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神鳥使いと呼ばれた男  作者: TUN
第七章 悠久の想い ~忘れられた者への鎮魂歌~
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425話 密談④

明けましておめでとうございます。

今年もマイペースにやっていきます。

 

「フリードさんはこの時代ではない別の時代、そこから来たと言われる方がまだ信じられる気がします」

「お兄ちゃんが……?」

「ど、どういうことだいそれは……」


 セシリィとアスカさんは今何を思っているだろうか? その目で一体俺をどう見ていることだろう。


 見た目は同じであって同じではないかもしれない。オルディスは人化して姿を変えていたし、俺も無意識にそうしている可能性だってある。

 人の形をした化物……最早人じゃないと言われたって仕方ない。実際俺の持つ力が人外そのものだ。


「我々が機能を失い退化したというなら過去、我々の進化の果てがフリードさんなら未来。そう思えてしまうんです。――ですが未来か過去かはこの際どうでもいい。この時代に適さない時代から来たのではないか? その可能性を私は推します」

「ちょっと待ってくれ。違う時代っていきなり言われてもな……。話が飛躍しすぎじゃないか?」


 飛躍ね……確かにそうだ。術式の話から飛んで俺の実態についての話にいきなり変わっちまったんだからな。

 だがこの狂人にはそんな順番を隔てても無駄だ。興味ある方へと突き進む……だから俺達は目に留まってしまったんだ。


「飛躍なんて最初からしているようなものでしょう? ――フリードさん、実際どうなんですかねぇ? 差し支えなければ教えて頂きたい」


 仮面の声は極めて落ち着いていた。それでも静かな声には言葉では言い表せない勢いが宿っているように感じる。

 俺の返答次第で何もかもが変わる。まさにそんな状況に俺は置かれているといっても過言じゃない。それでも仮面には悪いが俺はあるがままを話すだけだ。


 というかそれしかできない。


「別の時代から来たと貴方が思ったなら……そうなのかもしれないですね」

「……否定しないのですか?」

「ええ」


 俺があっさり肯定したことに仮面は喜びではなく首を傾げる。恐らく否定されると思っていたのだろう。

 しかし――。


「できないんですよ」

「はい?」

「だって俺……先月より前の記憶がないですし。今の俺には憶測全てに真実の可能性があることを否定することができない」

「――あの、詳しく聞いても?」


『ちょっと待て』。――仮面の心の台詞を代弁すると恐らくこんな感じであることは想像に難くなかった。真実を求める一方、進もうかと思えば戻るような一進一退の展開は話をより複雑にしているはずだ。


 記憶が失われていることが悔やまれるよ。あれば真実を素直に吐露できた可能性も……最悪厳選するくらいのことはできただろうから。

 でも俺の情報は探したところで見つかるものじゃない。全部君主とやらに抑え込まれて世界の意思にも捕まらないって話だからな。分が悪すぎるお題だよ全く。俺にもアンタにも……。




 ◆◆◆




「――そうですか。非常に刺激的で有意義な時間でしたよ。まだまだ世の中に奇妙なことってあるんですねぇ。この未知との遭遇に感謝します」

「すみませんね、期待だけさせておきながら」

「仕方ないですよ。本人がそう言うんですからねぇ。不明なものをあるものとして言われなかっただけ良かったと思うことにしますよ」


 その後。俺の最初の記憶から今日に至るまで……伏せる部分は伏せつつ簡潔に伝えた。

 勿論連合軍に遭遇したという件は伏せた。あの部隊も術式を使っていたし、知り合いでもいたら余計に面倒臭くなるに決まっている。神獣であるオルディスとの出会いもそうだ。


 自分の境遇を一通り説明すると仮面は意外にもすんなりと身を引いたようだった。なんでも全く分からないことに対して何も信憑性のない話を聞いて真実が分かる訳がないとのことらしい。それならば何も聞かないで自己解釈する方がマシとの判断を下したらしく、自分の視た範囲で分かることだけで十分とのことだった。


