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神鳥使いと呼ばれた男  作者: TUN
第七章 悠久の想い ~忘れられた者への鎮魂歌~
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418話 仮面の客人①

 


「な……!?」

「フフフ……!」


 景色に溶け込んでたみたいに急に……!? どういうことだ……。


 今日はよく声を掛けられる日だ――と、そんな風に気楽に思えれば良かった。

 クッキリと姿を現した声の主、それは口元以外を白い仮面で隠した茶髪の細身の男であった。シュッとした身を包むように紳士服を着込み、傍目気品の良さが伺えるが……狂気を感じる仮面の姿が全てを狂わせていた。

 どこかで仮想パーティーでもやってるのかと言う余裕もなく、口元に薄く笑みを浮かべているその人物から俺らは目が離せない。


「フッ……脚光を浴びるのは照れますねぇ。――でも悪くはない! とぉうっ!」

「「「っ!?」」」


 来る――!?


 考える暇と動き出す暇も与えてはくれない。俺達の緊張を無理矢理破るように仮面の人物は勢いよく動き出した。照れ隠しのような動作から一体何を思ったのだろう。なんの躊躇いもなく五メートルはある上段から俺らの眼前へと飛び降りてくる。


「フッ……」


 目の前から力強く乾いた音が俺らを通り過ぎ、裏路地全体へと響き渡った。地面に槍を突き刺したように足元をおぼつかせることすらしない、そんな見事な勢いある着地だった。まさに直立不動と言ってもいい。

 地面を思い切り踏みしめて降り立ったその佇まいはとにかく異質で、素顔を晒していないことも異質な面に拍車を掛けている。数歩歩けば触れられる距離になるとより仮面の男の不気味さが見えてきそうだとこの時は感じていた。


「「「……!」」」


 この身のこなし、そしてさっき姿を消していたこと……。こんなのを間近で見ちゃったら普通じゃあなさそうだなこの人。恰好からして大体そのまんまだけど。

 とにかく怪しい。


 未だ謎の人物は微動だにしない。仮面越しに瞳でも合いそうな気がするがそれもなく、それでも動きがないかとジッと待っていると――。


「――痛い」

「は……?」

「~~ッ! あ、くぅ……!? わ、私としたことが……高揚しても慣れないことはするもんじゃないですねぇ……っ! あ、足が……!」

「え、えっと……?」


 いきなり全身を震わせたかと思うと仮面の男は自分の膝を手で抑えて身を屈め始めた。どうやら俺が感じたものは全て的外れであったらしく、着地の衝撃に全く耐えられていなかったようだ。感覚が鈍いのか遅れて痛覚が襲ってきたようで、痛みを堪える奇声すら震えており正直こちら側は反応に困ってしまった。

 痛みに悶える姿を見たまま時だけが進んでいく。


 いきなり登場したかと思えばいきなり何やってんのこの人……。反応に困るってレベルっていう話じゃなくて本当に意味が分からない。

 てかたった少しの段差から降りたくらいだろ? それなのに痛いとか貧弱すぎかよ。




「あ゛ァ゛ァ゛~……!」

「あのー、大丈夫ですか……?」


 最初の意気揚々とした声はどこへいったのか、ゾンビみたいな声に何故か不安を煽らされる始末だったので流石に声だけは掛けておいた。これでもし本当に大事に至っていたらそれこそ笑えない。――いや最初から真顔ですけども。


「だ、大丈夫です……。――ふぅー。やっとこさ痺れが取れてきましたよ」


 ――ただ俺の心配は杞憂に終わったようだ。仮面の男は膝を震わせたままゆっくりと立ち上がると返事ができるくらいには回復したらしい。


「これはお見苦しいところをお見せしちゃいましたねぇ」

「「「……」」」


 ええ、本当に。ここまでストレートな見苦しさも珍しい。

 あとさっきのゴロツキ共よりもセシリィを怖がらせないでくれます? 主に恐怖というよりも気味悪さ的な意味で。

 アスカさんなんて刀の柄に手ぇ当てちゃってるよオイ。


「それは別にいいんですけど……」

「お? そうですかそうですか! で、貴方今のどうやったんです?」

「え? 今のって……?」


 グイグイ迫る勢いで仮面の男からの質問が始まった。この自分のことはそっちのけで本題? に入ろうとしてくる姿勢に中々主導権は奪わせてもらえる気がしなかった。


「またまたぁ~、とぼけても駄目ですよぉ? ちゃんとこの眼で見てるんですから。今貴方が使っていたのは紛れもなく『インビジブル』だ」

「っ!?」

「連合軍でも扱える人は一握りの高等術式。私が知る限りでも五人といない。パイルも無しに繊細なその術式を顕現させられる人なんて私は見たことがない」


 恐らくだが俺がシラを切っていると向こうは勘違いしたのだろう。こちらからすれば本当に話の中身を理解してはいなかっただけなのだが、それがきっかけでまさか俺も初めての遭遇を果たすとは思いもしなかった。

 本来ならこんな人は無視するのが無難だし俺もそうすべきだと脳裏にほぼ確定の一案がよぎりはした。だが気になる点が俺に待ったをかけてしまう。


 今、この人『インビジブル』って言ったよな……!?


