表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神鳥使いと呼ばれた男  作者: TUN
第七章 悠久の想い ~忘れられた者への鎮魂歌~
410/531

408話 連合軍と一般人

 


 ◇◇◇




 平坦に続く草原の中に伸びた一本の街道。直線ではなく緩やかに曲がったりしながら続く街道はのんびりとした風景と連なって時間を忘れさせる。時々ポツンと小屋が立っているすぐ横では収穫を控えているであろう植物が実りを見せ、この何もない場所にも人の手が入っていることを伺わせる。


「――兄ちゃん達俺が通りかかって運が良かったなぁ。勘違いする奴多いけど……こっからセルベルティアまではまだ割と距離がある。歩いて向かってたら多分日が暮れてモンスターの餌食になってたかもな?」

「ええ。助かりましたよ。すみません、乗せてもらって」


 身体を叩く震動を感じながら青々とした空を見上げ、前から聞こえてくるやや低い声にお礼を込めて返事をする。

 時折段差や窪みに引っ掛かって大きく揺れて油断も隙もないが、歩くよりかはまだマシだ。張っていた足の筋肉もようやく休みを取れることに喜びを上げているように緩み、セシリィも隣で緩んだ表情で息をついている。


 セシリィの体力もそれなりに付いてきていたといえ、ここ暫くずっと立ちっぱなしで酷使していた足は笑っていた。本人は平気とは言っても身体は嘘をついていないのが丸分かりだったため、過度な無理をさせないためにも抱えてしまおうか――丁度そんな考えが生まれた時のことだった。俺らの後ろからやってきた馬で荷車を引いた行商のオジさんが俺らを見かね、荷台に載せてくれたのは運が良いという他ない。


「ハハッ、良いってことよ。どうせ帰る途中で空いてただけだしな。ただ乗り心地にだけは期待しないでくれよな」

「はい。有難うございます」

「ありがとうございます」


 荷台に積まれている藁の山に寝転がり、それをクッション代わりにセシリィと二人してお礼を再度言う。

 アニムでもそうだったが人の優しさと暖かさに触れ、それに助けられてばかりだとつくづく実感してしまう。


 船を降りた後、俺らは港町で行った聞き込みを頼りに南を目指していた。

 聞くところによればセルベルティアは港町から南へ進んだ先にあるとのことで、近隣には大小様々な町や村が点在しているから迷う心配はいらないようだ。旅をする中で人とすれ違うことすらなかったアニムとは違い、一日に複数人を見かけることも珍しくない。その都度ちゃんと方角は正しいのか確認は挟んだが、やはり別の大陸でも知られている街であるため知らない人の方が少ないのだろう。尋ねた人の全員が口を揃えて俺らの進む方角を示してくれた。


 そしてこのオジさんはどうやらセルベルティアに住んでいるようで、今は丁度他の街に雑貨等の納品をした帰りとのことらしい。


「でもよぉ、兄ちゃん達二人でよく旅なんかしてるな? 結構長いのか?」

「二人で旅を始めて……大体一月くらいですかね」

「へぇ? そんなもんなのか。……その割に肝が据わってる気がしたんだがなぁ」


 小さな娘を連れての二人旅。それは道中で獣やモンスターに襲われることも珍しくない中だと目立つのかもしれない。オジさんは俺が特に護身用の武器を所持していないことに最初は驚いていたし、それ故の発言だと思われる。


 正直な話、既に俺達は別にセルベルティアを絶対に目指す必要はなかった。行くアテのない中でどうせなら俺の故郷かもしれないという大陸で情報収集が最も適した場所、それがセルベルティアであっただけなのだから。

 しかしオルディスの証言で俺を知る人はどこにもいないと言われてしまった。となれば行く理由事体がなくなってしまったわけだが……記憶以外にも天使の情報は期待できるかもしれないと思い、なんやかんやそのまま進むことに決めた次第である。


 まぁ船に乗る前にスーラで聞いた話が気になるってのはあるんだけどね。『剣聖』が幽閉されているとかいう噂……果たしてそれは本当なのかどうかが。

 それに連合軍の本山の一角でとんでもない奴がいるって話も聞いたし、一度戦うかもしれない相手の戦力を見ておくのも悪くない。かなりのリスクが付きまとうが俺達にはそれくらい必要な情報が足りていないし、行く価値は十分にあるはずだ。


「――って思わせといて腕っぷしは拍子抜けだったりしてな? そもそも兄ちゃん見た目が弱そうだから俺ぁ見て見ぬふりなんてできなかったわけだし。多分そうだろうな、ガハハッ!」

「ハ、ハハ……。で、ですヨネー……」


 カッチーン……。え、遠慮のない人ッスね……人は見た目で判断しちゃイカンのですぞ? プンプン!


 自分の見てくれは俺が一番よく分かっている。パッと身でそんな印象を持たれるのもやむ無しである……が、悪気なしで言われていると分かっていても頬はひきつる。オジさんが一人で納得した様子で、考えを一蹴するように豪快に笑う声に少し苛立つ自分がいる。


 まぁ落ち着け? 俺。こんな言い草への耐性はついてるはずだ。この人は良い人……まだ良い人(・・・・・)だ。

 代わりにセシリィがムッとした顔になってくれてるからそれ見て我慢我慢。我慢できなかったら一緒にほっぺ膨らませて我慢しよう。こんなことで世界の『流れ』を乱すわけにはいかんのだから――チッ。


