフフ、人はスリルを求める生き物なんですよ? 悪いことする時はバレるかバレないかの瀬戸際で悶々とするのが気持ち良いんじゃないですか」


 知らんわ。欲望に忠実だなぁホントに。

 これでもっと堅実だったらこの人もっと色々暗躍できそうな気がするのに。……されても困るけどさ。


「なんだ、ただのドMですか」

「テヘヘ」

「褒めてませんから。むしろ咎めたいくらいですから。もう少し慎重にお願いしますよ」

「善処します」


 仮面を付けた男が身体をくねらせて頭を掻く。その仕草の気持ち悪いこと気持ち悪いこと。


 ヤベェ、ここにいる男性陣三人共全員同類じゃないですかもう。

 三人もいたらそりゃ度が過ぎるって話。Mの前にドも付きますわ。うん。


「――それで、こんなところで集まった理由をそろそろ聞いてもいいですか?」


 この胸の内のわだかまりは相手が悪かったと割り切ろう。

 さて、主題の半分もそろそろ一度区切りといったところだ。アイズさんのキモダンスはここまでにして、何故アイズさんが俺達をここまで連れ出したか聞くとしようか。


 今俺達のいる場所は昨日密談をしていたラボではなく、セルベルティアの街の外だったりする。

 入る時はかなり危ない橋を渡ったものだが、どうやら正門通りのある門が特に大きく検閲も厳しいようだ。どうやら主だった外部からの物資の搬入などがそちら方面になるらしく、それ故にそちらに連合軍の人員の配置も割かれている事情があるらしい。

 アイズさんに事前に聞いていた連合軍事情を信じ、その他の門から街の外へと出ようと試みると、実際人員も少なければ門自体が一回り小さい構造をしていた。通る際も軽い手荷物検査があったのみであり、すんなり通してもらえて拍子抜けしたくらいである。




 ――と、それはともかく。


 わざわざ街の外に出たことにはアイズさんなりの目的があるようだが、まだその話はされていないのでそろそろ聞く頃合いだった。


 一応ここでならいくら馬鹿騒ぎしても声が誰かに聞かれる心配は要らない。それだけ街道から外れているし、目視できる限りじゃ誰も近くにいない。

 モンスターも獣も徘徊している気配すらなく、これはセルベルティアに来る時に出会った連合軍のお偉いさんが言っていた、近辺のモンスターを掃討したという話。それが本当のことだったことを証明していた。


 だが、それならラボでも良かった話である。どうやらアイズさんの家は防音設備も整っているようだし、誰かに盗み聞きされないという点に絞るなら何の問題もなかったはずなのだ。

 それなのに街の外をチョイスしたからには、きっと何かしらの理由があるのだろう。



「……そうですね。私も早速こんなことをする必要があるとは思いませんでしたよ」


 キモダンスをピタリとアイズさんが止め、いきなり真剣な声になった。


「っ……結構真面目な話、ですか?」

「ええ」


 まあ真面目な話じゃなかったら駄目だろうけどな。敢えて真面目と言ったのは語るまでもない。


 やはり急に態度を変えられるとどうも身構えてしまう。まるで条件反射のように。

 俺は個人的にだが、普段チャランポランの人が真面目になると一気に信憑性が湧くような気がしてならなかったりする。


 不思議だよな。真面目な奴がいきなりアホになるとドン引きされるのに、アホな奴が急に真面目になると皆食いついてしまうコレ。一体何現象って言うんでしょうか?

 だから普段の行いとかは正直アテにならないとしか俺には思えない。真面目な人は苦労するってのはこういう部分でも多々発揮されてるように思う今日この頃である。


「厚かましいとは思ったんですが、私の方でも色々救出の手段は考えていましてね。一応二つ程案を練ってみたんです」

「二つも!? 昨日の今日で早いな……!」


 俺も驚いたものの、アスカさんの方がその驚きは大きかったようだ。先程まではアイズさんの余計な真似に対して今後が不安そうな表情を浮かべていたアスカさんの顔が多少明るくなっている。


 俺もどんな方法なら『剣聖』さんを救出できるのかフワッと妄想してたりはしたが、それでも現実的な案は精々一つが限度だった。しかも単純で力業な俺ありきな案だ。

 それを、立案だけなら俺よりも恐らくは現実的であろうアイズさんが二つも考えたのだから期待は大きい。内心俺も心が躍るような感覚が今にも飛び出しそうだ。


「そんなに期待しないでいただけると……。あまりスマートで綺麗な案が浮かんだわけではないので」


 本当に? 


