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神鳥使いと呼ばれた男  作者: TUN
第七章 悠久の想い ~忘れられた者への鎮魂歌~
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423話 密談②

 


「では早速……。フリードさん、貴方は術式をパイルもなしに扱うことができる。それで間違いありませんね?」

「ええ、多分ですが」


 術式=魔法が正しいならそれで間違ってないだろう。そこがそもそも分からないので俺が断言できる自信は今のところない。そのためここはあやふやな返答一択である。


「多分……とは?」

「実は術式って言われてもピンときてなかったりします。俺が使っているのは術式じゃなくて魔法と呼ばれるものです」

「魔法……ですか」


 記憶を失くして自分で初めて使ってみて真っ先に浮かんだのがそれだった。その時に微塵も術式なんて言葉は浮かびもしなかったし、魔法であることになんの疑いもなかった。


「これまで術式を使ったという意識も無ければ、そんな言葉も知らなかったくらいです」

「術式を知らない……? 一体どういう……」


 俺が術式を知らなかったように、仮面もまた魔法という言葉に心当たりがないようだ。ゆっくりと確認するような話し方になり勢いが抑えられていく。


「えっと……もう一度その魔法? っていうのは何か使えますか? 『インビジブル』以外で」


 仮面は頭ごなしに俺を否定したりはせず、独り言を交えながら俺に再度魔法の使用を求めてくる。

 仮に否定したところで『インビジブル』は俺の知るものと仮面の知るものとで効果が一致しているので、それ以外の魔法もとい術式のすり合わせという意味合いだということはすぐに分かったものだが。


 俺もハッキリさせておきたいし依存はない。

『インビジブル』以外となるとそうだな……。無害だし『アイテムボックス』とか? 剣でも出すか。


「『アイテムボックス』」

「「っ!?」」


 少し身体を前に出して膝に置いていた右手を持ち上げる。そのままぐにゃりと歪んだ空間に手を突っ込み、念じ欲した物体……大剣を横向きに引きずり出す。

 何度見ても至ってシンプルなデザインをした無骨な全体像だ。あの日確認した時からちっとも変わらず時間を感じさせていない。


「何もないところから剣が……!」

「これは……」


 大剣を見てアスカさんは目を丸くし、一方で仮面は然程驚きはないようだった。セシリィは『アイテムボックス』を使うところを何度も見てるから驚きはないはず……と思ったが、今回ばかりは大剣事体に驚きはあったらしい。

 まぁ大抵は自分の身の丈にあった取り回しの良いサイズが自分の得物になると思われる。そこへあまりに規格外なサイズのこの大剣だ。俺の背丈と同等……セシリィには自分の背丈よりも大きなサイズなため無理もない。


「予想はしてましたがそんな貴重な術式まで使えるんですねぇ」

「貴重なの?」

「ハイそれはもう。ここの連合軍内で使える人は一人だけですから。知っている人自体が殆どいないんじゃないでしょうかねぇ」

「そうなんだ……。お兄ちゃん毎日使ってたからそんな気がしなかったけど」

「だな。最初から当たり前のように使ってたもんなぁ」


 ふーん? 術式に珍しいとかってあるんだなぁ。便利なものとは思ってたけど。


 確かに考えてみれば『アイテムボックス』の存在には終始助けられっぱなしではあった。衣服も装備も食料も路銀も何もかも、ここに必要なものが集約されていたからこれまでそこまで苦労がなかったのは間違いない。

 大勢の人が手を塞いで運ぶ規模の荷物を一人で賄える他移動に何の制限もない。これこそまさに魔法だろう。俺にとって『アイテムボックス』は旅のお供とも言うべき高性能魔法だと言える。


「察するに『アイテムボックス』っていうのはその名の通り物を収納することができる……ってことかい?」


 俺はともかくアスカさんは術式に関しては素人同然だ。目の前の光景から一体どんなものであるか推測し確認を取ったようだ。


「その通りです。質量を無視して異空間に生物以外を収納できてしまえるというものになりますねぇ」

「質量を無視して!? どんな原理なんだ……」

 

