表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神鳥使いと呼ばれた男  作者: TUN
第七章 悠久の想い ~忘れられた者への鎮魂歌~
421/531

419話 仮面の客人②

 


「お兄ちゃん……!」

「大丈夫だ。……落ち着け」


 仮面の男から目は離さずにすぐにセシリィを背中に隠す。俺がこの時大きく取り乱さなかったのはセシリィの存在があったからだろう。いなければ発声の一つでもしていたかもしれない。


 確かに驚いたし今も動揺全開だって自覚はある。まさか俺達より怪しい見た目をした人に怪しまれるとは思わなかったうえに、最も避けるべき組織の一人と遭遇してしまったんだからな。




 でもまだ疑いを持たれただけだ。何も計画が悟られたわけでも終わったわけでもない。

 正確に最善の行動を取れるようにせめて思考だけは冷静でいさせろ。計画を持ち出した以上は俺にはそう在る義務があるはずだ。




「――ぷっ、アハハハハッ! ちょっと皆さん驚きすぎじゃないですかねぇ? 言い出しっぺのこっちが反応に困るからやめてくださいよ~。ちゃんと謝りますから」

「え?」


 ――と俺は思っていた。仮面の男が再びちゃらんぽらんな雰囲気に戻るまでは。


「フフ……冗談ですって。特務部隊に今言った権限なんか存在しません。そんなに勤勉な部署でもないですし」


 こ、コイツ……!


 ケラケラと笑う声に包まれると一気に脱力すると共に、今度は別に腹立だしい気持ちが前面に沸々と込み上げてくる。無駄に警戒させられたことに対し、また遊ばれているような問答事体が面白くなくて。


「……ふざけてるんですか?」

「いやいや、こんな見た目ですけど特殊部隊所属っていうのは本当ですよ? あと開発者っていうのも。でも私の業務にこんな取り締まり行為なんて一切含まれてませんもん。貴方達がどこで何をしてようが正直どうでもよかったりします」


 さも自分に悪気はないと思っていそうな仮面の男はそう言うのだった。果たしてこの言葉も何が真実なのかの見極めが非常に困難なので真に受けるべきではなかったのかもしれないが、完全に相手のペースに俺らは嵌っていたのだろう。

 後になって強く思うが、この瞬間は全てが狙い通りだったのかと本気で疑いをかける一時であったと切に思う。


「第一貴方達は視える(・・・)限りじゃかなりの善人のようですし取り締まる必要もなさそうですからねぇ。まぁそもそも貴方という存在を相手に私如きが何かできるわけでもなし……。返り討ちが目に見えてますから」

「……」


 は……? 


「それはどういう……? 視えるって……?」


 セシリィのことがあるので視えるという言葉には過剰に反応してしまう。


 というかまただ……また何か見られてるようで気持ち悪い。


 ゾワッとするような……身震いしても振り払えない、肌に纏わりつくような悪寒。舐めまわされる気分とはこのことを表すに違いない。

 最初にも感じたその気味の悪い感覚の正体……その正体はまさかのものであった。そしてこればっかりは俺が厄介だと感じた予感は見事に的中していたようだ。


「ん? ああ、私その人がどんな人なのか大体見抜けるんで。ついでになんとなーくその人の力量……力の強さとかも分かるんですよねぇ」

「え……」


 なん、だと……!? 


 さらりと出てくる発言には驚かされてばかりだ。いや驚愕と言う方が正しいか。

 話してもいないのに知られている。そして視えるという言葉の使用。これらが組み合わせられることで身近にいるセシリィが思い返され、俺は仮面の男を同列に見てしまった。


 それじゃまさかこの人、俺の情報を知った……? 嘘だろ……。

 てかそれこそ一体どんなカラクリだよ……!


