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神鳥使いと呼ばれた男  作者: TUN
第七章 悠久の想い ~忘れられた者への鎮魂歌~
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413話 吐露②



「一月経っても戻ってこないことはこれまで一度もなかったこともあって、村中で流石におかしいって話になったんだ。アイツの身にきっと何かあったんじゃないかって……。そして僕が代表して安否を確かめにここまで来たってわけさ」

「それで……『剣聖』さんの情報を探っている間に路銀が尽きてしまったと?」

「……うん。本当に情けない話だけどね」


 お兄さんが意気消沈したように声を暗くして落ち込んでしまい、言わなければ良かったと思わないでもない気持ちになった。

 ――が、ここまでに至る中で得たモノに大きい手掛かりがあったから必要経費であったのは間違いない。……というフォローはしておくことにする。


「それで……実際のところ『剣聖』さんについての情報は何かあったんですか? この街に暫くいたということは幽閉されてるっていう確信を持てる有力な情報があったってことですよね?」


 お兄さんも意味も無くこの街に残ったりはしないはずだ。手掛かりのないままずっと足踏みしているというのも考えづらい。


「ああ。僕もこの街に来てから随分と色々聞き込みをしてみたんだけど、やっぱりアイツはこの街に来てたのは間違いないみたいだ。二ヵ月以上前にそれらしい姿を見たって人が何人かいたみたいだから」


 やはり……。


 噂では聞いたことはあっても姿までは見ないことには分からない。目撃者の証言というのも信憑性を疑うレベルは脱していない事実はあるが、東の地方面特有なのかお兄さんの独特な和を思わす旅装からして『剣聖』もそれなりに目立つ格好はしてたはずだ。それを元に証言したというのは考えられる。


「この街には無事来てはいたと……。でも――」

「そう。街でアイツの姿を見かけたって声はいくつかあったのに、街を出ていったっていう話は全くと言っていいくらいになかったんだ。この街の入口は全部で四つ。その全ての入口以外から出ることはできないし、出たとしても必ず人目に触れるはずなんだ。君も通っただろう?」

「た、確かに割と厳重な検閲してましたもんね……」


 お、おう……。普通人目につかない出入りはできないはずですよねー。ハハハ……。

 自分のことは一旦忘れよう。触れてはならんのじゃ。いいね?


「つまり、街からは出てはいないと?」

「そういうことだろうね。アイツがこの街に残る理由はないし、それでいて村に帰ってこない理由があるとすれば間違いなく連合軍絡みだろう」


 多少否定したい事実をスルーしつつ、お兄さんの事情をおおよそ把握して整理する。一応聞く意味はないに等しいとは思うが、気になる疑問は聞いておくことにした。


「でも相当腕が立つんですよね? 仮に連合軍に捕まっているとして、抵抗とかはしなかったんでしょうか?」

「アイツなら無抵抗で捕まることは容易に考えられる。アイツは誰かを傷つける力は持っていても、傷つけられるような心は持ち合わせてないんだよ。抵抗しないことが争いを避けることになるならアイツは間違いなくその選択を取るはずだ。それに……村にまで来た部隊のことを考えると僕らを人質に取る手段に出ないとも限らないだろうな……」

「そう、ですね……」


 腕が立つのであればそう捕まるようなことにはならないのではと思ったものの、やはりそこは『剣聖』さんの人柄的にも可能性は低そうだった。そして予想できる展開と周りへの被害を嫌った自己犠牲を選んでいるという線も否定できない状況。お兄さんの厳しめの表情から察するにかなりややこしい事態となっているらしい。


 お兄さんがセルベルティアに来たのは二ヵ月前だ。今までお兄さんの村が実害に遭っているような話がないなら『剣聖』が脅しとかを受けているというわけではなさそうか? 

