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神鳥使いと呼ばれた男  作者: TUN
第七章 悠久の想い ~忘れられた者への鎮魂歌~
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420話 仮面の客人③


「その『眼』、ですか。かなり厄介そうですね……!」

「もしかして私のこの異能に興味が湧いたりしました? だったらそれ教える代わりに貴方の方も色々教えてくれません? 情報交換しましょうよ。折角会えたからにはこの出会いを無駄にしたくないのですが……」


 今すぐに大きな問題にならなさそうではあるけど、後々に響いてくる気がする。連合軍関係者が相手……そんなものは全て関わり合いを断ちたいところだ。

 話を一時は呑んで時間を稼ぐという意味では提案を受ける利点はある。だが結果的にあまりにリスクの高い提案としか思えない。


 ここで、口封じしなきゃいけないのか……?


「それはそっちの都合でしょう? こっちにその気はありませんが?」

「えーそりゃないですよー。ケチー」


 リアクション腹立つな。


 俺が少しだけ興味を示す発言をしたことに過敏に反応した仮面の男が食いついた。しかし俺はそれを一蹴する。


「――で、終わるとでも?」

「……」


 だろうな。終わらせてなんてくれるわけがねーよ。


「言ったはずですよ、事は荒げたくはないと。仮に私と貴方達の証言……果たしてこの街はどっちを信じるでしょうねぇ?」

「「っ!?」」

「貴方達と私じゃどっちを信用するかは明白。それは言わなくても分かるでしょう?」


 仮面の男は予想通り引き下がってくれるわけがなかった。更には大した自信の言葉に俺らは何も言えず、状況が悪い事実を受け止めるだけだった。


 認めたくないがコイツが言ってることは本当だ。連合軍に在籍してるのが事実なら。

 こんな見た目をした人に信用度で負けてるとか屈辱的だな。身分が違うからしゃーないが。


「それは……脅しのつもりかい?」

「そこは交渉と言って頂けるとお互いに好都合なのではないですかねぇ? 私はね、ただ知りたいだけなんですよ。そっちの貴方がどのようなカラクリを使ったのか……それさえ聞ければ後はどうなっても構いません」


 あくまで興味の対象は俺というわけか。つまり俺の返答次第で今後が左右されると。

 ……無駄だとは思うけど、そっちがその気なら一応反論してみるか。全部バレてるなら尚更な。


「カラクリなんて存在しないし、パイルなんてものも使っていない。それだけだって言ったら?」

「フム、そうですか……。でも納得はしかねますね。疑うとかではなく現時点でパイル無しに術式の発動は不可能とされそれが当たり前の世の中です。貴方という一人の例外が何を答弁したところで疑わしいことに変わりはない。どのみち無断使用したことも変わらないので拘束する口実はあります」

「……素直に応じると思うんですか? 俺の力量を見抜いてその発言ができるならそれこそ無意味だ。そもそも俺がアンタを始末して口封じすればいいだけの話ですけどね」


 手を前に突き出して俺は威嚇する。今の発言を裏付ける意味を込め、逆に脅すつもりで。


 なんせこの距離だ。やろうと思えば一瞬で沈められる。

 死人に口なしという言葉もある。脆い身体に鈍い挙動。不気味な異能が脅威なだけでこの人自身は強くもなければ怖くもない。軽く一捻りできるだろう。誰が相手であってもと言えばそれまでのことだが。


「フフ……この状況を脱するというならそれが手っ取り早いでしょうねぇ。――本当に貴方にそれができるんならね」

「……」


 その仮面の下に隠した表情を駄目元でひっくり返してやりたい気持ちはあったが、そんな単純なモノが通じるわけがなかった。

 そもそも全部視てから目の前に堂々と出てこれるような肝が据わった人物なのだ。ある意味この動じない姿は当然ではあった。


「貴方程の人ならあんなゴロツキ程度指一本で片をつけるなんて朝飯前だ。それをわざわざできるだけ穏便にやり過ごしたのなら悪目立ちしたくない理由でもあるんでしょう? そちらのお兄さんが武力行使しようとしたのも止めていたみたいですし、貴方達はコソコソしなければいけない事情を抱えている」


 チッ、見抜かれてる。


「ここで私に何かあれば連合軍は必ず気づきます。これでも地位はそこそこありますしあまり得策とは言えませんねぇ」

「……この程度、俺にできないとでも?」

「っ!?」

「……ええ、できませんよ貴方は。その身に似つかわしくない謙虚さとモラル……それが貴方の力の枷になっている。――大抵力を持ち過ぎた人は常識が外れると思ってたんですが、貴方はまだ常識を持っているようだ」


 突き出した拳に魔力を纏わせて空気を震わせる。簡素だが絶対に触れたら危険な雰囲気を醸し出してはみたが気にした様子もない。


 まぁアンタよりか常識はあるつもりだよ。すげぇレベル低い相手で勝った気にすらならんけど。


「だから私もこうして遠慮なくずかずか踏み込んで話せるわけです。危険じゃない人なんて力があろうがなかろうが一緒だ。今の私にとっては非常に有り難いことですね。――詰みですよ」


 賞賛されてんのか貶されてるのかどっちなんかねぇ? まぁ多分どっちもってことなんだろうけど。

 これがコイツに興味を持たれてる部分にも繋がってそうだわな。


「悪いことは言いません。貴方の秘密を話してもらえませんか? 話していただけるならそれ以上は求めません」

「無理だと言ったら?」

「なら即座に上に報告して大事にしましょうかねぇ。貴方達に私を傷つける意思がない以上はやりたい放題できますし」


 嫌がらせかよオイ。敵わないと知って尚突っ込むのか。


「フリード君、どうする? 僕には信用できる話とは思えないんだが……。根掘り葉掘り聞かれて利用されるだけなのが目に見えてるよ」

「アスカさん……」

「彼等に目をつけられた以上もう穏便にとはいかないんじゃないか?」


 嫌な汗が流れるのを感じて勝ち誇った様子な仮面の男と対峙する最中、後ろからのアスカさんの声が俺の気を逸らす。そして何を言おうとしているのかを瞬時に察し、構えはそのままに振り返った。


