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神鳥使いと呼ばれた男  作者: TUN
第七章 悠久の想い ~忘れられた者への鎮魂歌~
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426話 密談⑤

 


「連合軍なら知ってるだろうが、二ヶ月くらい前にこの街に『剣聖』が呼ばれたはずだ。僕は彼女を探している」

「『剣聖』さんをですか? ……そういえば『剣聖』さんも東の出身……じゃあもしかして……?」


『転移』で元の位置に腰掛けた後、アスカさんが単刀直入に仮面に聞いた。仮面はそれだけでピンと来るものがあったらしく、察したような受け答えをするのだった。


「彼女とは同じ出身でね」

「……成程。知りたいことと言うのはそういうことでしたか。確かに世間じゃ騒がれていませんし、同郷の方なら不自然でしょうねぇ。それでこの街までいらしたと」

「まあね。話が早くて助かるよ」


 この短いやり取りだけで大方こちらが何を聞きたいか理解した仮面が決めつけのようにアスカさんへと問いかけ、その声にアスカさんがハッキリと頷く。このほぼ無駄なやり取りのない進み具合に俺はさっきまでの無駄ばかりの会話を思い返してしまう。


 なんで俺の時はこんなスムーズにいかなかったんだ……。

 意図的な遅延行為は嫌がらせか何かだと思うんですが? なんか納得いかないわ。


「――知っているなら教えて欲しい。アイツは今この街の何処にいる?」


 俺が仮面に対して不満を覚える一方、アスカさんが俺達が最も聞きたかった内容へと踏み込んだようだ。いつの間にか静かにピリピリとした雰囲気がアスカさんを包み込む。

 言葉遣いはそこまで固くないはずが、ドスが利いたと感じる声色がどことなく強制力を伴っているように聞こえた。


「……」


 すると、仮面が無言のままゆっくりと壁越しに指を差す。そこには何もなかったが、その指差しが目に見える部分を指しているわけではないことはすぐに理解した。


 多分その方角は……。


「すぐそこですよ。セルベルティア王城東棟最上階の牢屋。『剣聖』さんにはそこで連合軍の監視の下丁重に身を置いてもらっています」

「っ!?」

「……」


 やっぱり城にいるのか……。


 あっさりと告げられたのはこの仮面だからなのか。アスカさんが驚きの反応を示す。

 セシリィの反応は皆無。こうして連合軍に在籍している者から告げられた意味は大きい。


 正直アスカさんの話を昨日聞いた時からその線は疑っていた。

 街にいる人が誰も街を出て行ったことは知らないが、来た時の目撃証言は存在しているという状況。それは『剣聖』が城へ謁見してから一切街にすら戻っていないからだ。それなら謁見して以降目撃証言がなくなるのは当然である。

 内部なら情報を秘匿することなんてわけない。王族の力も借りての上なら一般の人には知る機会など殆どないはずだ。アスカさんが噂を聞きつけられたのは幸運だったのかもしれない。


「世間の噂に違わぬ礼儀正しさと気品を持ち合わせた方と聞き及んでいますよ。私はお目にかかったことはありませんが、監視の方々が口々に仰っていましたから」


 俺が昨日城を見た時に覗けたあの光景は……じゃあ多分本物だったのか? なんであんなことができたのか、いや起こったのかまでは分からないけど。


「無事、なんだな?」

「無事ですね。連合軍としても『剣聖』さんには最大級の待遇で対応させてもらっているそうですよ?」

「最大級……だと……?」


 昨日の自分の身に起こっていたことを不思議に思っていると、アスカさんが『剣聖』の無事を確認した後……ピクリと眉を吊り上げる。そして身体を強張らせると不満を露骨に露わにし始めるのだった。


 確かに今のは意味が分からない言い方だな。アスカさんのこの態度は当然だろ。

 どれだけ丁寧な言い方をしていようがやってることは要は監禁だ。監禁に待遇もくそもあるか。サラッと言われたことに対しても腹が立つに決まってる。


「なんで連合軍はそんなことをしているんだ! アイツが一体何をした!」


 予想できたアスカさんの怒号が仮面へとぶつけられた。

 罪を犯したわけでもないのに監禁され、そして『剣聖』の状況を大したことでもないことのように言い放ったのだ。勿論仮面が当事者ではないのだろうが、アスカさんの境遇を考えれば連合軍関係者である以上は無理もない。