「視えるって……そ、それ天使の力じゃ……?」

「へぇ! よくご存じなんですねぇ? 確かに天使の人達も視えるという言い方をするのは聞いたことがありますが」

「っ……!?」

「成程、これはこれは……増々貴方が興味深くなりましたよ。信じたことはないですが神様には感謝しないとですねぇ」


 しまった! 余計なことを……。


 思わず口走っていた言葉に男が興奮気味に食いついてきたのを見て内心舌打ちする。相手から逃れるつもりが興味を引かせてしまったのは明らかな失態だった。血の気が引くみたいに余裕がどんどんなくなっていくのを感じる。


 マズい……マズい……マズい……。これマズいって……!


「天使だけに許されたあらゆる真実を見透かすという力。当然ですけど生憎と私は流石に天使ではありませんのでご安心を。天使とは違って所詮表面上を探る程度の異能を持っただけの者……内面までは視れやしません。それでも傲慢な力にあやかっている自覚はありますけどね」

「……心までは視えていないと?」

「アハハ! そりゃそうでしょう? そんな反則みたいな力なんて私にあるわけないじゃないですか! でももしも心なんてものが視えるんならいいですねぇ! 他人の秘密を盗み放題でとっても楽しそうだ。背徳感万歳って感じですかねぇ?」

「……さぁ? んなことどうでもいいですが」

「あれ? そうですか……。――あ、ちなみに今のはなるべくオフレコにしてくれると助かります」


 興奮したことでペラペラと勢いよく色々と話し始める仮面の男の言葉に、少しだけ安堵して一斉に冷や汗が噴き出していく。

 一瞬危惧したもののあくまで持っていると思しき力は天使の力に近しいものなだけのようだ。心ではなく別の部分を視る力であるらしい。――それだけでも破格だが。


 天使程じゃないにせよ視るだけで何かしらの情報を得られる力はかなり厄介だ。それを簡単に口にするのは正直意味が分からない――というか何か裏があるのか?

 疑心暗鬼になるようなこと言いやがって……。


「……コホン、とまぁ貴方が普通じゃないのはもう分かってますから。言い逃れしても無駄です」

「っ……」


 仮面の男は一人興奮していることに途中気が付くと気を取り直して俺を見てそのまま視線を固めた。それは俺はこの場から逃がさないように拘束しているようで、俺もまた仮面越しの瞳に縛り付けられたように目が離せなかった。

 幸いにも思考だけはフル回転で動いていたのは救いであった。


 もし心を視られてたら一発アウトだった。こんな人にセシリィの秘密を知られたら終わりだ。それだけはなんとしてでも防がないと……!


 俺の力量は見抜かれてしまったのが本当だと仮定しても、仮面の男がセシリィの正体に気がついた素振りは今のところない。どうやら俺にご執心な様子なので良いカモフラージュになったのは不幸中の幸いとでもいうべきかもしれない。


 ――それでも状況はよくないけどな。クソ……!


「もしかするとその強さに今の術式使用の秘密なんかも隠れてるんでしょうか? フフ、一体どんな経緯があればそれ程の力を身に付けられるんですかねぇ? ――今まで色んな人を見て来ましたけど貴方は別格……いや論外だ。……そう、まるで人の皮を被った化物ですね」

「ハハ……いきなり化物扱いとは言ってくれますね。見た目通り失礼な人だ」

「アハハ! これはすみませんねぇ。私昔からどうも思ったことをすぐ口走っちゃうもので」


 それがこうして行動力にも出ていると? 滅茶苦茶性質が悪いんですけど。

 これまで痛い目に遭ってきたことないんだろうか? いや、多分懲りてないだけなんだろうな……。


 頭を掻いて反省の素振りを見せている仮面の男に俺は疑問しかなかった。連合軍はもっと厳格な組織と思っていただけに、こんな奇々怪々とした人物がいることに面食らうしかなかったためだ。


「でも事実でしょう? そっちのお兄さんも相当な実力者のようですけど、貴方と並んでいるとよく分かる。比べる意味すらないと」

「それ程までに……!?」


 第三者から言われると信憑性も変わったのだろうか。アスカさんが驚き交じりに吐露していた。


 俺だけじゃなくアスカさんの力量の方も分かるのか……。まだ何も話を聞いてないはずなのに実力者であることを知ってると。

 その持ってる力とやらは本物みたいだな。天使でもないならなんなんだよ一体。


「ええ。お兄さんなら連合軍の実務部隊の隊長クラス以上に匹敵することでしょう。恐らくあのロアノーツさん相手でも良い勝負になりそうな気がしますよ」


 へぇ?


