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神鳥使いと呼ばれた男  作者: TUN
第七章 悠久の想い ~忘れられた者への鎮魂歌~
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422話 密談①

 

「ささ、どうぞ入ってください」


 裏路地から移動し、人目を忍んで入り組んだ脇道を暫く進んだ先で仮面の男が歩みを止めた。目の前には少し黒ずみの目立つ古めかしい石造りの建物があり、扉を開いて俺らを中へと促す仮面の男を三人で見つめる。


 似たような建物が連なっているので一人でここに来たら迷子になること間違いなしだなと思う。更に周囲には建物が高くそびえ立っているため視野が狭く、自分達が一体何処にいるのかは正確には分からなかった。

 ただ、頭に叩き込んである地図を想像するにここが住宅区画の若干寂れたエリアであることはなんとなく想像できた。


「……」

「大丈夫ですよ。ここには早々誰か来たりしませんから。職場の人も来ないのでご安心を」


 仮面の男がなかなか足を踏み入れようとしない俺らに進言を入れたくれたようだが、人気がないからこそこの場所が特別である可能性は捨てきれない。


 心配するだけ無駄だと分かっているつもりでも素直には動けないな。……用心だけはしておこう。


 焦らず慎重に中へと入り、真っ先に部屋の隅々を見渡した。そして飛び込んでくるものは得体の知れない機器がそこかしこに無造作に散らばっているという光景だった。部屋自体も入口を除いて後は大広間のようになっているだけで部屋とは言えず、なんとなくホールを思わせる構造をしているようだ。


 ……変わってんな。仮面はここで暮らしてるんだろうか?


「自宅……ですか?」


 最後尾のアスカさんが入ると扉が閉まった。施錠の音がしたのを確認し仮面の男へと聞いてみる。


「いえ、自宅は別のトコですねぇ。ここは長らく空き家だったので勝手に拝借して私のラボとして占領してるだけです」


 ……ん? 今なんて?


 人が住んでいるとは言い難かったため確認してみたのだが、やはり別の目的で使われている建物であったようだ。しかし別の意味で驚かされていてそちらに注意が向いてしまう。


「勝手に拝借ってそれマズいんじゃ……?」

「ハハハ」


 笑って誤魔化すなや。

 空き巣にしちゃ盗むものが大きすぎませんかねぇ? 共犯と思われたらどうしよう。


 俺の疑問は軽く受け流されただけのようだ。仮面の男が気にした様子もなく棒読みの笑いを披露している。


「大丈夫ですって。流石に半年くらい居座ってたら苦情があったんで。家主には話を通して今は使用料も払ってますよ」

「……半年も使ってるんですね」


 既に痛い頭が更に痛くなりそうだ。被害に遭った家主さんには同情しかない。


「ま、当然費用は研究費から勝手に落としてますが」

「オイ」

「だって家賃馬鹿にならないんですもん。薄給なんで結構やり繰り大変なんですよ?」


 知るか。一体何が当然なのだろうか? 当然という言葉について一度討論させてもらってもよろしくてよ? 

 全然大丈夫じゃねーじゃん。不正してるしやりたい放題だなコイツ。

 組織自体がデカすぎるからバレないもんなのか? 経理ガバガバすぎる気が……。

 家主さん、今すぐ契約打ち切った方がいいかと思います。ロクなことにならなさそうなので。


 仮面の男は足元に気を付けながら適当に元々開けていた場所の機器を周りに押しのける。するとソファと椅子をせっせと部屋の片隅に用意し始めた。まるで集団面接みたいに一人と三人とで向かい合うセッティングを整えると座り込み、俺らも合わせてソファへと身を預けた。

 静まり返った室内で椅子とソファが軋む音だけが鳴る。


「ちょっと散らかってますがそこはご容赦を。そんじゃま、ずっとなぁなぁにしてたんでここらで自己紹介だけさせてもらいましょうか」


 ソファの中央で仮面と対面して腰を落ち着けると、程なくして次へと進んでいくようだ。定石通りの展開に変な話だがホッとした気分である。


「ちょっとさっきもお伝えはしてましたが、連合軍特殊部隊所属……名をアイズ・マーロック。それが私の本名になります。どうかお見知りおきを」

「っ……」


 やっぱりか……。


 何食わぬ顔で……といっても仮面をしているが、サラリと身分が明かされた。

 俺らの予想は当たっていたようだ。目の前にいるのは紛れもなく警戒していた人物の一人であったらしい。事前に知ることができていたためそこまでの動揺は俺らにはなかったが、一瞬だけ息は詰まった。


「……じゃあこっちm「フリードさん、アスカさん、セシリィさんですね? それだけ分かれば十分ですよ」……そうですか」


 流れを汲んでこちらも名乗ろうとしたものの、手を口に押し当てられたみたいにそれは遮られてしまった。どうやら裏路地での会話で話の節々で名前を呼び合っていたのを覚えていたらしい。


 わー。俺ら想像以上にロックオンされてらぁ。

 アイズとその『眼』の異能なだけにロックオンってか? この仮目ん玉さんよ。

 ――なら公式? な挨拶の場だし今度こそその面拝ませてもらいましょうか。一体どんな瞳をしてやがんのかね?


「仮面はオフでもつけたままなんですね?」

「あ、そういえばつけたまんまでしたね……これは失礼」


 おお……! 思ったよりあっさりいけた!?


