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神鳥使いと呼ばれた男  作者: TUN
第七章 悠久の想い ~忘れられた者への鎮魂歌~
371/531

369話 御伽噺

新章開始。

最初はプロローグ的なものになります。

 

 ◇◇◇




『アァ……駄目、ダ……。コノママデハ、終ワッテ……シマウ……』


 力なく空っぽに聞こえる声は酷く寂しく木霊する。閉ざされた空間でいて果てしない空間が生み出す……音を留めることも響かせることもできない無の空間。

 この世でもあの世でもない場所は現世、幽世と言っても変わりない。この狭間より、孤独な呟きは誰が聞くでもなく絶え間なく生まれ落ちた。


『運命ハ何故……私ヲ見放ス? 消エルノハ嫌ダ……。私ハ生マレタイ……コノ世ニ……『個』ヲ授カリタイ……』


 嘆きは自己簡潔している事実を如実に表すのみだ。定められた運命は残酷に、その声の願いを聞き届けることはしない。


『……足リナイ……。力モ……制御モ……トニカク足リナイ……』


 理からも世界からも否定され、抗うその度に幾度となく打ちのめされようと、その声が諦めることは決してない。

 壊れたようにひたすらに『生』を求め、純粋であり邪悪な願望は永き歳月の果てにも衰えを感じさせるはずがないのだ。


 それだけ強い力。生まれた瞬間より変わらない、最早絶望の域にある願い。




 それだけがかの者の『個』とも言うべき欲求だった。




『器ガ必要ダ。ナンデモイイ、強靭ナ器……耐エウル器……器……器――』




 壊れたように繰り返される言葉は止まらない。無のほとりでかの者の反響しあう声が次第に聞き取れる限度を越え……ただの音へと変わっていった。







 ◇◇◇







 極度の疲弊により睡眠を始めたポポとナナをひとしきり撫で、顔をあげて周りを見渡した。最初は俺の見た目の変化に驚いていたようだが、そこに関してはもう大丈夫そうに思える。




「――じゃあ全部、最初からこうなることを目論んでたってことなのか?」

「ソラリスが出てきたのは予想外だったけどね。危うく全滅する寸前だったよ……でも、それ以外は大体想定通りに終わったかな」




 シュトルムとヴァルダのやり取りがすぐ近くで聞こえてくる。


 当然とも言うべき戸惑いと混乱の声が止まぬ中、運命の分岐点を無事越えた俺らは現在ギルドの大会議室へと集まっていた。元々Sランクの会議で使っていた部屋は半壊していて使うことができないため、別の一室を使っている状態である。


 俺ら身内だけでも十人と三匹。それにSランカーとその他数名を含む大所帯となっていることもあって全員が入れる部屋があるのか不安だったものだが……流石にギルドの本部ともなれば規模が桁違いである。むしろ部屋が余っている程であったことには救われたもので、全員が円卓状の席に座れている。




「しかしまぁ……そんなお前らが集まって並んでると壮観だな……」

「う~ん……確かに。これじゃ俺らの方が脅迫してるんじゃないかって思われそうな光景かもしれないなぁ」




 そして今、丁度今回の事の詳細を短く簡単に話し終えた。一息ついてからシュトルムがそう吐露するのも今の絵的には無理もないかもしれない。


 多分全員が薄々そう思っていたんじゃなかろうか? だからこそヴァルダも今笑いながらそう言ったに違いない。




 というのも、俺ら……ヴァルダ、ジーク、ナターシャの四人は今並んで座っている状態なのだ。統合される前の俺なら遠慮して否定していたかもしれないが、最早事実を知っている以上隠すだけ無意味だ。事実と根拠を胸に、控えめに言っても世界最強の四人が並んで部屋を見回していたらそりゃ言いたくなると俺も思う。


 要は今回の騒ぎを起こした首謀者達を取り囲むような配置が展開されているのである。ここで何故アレクとカイルさんが俺らに含まれていないのかは不明だが、取り合えず査問会みたいなものである。




