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神鳥使いと呼ばれた男  作者: TUN
第七章 悠久の想い ~忘れられた者への鎮魂歌~
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406話 遭難

 

 ◆◆◆




 天使が受けている理不尽は決して容認できるものじゃない。でもそれは誰にも止められる術があるものじゃない。

 何故なら世界が天使をそういう運命を辿ることを決定づけてしまっているから。世界の中にいることで存在を形に出来ている俺らにどうこうできる規模の話ではなく、ある意味天災のようなものに近い。


 ただ、俺がこの理不尽に対して唯一望みを感じられる部分があるとすれば、世界が用いた手段というのが人を使ったものであったということだろうか。

 世界が直接手を下してきたのならどうしようもなかったのだとは思う。俺とて人だ。次元違いの力には対抗手段は一切ない。世界と人の存在関係はそれ程までに差があると俺は認識している。


 しかし対人であるなら手段はいくらでもあるのだ。俺のこの身に余り得る力はそこに関して言えば対抗できる鍵になるという自信がある。

 世の中の人達に罪はない。その人達も全員被害者であり、理不尽を強要せざるを得なくさせられているだけである。それが分かっているといたずらに傷つけるような真似はできないし、何より嫌だ。


 世界に反逆し、誰からも刃を向けられる道を行く。俺が選んだのはそんな道だ。

 それでも、絶望しかない事実を知っても意地でも抗って……もがきながらも進むと決めた。俺のこの意思は無謀だと馬鹿にされてもおかしくなかったというのに、分かった上でオルディスは応援し期待してくれると言ってくれた。





 ――そう、俺の進む道は光あることを望まれていたはずなのだ。


「(っ――!?)」


 なのに、どうしてでしょう? その光が既に閉ざされそうになってる件については。どうしたらいいのか是非何方か教えて欲しい。


 今、僕は死にそうです。

 もがくってのはまさにこんな感じの状態を言うんじゃないかと思う。見てる人がいるなら誰でもいいから助けてくださいお願いします。なんでもしますから。




「(海面まだかよ!? 死ぬ死ぬ――!)」


 全身に纏わりついて圧し掛かる重圧を押しのけながら、がむしゃらに浮力を頼りに上を目指す。一動作の度に息苦しさが増していき、数える暇もない速度で焦りと恐怖がどんどんと膨らんでいく。

 呼吸ができない通常と違った状態に暗闇という不安要素に先が見えず、お先真っ暗な現状は幸先が悪いどころの話ではなかった。


 もう溺れそうです。というか既に溺れてます。

 ただ日常で空気が吸えている――これはなんて素晴らしく幸せなことなんだろう。私は今魚になりたいと思った今日この頃ならぬナウ今頃です。


 その時、僅かにだが暗がりが少しだけ明るみを帯びた直後――。


「ぶはあっ! っ……ハッ……ハッ……うぇっ……!」


 気が付くと殻を破ったように身体が軽くなった。どうやら海面へと到達したらしく、その瞬間から海から顔を出しながら盛大に息を思い切り吸い込んだ。その拍子に揺れる波間で大量の海水も同時に飲み込んでしまったが、今はそれよりも酸素の流入の方が遥かに大切だった。むせながら無理矢理にでも俺は空気を欲した。


「ゲホッ……!? うぁ……オルディスの奴……! 最後、手ぇ抜きやがったな……!」


 まさかこんな事態に陥るとは思ってもいなかったので、オルディスの厚意に対して詰めが甘いと悪態をつくほかなかった。

 というのもオルディスに俺は海面まで送られることになっていたわけだが、あの上へと押し上げる水流というのが途中でガス欠したかのようにぱったりとなくなってしまったのである。当然最初は困惑してその場に留まっていたのだが、その次は周囲に照らし出された明かりが消えて真っ暗闇になり、その次は開いていた縦穴が崩れていきなり海中へと閉じ込められる事態へと俺は見舞われた。


 正直、ハァ!? って感じだった。だってあの別れ方してこんなことになるなんて誰が思うよ。お土産もらって何事もなく上に戻ってルンルンで船に帰る。俺はそんな風にしか考えてなかったというのに……。

 それが水を被るどころか海を被るこの仕打ちですよ。この期待を裏切られた気持ち、一体どうしてくれるんですかねぇ。

 見守るじゃなくて見放すの間違いだろコレ。


 とにかく次会ったら初っ端に鳩尾殴ろ。


「……あー……しんど……」


 幾分か呼吸は落ち着いてきたが一気に体力を消耗してしまった。海から上がる気力もなく、もたれかかるために作った『エアブロック』にのし掛かり、体力が戻るまでの間暫く俺は波に揺られていた。




 ◆◆◆




「――っ……眩し……」



 それから海から上がりダラッとして一点を見つめながらボーッとしていると、丁度見ていた地平線の彼方から陽が顔を出し始めたようだ。気づけば周囲も明るみが出始めており、時刻が朝方であることを示していた。

 一度差した陽はもう向かい側に降りきるまで照射を止めることはない。また今日も新たな一日が始まろうとしているようだった。




 ……今日の俺の運勢はきっと最下位だろうな。死にかけて始まるとかなんて酷い一日の始まりだよ。記憶を失って地面に直撃して始まった時より酷ぇや。

 それよりも俺はオルディスと夜通し話してたってことになるのか。時間が過ぎんのってあっと言う間だなぁ……。


「……ここ何処?」


 自分の状態と状況が落ち着いてくると、ふとそう思った。

 ハイ海です、と言えばそれまでだろう。周りを見渡しても地平線の続く限り広がる海と海。これには相変わらず方向感覚を失いそうになりそうになる。


 陽が差してくるということは出てきた方が東なのは間違っていない、けどそういうことじゃない。元々どっちに向かって進んでたかさえ分かってないんだからそれには何の意味も無い。

 船どっち行った? 俺ここからどっちに行きゃ無事船に戻れるの?

