37話 悪夢
「はぁ…はぁ…はぁ…」
俺は暗い町中をとにかくひたすら逃げる。
あんな非常識なやつらに捕まってたまるか!
俺は絶対にこんなところで終わるわけにはいかない!
「っ!? ぐっ!!」
落ちていた石を踏んでバランスを崩し、豪快に転倒する。
結構な速度で走っていたのでなんとか回転しながら勢いを殺すが、それでも殺しきれず体が少々痛む。
やつらは…すぐそこまで追いついてきている。
マズい、追いつかれる!
膝から少し血が出ているが、そんなことを気にしている余裕はない。
俺はすぐさま立ち上がり、再び走り出す。
後ろを見ている暇すら惜しい。
すると…
「はっはっは! どこに行こうというのだ?」
「早く我々を受けれいれたまえ」
「相性バツグンよきっと~」
もう追いついて来やがった! クソッ、早すぎる!
なんで俺がこんな目に合わなきゃいけないんだ!
「だ、誰か! 誰かいないのかっ?」
俺は大声で叫ぶ。
だが俺の救いの叫びに答えてくれる人はいない。静かな町に俺の声だけが響く。
そして…
「行き止まりっ!? 嘘だろ!?」
急に行き止まりに差し掛かり、俺は戸惑い、絶望する。
壁際でのんきに猫が寝てやがる。俺の気持ちもしらないでこの野郎が!
この状況のため、今はそんなことにすら苛立ちを覚えてしまう。
どこか横道とかはないのか!?
すぐさま探すも…
「我々を理解できないとは嘆かわしい」
「君のその間違った思想を今解放しよう」
「きちゃった♡ ウフッ」
そんな考えも束の間、奴らはすぐそこまで来ていた。
絶対絶命…。
嫌だ、こんなところで終わりたくない!
「く、くるなっ!! それ以上、俺に近づくなっ!! いや、近づかないでください!!」
俺は壁を背に懇願するも、奴らは止まらない。
とびっきりの笑顔でこちらに近づいてくる。
今俺の目の前には3人の男がいる。
スーツっぽい服の奴。普段着の奴。そして…パンツ1枚のやつ。
「まったく何でそんなに怯えているのだね?」
「そんなにおかしいか我々は?」
「大丈夫よ、怖いのは最初だけ…。優しくしてア・ゲ・ル♡」
3人組が不思議そうに俺のことを見ている。
俺はこの、特殊な性癖を持った連中から今までずっと逃げていた。
このガチホモ共め!! そういう趣向の奴がいるのは事実なので否定しないが、俺に矛先を向けるんじゃねぇよ!
あとパンツの奴、お前はどっちにしてもアウトだバカ! 何真面目な顔して首傾げてんだよ。
公然わいせつで捕まってろ! そして一生シャバに出てくるな!
俺がそんなことを思っている間にも、ジリジリと奴らは近づいてくる。
そこで…
「あ、ツカサさんじゃないですか? 一体どうしたんですかそんなところで?」
突然、3人の後ろの方から聞きなれた声が聞こえてくる。
俺がそちらを確認すると、意外な人物がそこにいた。
「! マッチさん!! 丁度良かった! 助けてください!」
マ、マッチさん! ナイスタイミング!
あんたは救いの神や! はよ助けてくれ!
「えっと…これは一体どんな状況ですか?」
「コイツらが俺の貞操を狙ってるんです! 男の尊厳の危機なんです!」
俺は必死に伝える。
…が
「同志マッチよ、こんなところで会うとは意外だな。今新人を勧誘中なのだが中々理解してもらえなくて困っている。手を貸してくれないか?」
パンツの奴がマッチさんに向かって話しかける。
勧誘じゃなくて脅迫だこれは! それにまだ入ってないから新人ですらねぇよ! でっちあげんな!
っていうか、同志ってどういうことだよ? まさか…!
「新人? あぁ…ツカサさんがですか。あなたもこちら側に興味がおありなんですね?」
「こちら側って…まさかマッチさん…貴方も…」
「ええ、会員No.4、『両刀使い』のマッチとは私のことです」
ニッコリとマッチさんは笑ってそう言った。
うわぁぁぁぁぁぁーーーーーーー!!
嘘だぁぁぁぁぁぁーーーーーーー!!
唯一の希望が無くなっちまったぁぁーーーー!!
しかも両刀! こっちの方がよっぽどタチが悪い!!
「さて、同志マッチも来てくれたことだし、そろそろ終わりにしようか?」
アイツらはマッチさんを仲間にし、3人から4人に増えてしまった。
ちくしょうめっ!
そしてどんどん近づいてくる。
終わった…。
「掘るか掘られるか、どっちか選んでくれ」
ふざけるな! その選択肢に俺の救いの道はない…お前らで掘りあってろ!!
「…ふむ、選べないか…。じゃあ、私の方からいくとしましょう」
スーツっぽい服のやつに手を掴まれる。
「や、やめっ…!」
「「「「いただきます」」」」
「あっーーーーーーー!!!!」
◆◆◆
「いやぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーー!!!」
俺はベッドからガバッと起き上がる。
「はあっ…はあっ…。うぇ? 夢…か…」
全身から汗が噴き出しており、服がビショビショになっている。
なんだ、夢かよ…。マジで焦った。
マイ・カオス・ドリーム。通称悪夢。
※正確にはナイトメアです。
そのTOP3に入るくらいの勢いだったなアレ…。
もう思い出したくもない。
てか、いやぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーって、女か俺は…。無意識だったとはいえなんかショック。
俺はあちら側なんかじゃないよな…? 無意識にそういう方向性に向かっているとかはないと思いたい。
それにしても汗が体に張り付いて気持ち悪いな。水を被ったに近い状態だぞコレ…。
ちょっと水浴びしたいところだ。
「浴室行くか…」
俺は気分は最悪のまま、浴室へと向かった。
初日からこんな状態とは…先が思いやられる。
俺はしばらくあの悪夢が頭から離れなかったのだった。




