376話 いつかとびきりの笑顔を
投稿遅れてすんません!
いつもより長いから許してけれ!
◆◆◆
「さてと……」
全方位に広がる広大な自然再び――。
今回は突然の恐ろしいスカイダイビングではないためパニックになることはない。全身を風に包まれながらゆっくりと辺りを見回し、それらしい場所はないかと深い緑に目を凝らした。
「んぅ……!」
セシリィが風に目を瞑り、くぐもった声と共に俺の腕の中で身体を捩った。背中に届きそうなくらいの金髪もご覧の通り強風で暴れていてやや不快そうである。
かくいう俺も風で前髪がクシャクシャにされてしまって少々不快ではあった。暫くは放置気味だったのか目元あたりがくすぐったいくらいには長く、時折目に突き刺さってチクッとした不意打ちがやってくる。
う~ん……髪、せめて前髪だけでも切って整えとこうかなぁ。記憶ある時の俺は伸ばしてたのか知らんけども……邪魔ですわ。
「こんなことも出来るんだ……凄い……!」
「高い所は初めてじゃないのか? 怖くない?」
「ちょっと怖いけど、でも平気」
「そっか」
半ば放心したようにセシリィは景色を見たままそう言うと、キュッと俺を掴む手を強くした。口と表情では平気と言っていても本心はやはり怖いのかもしれない。無意識かもしれないその不安をかき消すために、俺も翼を傷めない程度に軽く抱く力を強めてやる。この時、なんだかんだである程度心を開いてくれているんだなと、内心俺も安心していたりした。
現在俺はセシリィのいたという集落を探すため、上空からここらの周囲一帯を見回していた。この深い森の中でわざわざ地上から探していたら日が暮れるどころではないことは簡単に想像がついたため、使える手札を使ってのゴリ押しを敢行した結果である。
『エアブロック』の汎用性の高さと持ち前の身体能力の高さには感謝だ。
昨日寝る直前のことだが――。
『お兄ちゃん、お願いがあるんだけど……我儘言っても……いい?』
俺が天使の話を大体聞き終え、疲れが再び限界に達しつつあったセシリィがウトウトし始めた時のことだった。夜更かしも程々に切り上げる頃合いと思ってお開きにしようとすると、突然セシリィがそんなことを言ってきた。申し訳なさそうでありながら若干期待しているようでもあるどちらともつかない表情で。
『お願い?』
『朝になったらね、その……集落に戻りたいん、だけど……』
『それって……』
『多分、どうなっちゃってるのかは分かってるの。でも……万が一があるかもしれない、から……。駄目、かな……?』
『……』
両手を握りしめながら言ってくるそのお願いが、セシリィにとってどれだけ残酷なものであるのか。話を聞いていた身としては即座に答えることができるわけもなく、少し考え込んでしまった。
セシリィのいた集落はあの連中によって襲撃に遭い、当時頼れる大人が殆ど狩りに出ていたことで、帰りを待って残っていた子供たちは散り散りになって逃げだしたらしい。聞けば連中以外にももっと襲撃者の数はいたようで、セシリィを追い回していた連中はごく一部とのこと。
突如として集落を覆う木々が爆砕し、整地された地面も一瞬で荒れ果て生活空間は一瞬で崩壊。一気にパニックになって逃げ出した時に見た集落の最後の光景をセシリィはそう言っていた。
これを聞いて集落が無事でいる可能性と、願わくば生き残りがセシリィ以外にいる可能性……それは最早絶望的だとしか俺には思えなかった。
天使と言えどまだ子どもだ。一人で生きていけるだけの力も、生きるための知識もないのだ。セシリィが助かったのは、偶々記憶を失くして異常にも囚われていない俺がその場に居合わせたからである。本当に味方がいないこの世界の状況において、第三者が逃げ出した天使の子ども達を助けるなんてことは有り得ないことに近い。
恐らく、セシリィ以外の子ども達は……。それに都合よく大人がいなくなったタイミングを考えるとそっちも……。
『――うん、分かった。連れていくよ……任せときな』
『ありがとう……!』
お願いを承諾するか断るか……。でも俺はこのセシリィのお願いを聞く事にした。セシリィ自身、全て結果が分かっている上で言っているのだと感じたから。何があっても逃げないで受け止める……そんな覚悟をこんな小さな娘から感じ取れたから。
「(大人顔負けの『強さ』してるよなぁ、セシリィ)」
覚悟した眼で震えながら言っている姿は、正直普通じゃないように感じたくらいだ。あんな顔、幼い子のする顔じゃない。それに身震いするような目に遭ったばかりでもあるため同情だってある。こんなお願いなんて無償でいくらでも叶えてあげたいくらいだった。
なんにせよ、とにもかくにも集落を見つけないことには始まらない。一刻も早く見つけるために可能な限りで探索を開始する。
「俺がセシリィを見つけた遺跡はあの山の麓辺りだった。集落に近い目印みたいなのってある?」
「えっと……あの山、かな……? 多分あっち……?」
俺が指差した方角より少し逸れてセシリィが少々迷った末に指さす方には、頂上の尖った標高千メートルはありそうな山がある。
ここらの地形は海を後方に正面は内陸の地平線まで森が続いており、右には起伏の激しい山脈が連なっている。左には同じく山脈が連なっているものの、山の合間を縫って見える反対側の大地は荒廃していて緑が少ないように見受けられる。
少し離れるだけで丸っきり別世界が広がってるっぽい……? しっかしこうして見てみると……空から落ちていた時も思ったけどこの森ホント広いわ。まさに大自然っていうか、自分の矮小さに惨めになりそうだというか……。
遥か遠くにはやっぱり海が見えるし……海沿いまで森が続いてる感じなのかな?
