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神鳥使いと呼ばれた男  作者: TUN
第七章 悠久の想い ~忘れられた者への鎮魂歌~
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428話 拒絶②

本日二話投稿してます。

前話からどうぞ。

 

「……」


 宿屋の中にまだ活気は感じない。ただ漂ってくる仄かに食欲をそそる匂いは朝食の準備をしていることを知らせてくれるため、それに合わせて起き始める人が出ることだろう。

 丁度一日の始まりの頃合いの時刻のことだった。


 誰もいない宿屋の廊下、借りた部屋のドアの前に一人ポツンと立ち尽くしながら今の原因について考えてみると、これは自分に原因があるんじゃないかという不安が込み上げてくる。

 完全な理由にはならないが一因は俺にある……そう思えたのだ。


 昨日までは何もなかった。それが今日いきなりということは……昨日に何か原因がある可能性は考えられる。

 大抵悪夢を見たりうなされるようなことになるのはその直前に何かあった場合が多い。


 やはり連合軍を協力者にしたことの影響だろうか? アイズさんがセシリィ観点から安全と思われても、それはあくまで今回の計画を考慮した場合の話だ。連合軍の関係者であることは変わりなく、連合軍が連想させる忌まわしい記憶が付き纏わない保障にはならない。

 セシリィが無理をしていたという可能性は俺には否定できない。



 だよなぁ……普通そうだよなぁ。セシリィはああ言ったけど無理してないわけないんだよなぁ……。

 だって自分から全てを奪った組織だぞ。嫌なことを思い出さないわけがない。むしろ思い出したくない忌まわしい記憶として遠ざけて当然だ。


「ふわぁ~……メシだメシ。今日も良い朝だ……ぜ……?」

「ぼへー……。あー……どーも……」

「ひっ……!? ど、どうも……っ……!?」


 飯の匂いに誘われたのか目の前の部屋からやたらと背の高い宿泊客が出てくると、俺と目が合うや否や引き攣った顔で足早に去っていく。

 その勢いはまるで俺から逃げるかのように。


 なんかすっごい変なモノを見る目されてたな今。

 へいへい、どうせ俺は変なモノですよ。関わっちゃいかんのですよぅ。ホレ散った散った。

 良い朝が台無しで良かったですね……ケッ。




 ――って、流石に自棄になりすぎだろ俺。無関係の人に八つ当たりしてどうする。


 けど……ハァ。他人もドン引きの顔ですか、そうですか。俺セシリィに次どんな顔して話せばいいんかな……。世界の意思以上に分かんねーよ。

 取りあえず土下座はするだろ? 言う事聞くだろ? お詫びもしてそれから――。


「お、おはようフリード君。……一体そこで何してるんだい……?」

「……あぁ……おはよございますぅ……」


 自己嫌悪し指を折り曲げながら独り言を呟いていると、隣の部屋の方からアスカさんの声がした。首を曲げて視線をそちらへ向けてみると、既に身なりを整え終えたアスカさんが対応に困ったように俺を見下ろしていた。


 なんですかそのSEだと汗垂らしてそうな顔は。こちとら目から汗垂らしそうだってのに。

 あと昨日の今日でアスカさん背が伸びすぎじゃありませんかね? 育ち盛りにも程があると思いますが?


「全然おはようって雰囲気じゃないんだけど……。取りあえず立ち上がったら?」

「へ……? あ、いつの間にか座ってた」


 言われて気が付く自分の体勢、それは先程からの疑問の正体そのものであった。


 ……成程、いつの間に体育座りしてたのかよ俺。ドアの前でとか女々しすぎにも程がある。

 そんな自分にも気が付かないとは……アスカさん的にはワロスってところですかね。

 ハイハイ知ってた知ってた。朝だし挨拶も兼て今の俺はまさに略してハロスですな。もうそれでいいですとも。

 おはようございます、そして笑え。滑稽な俺を見て笑えるならそりゃ滅茶苦茶良い朝に決まってますわ。


 ああ最高、やれ最高、本日誠にビバ最高。

 あーあ、朝とか滅びりゃいいのになぁ――ッ!? 


『あ、あれ? 開かない……』

「ん? セシリィちゃんも起きてるのか」


 おっふぅ……!?


 背中から俺を前に押し出そうと力が働いた。幸いにも大した力じゃないので押し出されることはなかったが、代わりに俺の余裕は押し出されて心が悲鳴を上げそうになってしまう。

 アスカさんはキョトンとしているが、俺はそれどころではなく反射的に万が一に備えて尻と足先に力を込め、この力に負けて死んでしまわないように踏ん張っていた。


『どうしよう……お兄ちゃん普通に出てったと思うんだけどなぁ。何か引っかかってる……?』


 はぅわぁあああっ!? せせせせ、セシリィいいい!? 