「安心してくれ。ちょっと驚かされたけど僕は君達のことを信用している。……だから要望があれば従うつもりだ。僕なら彼を斬れるぞ……!」

「な……!?」

「えぇっ!? お兄さんそれ反則ですって!? そんな殺生な……!?」


 アスカさんは俺の隣に並んで立つと刀を僅かに引き抜いて刀身を覗かせる。

 正直短絡的……と言いたいところだが、仮面の男本人が言っていたように最善ですらあり得る行為。それをやってのけようという意思を見せていた。


「罪ならもう犯しているしね。昨日君も言ったようにこれ以上罪を重ねたってかまいやしないさ。どのみち騒ぎ立てられるくらいならこの場で斬っても変わらない。まだ時間だって稼げるだろう」


 俺らの計画に賛同した時点で既に覚悟を決めていたからかアスカさんに迷いはなさそうだった。俺の肩を後ろに引いて一歩下げさせると、仮面の男に代わって対峙していってしまう。


 だが……本当にこれでいいのか? 認めたくないがコイツ自身には罪があるわけじゃないわけで……。

 それ以前に俺がこの事態にした張本人なのに何もしないってのはどうなんだ。不始末も拭えないなんて情けなさすぎるぞ。


 連合軍関係の人物であってもただ自分達の目的のために不幸を被ることがあってはならないはずだ。そこは世界の意思相手でも妥協してはいけない一線。

 結構頭のネジが飛んでそうなコイツも例外……にとはいかない。本音を言えば例外であって欲しいが。


「お、穏便に済ませる方法ならもっと簡単で安心なのがあるじゃないですか!?」

「なに……?」


 ――右に同じく俺も「なに?」で。


「よく考えてもみてくださいよ。私を殺せば連合軍は必ず気づきます。逆に殺さなければ気づかせなくすることはできるってことですよ?」


 ……? どういうことだ?


 仮面の男の慌てた挙動をアスカさんと一緒にジト目して見る。いきなり変なことを言い出したなと、この時アスカさんと俺は心の中がシンクロしていただろう。


「だって君このまま返したら僕達のことは報告するんだろう?」

「え? 義務でもないことをなんでわざわざしなきゃいけないんですか? お金になるならまだしもただメンドくさいだけなのに」

「「……」」

「……?」


 なんでこっちが真顔で聞いてんのにアンタまで真顔になるんだ。意味分からんって顔やめろや。こっちの方が訳わからんのに。


「あの、確認なんですけど貴方達はコッソリ何かしたいんですよね? それも連合軍に目を付けられないように的な形で」


 おう。その通りだよ。

 バレたら終わりなことしようとしてますが何か? そんで今バレたんだよちくしょうめ。


「貴方達は色々話すだけで私に口封じできるんですよ? このことは私達だけの秘密ってことにすれば上にバレる心配なんか要りませんし騒ぎにもならないと思うんですけど……。私何かおかしいこと言ってますかね……?」


 ……おかしくね? 色々と。本気で言ってるならそれがおかしくね?


「ま、待ってくれ……君が上に報告しないと僕達が信じられるとでも? 自分で何を言ってるのか理解してるのか?」

「してますよぅ! というかちょっと心外ですねぇ」


 会ったばかりで信用度皆無の人に心外とか言われる筋合いはないんですけど。

 そこはせめて人外とか言っておきなさいよ。その方がまだ意味が通じるわ。


「これでも私、宣言したことは守る性質なんですからね? むしろこれ以上ないってぐらいの提案をしてるのに……。ハァ……なんで気づかないかなぁ……」

「……?」


 仮面の男が眩暈を覚えたように手を額にあてて首を振ると、不意に見えた瞳がやけにこちらを哀れんでいるように見えた。

 俺達が困惑していたからかセシリィも状況が気になったのかもしれない。俺の背中からひょっこり顔を出すと俺達と仮面の男を観察しているようだった。


 気付かないんじゃなくて、まともだからこそその考えに至れないんだと思うんですけど。連合軍の一員とは思えん裏切り発言じゃねーか。

 俺達がおかしいんじゃなくてアンタの提案が異常なだけですからね? なんで俺ら今呆れられてんだろ。超解せぬ。



「フリード君どう思う?」

「ちょっと何言ってるか分かんないですね」

「ちょっ!?」

「うん、同感だ」

「そんなっ!? ……う~ん、これでも駄目ですかぁ……。――あ、そうか。すみません、流石にいきなりすぎましたよね」


 お? いきなり冷静になった。コロコロ忙しいな。


 仮面越しではあったが何かに気がついた、それか閃いたような仕草を露骨に示している様子にちょっと俺らに安堵が生まれる。


 そーそー。ようやく分かってくれましたか。

 流石にそれ以上アンタのとち狂った話にはついていけな――。


「ゴメンナサイねぇ? もう一回ゆっくり説明した方が良いですよね?」


 そうじゃねぇえええええっ! もうなんなのコイツ……!


 思い通じず……儚く散った期待は最早回収しようとする気にすらならなかった。


 言ってることの意味を理解するって意味ならついていけてるよ! でもついてはいけねーんだよ!

 説明なんて二回も要らねーよ! すっげー分かりやすかったよ! でも頭は追いつかねーんだよ!

 


※12/16追記

次回更新は今日か明日予定です。

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