「さぁ? 私は別に何も知らされてませんからなんとも……。噂じゃ『剣聖』さんが連合軍への加入を断ったからってことぐらいしか知りませんねぇ」

「っ……たった、それだけのことが理由でか……!?」

「それだけ……? フフフ、そうですか……『それだけ(・・・・)』っていう認識なんですねぇ貴方達にとっては」


 俺だったら今のアスカさんの剣幕には相対していたら尻込みしてしまいそうだ。しかし仮面は表情は見えずとも驚きの素振りどころか怯えすら見せず振る舞う。

 ――むしろより強く興味を露わにしているようだった。


「何かおかしいことですかねぇ? 連合軍が結成された目的はこの世に巣食う天使の淘汰です。こんなこと小さな子でも当たり前のように知ってる……勿論皆さんも知ってるはずですよねぇ?」

「そ、それは……」


 はい知っておりますとも。ガチ糞みてぇな力による改変された認識ですね分かります。


「なら『剣聖』さんへの扱いも当たり前なことだって分かるはずですよ? その筆頭となる軍に加わらないということは極端な話、世界への反逆の意思を示す行為となる。しかも大胆なことに王の御前での発言だったという話じゃないですか。それでも『剣聖』さんはあろうことかその意思を主張し温情ある呼びかけに対し頑なに耳を貸さなかった。それならば反乱分子である人物は拘束しておかねば安心はできない……そう思いませんか?」


 本音は思わないけど建前だと確かにそうだな。権力に屈するような人じゃない時点で己の信念に突き進む人だということは自明の理だし、しかも見過ごせない力まで持っているわけだ。

 アスカさん、俺は貴方の味方というか協力者ではあるのは断言するんだけどさ、仮面のこの言い分には客観的に考えれば誰も反論はできないと思いますわ。


 だって世界の意思ってやつが下した影響がそういうものなんだから。あらゆる言い訳は通じないし、間違ったことが正しさに問答無用で書き換えられてしまう。


「っ……だが、アイツは一際優しすぎる。争いそのものを嫌っているようなやつが自らその道に進むとは限らないだろう! 全員が全員連合軍に入る意思があるわけじゃない!」

「そうですねぇ。ただ、『剣聖』さんのような傑物が勧誘を断りでもしたら世間はどう思うでしょうねぇ。人脈、武力、容姿に恵まれ、誰もが憧れる存在……それが大衆に共通の認識としてある『剣聖』という人です。……それ故に影響は計り知れない」


 アスカさんの感情論に対し仮面の客観的な切り返しは的を得ており、俺も内心同意せざるを得ないこともなかった。

 アスカさんの剣幕が苦汁に塗れた顔にみるみる変わっていくのが止まらない。一方で仮面は水を得た魚の様に余裕を取り戻していく。更にその一方で俺はというと、二人以上に感情と理性の板挟みを感じてどんな顔をしていいのか微妙に分からなかった。


「――とまぁ、連合軍の監禁の目的はそんなところでしょうか? あくまでも憶測が大半になりますけど」

「っ……だとしてもアイツの人となりを知ってるならそんな真似はしないって分かるはずだろう!?」

「そうですね、きっと断りが知られたところで誰も『剣聖』さんが反乱分子だとは思いもしないのでしょう。だって私もそう思いますし」


 ワイもワイも。てかお前もなのかよ。

 連合軍の立場がなさすぎませんか? 最初から。

 それにしても仮面ですら絶賛する『剣聖』さんがやはり凄すぎるんですけど。今敵に捕らわれてるはずなのに敵なしかよオイ。


「問題なのは断ったことが知れ渡ることで、その行動を起こす者が次々に現れるかもしれない可能性を孕んでいることにあるでしょう」

「なに?」


 仮面がアスカさんに向けて言った。

 それはあくまでも可能性の話。断じてないと自ら思っていながら懸念してしまう、連合軍にとって都合の悪い話である。


「昔は連合軍に異を唱える者は殆どいなかったそうです。ですがここ数年の間では各地で連合軍の存在に異を唱える者もいないわけではありません。……抑圧されていただけなのかもしれません。天使の数も劇的に減った影響もあるのでしょう。だからこそ少なからず絶対的存在であった連合軍への抵抗が連鎖的に引き起こされるかもしれないという不安はあるんですよ」