「見たとこ発動時から解除に至るまでパイルを使用した素振りもなかったご様子。――これでも私、魔道具開発に携わる身なのですよ。あまりに不可解なのでこうして声を掛けさせてもらった次第です」


 不可思議な現象、奇蹟の顕現、専門用語なら術式としか誰も言わず、その中身の名称を正確に答える人は一切いなかったというのに、何の迷いもなくその単語をこの人は持ち出した。

 術式と魔法はやはり同一のもの? ならなんでパイル? とやらが必要なのに俺は要らないのか。そんな疑問が当然生まれるわけだが俺は更なる疑問に驚かされている最中だった。


 ちょっと待て、その言い方だと最初からこの場にいたのかこの人……!? 別に俺は気配察知に長けてるわけではないけど、こんなに近くにいる人に気が付けない程感覚は鈍くないつもりだぞ……。

 身分は開発者とか言ってるが内容はともかくどうも嘘くさい。少なくともさっきのゴロツキ共よりは厄介な人物な気がしてならない。

 ……なんで次から次へと変な人に絡まれるんだ。順番待ちでもしてんのか!


「……どこの何方かは知りませんが貴方に教える理由はありませんが?」

「おっと? これまた可愛い顔に似合わず怖い眼をお持ちのようだ。――なんとなくですが納得です。地雷を踏んだならしくじりましたかねぇこれは」

「……?」


 何が納得なんだ? 


 仮面の男は地雷を踏んだなどと言いながらも口元は薄く笑みを浮かべたままであった。俺がどんな反応をしようが自分のペースを崩すことはないと言っているかのように。

 これがなんだか自分のことを隅々まで見られているような気分で気持ち悪く、相対していると悪寒が走りそうになる。


「フム……成程。分かりました。簡単に口外できるものではなく、それなりの対価が必要ってことですか」


 仮面の男は腕組みして少し頭を捻る。そして辿り着いた解答……俺が答えなかった理由をそのように解釈したようである。


 いや、別にそういうことではないんですけどね……。見ず知らずの人と最初に交わすような内容じゃないってだけですし。

 まずは段取りを踏まえていない点に留意して頂きたいッス。あと溜息つかれても困ります。


「対価とかいきなり言われても……。さっきから全部いきなりすぎませんか? 姿を現した説明もないのにそんなことを急に言われても困りますね」

「えぇ……。それ貴方が言っちゃいます?」


 うるせー。今はほっとけ。


 お互いに姿を消していた身同士で自分のことを棚上げしている自覚はある。でもいきなり話しかけてきたのは相手側なのでこの揚げ足取りは知ったことではない。


「確かに……」


 アスカさんや、そこで少し同意するような態度やめてくれませんかね? 今は協力者同士なんだから気を確かにの間違いだったと言ってくれ。


 ……まぁ確かに俺みたいな奴と協力してる時点で気は確かじゃないとは思わないでもないんだけど? ちゃんと後で説明するから待ってくださいよ。




「と、とにかく! 失礼ですけど貴方は怪しいとしか思えないですから。悪いですけど予定もあるんでこれで失礼させてもらいますよ」

「そんなこと言わずにー。確かにいきなり現れて悶えるような奴は怪しいかもしれないですけど……」

「なんで見た目じゃなくてそっちがメインになってるんですか……」


 気になる点は大いにあるのだが、それ以上に関わるべきではない気がしてその場を立ち去ろうと試みる。しかし仮面の男の食い下がりに捕まってすんなりとはいかなかった。折角セシリィの手を引こうとした手が止められてしまう。


 オイオイ、まず顧みるのは仮面してるところからでしょうに。着眼点が既におかしいことにお気付きか?


「お節介かもしれないですけど先入観で人を判断するのは止めた方がいいですよ? 見た目が怪しいだけで害がない人だっているんですから」

「ええ、ここまで説得力のない忠告は聞いたことがないですね」


 うわぁ……本当にお節介すぎて言葉もねぇ。今のアンタ公衆の目前で全裸晒して変態じゃありませんって公言してるようなもんじゃねーか。そりゃ常識的に無理あるやろ。

 非常識と常識って言葉がなんで使い分けされてると思ってんだ。――アンタみたいな人がいるからだよ。

 せめてお話するなら常識を連れて来てからにしてくだされ。生憎と俺らは見た目だけはまだ常識なので。


「ハァ……これは困りました。案外頭が固いんですねぇ。――あんまり事は荒げたくはなかったのですが仕方ありませんね」

「……?」 


 急に雰囲気が変わった……? 


 仮面の男と仮面越しに瞳を合わせると、それまでの軽い雰囲気を感じさせない程に据わっていた。冗談はここまでで遊びは終わりとでも言わんばかりに。

 気のせいか寒い風が裏路地を吹き抜けた気がした。




「連合軍特殊部隊としての権限を行使。街中でのパイルを用いた術式の無断使用及びパイルの無断所持の疑いを確認。セルベルティア領内規約に基づき貴方達を拘束します――」

「っ!?」


 俺らは淡々と告げられた言葉に対し、驚き交じりの戦慄と共に言葉を失った。


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