「……ゴメンなさい。山は比較的近いって聞いたけど、集落から出たことなんて殆どないからホントはよく分かんない」
自分の情報に正確性はないと申し出たセシリィの表情に暗がりが出始める。この反応が行きたいと言い出しておいて場所が分からないことに対してなのはすぐに理解したが、当然この現状を責める気持ちにはなれない。
そもそも普通に生活してりゃ空から自分の住んでいる一帯を見ることもないだろうし、分からないのは無理もない。しゃーないわな。
こんだけ木々が密集しすぎて深い森の中だ。地上から山が早々見えることなんてないだろう。木、木、果てには木って光景しか俺にも想像できん。
ぶっちゃけ殆ど窓のない建物の中でずっと生活してたようなもんだったんだろう。天使が人目を忍んでここらに隠れ住んでいたことに納得できるってもんだ。これだけ緑が深ければ開拓も一苦労だろうし――まぁ、もう見つかってしまってるから関係ないが。
ちなみに、翼で空を飛べるのかどうかをセシリィに聞いてみたところそれはまだ無理とのことだった。聞けば天使の翼は元々飛ぶためにあるわけじゃないとかなんとか……。これはまだ詳しくは知らない例の『法術』とやらが関係しているのかもしれない。
しかも大人でも飛べる人と飛べない人がいたようで、個人差の結構あるものであるらしい。
「謝ることないって。必ず見つけるから安心しな」
「うん……」
許すとかそういう気持ちはないが、セシリィを安心させるべく俺はそう伝える。
子どもで手負いの身だったなら数日で遥かに遠くまで移動できるとは考えづらい。
一度遺跡跡地を目印に、くまなく上空から手あたり次第探してみるしかなさそうだ。それに、集落が襲撃されて壊滅したならある程度森が不自然に開けてしまって上空からでも見つけられるかもしれない。目を凝らしてよく見ておけば見つけられないことはなさそうではある。
「移動するからしっかり掴まってて。怖かったら目閉じてても良いから」
一応聞いた手前変な話だが、しっかり掴まられなくても俺の方が手を離すわけがない。
んじゃ、確認も取ったしぼちぼち行きますかね。
◆◆◆
「――あっ!? お兄ちゃんあそこ!」
「ん? あ……ヤベ、見落としてた。ありがとな!」
探索を開始してから一時間くらいは経っただろうか? それ程長い時間探していたわけではないがようやく集落らしき空間が見つかった。
山の麓付近まで空を駆けて来たはいいが、一向に見つからない状況と変わり映えのしない風景に感覚がおかしくなり、俺は少々探すことに油断していたらしい。セシリィが俺を呼び止める声がなければ見落としていたことだろう。ぶっちゃけ助かった。
「……降りるよ」
「うん」
想像通りというべきか、まだ集落まで距離はあるがぽっかりと空いた不自然な空間は遠目にも分かる。その惨状は近づくにつれて顕著になっていき、真下まで来ると既に全てを察せる程だった。
そこへ、俺らは覚悟して足を踏み入れる――。
「(跡形もない、か)」
「……」
物音一つしない寂れて死んでしまった場所。この吹き抜けになった跡地を風だけが生きてただ通り抜けるこの虚無感はあんまりだった。ここに立つだけで苦痛であり、目に入ってくる全てに精神を抉られそうになる。