「不安……?」


 これも世界の意思が弱まった影響ってやつだろうか? 元々正常な意思を無理矢理変えられているのだ。あるべき意思は曲がっていれば真っすぐに、元の形へと戻ろうとするってことだろうな。

 そして『剣聖』の存在はその全ての人達のきっかけになりかねないのは、世界での認知度が高すぎるが故に、か。


 人はより大きな力の影響を受けて流されていくような存在だし一理ある。それは世界の意思が良い例だ。

 あの人が加入しないのであれば自分も。本音じゃ自分もそう思っていた。――などと声を挙げ出す者が現れ始めるだろう。抑圧された意思が解放されればその力は馬鹿にできない。更には同調意識がもっと大きく広がるかもしれないのだ。


 これで意思の力が百年前と比べて大分弱まったって言うんだから驚きだ。アニムでの連中は至って正常で、仮面が特殊という点を除いて恐らく今こうして連合軍の者と当たり前のことに異を唱える者とで会話が成り立っていること。これは百年前ならあり得ないことだったのだろうと俺は思う。


「『英雄』が加わり、天使の淘汰は目前となりつつある今だからこそこの勢いは削ぎ落とすわけにはいかないのですよ。目的を達成した後のことも考えて……。ですから『剣聖』さんがどんな人物であっても関係ない」

「っ……」


 仮面は自分の予想をアスカさんの言葉を受け流して優先し、続きを話した。今だけでなく先を見据えていると添えて。




「――まあ私にとっては連合軍の未来などどうでもいいんですけどねぇ。それより目の前に非常に面白そうな人達いますし。まだ先の見えない未来よりも今はこっちが優先ですかねぇ」

「……?」


 アスカさんが言葉に詰まったので俺も口を挟もうかと思った時だった。仮面が急に声の調子をお気楽なものへと変えると、不敵な笑い声を僅かに拳を胸の前で握るや否や呟く。


「フフフ……『剣聖』さんと会う機会を逃したことが悔やまれますよ。さぞ貴方達と同じような意思を持っていることでしょうねぇ。私は今、過去にあったチャンスをもう一度手に入れたいくらいだ」

「同じ意思?」


 意思という言葉に思わず俺が反応してしまった。どうしてもこの言葉には機敏になっているため反射的に反応してしまう。


「聞く限りだと『剣聖』さんも面白そうだなと思ってはいましたが……貴方達と話していると私の中にあった疑問は確信に、新たな興味が更に増え移りゆく……。――貴方達の在り方(・・・)は本当に興味深い。世間の方々の在り方(・・・)としては有り得ませんからねぇ……!」

「在り方……? それにさっきは意思……? 悪いんだがさっきから何を言っている? 僕らがどうかしたとでも?」

「どうかしたですって? そりゃもうずっとどうかしてますよ! 正常な判断でその思考になるなら勘違いというわけでもなさそうだ。やはり私の『眼』に狂いはなかった……! 貴方達は間違っているのに正しいとね」

「……」


 仮面曰く俺らはどうかしているそうだ。どうかしているのはお前の方だと言い返したくはなるも、馬鹿にしたニュアンスではないため意図がある言い方であったとは思う。


 間違ってるのに正しい……? それに意思や在り方という言葉の数々。これはもしかして俺らの状態を指していたりすんのか? それにここでも『眼』かよ……。

 結構気になることもサラッと出た気がするけど、もしそうなのだとしたらどうかしているという言い方も……納得できなくはない。俺ら三人の思考回路はこと連合軍絡みの話題においては周りからは異質な存在そのものであるから。

 普通なら(・・・・)『剣聖』を捕らえた連合軍の行動に非難の言葉をぶつけたりなんてするわけがないのだから。


 仮面の言わんとすることが俺の予想通りであるなら、セシリィは何も変わったわけではないが世界の意思の影響の当事者だからまぁ仕方がない。そして俺は世界の意志を抑えてもらっているからセシリィの立場とあまりかわっていないと判断していい。

 残るアスカさんは……昨日も考えたが多分ウィルさんと一緒で世界の意思の影響が大分薄まっている人なのだろう。ただ、昨日は大袈裟に考えていたが恋慕だけで世界の意思の力をはね除けられるとは思えないし、あくまでも『剣聖』さんがきっかけになったというだけと思われる。