 セシリィと二人並びながら頬をリスみたいに膨らまし、こちらを振り返らないオジさんの背中を見ていると――。




「おっと!?」

「つっ……!? どうしました?」


 急に馬車が動きを止め、空を流れる雲の動きも止まった。何か異常が起こった気は少しも感じなかったが、一体どうしたのか後ろから聞いてみる。


「んー、前から兵隊さん達の行軍が来てるみたいだ。ちょっと道外れないとぶつかりそうだな……。悪いな兄ちゃん達、ちょっくら揺れるから気を付けてくれ」

「……ひゃい」


 身体を起こして前方を眺めてみると、なだらかな道をこちらに向かって列を為して進んでくる大勢の人が見えた。全員が銀色を基調とした色で統一されているらしく、纏っているであろう装備が光を反射して鈍い輝きが瞬くようにチラついている。


 おおー、なんかめっちゃいる。団体さんのお出まし、なんかパレードみたいですな。


 ちなみに、この時油断して舌を思いきり噛みました。いひゃい。


「――お前達、これからセルベルティアへ向かうのか?」


 兵隊さん達がどんな者達であるかは大体察しがついていたこともあり、セシリィにはジッとしてるように伝えて待っていると近くまで来た大群の全貌がようやく露わになった。一人だけ蒼いマントを身に付け、先頭を歩いて列を引き連れていた恐らくは部隊のリーダー……意外にも若い見た目をした男性がオジさんに向かって声を掛けてくる。


 多分……セルベルティアの連合軍の部隊の一つだろうな。どこに行こうとしてるのかは知らんけど。


「ええ。さっき隣の町に納品が終わった帰りでしてね。そちらの二人はセルベルティアに行くっつうんで、帰るついでにさっき乗せたんです」

「そうか……。以前大規模な掃討が行われたが、この辺りもまだ獣が出ないわけではない。気を付けるようにな」

「こりゃどうも」

「少し待たせてしまうが……仕事帰りに邪魔してすまないな」


 簡単なやり取りの後、道を譲ったオジさんに軽く頭を下げるリーダーさん。口調に少し高圧的な印象があっただけに、反してえらく殊勝な態度には若干驚かされてしまう。

 なんというか、兵士というのはもっと俺から人を見てくるようなイメージがあったのだ。それが遜るような態度をしてくればイメージが狂うというものである。


「では失礼する。……」

「……?」


 わざわざ部隊の最後尾が通り過ぎるまで待っていたリーダーさんは、オジさんが街道に戻るのを見届けてからまたこちらに一礼をすると先頭へと颯爽と駆けていった。重い甲冑を纏っているとは思えない軽やかな足取りであり、クールな見た目とは裏腹に相当鍛え抜いた身体を内側に隠しているのがすぐに分かる程だった。

 その際、最後一瞬だけ俺と目が合ったような気がしたが、特に気にした様子もなく目を逸らされたので彼等の目に俺らは留まらなかったようであった。


 やっぱしアレだな。下手にオドオドするより堂々としてた方が本当に怪しまれないのかね? 俺は黒髪でセシリィは目立つ金髪をしてるってのに……スーラと違ってあんまし気にされてない気がする。

 大陸ごとに認識の差でもあるからなのかな……? 黒髪はヒュマスの東の方に多くいるみたいだし、ここらでもそんなに珍しくないってことか? 



 ともあれ。難? は過ぎ去ったようだ。再びセルベルティアに向けて移動が再開される。


「兵隊さん達が隊で動いてるのを見ると物騒ですね」

「そりゃあなんだかんだいってもまだ戦争中だからなぁ。連合軍でも最近また大きな動きがあったって噂だし、その一環なんじゃねーかなぁ」

「へぇ……」


 どうやら兵隊さん達は連合軍に属した人達であることは間違いないらしい。今さっきの光景の素直な感想をオジさんに会話がてらぶつけてみると、オジさんがサラリと少し小耳に挟んでいたことを匂わす反応を返してくる。


 大きな動き……それって例のとんでもない奴のことか? それとも……。


 わざわざ部隊で動く理由は限られる。純粋に訓練なのか、或いは……何処かで何かあったのか。大きな動きとやらが俺の知るものとは別にあったのならその可能性はあるはずだ。

 話に聞いていた限りでは世界でも有数レベルの軍事力を誇ると聞いているため、今見た規模の部隊がまだまだわんさかいるのだろう。……これからそこに飛び込もうと言うのだから気を引き締める必要がありそうだ。


「俺には軍事のことは分からん。けどあの人達が動いてくれるから俺達は戦争してる気さえないんだろうさ。あの人達が頑張ってくれてる分、こっちもそれぞれできることで力になってやらないとな。ああして良識のある兵士さんもいることだしよ」

「……そうですね」


 軍事力の高いところは支持する人と反対する人が両極端に割れる印象があった。しかし、オジさんは連合軍に対しての印象は悪くなさそうに思える。

 確かに戦争をしてるような雰囲気は俺もこれまで感じたことはない。それを人知れず連合軍が一身に背負っているというならば相当な働きをしているということになる。天使を滅ぼすという共通認識があっても全員が直接加担する意思を持つわけではないことはオルディスから聞いているし、役割分担が上手く両立されているということだろうか。


 元々連合軍も世界の意思に操られて結成されたのが始まりの組織だ。意思さえなければ生まれることもなく、集まった人達も元々根は良い人が多くいても不思議じゃない。

 今のリーダーさんの態度はある意味、そんな世界の意思が見せている異常性を露わにしたものなのかもしれないとも言える。


 自覚なく己を見失った世界情勢、か。それで成り立っている世界に立っているってのも嫌なもんだな。これが事実だって知ってるのが俺だけだってことも。



 兵隊さん達と会ってから解決策など存在しない壁を直視した気分になっていると、いつの間にか時刻は夕方へと移り変わっていた。その頃には大きな外壁によって囲まれたセルベルティアへと、俺達は無事に辿り着いていた。


※10/5追記

次回更新は火曜日くらいかと。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