集落は数日前まで本当に人がいたのかさえ疑問な程滅茶苦茶にされており、まさに壊滅していると言ってもいい有様だった。
不自然に白い中身の見える抉られた巨木、無造作に散らばった生活に使われていたであろう必需品の数々。
集落を取り囲むように生い茂り、これまでこの場所を隠し通してきたはずの木々が今はこの惨状を隠そうとしているようにさえ見える。
誰からも同情されず、ただ消されただけ。天使に対する憎しみがこの惨状を生み出したと考えると、その闇は果てしなく深い。
「っ……お兄ちゃん、お願いばっかりで、ゴメンね……? 手……握っててくれる?」
「……ああ」
俺がセシリィを下ろすと、セシリィは取り乱すことはなく落ち着いた様子で集落跡地を見回した。表情は暗いままであり、セシリィが今何を思っているかは俺なんかには到底理解しきれるものではない。せめてできることとして頼みを受け入れて手を繋ぐと、その手は微かに震えていて心が痛む思いだった。
もっとも、俺がこの痛いって感じる気持ち事体がセシリィにはおこがましいのかもしれないけどな。
「こっちかな……」
寂しく呟くセシリィが俺の手を引き、歩き出した。強くもなく弱くもない、淡々としているこの力加減に、俺はそれでも引かれることしか今は出来なかった。
「……」
「もしかして……ここがセシリィの家だったの、か……?」
「うん……」
少し歩いた先で、セシリィが立ち止まった。そこは特に木々の破片が散らばっている箇所で、木々以外にも生活用品がいくつか固まって散らばっていることから俺がそう聞くとどうやらその通りであるようだった。
その家だったという場所は他の場所となんら変わりはない。大体の間取りの跡は辛うじて残っているものの、破砕した木々の破片の散らばる一帯のただの一部のように映っている。
そこで、セシリィは俺から手をするりと離すと、一つ一つ生活用品を拾ってこれまでの生活のことを話し始めるのだった。心ここに在らずのまま、淡々と。
後姿はここで一際酷く小さく、暗さを帯びていた。
「……ここで毎日起きて、毎日友達と遊んでたの。お料理したり、追いかけっこしたり。それでね、帰って来るといつもお父さんかお母さんが迎えてくれてたんだぁ……」
「……」
「入り口のそこにね、狩りで使う道具をいっつも置いてたの。お母さんとお父さんはいつも交代で狩りに出かけてて、あの時は丁度一緒に行ってたんだぁ。その時、もうすぐ私12歳になるから……今度狩りを教えてくれるって約束してたのに……」
一瞬間を置き、セシリィが天を見上げた。一体そこに何を思い、そして見ているのか……。その答えが分からない奴がいたら俺はきっとそいつを殴っていただろう。
「お父さんとお母さんの弓……まだないや」
俺の方が目を背けたいくらいの光景だった。そしてこんな小さな娘の発言かとも思ってしまう。それだけの出来事だったと分かることでもあるが……いくらなんでも……。
「ぁ……」
セシリィが振り返って破片を踏みしめてこちらに戻って来る途中、足元で何かを見つけたらしくそれを摘み上げた。
日の光を反射して輝く、セシリィの瞳の色そっくりな碧い装飾品だった。
これは……ネックレスか?