 用件は済んだので『アイテムボックス』に大剣を戻すと、その様子をアスカさんが疑いの眼差しを向けながら見ていた。


 言いたいことは分かる。一体どこにしまってるか俺も訳分からんし。

 だけどそれを言ったらこんな小さい質量をした我々が剣一本でモンスターとやり合える現実も不可解な気がしますけどね。質量なんて合ってないようなもんだろうに、原理とか今更ではなかろうかと思ったり。


「原理はこれから解明するんですよ。――尤も、術式の中でも無属性は扱える方が少なすぎまして……。まだちっとも研究が進んでいなくてそれくらいしか判明していないのが現状ですがね」

「そうなのか」

「でも丁度ここにサn……協力してくれそうな人がいますからチャンスですね」


 コラ。本音漏れかかってんぞオイ。


「誰がサンプルですか。せめてそこはオブラートに被検体とかにしてくださいよ」


 俺がサンプル扱いだなんて全く失礼しちゃいますわ! 


「大差ないじゃないか……。むしろ被験体の方が生々しい気がするんだが……?」

「え? そうかな……」


 仮面に心外だと反論する中、アスカさんの困り顔を見て自分の発言がおかしなものだったかと疑問に思ってしまう。


 はて? 俺的にサンプルだとモノみたいに聞こえるしまだマシだと思ったつもりなんだけどな。そうじゃなかったの?


「……まぁともかく、術式っていうのは使えたら凄く便利な異能みたいだね。話を聞く限りじゃ無から有を生み出すみたいな現象に僕はてっきり怪しいものってイメージが強かったんだけど、こうやって見るとフリード君が羨ましくなるよ」


 え? あんさんホンマですかいな。


 少しだけ羨望の眼差しを向けてくるアスカさんと目が合う。そしてすぐさま俺は愛想笑いが出ていた。


 そんなこと言っていいのかな? そしたらもれなく俺と同じくサンプル素体になりますけども。

 自ら被検体を所望とは中々のドMっぷりじゃないかアスカさん。解体されないようにお互い祈りましょうや。



 しかしまぁ――無から有……それは何も知らない人からすればそうなのかもしれない。超常の現象は一度見ただけで人を惹き付けるだけのインパクトがあるのだから。

 ただ、当然世界はそんな超常現象を起こすことに対して無償のサービスを許してはくれない。

 使うにしても魔力がいる。そして元となる肉体に負荷も掛かる。必ず何にでもあるべき代償の上に成り立ち、然るべき代償は無条件に支払わされている。


「フリードさんが連合軍にいたらどの部隊でも引っ張りだこになりそうですねぇ」

「全力で拒否させてもらいますよ。そんなことしてる余裕ないんで」

「それは残念だ」


 大袈裟に肩を竦めた仮面も本気では言っていないだろう。残念には思ってくれているのかもしれないが冗談じゃない。


 つか全て知っている俺がどんな理由で連合軍に入りゃいいんだよ。俺が入りでもしたら冗談でもなく世も末だ。


「『インビジブル』、『アイテムボックス』……。補助系以外のものも使えますよね?」

「はい。屋内なので今は控えてますけど」

「フリードさん、実害出さなければなんでも構わないので適当に魔法を発動してもらっても構いませんか?」

「全然構いませんよ」


 先程から俺が披露する内容は特殊な効力を持ったものばかりなのが気になったのか、仮面がそれ以外の実害性のある魔法を要求してきた。やはり興味がある以上は見れるものはみたい魂胆なのだと思われる。


 ……もう面倒だから全属性出しちゃえ。最弱シリーズなら心配いらんだろ。ホレ。


「わぁ……!」


 指を動かして適当な大きさに揃えた各属性のボールを同時展開し、目の前で整列させる。淡い光が羅列して浮かぶ様はまるでシャボン玉のようだ。セシリィが突つきたそうに感嘆の声をあげていた。