 これ以上失礼の働きようがないので最早微塵も気にしていないが、俺がサラッと言ってみると仮面の男は常識をここでようやく発揮してくれるようだ。思い出したように仮面に向かって手を伸ばし、掴んだ掌を引く。その動作がゆっくりと俺の目に映っていた。


 よし! 早く取ーれ、取ーれ、取ーれ――えぇ……。


「ふぅ……。あ~……やっぱりつけてると少々窮屈ですねぇ」

「「「……」」」


 思い切り息を吐きだして脱力する仮面の――もうこの際メンドいから仮面で統一してしまおう。仮面が仮面を取り外してその下に隠していたものを曝け出す。

 しかし――。


 い、意味が分からん……! なんで……なんで……っ……!


「なんで仮面の下からまた仮面が出てくるんですか……!?」


 仮面の下に隠されていたモノ……それはまた別に被っている仮面であった。元々被っていた仮面と全く同じ形状と色合いをしていたため、手に持たれていると仮面が分裂したと錯覚してしまいそうになる。

 二つの仮面を交互に見ながら俺らが言葉を失っていると――。


「どうかしましたか? ……ハッ!? これは流石にあげられませんよ?」

「……も、もう、いいです……」


 いや要らねーし誰も盗らねーから。どんだけ仮面に執着してるんだよコイツは。

 その素で困った反応されると何も言えなくなるんだよなぁ。声の感じからしてこの人三十歳はいってないだろうし、どうやってここまで生きてきたか分からんな。


「あ、そうですか……てっきり欲しいのかと。やっぱり変な人達ですねぇ。折角取ったのに」

「窮屈って言う割にまた付けるのか……」

「そりゃそうですよ。昔からどうも恥ずかしがり屋なものでしてねぇ。付けてないと落ち着かないんです」


 自分の言ってることが正しいみたいな言い方されてもねぇ……。


 仮面を欲しがっていると思われたことを否定すると、仮面はまるで自分から吸着されるように再び顔面に戻された。装着前と変わらない姿が全く同じ状態で上塗りされた……らしい。


 仮面の仮面の下には仮面があって仮面は仮面の顔面の仮面の仮面の役割をしてたってことですね。あらま、なんてこったい。

 ヤバい、仮面の乱用率が高すぎて自分でも何言ってるか分からなくなるわこれ。というか昔からなのかよ。




 これは……気にしたら負けですね。

 そんなに顔見られるのが嫌なんだろうか? 異常なコンプレックスを抱えてたり、もしや傷があったりとか――いやいや、この人そういうの気にしないに決まってるわ。


 正直恥ずかしいという発言は信じていない。となると別の理由でもあるんだろうな、多分。ファッションって言われたらそれまでだが。


 だが王都の皆さんお気をつけて。この人顔面に少なくともフェイスハガー二匹付けてます。




「では早速本題の方に移らせてもらいましょうか」


 はいはい。なんかもうその仮面の秘密が本題でいいんじゃねとか思ったり。……冗談だけども。


 仮面による仮面の茶番もようやく落ち着きを見せる。仮面は足と手を組み始めると、前のめりに構えてそう告げた。


「その前に……最初に言っておくことがあります」

「ええ、どうぞ?」


 仮面の態度から本番がようやく始まった空気を感じ取った以上俺も釘を刺す部分は差しておく必要がある。

 ちなみにここでやればできるじゃねーか思ったのは俺だけじゃないはずだ。敢えてどちらにとは言わないが。


「貴方が知りたいと思うことはできる限り話します。その代わり必ず俺達のことは他言無用でお願いします」

「勿論」

「――ただ、もう一つ要求があります」

「なんでしょう?」

「俺達も貴方の正体を知った以上は色々と知りたいことがある状況です。ですからそっちの疑問に答えた暁にはこっちの聞くことにも答えられる範囲で構いませんから全て答えてもらいます。それでもよろしいですか?」


 知りたいことがあるのはこっちもなんだよ。


「……フッ、拒否権は私にないのでしょう? ならそれで構いませんよ。どうせ嘘をついたところでお嬢さんが気づいてしまうでしょうから」

「……すみませんね」

「いえいえ、お気になさらず」


 俺の要求に対して仮面は特に拒否は示さなかった。

 認めたくないが仮にも向こうの配慮? で存在を伏せられる立場にありながら偉そうなことを言っている自覚はある。それでもこっちもチャンスは無駄にしたくはない。

 まともな相手じゃないからこそ交渉の余地はあると踏んだのだ。仮面は知りたいことの価値の大きさではなく、あるなしが重要であると。これが通常の感性をした人なら到底無理な吹っ掛けなのでここまで踏み切れなかっただろう。




「フフ……一体私に何を聞きたいのかちょっと楽しみですねぇ。私の知ることであればなんなりと提供しましょう。連合軍として機密情報の漏洩も喜んでしますよ」

「アハハ……」


 全く反応に困ることを平然と言うので困ったものである。


 うんまぁ知ってた。アンタならそう言うんだろうなって。

 けどそこは形だけでも拒否しなさいよ。そんなビラのばら撒き感覚で言っていいのか……。有難いけども。


 今だけは仮面の感性に感謝する他なかった。


※12/29追記

次回更新は本日です。

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