「それは……?」
「お母さんが、いつか私が誰かと結ばれた時にくれるって言ってたお守り。お母さんがお父さんと結婚した時、お祖母ちゃんからもらったって言ってたっけ」
セシリィが俯いたまま俺の問いに答えながらネックレスを掌に収める。
母親が祖母から譲り受けていたのなら、代々受け継がれてきた想いが込められた物だっただろう。そしてそれすら踏みにじられて奪われた。
この惨状が金銭目的ではなく、ただ蹂躙するために行われた襲撃であることがよく分かる残酷さだった。
「……」
「あ、セシリィ……」
いつの間にか俺の脇をすり抜け、トボトボと家を後にするセシリィに手を伸ばそうとするが、触れそうなところでやはりその手が止まってしまう。
それからセシリィの後を追う形でゆっくり集落を歩き回り、時折立ち止まってはまた歩き出すことをセシリィは数回繰り返した。
そしてそれが10回に届かないくらいの回数だっただろうか? 集落の中心まで来ると暫く閉ざしていた口を開き、俺を振り返ったのだった。
「ねぇ、お兄ちゃん私どうしたらいいのかな……。皆、いなくなっちゃった……」
「……」
「誰もいないや……お父さんもお母さんも、ユリアちゃんもリオネル君も……。リーティアおばさんにマルカおばさん、バレンスおじさんにモーガンおじさん、ルーノさんルプセリアさんミローネさんも……全員」
襲撃を受けてから既に数日が経過している。昨日セシリィを捕らえていた連中はどうやら一部に過ぎないようだし、逃げる途中ではぐれた友達も各個で追われたのだろう。俺みたいに運よくセシリィを助けられるような人がいるとは思えない。そして戻った形跡のない大人達の末路……つまり……。
俺はこの事実を分かっていながら、口に出す勇気はなかった。そしてそれ以外に掛けられる言葉すらなかった。
俺の言葉じゃセシリィをいたずらに傷つけてしまうだけだと思ったのだ。
しかし――。
「私、一人になっちゃったよ……。皆、死んじゃった……」
セシリィの方から辛い現実を口にしていた。声が震え、今にも崩れてしまいそうに頼りないままで。これまでずっと堪えていた涙がポロポロと溢れ出ており、顔はぐしゃぐしゃになっている。
もう、理性とか配慮なんてものはどうでも良かった。気が付けば俺はセシリィに歩み寄って抱きしめていて、無理矢理胸に顔を押し付けていた。
「今は泣いた方が良い。いくらでも泣いていいから……」
「っ……ううっ……あぁ……えぐっ……ぅあああああん……!」
セシリィが大声で泣く声が辺りに響き渡る。虚しくありながらも溢れんばかりの想いを込め、風に乗って空に向かい。
むしろとにかく泣いてくれと言いたかった。よくここまで我慢したと、今はとにかく抱きしめて受け止めてやりたかった。
馬鹿だ俺は……。最初からこうするべきだったのに。
セシリィの嗚咽が止まったのは、これから随分と暫く後のことだった。
◆◆◆
「――決めた」
「ぇ……?」
セシリィの嗚咽は次第に止まっていたが、セシリィは人肌が恋しかったのか一向に俺から離れる様子が無かった。甘えているわけでもなく、身を任すような感じだろうか。そのため俺も継続して頭を撫でて背中を擦っていたが……ここで今後どうするのか、それを伝えることにした。
「セシリィ。俺さ、これから天使がなんでこんな目に遭わなきゃいけないのか……この原因を調べようと思ってる」
「え!?」
「だってさ、こんなの理不尽だろ? 理由があっても駄目なことだろうけど、もし元凶があるならそれを叩き潰してやりたい。……セシリィを見てて、そう思ったんだ」
胸元に顔を向けると、目を腫らして見上げてくるセシリィの顔が近い。一時は俺の発言に放心した様子であったが、段々と意気消沈したように不安そうな表情になっていったが。
「じゃ、じゃあ……」
「だからさ、一緒に行かないか?」
「っ!? わ、私も……?」
俺の言い方に問題もあるが、この決断はセシリィを見捨てるように思われたのだろう。だから不安そうになったと思われる。
しかしまさかそんな無責任なことを俺がするわけねーべさ。最後まで責任もってセシリィを見守ることも忘れるつもりはない。その答えがコレだ。
「うん。セシリィも一緒に原因を調べるんだ。連中にバレてる以上ここはもう危険だからな、どうせ移動した方が良いしだったら一緒に行動した方がまだ安全かなと思うんだよ」
「で、でも記憶は? 自分の事はどうするの?」
まぁ~たこの娘は俺なんぞに気を遣いおってからに……。もっと自分本位の考え述べてもいいんだぞ? 根が優しすぎるってのも考えもんだなオイ。
この惨状とセシリィの泣く姿を目の当たりにしたことが後押ししたと言ってもいい。やっぱりこんな理不尽な世界は間違っている。
俺にできるかどうかなんてのもこの際どうだっていい。俺は世界側……そちら側にはいたくないというだけな話だ。例えどれ程困難で無謀な規模な話であろうが、俺は天使側にいたい。