 先の騒ぎからはまだ……かれこれ三十分程しか経過していない。

 事態の収拾と騒ぎ発生の遅延化は手筈通り頼み込んであるので心配は要らないはずだが、多分長くは続きはしないだろう。一時のこの猶予を使って出来る限りのことはしなくては……。




「今の話が本当かどうかは……お前のその髪を見ると疑いようもない、か……。さっきまでは普通だったくせに……伸びた、よな……」

「いきなりこんな変化した姿で現れたら違和感バリバリか。……あの時は切るのが面倒だったってのもあってな……気づいたらいつの間にかこんなに伸びてたんだよ」


 シュトルムに指摘され、自分の長く伸びた髪に少し触れて感触を確かめる。パサッと縛られた後ろ髪の毛先を前に持ってきて見てみると確かに長く、首を曲げずにそれが分かる程だった。


 ……うん。男でこれは長すぎるかなぁ……流石にトウカさん程じゃないけど。でも学校で校則があったら言い逃れはできんし、むしろ女装してやり過ごす方がまだ簡単なレベルではありそうか。というかゆるふわを除けばアンリさんの前の髪型に割と似てることに今気がついたわ。


「雰囲気変わったからアレだ。割りと男前になってたりしねぇ?」

「いや、全然。ガキが調子づいてるって方がしっくり来んぞ。まだ眼も戻ってないみたいだし」

「かーっ! 全くお前は……空気読んでお世辞の一つも言えないのかね」

「お前にお世辞を言う理由はないんだが……」

「チッ……これだから最近の王様は……」

「なんだそりゃ。俺を数いる王族と同類扱いしたらマズイだろうに」


 初めて会った時のアホさや馬鹿な行動は意図的なものであったことは知っているとはいえ、そっちの印象がまだ強い分今のまともそうなシュトルムは些かまだ慣れんなぁ……失礼かもだが。久々に会うから余計にそう感じる。

 それでも、シュトルムとの他愛もないこの何気ないやり取りを尊いと感じてしまう自分がいるのも確かだけど。




 アイツに比べればたったこの程度の時間。でも俺にとってはこれだけでも十分に長い時間だった。それだけの時間を過ごしたのだと今一度思わずにはいられない。

 それもそのはず……まさか皆と過ごした時間よりも長くあちらで過ごすことになったのだから。




「……」




 ここで、妙に棘のある視線に気が付いた。シュトルムとの会話を打ち切って咄嗟にそちらに目を向けるとえらく鋭い視線を向けてくるセシルさんが……。先の件で目を腫らしてはいることもあって中々に怖く、一瞬ドキリとしてしまう。


「あの……セシルさん?」

「……」

「……あ、あの……セシリィ、さん……?」

「……なに?」


 明らかに気が付いているのに、最初の一声は意図的に無視されたようだった。


 あ、ヤベ……これは出だしからミスったっぽい。セシリィと呼ぶかセシルさんで呼ぶかで全然対応違うわ。セシリィって言わなきゃ反応すらしてくれないですか、そうですか。さっきあんだけ熱い抱擁してたのに……。

 自分で言うとこっ恥ずかしいもんだけど、さっきは感動の再会的な効果もあって感情に身を任せていたんだと思われる。それが少し落ち着いたら状況はものの見事に一転してしまいましたわ。


「に、睨むの……やめない……?」

「……睨んでないけど?」


 嘘おっしゃい!


 睨んでる、睨んでますよアレは。目を逸らせようとすらさせない強制力パネェ。

 まさしく積もり積もった言葉を滅茶苦茶ぶつけてやりたいって顔ですもん、俺には分かる。伊達に一年も一緒にいたわけじゃないし、怒らせると怖いのは昔と比較しても全然変わってないんだなぁ……。