「とか言っちゃって~。そういうこと言う人に限ってそうじゃないパターン多いんですよね……」


 アイズさんが謙遜して両手を前に出すも、俺にはその必要はないと思えたので軽く茶化した。

 調子に乗られても困るが、昨日話していて頭はかなり回る人だと感じているのだ。信じる部分くらいは俺も弁えている。


「そうでもないですって。それ以前に可能なのかどうかまだ分からないですし……」

「可能かどうか……?」

「はい。ですからその判断をするためにここに集まってもらったんですよねぇ」


 どうやらアイズさんが俺達をここに集めた理由はここにあるようだ。


「私の考えた案は全てにおいてフリードさん、貴方が鍵になります。大部分は貴方の存在に掛かっていると言ってよいでしょう」

「……昨日自分で豪語しといてなんですが、責任重大ですね」

「ええ、本当に」


 なんでしょう、これから案を聞くだけなのに緊張してきた。


 アイズさんの声と目が俺へと向くと、自然に身体が強張った。

 俺は自分でも時々変に思うが、結構変な場面で小心者に切り替わったりするように思う。これだけ存在が軒並み外れているのに、昨日言われてみて気づいた歪な在り方というのがストンと胸に落ちたように実感できてしまう。


 昨日アイズさんの言っていたモラル云々……これって俺の記憶がなくなる前と関係してんのかね。聞けば大抵俺みたいな奴は最初からぶっ飛んでる場合が多いそうだし。

 でも……普通ってなんだろって話だけど、俺の感性って世間一般とまんま一緒な気がするんだよなぁ……。

 普通に笑って、普通に辛さも感じて、普通に悲しんで、普通に怒りを覚える。


 何と言いますか……まるでとってつけたみたいな? 自分のことだから上手く言えんけど。


「昨日は話だけ……それに指示もありましたので後回しにしてしまいましたが、実際に知っておかないといけないことがあるんですよねぇ」

「知っておくこと? 何の?」


 昨日の話をふと少し思い出している間にもアイズさんの話は進む。要所だけ聞き留めて俺は続きを促した。


「フリードさん、アスカさん。いきなりですが二人にはここで身体能力の確認に付き合ってもらいます」

「……は?」

「あ、勿論この話の後ですよ? 今すぐにってわけじゃないですから安心してください」


 今の疑問はそこに対してじゃないです。


「セシリィちゃんはしなくて平気ですからね? したいならやりますけど」

「あ……ハイ……」


 そっちでもねーよ。セシリィ困惑してんでしょうが。


「……」

「……どうかしましたか? 私も鬼じゃないんで準備運動する時間くらいあげますよ? そこは心配しないでいただけると……」


 そりゃ貴方の貧弱さじゃ準備運動は必須でしょうよ。この場所まで歩いてきただけで息切れしてたくらいだからな。……でも一緒にしないでいただきたい。

 ちなみにそれでもねーんですけど。


 まさか俺だけじゃなくアスカさんまでもとは思わなかった。

 俺らがポカンと口を広げて突っ立っていることに理解及んでいないと感じたのだろうか。アイズさんが言葉を付け加えるも、俺らにはただの疑問の付け足しにしか思えなかった。


 ただ疑問が更に増えただけですね、分かります。

 純粋に今Why? 状態ですわ。


「確認……? なんでそんなことしないといけないんですかね……」


 声を絞り出して一応、というか聞かないと分からないので聞いてみる。


「まあまあ、まず経緯を話しますから。貴方達相手には必要ないのは分かってるんですけど、確認だけはしておきたくって。――ホラ? 私慎重な性格してますし。万一のことがあってはいけませんから」


 慎重だったらスリルを味わう真似はするわけないんですがそれは……。


「割と厄介な盲点でしたねぇ。昨日『剣聖』さんと会ってなければ見過ごしていたかもしれません」


 アイズさんの先の話と矛盾した発言が気になって仕方ないところではあるが、彼とてこの局面で身体能力を図って競って和気あいあいしようなどと考えているわけでもあるまい。言ったように何かしら重要な意味があるのだろう。


 俺だけじゃなくてアスカさんもというのがポイントになりそうだな。

『剣聖』さんが絡む重要なこと、か。一体なんでしょうね?


※2/17追記

次回更新は明日です。

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