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神鳥使いと呼ばれた男  作者: TUN
第七章 悠久の想い ~忘れられた者への鎮魂歌~
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411話 因果

 


「「「……」」」

「えっと……」


 何故か俺に一斉に視線が集中するというおかしな事態。まるで俺が一番悪い人扱いにしか見えない構図にタジタジになりながら、現状を打破するためにまずは気持ちを落ち着かせる。


 うーん……理由は後でと言われましてもなぁ。なにその答えは番組の最後で的なの。

 そう簡単にある意味無責任な人助けをしていいもんか疑問がないといえば嘘になるし……かといってセシリィの珍しい要求に応えないってのもなぁ――。


「……駄目?」

「ん、よしきた。超任せとけ」


 お嬢様、なんなりとお申し付けくだされ。


 背中に隠れて生えている翼もしゅんとしているのが分かる落ち込みをされたら断れない。これで断れる奴がいたらそいつは最早人じゃない。というか生き物じゃない。人類の尊さここに極まれり。

 悩みなど一瞬で吹き飛んだ思考は意図しなかった言葉すら俺の口から吐き出させる。既に後の祭りのためもう勢いで対応する他なくなってしまった。


 ヤベェ、セシリィの強制力超パネェ。

 これがあの馬鹿共が言ってた嘘っぱちの他者を操る力ってやつですか!? セシリィ(スゴ)い。


「あの……今からでもここに俺達が泊めてもらうことってできますか?」

「ん? 全然それは構わないけど……一体どうしたんだい?」


 こうなりゃもうなるようになれ! 俺らもここに泊りゃいいだけだろ。


 店主さんに勢い任せに聞いて今夜のねぐらの確保に乗り出すと、了承は得られたが疑問を抱かれてしまったようだ。話の転換が急すぎたという自覚はあるのでこれは仕方がない。


「今日俺らも宿を探してるんです。空いてるならそこをお借りしたくて……。ついでにその人の分の宿泊代も一日だけ払いますよ」

「「えぇっ!?」」


 まさかこんな流れになるとは思わなかったのか二人の声がまたも重なった。俺自身こうなるとは思わなかったから同じ気持ちを叫びたいところではあるのだが……。


「な、なんで……?」


 お兄さんが目を丸くして俺を見る。つい先程セシリィのくりくりとした眼差しを見たばかりのため対比が酷く、中々に顔立ちの良いお兄さんではあるがやはり大人の人から向けられるのとではわけが違う。


 ……まぁそりゃ今声を掛けられたばかりの人が無償で助けてくれようとしているのだ。同じ立場なら俺だってそんな反応にはなると思いますがね。同じくくりくりした眼差し向けちゃうと思うくり。


「この娘人を見る目があるんです。だったらそれを信じてみようかなって……」

「……」


 セシリィが心を視れるということは伏せつつそれっぽく理由を伝える。

 俺から視線を落としてセシリィを見つめるお兄さんは声にならない驚きを見せているままであったので、一度放置して店主さんと話を進めていく。


「いいのかい? こっちとしては出すもの出してもらえれば構わないけど……」

「ええ。単なる気まぐれみたいに思っててください。暫くここに御厄介になると思いますから。あとお金ならありますからご心配なく」


 俺の懐事情は何故か知らないが非常に温かい。今店主さんにとって一番大事なポイントはその点のみなのでそこが安心してもらって平気だということは断言しておく。

 すると少々変なものを見る目を向けられてしまった気はするが、店主さんはこれ以上深く関わることと考えることをやめたのか、溜息を吐きながら俺らに言うのだった。


「全く何がなんだかなぁ……。――彼の善意に感謝するんだな。それともう少し計画性をもって寝泊りした方がいいぞ」

「はい……」


 うわぁ……店主さん聖人すぎぃ。お世話になります。




 ◆◆◆




「それで……どうしてあんなことになったんですか? お兄さんの今の詳しい事情くらいは聞いてもいいですよね?」

「ああ。話すよ」


 本日と今後の寝床を確保して一度自分達の荷物をまとめた後、お兄さんの使っていた部屋に俺達は集まった。どちらかと言えばお兄さんの部屋に押し掛けるような形になったとも言えなくはないが、お兄さんに今拒否権などないようなものなので断られることもない。促されるままに並べられた椅子に座ってお兄さんはベッドへと腰掛け、本題へとすぐさま入っていく。