 この在り方という言い方はつまり、世界の意思によって当然となっている常識に当てはまらない状態を指す。仮面自身は世界の意思を知っているわけではないとは思うが。


 ――いや、どんな形であれもしかしたらその『眼』ってやつで認知している可能性はあるか。『眼』の力の説明があったのは二つだけ。しかし『眼』の力が二つあるとしか仮面は言ってないわけだし。


「……」


 セシリィを横目でチラリと見る。機敏にもその仕草に気付いたセシリィが目を俺の方を向く……うん可愛い。


 まぁこのように。それならセシリィが反応してそうではあるんですけどね。隠し事はセシリィの前では無理だし。

 そのセシリィが異を唱えていない時点でその線は……流石にないかぁ。


 杞憂であったならそれでいい。だが仮面が自力でそこまで辿り着いているということにもなるわけで……。全く恐ろしい話だ。誰も知らないはずの事実に辿り着くなんて普通はできない。




「フフフ、ゴメンなさい一人で興奮してしまって……。こんなに一度に現れるとは思ってもいなかったものですからつい」

「……?」


 全くだよ。こっちもアンタみたいな奴が現れるとはおもってもいませんでしたからね。


 アスカさんだけは会話の意味がよく理解できていない。だから仮面の言葉を俺とセシリィが動じずに聞いている姿に首を傾げているようだった。


「『剣聖』さんの所在を聞いてきた以上予想はできます。ですから分かった上で確認します。貴方達はそれを知ってどうするおつもりで?」


 そんなアスカさんへ仮面の質問がぶつけられた。

 先の余韻を残し、仮面の奥底ではニタニタと笑っているのが容易に想像できる。


「ぼ、僕は――「助けるんですよ」

「へぇ?」

「フリード君!?」


 アスカさんが勢いよく俺を見た。当然急に割り込んできたことにではなく、俺が目的を打ち明けたことに対して驚きを隠せなかったようだ。

 内心勝手を貫いていることは申し訳なく思うが、アスカさんの性格を察するに自分以外の力を主に使う内容で大胆宣言できるとは考えづらかった。そのためここは一度退いた身をもう一度前に出す場面で仕方なかったと思わせてもらいたい。


 イケメンの決め台詞を奪ってしまったのは不本意だが、ここからはまた俺の出番だろ。


「ただ助けるだけじゃありません。追手が来ないように偽装し、誰の目にもつかずに連れ去り、必ず救い出す。そして二人には故郷に戻ってもらう……そのつもりですが?」


 言ってやった。あろうことか連合軍の組織の一員に堂々と。

 でも俺だって何も考えずに言ったわけじゃない。ちゃんと狙いはあるし、そんな予感がしたからこそこうしたのだ。


 ……半分くらい神頼み的要素があるのは気にするな。その時はその時じゃい。


「ハハ……それ、私に言っちゃってもいいんですか?」


 ですよねー。本当に傍目馬鹿正直な真人間ですわー。

 だ・け・ど? 俺は生憎と打算アリまくりの奴なんですよねぇ。そんなに綺麗な性根はしちゃいない。


「大丈夫だと思いますよ? 言いふらすって言うなら別の面白い話題を提供して口封じをしてもいい。アンタはそういう人だろう?」


 人が強い意志に流されるなら通じるはずだ。仮面はより強い興味に流される人物だと信じるならな。


 こちとら魔力の話題を話しただけでまだ話していない内容(エサ)がないわけじゃないんだよ。伊達に徹夜でオルディスと話してない。


「話題を提供して口封じ? ……フリードさん、貴方本気で言ってますか?」

「本気も本気だ。人一人殺せない俺が唯一できる、アンタを敵として殺せる手段がそれですからね」

「人の口に戸は立てられないというのに、よく自信満々に信用性もないことを初対面の私に言えたものです。――良いですねぇ、相当イカれてますねぇ貴方……!」

「アンタだけには言われたくないですけどね、こっちとしては」


 イカれてっから俺は世界を敵に回したんだよ……! 