「綺麗だな……今度のこれは?」

「恐らく各属性の最低級……ですね?」

「そうです」


 仮面の言い当ては正しく素直に俺は頷いた。それと同時に俺もほぼ確定といっていい事実を認識し始めていた。恐らく仮面の方も同じだろう。


「息をするように同時に……しかもサラッと全属性コンプリートですか。スペックが何世代も先の機器みたいなお人ですねぇ全く。……常識ないんですか?」


 やれって言われたからやったのに感想がそれかよ。褒め言葉なのは分かるけど酷いな。


 乾いた声が紡ぐ言葉の棘がダイレクトに突き刺さる。非常識な人に同等の扱いを受けるというあるまじき屈辱は本心から言われてるからこそくるものがあった。


「ふむふむ、顕現事体は紛れもなく術式そのものですか。『陣』はまぁ最悪ないのはともかくとして本当にパイル無しに使えるのは間違いないようだ。――パイルも必要としていないということはつまり、パイルがどんなものかもご存じでない?」

「パイル……それ聞きたかったんですよね。パイルとかいう機器に関しては全く分からないですね」

「それはなんと……」


 それはさりとて話は続く。


 仮面の方から切り出してくれて助かった。もしも魔法と術式が一緒だというならアニムでのあの連中が持ってたよく分からん機器の存在意義が俺にはよく分からない。

 魔法は己の力だけで発動することができるはずだ。それが術式はなんで機器に頼らなければならないのか? そこに魔法と術式の違いはありそうだと俺は考える。


 その違いは一体なんなのか。果たして仮面は最後にどんな結論を導き出すのだろうか? 気になるところだ。


「……」


 仮面は腕を組み出すと身体をそのままジッと硬直させた。どうやら深い思考に突入したようでかなり集中しているらしく、顎に手を当てた指が微かに動いているのが色々考えていることを想像させる。

 すると――。


「アスカさんの方はパイルについてどの程度ご存じで? 先の会話から察するに……」


 興味の対象は俺だけではなかったのだろうか?

 首だけこちらを伺うように動かし、仮面は何か気がかりを解消したいのか別の質問をぶつけ始めるのだった。


「ああ。僕もフリード君同様に何も知らないな。一応パイルという機器が術式には必要だということは知ってたくらいかな」

「成程。……あの、お二人は出身は東の方でよろしいんですか?」

「僕はアネモネの出身だ。だけどフリード君は……」

「俺は……ちょ~っと訳あってどこで生まれたかは実は知らないんですよね」


 俺とアスカさんは割と珍しい黒髪同士の組み合わせだ。特徴から同じ出身を疑うのも無理はない。

 それどころか未だに俺達三人の関係性すら話していないのだからようやくかと言いたいくらいである。


「そうですか……。それはすみませんでした」

「いえいえ」


 探りで不覚にも失言だったと感じたのか仮面が俺に頭を下げる。俺の場合は全く悲観するようなことでもないので気にする必要は皆無であると伝えたいところだが、これは伏せておく方が余計な興味を惹かせないので無難だろう。少しだけ黙っているのが申し訳なく思う。


「セシリィちゃんはどうです?」

「わ、私も全く知らない……です。ずっと山奥で育ったから……使っている人もその話も聞いたことないです」

「……身近なものではなかった、と。はい、分かりました」


 緊張しながらではあったもののセシリィも自分の質問にはキッチリと答えたようだ。当たり障りのない事実をそのままに。


 よく頑張りました。アスカさんじゃないのに変態相手に偉い偉い。

 まぁセシリィの場合代わりに『法術』があるから術式は必要ない気がするけどな。多分術式よりも法術の方が上位互換な気がするし便利だと思う。


「ふむ……貴方方が何故行動を共にしているかも正直気になる所ですが今は不問としましょう。しかし黒髪だから同じ認識だと思ったんですけど、その確証がない以上はなんとも言えませんねぇ。もしお二人が東の出身であるなら術式の認識に違いがあるのは少し不自然だ。一旦仮定だけしておくとして、魔法という言い方は東とは無縁のものであると考えた方が良さそうですねぇ」


 あ、なんか少しご満足いただけたようで。少しは疑問解消しましたかね?