「ロアノーツ……ここの連合軍のトップか」

「あ、そですそです。知ってらっしゃいましたか」

「そりゃ有名な人みたいだからね。とても僕なんかが相手になるとは思えないけど」

「ご謙遜を」


 固い表情のままアスカさんも返答する。話し相手が急に俺から移ったのもあるが、どう足掻いても仮面の男が怪しいのは俺と同様のはずである。緊張感をもって接しているのが伺える。


「……」


 グイグイ踏み込んだ発言は無礼極まりない。でもその態度は確信が内にあるからこそなのだと思われる。要は全部バレているのだ。


 多分どう弁解したところで誤魔化すことはできないんだろう。なら開き直って白状して、絶対にセシリィに興味が移ってしまわないようにだけはしないと……。




「――驚きましたよ。そこまで分かっちゃうんですか……」

「はい。この『眼』のお陰様で」

「分かっているなら俺の力を視てなんとも思わなかったんですか? 恐怖はないんですか」


 恐怖を感じない人なんて存在しない。心でも壊れていない限り必ずその感情は本能として人の表面に顔を出すもののはずで、この人だってそのはずなのだ。


 不気味に感じたのは何も恰好だけじゃない、この大胆不敵さもある。

 さっきの拘束云々の冗談も含め、本当に俺に興味があるだけで接触してくるなんて安易な真似をしてくるのか? 


「結果的に言えばですが……今はもうありませんよ? だって貴方自制できてるようですし」

「自制……?」

「はい。勿論さっき貴方を最初に見たときは声が出ませんでした。本当はもっと早くに声を掛けるつもりだったんですがあまりに現実離れした圧力に腰が引けちゃいましてね……ハハ」

「……」

「でも、視れば視る程にだからこそ貴方は危険人物ではないと確信しているんですよ。その誰にも抗えない圧倒的な力があるから、貴方は危険じゃないと思えたんです」


 俺が危険かどうかなんてのは俺自身が明確に意思を示せるものじゃないからなんともいえないけど、俺に力があることで危険じゃないってのは矛盾してないか……?


 仮面の男の言い分がイマイチピンと来なくて俺は頭を唸らせた。そしてその答えはすぐに明かされるのだった。


「在り方としてはあまりに歪なのが否めませんが、貴方自身の元々の気質もあることは視て分かります。ただ、私程度の障害なんて貴方にとっては弊害にすらならない事実がある。竜が蠅を一々気に掛けるかって話ですよ。――それだけの差が我々と貴方ではあるのだから」

「っ! もしかして、つまりフリード君にとっては誰もが脅威の対象にすらならない……ってことか……?」

「大袈裟に言えば、ですけどねぇ。多分そこの人、その気になれば数秒でこの街を滅ぼせますよ」

「っ!?」

「ビックリですよねぇ、一見ただの大人しそうなお兄さんなんですから。――その実態がこれです。そんな人に興味を持つなって方が無理じゃないですかねぇ? そう思いません?」


 アスカさんに真実を突きつけて同意を得ようとする仮面の男はいじらしく俺の様子を伺っていた。


「とんだ曲者に出くわしたもんだ。参りましたねこりゃ……っ!」


 たった少し視られただけでそこまで情報を抜き取っていくアンタも大概だろうが。

 あと一々持ち上げすぎでは? この化物め。


※12/13追記

次回更新は今日です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