 ……これには流石にそりゃそうだなと俺も思った。数学とかで公式が分からないのに問題解くようなもんだ。そら無理ですわ。

 仮面なりの妥協でもあったのだろうし、こうして有難いまとまり方へと進んだのは幸いだ。


 煮え切らないはずなのにその判断を実行する辺り、仮面は引き際と言うか物分かりはある意味あるようである。


 あと未知との遭遇って言うのはやめろ。それじゃ俺がまるで化物(エイリアン)みたいじゃねーか。顔面にフェイスハガーつけてる人にだけは言われたくない。


「う~ん……ですが惜しすぎますねぇ。思い切り頭でも叩いたら思い出したりしてくれないですか?」


 仮面が唸りながら明後日の方を向く。その視線の先には散らかされた家具の中にポツンと何故か落ちている鈍器があり、片手で簡単に使えそうな比重は多分魔道具の製作や調整に使うのだろう。それを指差して俺に問うのだった。


「い、いやぁ……流石にそんな都合よくはいかないんじゃ……」


 ナチュラルに殴って良いですか? じゃないんですけど……。

 俺をなんだと思ってんだろこの人。あとそれ叩くじゃなくて殴るの間違いや。


「ん? では試す価値はあるかもしれないと?」

「なんでそうなるんですか! 嫌ですよ!」


 誰がそこでハイって答えんだよ。頷いたらそいつ本当にハイにキマってんじゃねーか!


「嫌なだけで駄目ではない? じゃあ一発だけ……」

「ちょっとちょっと!? アンタ俺を殴りたいだけじゃないだろうな!?」

「違いますよー。だってどうせフリードさん死ぬわけないでしょ? それにやるの私ですし」

「いや死にはしないと思いますよ!? そういう問題じゃないでしょうが!」


 鈍器を片手に俺ににじり寄る仮面の平淡さには必死の抵抗を試みた。多分ここで止めないと本気でやりかねない気がしたためである。絵面は既に狂気の殺人鬼であった。


 確かに死ぬのは鈍器の方だろうが死ななきゃいいってもんじゃねーだろ。何が私ですし、だ。自分の非力さを笠になんでも言い過ぎだろ。こちとら既に頭かち割れたも同然の身だぞオイ。

 それ仮面が貧弱だから俺は平気って意味? それともキチガイだから殴っても当然って意味で言ってんの? もう分かんね。


 前言撤回、無駄としか思えない悪足掻きから察するにやはり仮面に未練はあるようだ。できることはやってみたい、試してみたいという気持ちがあるらしい。


 案外古典的な手法を用いろうとするのはともかく、コイツの場合やる前に後悔しろと言いたい。やっぱ頭おかしい。




「と、とにかく術式やら俺の件はここまでってことで! 今度はこっちの質問開始ってことでいいですか?」

「えぇー」

「いいですかっ!」

「……ちぇー、分かりましたよもう。……ではどうぞ。約束ですから答えられることには全てお答えしましょう」


 返事がなかったので声を張り上げて無理矢理仮面を頷かせると、鈍器を放り投げて仮面は溜息をつくのだった。その溜息も最早俺をただ殴り損ねたことなのか主題が変わることへ対してなのか……どちらかは不明である。そのまま再び椅子へと戻って来る。


 なんか大分ラフになってきてんなぁ仮面の奴。言葉遣いの随所から素が見え始めてる気がする――んん?


「それで、私に聞きたいこととは? お役に立てるか分かりませんけど」

「俺らが聞きたいのは連合軍の保有する情報についてです。――あと今後ろに何隠しました?」

「……何のことでしょう?」


 椅子に寄りかかり、身じろぎの動作に紛れて手を後ろにやった挙動を俺は見逃さない。仮面はとぼけたようだがお見通しである。

 ジト目で仮面を見つめると、わざとらしく自然体を振る舞い始めて明らかにおかしかった。


「「……」」


 俺だけじゃなくセシリィとアスカさんも無言で仮面を見つめている。冷ややかな目が語るものは言葉以上の訴えを今していた。


 これより強制審査を開始する。ハイ今からお兄さんの言う事に従って~。


「アイズさん、バンザイ」

「ハイ」

「そのままスタンダッププリーズ」

「ハイヤ」


 どっちだよ。


 両手は素直に挙げたようだが立ち上がることには不明な返答を仮面が見せる。この場合はまぁ拒否も同然であるが。


「今ちょっと膝が……。さっきのが響いてきたみたいで」

「成程、その仮面を剥いでもいいと?」

「そういえば今非常に立ち上がりたい気分でした!」


 言い訳を重ねたところをすぐさま追撃し、手で鷲掴みにする仕草をして強制的に仮面を脅しで立ち上がらせる。仮面の迅速に椅子から立ち上がる勢いは凄まじく、全身に電流が流れた如く直立へと移行していた。


 コイツ仮面をどんだけ取られたくないんだよ。必死すぎか!