 連合軍のやってることはアレだけど流石に『剣聖』相手ともなれば多少は寛容ではあるのかもしれない。……本当に多少だけど。

 でもそれもいつまで続くか分からないしな……。




「分からないことはまだ多いんですけど……お兄さんの事情は少しだけ分かりました。なんというか……只ならぬ事態に直面しているってことは理解しましたよ」


 俺も決して人の事は言えないんだけど、お兄さんの方もハチャメチャな状況だなとつくづく思う。状況を知れば知る程にお兄さんに対して親近感が湧くような……不謹慎だがそんな感情が芽生えて同情してしまう自分がいるわ。


「ここまで大ごとになるとは思ってもみなかったよ。後悔しても遅いけど、楽観視せずあの時アイツを引き留めておけばよかった……!」


 太ももに肘をついた両手で握り合わせ、その拳を僅かに震わすお兄さんから力の込められた後悔が漏れる。

 あの時と言うのは『剣聖』を見送った時のことを言っているのだろう。きっと今、その時の自分の姿を思い出しているに違いない。


 恐らくそれだけ『剣聖』さんはこの人にとって大切な人なんだろうし……。


「ずっと気になってたんですけど、お兄さん随分とその『剣聖』さんと親しそうな感じですよね」


 かの『剣聖』さんをアイツ呼びしてるくらいだしな。こういうのって大体――。


「え? まぁ……そうだね。アイツとは小さい頃からの付き合いだし、最近までは毎日顔合わせてたから」

「へぇ……そりゃまた……」


 ホラ来ましたー。ようこそいらっしゃいましたお約束展開様。

 もしかしなくてもそれって幼馴染パティーンなんでしょ? 何その非リア充を絶対殺す偶然的なまでの補正要素かつ設定は。しかも会いたかった人の重要人物みたいな人に出会っちまったって一体俺どんな巡り合わせしてんだか……。


 運命よ……俺を殺す気か? まだ世界の意思と戦う前だというのに。


「その人のこと、お兄さんは好きなんだね?」

「ぼ、僕とアイツはそんな関係じゃ……。小さい時から一緒だったから家族みたいなものなだけだよ」


 俺でも察した背景をセシリィによる駄目押しが追撃すると、お兄さんが少し慌てながらも否定して首を振った。


 いやいやお兄さんや、全部話すと言いながらここで嘘をつくのはよくないと思いますよ? この娘が言う限り既にネタはあがってるんだからな。

 セシリィが微笑ましくしているのがなによりの証拠じゃい。このリア充め。

 というか家族云々の時点で自分から自爆してようなものですから。こちらから爆ぜろと言うまでもないッスよ全く。いや、それよりももう少し恥じろ。


 巷ではこのような時に殺意を抱く人もいなくはない状況といえるのだろうが、生憎と俺はそこまでは流石に思わない。それよりも心にグッと込み上げる熱い行動力をお兄さんに見せられたことの影響の方が大きく、セシリィと二人して微笑みの眼差しを向けては困り顔をするお兄さんを更にジッと見つめた。


 さて、ここでちょっと整理を致しまして……。

 今の話をまとめるとお兄さんは好きな女性(ヒト)を助けたくてここまで来たってことでよろしいな? というかそれでもうよろしいわ。うむ。


「で、でもこれで分かっただろう? 僕のやろうとしてたことというのは連合軍への反対、世界意識に背く行為だ。経緯はどうであれ、客観的にみて天使撲滅を掲げる中で力を貸そうとしなかったアイツも、そしてそれを助けたいと思っている僕も……とても擁護できるような立場じゃないんだよ」


 そして、俺らの視線に耐えられなかったのか話を急にブツ切りにすると、お兄さんは自らの立場を改めて俺らへと告げる。……確かに事実ではあるのだが、まさにあからさまな逃げの口実を使って。


 だが……ハイ、俺もこれでもかと分かってしまったであります。経緯=俺の女を返せやゴラァッ! ってことだとな。セシリィもいるし分かりやすく端的に言えばそういうことですね。


「分かったなら僕を連合軍にでも突き出すといい。もしかしたらそこでアイツと再会できたら笑えるけど……もうどっちにしてもお手上げだ。連合軍を相手に僕ができることなんてないだろうしな」


 現実を見てしまうと行動力を失っても仕方がない。お兄さんはそう言い訳するようにここで一番の溜息をつくと、無力な自分を卑下して俺らにそう促すのだった。




「普通の人なら、お兄さんが言うようにそうするのが多分当たり前なことなんでしょうね」


 ――だが断る。


 俺に連合軍へ貴方を連れて行けと? 一体何の冗談ですかねそれ……。

 多分まだ伝わってないだけで、俺が連合軍に連行されるようなこと既にしちゃってるんですよねぇ。

 一体どこに連合軍に喧嘩を売った体で赴ける奴がいるというのだ。俺はまだ身も心も清いのに身体を売るような真似はできませんとも。




 それにまだ諦めるには早すぎる。


※11/1追記

次回更新は明日です。

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