 俺の情報が伝わるのはそう遠くない未来に必ずやってくる。時限爆弾のように。だったら爆発するのが決まってるならその前にありったけの爆弾を仕掛けてやるまでだ。


 止まらねぇ止められねぇ、踏み込んだ以上は二度と後ろに俺は退けねぇんだ。退いた時点で俺を支えるモノは全てなくなるんだからな。

 お先真っ暗舐めんな。


「俺も答えが分かっている上で聞きましょうか。その意思や在り方の根本に関わる話……聞きたくはありませんか?」

「っ!? それ私への仕返しのつもりですか? いい性格してますねぇ本当に……! そんなの聞きたいに決まってるじゃありませんか……!」


 だろうな。そうじゃなかったらアンタはアンタじゃないんだろう。

 世界の意思も変な奴を引き当てちゃったもんだ。運が悪かったな、同情する。


「貴方も大分良い目をお持ちのようだ。――それで、私にどうして欲しいのでしょう?」


 仮面が食い気味に了承したのを確認すると、自ら俺の言葉を待つ仮面が辛抱せずに口を開いた。


 ふぅ……一先ずなんとかなりそうで安心した。

 それなら俺も大勝負の締めといきますかねぇ……! 二人には悪いけど。


「『剣聖』さんは城にいる。それで間違いありませんね?」

「はい」

「極力誰も傷つけず、誰にも悟られず、しかも『剣聖』さんが後々に追求を免れるように逃げることは実際できると思いますか?」

「即答ですみませんがほぼ無理かと……」

「じゃあそこにアンタの力が借りられればどうですか?」

「……一縷の望みは生まれると思います。まあ当然、貴方の力を使う前提ではありますがね」

「なら決まりだ」

「え?」

「決まりって……まさか……!?」

「そのまs「そのまさかですよ」


 って、お前が言うんかい! 俺に言わせろや! 

 一度しかない決め台詞を奪いおって……!


 決められず釈然としない気持ちは堪えつつ……。アスカさんとセシリィの驚きが最も強かったのがこの瞬間だったと言っても過言じゃない。

 俺自身こうなることを最初から望んでいたわけじゃないし、当初は仮面という存在を遠ざけようとしていた程だ。何故? という気持ちが今の二人には強いはずだ。


 けど……コイツも俺らと同類でもあるって分かっちゃったしなぁ。

 意思に縛られずに好き勝手やり、俺らの話を聞いてもとにかく自分の本心を優先した。なんでこんな奴が!? とは思っちゃうけど。


 仮面に限っては忠誠なんて意味がないものに等しい。

『剣聖』さんには王の御前でと言っていた癖に、コイツもこの街の王の前で裏切りの可能性を宣言しているのだ。これが同類じゃなくてなんだというのか。



「対価はこの世界の人外しか知らない未知の事実の提供。望むならそれ以外も追加します。それでどうか俺達の協力者になってもらえませんか?」

「それ一体どういう意味で言ってるんですかねぇ? ……フフフ! 喜んで。それで是非とも手を打ちましょう。――ではまずは何から始めますか?」


 俺の条件提示に同意した仮面はすぐに首を縦に振った。それと同時に早速俺達の輪にすっぽりと入り込むのではなく、既に入っていたようだ。

 椅子に戻ると俺の次の言葉をまた待ち始め、上機嫌な雰囲気を目の前で振りまいている。


 すごく切り替えがお早いことで……。なるべくお互いにギブアンドテイクになるといいんだが……。


 内部に詳しい者がいればやれることの幅は広がる。案もより確実なものが見つかるし、できることはやって引き込める味方は取り込んでいかない手はない。

 俺に人を殺せない意地がある以上既に手段は限られている。なら他で手段を選んでいる余裕は俺にはないのだ。ただでさえ無理難題な計画をやろうとしているのだから。


 できないことはできないで割り切るが、できないならそのできないに釣り合うものを用意する。仮面はその一つにさせてもらおうか。

 ……まぁ仮面みたいなのが早々いるわけないんですけどね。今回ばかりは例外も例外だ。……初だけどさ。




 一時はどうなるかと思ったが、俺が会う人との巡り合わせはどうやら恵まれているらしい。会う人ほぼ全てが敵になり得る状況下でそれ以外を引き当てる確率は相当なはずである。


 それもこれも人外達に見守られている恩恵ってやつなのかねぇ? 取りあえず俺の未来は暗くても運までは暗くなかったってこった。

 仮面という人物はハズレだがアタリ……これは気にしたら負けだな。けど今はそれで十分満足だ。


 セシリィはともかく、唖然としたアスカさんが落ち着くのを俺達は暫く待った。


※1/14追記

次回更新は早ければ明日です。

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