「俺なんかの心配するより自分の心配をしな。どうせ見つける手立てもないんだから記憶なんてついででいいんだってついでで。ふらっと帰ってきたらあらお帰りなさい、帰ってこないなら……あ、そうってだけだしな。――それよりもセシリィ達の問題の方が優先だ。どっちにしろ俺が記憶を取り戻すためには、そっちを片付けてからでないと怖い」
「怖い?」
「あー、それはちょっとこっちの話かな。また今度話すよ」
当然だが記憶を取り戻すことに対するリスクはまだ話していない。もし知っていたなら反応は違っていたかもしれないし、今ばっかりは心を視ることに節度を持っているセシリィに感謝だ。
「まぁさ、要は俺がいなくなったら誰がセシリィを守ってやれるかってことだよ。世界中全てが敵の中で一人で生きていくのは正直無理だろ?」
「それは、そうだけど……。で、でもなんでそこまでできるの……? だってお兄ちゃんとは昨日、会ったばっかりなのに……」
確かにまぁ、昨日の今日会った娘にここまで尽くす義理はないっちゃないと言えるのかもしれない。
――でも、ないわけではないってなだけだろ。
「昨日会ったからとか関係ない。困ってる子がいたら助けたいとセシリィも思うだろ? それと一緒。第一このまま放って置けるかよ……!」
損得で考えれば間違いなく俺の言い分は却下案件に決まってる。リスクを背負いすぎるし、俺が受けられるメリットの方が少ないからだ。
でも……それでも動くのが人ってなもんだろ。情が湧いたとでも思っとけばいいんだよ。
一人になんて……させられるわけないだろうが。
「ここに一人で放って置いてどうなる? その結果が分かり切ってるのに見捨てるような薄情な奴に俺はなりたくない。これも何かの縁だ……ずっと見守るよ。セシリィに嫌だって言われても傍にいる。それにアレだ、俺は……そんじょそこらの人とは違って簡単に死ななそうだしな。絶対傍にいる人がいたら少しは安心だろ?」
死なないというか死ねないの間違いですけどね。隕石落下しても死なないんだからちょっとやそっとじゃ死ねないだろ俺。
でもここまで言っておいて否定されたら俺はむしろそのショックの方で死にかねんがな。息巻いた直後にお断りされたらそれこそ号泣必死の絶望ですわ。
俺の本心はセシリィに届くのかどうか。悩んでいる様子のセシリィが、念を押して確認してくるように聞いてくる。
もし神様がいるなら、この尊い娘になんて仕打ちをするんだと罵ってやりたくなる思いだ。
「頼っていいの……?」
「大いに頼ってくれていい。俺なんかで誰かの助けになれるなら嬉しいもんだ」
「でも私、何もできないよ? お兄ちゃんをきっと困らせるだけだよ……」
「そんなことない。俺も今一人ぼっちだからな……正直寂しいんだよ。でも一人じゃ寂しくても二人ならそうじゃないだろ? 一緒にいてくれるだけで俺も心強い。……ま、多分俺のテキトーな性格の方がセシリィを困らせるかもしれないけどな」
自分が認めて完全に理解している部分でもあるからな。分かってて治せんのだからタチが悪いったらありゃしない。
けどそれが俺でもある。昨日から幾度となく繰り返されてるのを考えれば元の俺もこんなものだったに違いない。ありのままの自分をさらけ出すこと……それ以上の気持ちに勝るものはない。
「セシリィ、一緒に行こう。一体なんでこんなことになってしまったのか……その答えを知りに。それに守ってあげられるはずだ、俺なら」
今自分がとんでもなく力を持っていたことを喜ばしく思う。だってこの力があれば、理不尽を前にしても力づくで誰かを助けられるから。
この力はこの娘の……セシリィのために使おう。この娘がいる限り、なんだか俺は道を踏み外さない……そんな気がする。
「――うん……! 一緒に行く……」
こっちからそう仕向けてもいる打算ありきの承諾と共に、セシリィが軽くはにかんだ。これは今のセシリィの精一杯の笑顔と同義だろう。
あぁ……これで俺の退路も断たれた。らしくもなく腹を括る必要がありそうだ。何がなんでもこの娘は守り通す。
これより歩む道は希望があるかも分からない暗闇の中。しかしこの表情に応えるためにも、必ず世界に目にもの見せてやる! 俺らが正しいってことを、間違っているのは世界だったってことをな。
諍ってやる……最後まで。この気持ちは、俺の本心は。未来永劫変わらないとここに誓ってやる。
必ずセシリィが心の底から笑えるような世界にしてやりたい――いや、しなくちゃいけない。この異常な嘘で塗り固められた世界のまま俺も今後生きていくのなんてまっぴらだ。
セシリィの泣く姿が今でも脳裏から離れない。俺はもう二度とセシリィの悲しむ顔なんて見たくない。
早く、セシリィを笑わせてやりたいと……そう思ったんだ。
次回更新は次の土日辺りです。
※3/4追記
超久々の風邪で連休を無駄にしちまいました……不覚なり。
明日か明後日辺りに投稿するんでよろしくお願いします。
馬鹿でも風邪はひくみたいなので皆さんもお気をつけて。