 まだ早くないッスかね!? 俺まだ心の準備が……謝る用意できてないんですけど!?

 やめてー! 押さないでー! どうか幼い君のままでいてー!


「フリード君、そこにいたらセシリィちゃんが出れないだろ。早くそこ退いてあげたr――って、成程……セシリィちゃん絡みが原因ってことかい?」

「わ、分かりますぅ?」

「情けない声出さないでくれ……その顔見たらすぐ分かるよ。一体何したのさ君は」


 何をだと? 多分色々じゃい! 語り尽くせないくらいのね! 


 アスカさんに声のボリュームは下げるよう身振りしながら情けない声で助けを求めると、俺は一体どんな酷い顔をまた披露していたのだろう。察したアスカさんが苦笑しながら呆れていた。


 もしかして早く謝れと向こうから催促しに来たとか……? なにその借金取り立てみたいなえげつない行動力! 鎮まりたまえよ!

 あと少し、あと少しだけ待ってくだされ! もう少しだけでいいですからぁ……!

 身体でお金は払えても気持ちはお金じゃ払えないんだよ!? Loveと一緒なんだよ!? どうか堪忍してくださいな!?


『ど、どうしよう……』

「……」


 ドア越しにセシリィのオドオドした声が聞こえ、途方に暮れている様子が手に取るように伺える。

 割とマズイ状況なのは確かだが、そもそも俺に非があると思われるのでセシリィがこのような仕打ちを受けているのはおかしいことである。となればここは一旦退いてセシリィを解放するべきなのだろうとは思う。


 これ以上やらかす前に、腹……括りますかねぇ。どうせ死ぬわけでもなし。

 死ぬのはセシリィの中の俺だけだ。これを機に綺麗な俺になるのも一つの手かもしれんし。




 これが、俺なりの誠意の見せ方だ……!


「うわっ!? フリーd「あ、開いた! ……え?」

「……」


 やると決めたからにはメリハリ良くだ。中途半端はこの行為の意味を大きく下げてしまうだけである。


 アスカさんの声を置き去りに、俺はドアから正面に向かって飛び退くと、着地と同時に身体を反転させて元々いた方向に向き直る。

 ドアから離れたと同時にドアが開かれ、セシリィが顔を除かせるよりも前に体勢を整えておく。


「フリード君……それは……?」

「見てのとおり土下座です」


 額を廊下に押し当て、そのまま床を見つめたまま俺は答える。


「ドゲザ……?」


 土下座だよ土下座。シンプルに三文字でDO☆GE☆ZA☆。

 俺が知る中で謝罪の姿勢の奥義といっても過言じゃないのに、まさかアスカさん土下座を知らないのか? 遅れてるぅ~。

 なら俺とtogetherしませんこと? アスカさん無関係ですけども。


「お、お兄ちゃん……!? なに……やってるの……?」

「誠心誠意謝罪の姿勢を取らせていただいておりますお嬢様」

「……」


 セシリィの声はハッキリと聞こえてくるのに、扉の閉まる音が全くしてこない。それはつまりセシリィがドアノブから手を放していないということを意味する。そして今まさに俺を見て……否、見下している真っ最中といったところか。

 ビジュアル的に良い歳したギリお兄さんの奴が、現役まっしぐらの美幼女に頭を下げている……そんな光景が俺の脳裏に浮かぶ。


 あ、これは引いてますわー。俺の死亡フラグにリーチ掛かりましたわー。

 大の大人がここまで落ち込んでてキモいんだよってか? しゅーん……。否定できないのが非常に悲しいなぁ……。

 でも俺にできることってこれくらいなんですよ、トホホ……。


「……」

「……」


 ほぼ死体も同然の俺にセシリィはまだ声を掛けてはくれない。ここでせめて何かしらの言葉でもあれば反応のしようもあるものだが、それすら一切ないのでは俺の語る口はない。

 焦って何か口走ろうものならその全てが言い訳にしか聞こえないはずだ。だから俺は姿勢で自分の意思を伝えるのがベストなのだと考える。


 ――と、自分におまじないのように言い聞かせている時だった。


「ち、違うよ! その……謝るのは私の方……。ご、ゴメンなさい……」


 ほわぁっ!? 