 しかも怒りとは別に今の隠しきれてない反応は多分、そういうことなんだろうし……どうしたもんかね。


 少なくとも、俺がやっぱり最低だってのは間違いなさそうだが。


「茶番はいいから早く話して。全部。一体何があって今こうなったのか……あの時、何が起こったのか……。納得できるのかはそこから私達が決める」

「……あい」


 さっき自分がジークに似たような事を言ってる分、セシリィのこの言葉に対して何も言い返せない。まさにブーメランというやつである。


 しかもなんつーかね、声の圧がすごいんですよね……ウチの女性陣は。アンリさん然り、ヒナギさん然り、ちなみにナターシャも中々……。

 どこからそんな雰囲気出てきてんだってくらい豹変するからとんでもないったらありゃしない。触らぬ神達と天使に祟りなし……。猫を被るって言葉はこういう時に使うべきだと口には出さないけど私は思いましたよ。




 ――ふぅ。セシリィの視線はおっかないしやや重苦しい雰囲気だけど、それでも敢えて今は気にせずちょっと落ち着かせてもらうとしようか。

 そっちはそっちで色々言いたいことがあるのだろうが、俺だって久々に皆を見れて嬉しかったし、ようやくここまでこぎ着けたことに気持ちをハイにしたいのだ。少しくらい前みたく茶番する時間くらいくれてもいいじゃないか。




 ただまぁ、真面目な話をするなら今回の件で俺が得たモノは非常に多く、今後を考えると保険としても必要なことだっただろう。しかし、そのせいで……自分の為だけに多くの身内とその他大勢を巻き込む結果を生んでしまった。

 俺らは今素直に笑えてはいても、皆はむしろその逆の感情を持っているはずだ。今セシリィが不愉快そうな顔をしているのは皆の気持ちの代弁のようなもので、俺らがいいように思われるわけがないのだ。


 この件の真意を何も知らない人達からすれば訳の分からない俺らの私情に巻き込まれただけ。運命の分岐点の関係上本来の舞台がココに決まっていたとはいえ、俺らはSランク招集を利用してギルドを襲ったテロリストそのものとして映るのだ。理由がどうあろうと許される所業ではないことは間違いない。

 ある意味身内であっても知らなければ同じようなもので、不可解な行動に走っていた俺らを言及しようするのは至極当然のことであると言える。


 断罪の時……俺らが今直面してるのはその瞬間なのかもしれない。




 だが、んなことしったことかって話なんだがな。




 元より非難は覚悟の上。騒ぐなら勝手に騒いでいればいい。

 仮にどれだけ身内に幻滅されることになろうと、たかがその程度のことで本来の運命を素直に受け入れられるわけがない。だからこんな真似をしたんだ俺達は。

 今回の件は言ってしまえばただの前座みたいなもの。今日という日までの流れを大きな問題として捉えているならそれは誤りで、次からは舞台が一か所に留まらない大きな問題が引き起こされるはずだ。


 俺ら世界と『ノヴァ』のどちらを選ぶのか? その答えは聞くだけ無意味に等しい。

 何もしなかった場合の世界の結末を知れば、その一点においてのみ、俺らは全員が同じ志を共有して一致団結できると信じている。




 そうなるような話を、これから嫌でもしなくてはならない。




「……ハァ……言わないならこっちから。ソラリスって……結局なんなの?」


 あの時セシリィから伝えられた一方的な約束。再開してなお未だに守ってくれてるのかセシリィは俺の考えを見抜いてはいないようであった。

 思わず笑みが零れてしまいそうだった。セシリィが健気で真面目過ぎることに。以前俺に向かって言った配慮云々をそのまま言い返してしまいたくなるくらいに。


「ハハ……見られたってそれが俺の心なんだから文句なんて言わないのに。――あの時の約束……まだ守ってくれるんだな」

「……うるさい。いいから答えて」

「はいはい」


 俺が急かしても中々本題へと入らないなら自分が仕切る勢いでと言わんばかりに、セシリィの方から質問をぶつけて話を進めようとしてきてしまう。俺はセシリィが一瞬言葉に詰まったことに再度微笑ましくなりつつ、少し気まずそうな目をしたセシリィを適当に流すことを優先してしまう。