 こんなの海原のど真ん中で迷子じゃんか。というか最早遭難なんですけど……。


「えぇ……嘘だろ……」


 孤立状態だと自覚して頭が痛くなる。てっきり俺はオルディスに招待された側だから、帰りも平気で船まで送り届けてくれるんじゃないかっていうことに期待してたりしたのだ。そしてそれが実際はなかったというのが計算外で、この後どうすればいいのか悩むことになった。


 魔法でどうにかできそうにないか考えてみるも良い案が微塵も浮かばないのだ。俺が使える魔法は基本俺を中心として発動するものばかりで便利なものは意外と少ないため、補助に劣るのが少々悩みの種である自覚はあったが……。


 場所さえ分かれば追いつくのは楽勝だ。でもその位置を知るための手段が俺にはないんだよなぁ……。

 こんな時、××がいたらなんとでもなりそうな気がするんだけど……。




「――ん?」




 あれ? 今の何? 俺は今……誰のことを考えてそう思った?


 悩む中でサラッと出てきた記憶にない感覚はあまりにも自然すぎて疑問に思う間もなかった。


 なんだろ今の感覚……。突発的な俺の願望か何かか? もう思い出せないし。

 いやぁ、そうならこれはお恥ずかしい。これはいよいよ追い詰められて参りましたねぇ。――ってそんなこと考えてる場合かっての。遭難してヘラヘラしてる場合かよ。



 とにかく、気のせいな疑問は綺麗サッパリと忘れるに限る。現状打破に向けた試案を張り巡らせ、俺はどう立ち回るべきなのか唸っていると――。



「な、なんだ!? 光が……!?」



 仄かに目が刺激を受けたような気がして、目を開けてみて驚いた。刺激の正体……それは海中奥深くから差し出した蒼い光が辺り一面を支配している光景であった。

 夜明けでもまだ十分暗く、光は仄かながら非常に強調され安心感を覚える。海に浸かって濡れた俺の身体が光に当てられ照らされており、海中の様子も歪められながらも少しだけ確認できた。魚群でもあるのか小魚が泳ぎ回っているのがチラホラと分かる。


「向こうに行けば良いのか……?」


 光は闇雲に差し出して来ているわけではなかった。まるで俺を導こうとしているかのように大雑把な直線状に伸びていて、多分それが視認できない地平線まで続いているようだ。


 そうか……きっとこの光の指す方向に――いや止めておこう。このフレーズ言ったらアカン気がする。それこそ世界の終わりな気がしてならないわ。多分雷落とされてゴミみたいに死ぬ。


 俺は今この世のタブー? に触れかけた。

 でも誰も聞いてないからいいよね? はい、いいんです。第一心の中で言う分にはええやろ。

 それよりもこのまま明るくなったら標が見えなくなって分からなくなりそうなことの方が問題だ。……冗談かましてないで急いだほうがいいか。


 恐らくこの光はオルディスの遅れた計らいなのだと悟って、そして納得した。オルディスならばこの程度のことは造作もないだろうと。それが分かるだけに先程の不手際には腹が立つところではあるが。


 身体を起こし、俺は光の指す方向に向かって進み始めた。




 ◆◆◆




「……」


 一歩一歩を慎重に、なるべく音をたてないように配慮しながら廊下を歩く。

 光の続く先を進むとやはり船が巡航していた。この船を発見した時の安心感といったらない。心身共に疲れたこともあり、ようやく息をつける、そして寝れると思ったら涙が出そうになった程だ。拠点がもたらす恩恵をひしひしと感じてしまう。


 やっとこさ帰ってこれたのだ。ここまできてヘマでもしたら全てがおじゃんである。

 静かに……そう、静かにだ。誰にも見つからず自分の部屋まで戻る。これはスニーキングミッションなのだ。

 家に帰って来るまでが遠足。戻ってくるまでが任務。そのためにも今は完全に怪しい人になりきるべきなのだ、そうなのだ。

 フフフ、お嬢ちゃん待っておれよ? 今すぐコッソリお邪魔しちゃいますからね~。


 ……うん。身も心も朽ち果てそうだからこのノリやめよっか。ある意味戻ってこれなくなりそうだし。




 そうこうしているうちに俺らの部屋の目の前まで来た。部屋の中から物音は何も聞こえず不気味な程静まり返っていて、出てきた時とで変化はないようであった。

 当然の配慮を心掛け静かに中へと入っていくと、陽によって明るさが出始めた室内は薄っすらと月明かりが照らす明るさとは違う様相を露わにする。

 部屋を出た当時と変わらない光景がそこにはある。俺はそう思っていたのだが――。




「――え?」




 真っ先に確認したベッドの上に、あるべき姿が見当たらなかった。



※9/16追記

次回更新は明日か明後日です。

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