「その前に聞かせてくれ。なんで僕なんかを助けてくれたんだ? 君達にとって会ったばかりの見ず知らずの僕を助けたところで何の得もないだろう?」


 本題の前にお兄さんからの疑問の声が飛ぶが――はい。失礼ながらまさに仰る通りかと。


「この娘は人の内情を察するのに機敏なんです。特別な才能みたいなものといいますか……この娘の言うことはよく当たる」


 だけどその『得』の部分がこれから明らかになるかもしれないわけですよ。セシリィのおかげで。


「この娘が助けるべきだと判断したのなら俺はそれを信じます。貴方にどんな事情があるかまではまだ分からなくても恐らく悪人ではないんでしょうし……悪人でもない人が困ってるならなるべく助けたいですからね」


 少なくともお兄さんが悪人ではないことは保障されている。だから相対して怖いという感情は殆どないし、少し懸念があるとしたらこちらのセシリィの正体が露見してしまわないかというくらいのものだ。


 まぁこういうことを自分から言い出す人って大抵良い人なこと多いと思いますけどね。ちょっとベタだから口にはしませんけども。


「――優しいんだな……君達は。こんな時なんて言ったらいいのか……。ただお礼を言うだけでは絶対に足りないんだろうけど、それでも言わせてくれ。……ありがとう……!」


 申し訳なさそうな顔で感謝を示すお兄さんからは誠意が感じられた。

 思えば最初から店主さんとの揉め合いも終始申し訳なさそうな顔をしたままであったし、物事の善悪の判断については元よりしっかりしたものを持っていたのだろう。その場限りの感謝の念を感じたり、恩を忘れるというような印象はちっとも受けなかった。


 今現在の率直な印象だと誠実そうな人、と思えるくらいだ。そんな人がなんでしょーもない理由であんな状況に陥っていたのかは不思議に思うんだよなぁ……。


「……君達が助けてくれたのは幸運なことなんだろうね。でもある意味運の尽きでもあったのかな……」

「え……?」


 お兄さんがポツリと呟き、それが一体どんな意味かと一瞬考えた。


「多分この話を聞いたら君達は僕と一緒にはとてもいられないはずだよ。それだけのことをしようとはしてた身だからね」

「……」


 それを皮切りに、少しだけ打ち震えていたお兄さんは未だジッとしたままではあったが、腹を括ったように顔をあげて語り始めた。そしてまるでこれから話すことを心して聞いて欲しいかのように、忠告を前置きするのだった。


「本当は誰にも話すつもりなんてなかったけど、恩を反故にする程性根は腐ってないつもりだから話すよ。――僕はこの街にいるある人を……助けたいんだ」


 お兄さんの瞳に鋭さが光り、言葉には重みが含まれている。その口にした言葉と決意の重さが表れているようであり、息を呑むような緊迫感がこの場に形成されていくのを感じた。


 ふむ……これはセシリィがさっき言ってた通りだな。背景はともかくとして、察するに余程の事情とみるべきか。

 はてさて、一体どんな事情と思惑があるんだか。新天地の初日から展開が飛ばしてんなぁ……。流石にオルディスと出会った時程じゃないにせよ。


「ある人?」

「うん。僕はそのためにこの街には来ててね。かれこれ二ヵ月は経ってるのかな……。それで路銀も底をついてしまったんだ」


 どうやらお兄さんは随分と前からこの街には滞在しているらしく、その長期間の出費がかさんで無一文となってしまったようであった。憂う姿は自分の後先考えなかった行動に対してか、それとも未だにある人とやらを助け出せていないことに対してかは不明だが、自分への不甲斐なさを感じているのだけは理解できた。


 多分……相当切羽詰まってたのかな……? 自分にもその人の状況的にも。

 でもお兄さんみたいな人が自分のことすら蔑ろにして助けようとする人ってことか。一体どんな人なんだろう。


「その助けたい人ってどんな人なんですか? お兄さんの知り合いとかですか?」


 ただの善意ですることにしてはやっていることが重すぎる。となると相手は大切な人だったり家族であったりという線が濃厚になると思い、お兄さんの身辺に理由があると踏まえていると――。


「君も名前くらいは聞いたことがあるんじゃないかな。アイツは今や世界中に名が知れ渡っているくらいだから。……巷で『剣聖』なんて言われてるカリン・アイウォルク。彼女のことは知っているかい?」

「っ! それって確か『慈愛の剣聖』って言われてる人じゃ……!」


 ここでその名前が出てくるのか……! ということはつまり――。


「うん。アイツは今、この街の何処かに確実に幽閉されてる。世間じゃ全く噂になってないけど僕には分かる。僕はそんなアイツを助けたくて東の地から来たんだ」


 また一波乱起こる――。これは俺達の幸運であり運命なのか。

 そう思わずにはいられない……しかし、だとしたらまるで波乱に自分から向かっているような運命だと俺はこの時思い、そして人生を急かされていると感じる現実が無性に笑えてきた。


10/21追記

次回更新は水曜です。

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