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神鳥使いと呼ばれた男  作者: TUN
第七章 悠久の想い ~忘れられた者への鎮魂歌~
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414話 吐露③

 


「ハハ、それだとまるで君は普通じゃないみたいな言い方だな」

「――ええ。もし俺を普通と呼べる人がいたらその人も問答無用で普通なんかじゃないでしょうね、確実に」

「……は?」


 俺の返しを予想もしなかったのか、表情を固まらせるお兄さんが顔をあげる。呆けたようでもある反応は俺がとち狂ったことを言い出したことによるものか、それとも真に受けて理解しようとしているのか。


 まぁそんなのどっちだって構わない。普通もなにも最初から異常だった俺にはこの異常だって普通みたいなものだ。普通の人には俺のやることはとち狂ってると思われたって仕方ない。




 ――さてと、ここから先は冗談はなしだ。

 大分諦めの気持ちが強そうな印象だったけど、俺如きの言葉でもちょっとでも響いてくれるといいんだが……。


「……」

「(変わらぬまま、か……)」


 ここまでやりとりを進めても隣のセシリィの意思は依然変わらないままだ。そして俺自身、セシリィの意思を抜きにしてでもやりたいことが定まっている。それなら後はその意思を行動に、心の望むままに進めばいいさ。


 そう、二人一緒に。


「お兄さんさっき、世界に反する行いが~とか言いましたよね? ちょっと本題からズレますけど……お兄さん自身は世界に反する行いをすることについてはどう思ってるんですか?」


 天使に対する理由なき嫌悪感は俺以外の人の間だと世界共通。そこで俺はお兄さんに念のためこのことを問いただすことにした。


 ぶっちゃけこれはお兄さんには関係のない、でも俺達には関係のある内容だ。

 オルディスから世界の意思についてはある程度聞いて既に色々と知っている。タイミング的にも丁度良いしついでだ。意思の力が薄まりかけているという中で、果たして今お兄さんがどの段階にいるのかをついでだから計らせてもらうとしようか。


「……? すまない。少し言ってることが分からないんだが……」

「簡単に言うと罪の意識があるのかどうかってことですかね」


 俺がなんでこんなことを聞くのか絶対不思議に思ってるだろうな。


 一瞬キョトンとした表情を見せたお兄さんだが、すぐに難しくない質問だったと分かったらしい。少し考え込む様子でベッドに座る体勢を一度正すと、視線は俺い合わせないまま答えてくれた。


「……正直な話、罪の意識はそんなになかったりする、かな。こんなの頭では駄目なことだって分かってるハズなのに」


 本来であればここは問答無用で罪の意識があるべきである。いや、むしろこんな行動に移すこと自体が考えられないはずなのだ。俺の知る真実に当てはめてみて完全に矛盾したお兄さんの返答には少しこちらも心が揺れ動く。


 察するにこの人もウィルさんと似たような感じか。完全にではないけど、恐らく大分意思の影響が薄まってるみたいだ。

 そしてこれが浮き彫りになったのは多分……『剣聖』への想いが意思を上回ったからってトコかね? 


 もうちょい踏み込んでみるか――。


「そうですか。では天使のことについてはどう思ってます?」

「天使? ……どうって言われても、今まで見たこともないし別にどうとも思ってはないよ?僕は争いは好きではないから、和解でもなんでもいいからとにかく早く戦争が終わってくれって思うくらいかな。それがどうかしたのかい?」

「……いえ、なんでも」


 どうもこうもあるか。その言葉は今の俺らにとって必要だったものだ。

 この絶望がほぼ確約された世界でセシリィに希望を少しでもあげられる。セシリィがお兄さんの心を視て言葉としても聞けたことに意味がある。

 ――ま、流石にそれは言えないけど。


「天使撲滅が絶対の中で、それすらどうでもよくなるくらいに『剣聖』さんを助けたいと思った。つまりはそういうことですか」

「その言い方だとちょっと誤解を招きそうだけど……まぁそう言って差し支えないのかな。アイツが大切なのは確かだから」


 ヘイ毎度。

 大切な人発言頂きました~。今度はさっきとは違って恥ずかしがらずに言えてしまっているあたりに上級者みを感じるのは気のせいですか? ……気のせいと思うことにしましょう。


 ただ……こういう秘めた熱さを持って行動に出る人は嫌いじゃない。むしろどちらかといえば俺の好きな部類に入ってしまう。

 自分の心に従った素直な姿。そういうのを見ると出来る限り力になってあげたいって思っちゃうんだよな……。


 一応『剣聖』と会って話すにあたり、身内の人にいてもらった方が俺らも会った時に話がしやすい。そういう意味でもお兄さんをここで助けると好都合な側面はあるが、そんなのは後付けに過ぎない。

 この人に力を貸して協力したい。俺はお兄さん個人と話し、今そう思っていた。




 セシリィ……これでいいんだな?