 俺が東の出身であればアスカさんと俺の違いから有力な情報が得られる可能性はあったかもしれない。その望みが実質確認のしようがない以上は歯がゆそうではある。

 手が届きそうで届かない……近くて遠い事実のようなものなのかもしれない。


「何か分かりそうですか?」

「むしろ分からないことの方が増えそうですよ。いやぁ~困りましたねぇ……!」


 ……その割に楽しそうなんですが? 言葉と態度が一致してないのは困りますなぁ。


 仮面に大したことも伝えられていない気がしてはいたが、仮面はこの状況さえも楽しそうに感じ取っているらしい。本人の言葉とは裏腹に不満気な印象が微塵も伝わってこなかった。


 ……前向きなのは良いことだ。多分。


 やる気を削ぐどころか対抗意識を燃やしてしまったようで、これより仮面の質疑は更に一層早くなっていく。


「フリードさん、術式名を言ったり言わなかったりする場合の違いについては何かあったりするんですか?」

「え? 発動が簡単なものは言わなくても出来ます。言えば発動時の魔力消費量が減るほか制御が楽になりますし、言わなければ魔力消費は増えて制御も難しくなります」

「……魔力とは?」

「多分マナのことかと。俺は魔力って言葉しか思い当たらなかったので」

「そうですか。――ということは、名称が展開前の準備に関わるわけではないのですか……。それだと『陣』は一切構築せず……? 流石に一気に顕現までできてしまう説明がつきませんねぇ……そうなると……」


 仮面の知る術式の知識と俺の魔法の事実がぶつかり合い、仮面の迷走染みた真実の追求が進もうとしていた。


 俺も術式がどのように発動していたかを思い出し、自分の魔法と具体的にどう違うのか比較してみる。

 術式はパイルと呼ばれる機器を使って『陣』と呼ばれる不思議な円環の紋様を浮かび上がらせるのが特徴的だった。これは俺の知る『陣』とも一致しており、見た目もそのままである。

『陣』とは魔法陣として使われる略称のことだ。魔法にも『陣』を利用したりはできるが、大抵が魔法の威力の底上げや制御が困難な際に補助として用いる程度である。そのため必ずしも使わなければならないものではないので使用頻度は低く、また日常生活ならまだしも目まぐるしく動く戦場においては活用する機会に中々恵まれない技術と俺は思っている。


「魔法には『陣』はそれ程重要じゃないですね。むしろ重要なのは脳内でのイメージ……というかそっちが必須レベルです。そしてそのイメージに見合う詠唱も唱えて魔力を練り……魔法は発動する流れになりますね」

「……あのー、イメージだけで使われでもしたら異次元すぎるんですけど? 術式の立つ瀬がないんですが」


 そんなこと言われましてもねぇ。いじけんなよ。

 というかそんなに違いがあることに驚きだよ。どういう段取りで術式って発動してるんだろう?


「イメージだけで……? そんな馬鹿な……。いやでも実際出来てしまってる以上は……いやいや……!」


 仮面が苦悩するようにぶつぶつ呟きながら首を傾げる。

 魔法にはパイルも『陣』も絶対に必要というわけではない。だが恐らく術式にはパイルの他に『陣』も必要なのだろう。そしてその部分が仮面は引っかかっているのだ。


 近い事象でも全くの別物であるなら真実に届くことはない。今俺らのしている会話はいやらしくも届いてしまいそうだと錯覚させるだけの案件ではあっただろう。


 発動した結果は同じ。名前も同じ。でも過程が違っていて俺の使う魔法だと術式で必要な段階を色々とすっとばしている。多分ここら辺が重要になってくるんじゃないだろうか?

 ……でも果たして問題はそこなのか? なんかこう……根本的な部分から違うような気がするのは気のせいかな……。


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