 立ち上がった拍子に後ろに後ずさった椅子は倒れる直前で踏みとどまると、音を立てて四つ足で落ち着く。すると、また一つ鈍い音がした。


「……」

「アイズさん、これは? 俺にはどこからどうみても凶器にしか見えないんですが……」


 音を立てた物を『転移』で傍まで移動して手に握り、軽く振り回してみる。然程力を加えずとも持ち上がり、それでいて遠心力によって生まれる破壊力は侮れない。


 子どもが振っても十分危険……というかそれ以前の問題だ。こんな殺意剥き出しのトゲつきな時点でアウト過ぎるわ。床に穴空いてるし。


「それはアレですよ、所謂金槌というやつでですねぇ。ホラ、魔道具って繊細ですぐ壊れるじゃあないですか。整備用にいっつも持ち歩いてて……」

「へぇ……もっと凶悪な棍棒なんかではないと?」

「勿論ですとも。だって金槌は友達ですから!」


 それならその指の突っつきは何なんですかねぇ? 隠し事が苦手なわけじゃないだろうに……。

 しかも持ち手のところになんだろコレ? AIZ……って!?

 自分の名前彫るとか子どもか! つか自分の友達に名前彫ってんじゃねーよ!


 仮面の言い訳は取りあえず聞き流しながらブツを疑い深く確認していると、小さくだが付け根の部分に色の違う箇所があった。その部分だけ無駄に手が凝っており、浮き出るように彫られた名前に唖然と意味の分からないツッコミをしてしまう。


「誰がとは言いませんけど、危ないのでこれは没収で」

「(チッ……)仰せのままに」

「舌打ち聞こえてんぞアンタ。いい加減仮面かち割んぞ……」


 一先ずは凶器を没収と言う形で預かり『アイテムボックス』の彼方へと放り込む。その瞬間をやたらと不満気な反応をされたことにはイライラしたもので、俺も負けじと悪態を突き返していた。


 隙あらば殴ろうとしてたなこれは。仮面のせいで俺まで内面の性格悪い素が出ちまうわ。

 コイツに限ってはやられる前にやるのもアリだな。俺ならそう……金槌に因んで海に沈めるか。そしたらオルディスが処理はしてくれるはずだし。


「――コホン! 話が脱線しまくりなのでアスカさん、ここから頼めますか?」

「へ? ぼ、僕?」


 いよいよ俺らの番。この流れのままに質疑応答を開始しても良かったが、ここで俺はアスカさんにその役目を譲るべく動く。

 俺のこの申し出はそれなりに意外だったのかアスカさんが目を丸くしており、言いたいことはあるのだろうが言葉がつっかえて出てこないようである。


 俺も仮面に聞きたいことは結構あるけど、現状での最優先事項を確認することの方が先決だ。そしてそれを確認するのはアスカさんにとって非常に大切なことのはず。ならばアスカさんが適任だと俺は思う。


「俺とこの人じゃ話が拗れて中々進まないんで。それに――アスカさんが聞きたい内容の方がまず優先でしょう?」

「っ! ……ああ、分かった。ありがとう」」


 噂はあっても安否までは分からなかった『剣聖』。その実情を知っているかもしれない人物がすぐそこにいるのだ。余計な話を挟んで耐えていた時間は俺らよりも遥かに貴重な時間に感じていたに違いない。


 だからこそ今はアスカさんの話したいことを好きなだけ話してもらいたいと思う。俺と会うまでの期間をずっと一人で耐え、焦りに身心を削り続けて巡りめぐって今をようやく迎えたのだから。一番のチャンスの前でも黙ってる道理はないはずだ。


 語り手は俺からアスカさんへとバトンタッチし、俺はその間静観することに決めた。


 さて、『剣聖』に何が起こったのか真相を追求するとしようか。


※1/8追記

次回更新は今日か明日です。

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