「私、いきなり酷いこと言っちゃって……」


 誠心誠意の姿勢は前言撤回。ハッと顔を上げてセシリィを見る。するとセシリィは呆れとは似ても似つかない沈んだ表情をしていた。下から見上げているから余計にそう思えたのかもしれないが。

 ただ、どちらかというと怯えているような気がする印象が強かった。若干だが声が震えている。


 どうやらさっきのやり取りについて謝っているようだった。


「ほ、本気でそんなこと言ったんじゃなくて、咄嗟に出ちゃった、っていうか……。怖い夢見て……えと……その……」


 必至に弁明するセシリィは途中途切れながらも俺にとにかく事情を伝えようとしていた。言葉が出てこないのか最後の方はか細い声で内容も無いに等しかったが。

 本人はきっと焦り塗れなのだろうが、不謹慎ながらその姿が無性に愛おしく感じるのは俺が同伴者だからだろう。


 ふぅ……心配してた自分が馬鹿みたいだ。

 セシリィは不安に思ってるとこ悪いけど、俺今それどころじゃないッスわ。


「大丈夫だって。セシリィが心配してるようなことにはならないよ。気にしてないから」

「ほ、本当に……?」


 いよっしゃぁあああっ! 大どんでん返しの勝ちフラグきたぁああああっ!

 本気で嫌われてなくて良かったよぉ……グスン。


 セシリィの聞き返しに内心で俺の心にファンファーレが鳴り響く。その音が鳴り響いた瞬間、俺は両手の拳を強く握りしめる。

 セシリィも泣きそうな顔をしていたが俺も泣きそうになる。というか俺の方は内心泣いていた。


 なんつー効果だよこれ……! こんなの『リバイバルライフ』も真っ青な蘇生呪文やんけ! いや即死呪文か!? どっちにせよ最強の甘言すぎる。

 よっしゃ! アンデッドみたいに生き返ったろ。その尊さで俺は最早不死身じゃい! 


「何も考えないでしつこく聞いた俺も悪かったよ。あそこはもう少し気ぃ遣ってやんなきゃいけなかったのに」

「お、怒ってない……?」

「なんで? 怒るわけないだろ。色々無理させてたし、むしろ俺がセシリィを怒らせたんじゃないかって思ってたくらいだ」


 俺がそのことを伝えると、セシリィの怯えは次第に消えて落ち着いていく。


 俺の方はというと僅かに弛緩した表情の裏では複数の俺が心の中で絶賛フィーバー中である。

 歓喜の産声を背景にワルツを踊る無数の俺ら……。正直気持ち悪い光景だが勝手に踊ってるんだから仕方がない。


「……全然経緯は分からないけど、解決したのかな? 僕先に下りてるね」


 あ、どうぞ。俺もすぐに向かいますんで。

 もうちょい余韻に浸らせてくださると助かりますん。ぽへー。


 もう心配? は要らないと感じたのか、気を遣ったアスカさんが階下に向かう様子を二人して見送った。

 下に下りるための曲がり角を曲がった後アスカさんの足音は聞こえなくなり、廊下には俺とセシリィが取り残された。無論そのままの体勢で。


 二人きりになると、セシリィが先に口を開いた。


「それで、ね……? 今日も、一緒に寝てもいい……?」

「お、おう……。それは全然構わんけど……」


 ぐふぉあっ!? モジモジしながらのお誘い来やがりましたー!

 回復のしすぎで吐血しそうなんですが……誰かヘルプミー……! この場合は誰か俺にダメージを与えてくれ。


 なんかこの構図だと俺の方が土下座してお願いしてるみたいに見えるけど……断じてそうじゃないので悪しからず。

 なんにせよお泊まり会の約束だぜ! いつものことだけどな!


 流石はセシリィ大天使様である。こちらも天使というのは本当に伊達ではない。


 でも俺も俺でチョロイ奴だよなぁ。全く今日は良い朝ですなぁホントに……!

 毎朝こんな日来ないかなぁ――。


「(やっぱりロリコンじゃないか)」

「っ!?」


 突然、俺の余韻をぶち壊す些細な一言が心にぶち刺さった。


 不意にボソッと聞こえた声の方に咄嗟に振り向くと、そこには曲がり角から頭をはみ出してこちらを覗くアスカさんがいた。

 俺が振り向いたと同時にスッと角の奥へとフェードアウトしていったが、確かに一瞬だがそこにいたのだ。しかもジト目をしながら。

 今の冷めた眼差しはハッキリ言うならば蔑みに近い。


 アスカさぁあああああんっ!!! ちょっと待てやあああああっ!

 確かに誰かにダメージ与えてくれとお願いはしたけどさ、心のHPゼロは求めてはないんですけど!? 

 俺別にロリコンじゃねぇから! 只の変態だからまだマシだよ!? 

 頼むからそれだけは信じてから行ってくれ!



 セシリィの問題は収まったが今度はアスカさんに会うのが怖い状況へと一転。状況は常に目まぐるしく変化していく。

 こうして俺らのセルベルティア三日目が無事始まった。


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