「(コクリ)」


 セシリィもお兄さんへの警戒を解いて極めて落ち着いている。最初から既に決まっていたようなものだが、俺らの意思は一致していた。


 お兄さんのその冷めてしまった諦めの顔に、もう一度熱い火を灯してやる……!


「だったらまだ諦めるには早すぎますよ。こんなところで……大切な人をこの程度のことで諦めてる場合じゃないと俺は思います」

「え?」

「これまでのお兄さんの二ヵ月間の葛藤、その時間全部を意義あるものだったことにしてやりますよ」


 お兄さんの反応を置き去りする勢いで俺は椅子を立ち上がって歩みを進める。そしてまだ返していなかったお兄さんの要求を遅れながらも返し、そのまま続けた。面食らうお兄さんを無視して。


「『剣聖』さんとお兄さんの事情は分かりました。だからこれが俺達が今話を聞いた上でのお兄さんへの返答になります。――もっと詳しくこれまでに得た情報を教えてもらえませんか?」

「へ?」

「単純に助け出すだけじゃ駄目そうですしまず綿密に計画を立てないといけない。……セシリィも何か良い案あったら言ってくれな?」

「うん」


 やることが決まったといっても一体何があるかは分からない。俺の力ですら対処できない事態が起こる可能性は否定できないし、この街には来たばかりで知らないことが殆どだ。今はとにかく情報をできる限り集めてまとめることが最優先だろう。

 そこでお兄さんという俺らの要求を満たしてくれる的確な人物がすぐそこにいるのなら聞かないのは可笑しい話だ。


 世界の意思の影響が少ない人ならこちらとして大歓迎である。しかもお兄さんだけじゃなく『剣聖』さんの出向に対し不満を覚えたという東の村の人達のことについても興味はある。

 東の地には天使に纏わる意思の影響が低い実情でもあるのかもしれないし、土地柄や種族も意思に染まる影響力に関わっている可能性があるという話だからな……。この次への流れに入れるかもしれないなら知っておくべきだと思う。


「二ヵ月もこの街にいたなら独自に掴んでるものもあるでしょう。できるなら包み隠さず全部話してもらえると……。それとお兄さん、この街の地図とかって持ってますか? あるなら出してくれると捗るし嬉し「ちょ、ちょっと待ってくれ!?」――はい?」


 自分の中でどのように事を進めていくかを構築し始めたところへ、水を差し邪魔をする引き留めの声が口を噤ませる。


「状況がよく掴めない――え? 君達は僕を捕まえようとも……いや、それどころかやろうとしてたことを否定もしないのか!?」

「しませんよ? おかしいことでしょうけど当たり前でしょ?」

「おかしい……けど当たり前……? なんなんだそれ……」

「言ったでしょう? 普通じゃないって。だって大切な人を守ろうとする『気持ち』に間違いなんてないじゃないですか」


 お兄さんの立場からすれば当然の反応に俺は苦笑いするしかなかった。


 ありえない吐露からのありえない肯定が返ってきたわけだもんなぁ。棚から牡丹餅ってレベルの案件じゃないから驚かない方が難しいわ。


『犯罪を企ててました!』

『うんむ。実にグッジョブ!』


 だってこんな感じなわけですし。俺ならお兄さん以上に混乱してたこと必至ってなもんですよ。


 まぁ簡単に言うと俺らは類友ってやつなんじゃないかなとは思う。少し語弊はあるだろうけど。


 お互いの背景に何が隠れていようが大切な人のために動いている者同士であることに変わりはない。その事実さえ変わらなければ俺らは互いを理解し合えると思えたのだ。

 他ならぬ、常識に縛られていながら想いを偽れなかった貴方となら。


※11/8追記

次話本日投稿しました。

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