 全くこの娘は……。




「ソラリス……グランドマスターもその名を口にしていましたね。この世界のもう一人の神……空神と言っていましたが……」

「ツカサが会ったっていうのは時神……だったよな? それと同類ってことか……?」


 俺とセシリィの心情を知らず、これを機に、既に話してあることと知っていた情報を照らし合わせ、この神達の関係性の考察が始まっていく。

 トキとソラリス……コイツらについてはややこしくて俺も当初は困惑したものだが、俺には実際に知るという経験があったため混乱は比較的少なめだったように思う。


 トキとソラリスに関して……こればっかりは未来の記憶もある俺にしか伝えることは不可能だろう。もしも考察だけで答えに辿り着けたなら……その人は「え、なにソレめっちゃ怖い」って話だし。




「早速の疑問のところ悪いけど、そいつを語るにはまず過去の出来事を話してからの方が分かりやすいかもな。全員少なからず昔から俺と繋がりがあることだし、どうせ伝えておかないといけないことだ。そうすればトキとソラリスの成り立ちも、あとコイツらの紹介にもなるし……もういないヴィオラさんも過去を伝えることは望んでるはずだろうからさ」

「……ま、そこら辺は任せんぜ」

「俺も同じく」

「うぅむ……我も知らないことは多そうですね……」


 なんやかんやあり、まさかの思わぬ朗報によって俺の膝の上にちょこんと乗る小さなクーを始め、アレクとカイルさんらと目配せで確認しあうと、ここからの話は俺に任せる意思を確認した。

 見知らぬクー達は全員の注目の的だろう。何故この場に居合わせ、俺らと共にいるのか……その興味を示すように視線が一斉に集まると、全員集中して聞く体勢を作ってくれているようだった。


「セシリィだけじゃない。ヒナギ(・・・)も、シュトルムも、ジークにナターシャ……そしてアンリも。あの時はまだ分からなかったけど、昔があったから俺達はこうしてまた集まれたんだって確信があるよ。俺らがやろうとしたことは未来に待ち受ける本来の運命を変えることだったけど、過去に関しては何も変わらない……決まっていた運命だったんだ」


 そう……全ては既に決まっていたのだ。


「我々も聞いて良いものなのだろうか? 流れでこの場に居合わせているとはいえ……」


 場違い感を肌で感じてしまったのだろうか。いざ話をしようと思った矢先、ウィネスさんを代表としたSランカー達の立ち合いについて疑問が挙げられた。多分これは俺がウィネスさんに与えた役目の範疇に入ると思われ、大多数が無関係な話と思いこんでいるのではという懸念があることを見越した発言だと考えられる。

 実際、あの口うるさかった面々の口数が非常に少ないのはその証拠と言えなくもなく、このウィネスさんの発言に賛同する仕草がチラホラ見られる程だ。


 こっちの補佐にSランカー達のお守り……ウィネスさんには不憫な役割を押しつけてしまって申し訳ないもんだ。でもその誠実さに今は甘えさせてもらう他ない。


「大丈夫です。むしろアンタ達にも聞いて欲しい。わざわざこの場に呼んだことにはちゃんと意味があるから。自分達の生まれる以前に何があったのか……それを聞いた上で今後の身の振り方をどうするのか。各々で決めて欲しいんだ」


 俺から言えるのはそれに尽きる。Sランカー達は妙にソワソワし始めると、お互いに小さく呟いて気を紛らわせているようであった。


「なんかヤバい流れになってきたッスね……」

「Sランク案件超えてんじゃねーのか……」


 この話自体が俺らに最も関係ある話とはいえ、この世界の過去の話はSランカー達にも完全に無関係ではない。むしろ元からこの世界にいる人からすれば俺よりも関係はあるかもしれない。

 だからこそ言える。この話を聞いてどうするのか自体は俺が決めることじゃないんだと。生きるか死ぬか……流石に身内でもない連中のその選択をわざわざ一人一人ケアしてはいられないから当然だ。


「う~ん……話を聞いてみないことには何の判断もできないわね……」

「そうでありますなぁ……」


 話を聞いて俺らに賛同できないというのであれば、じゃあ俺らがすることの邪魔はするなというだけだ。防ぎようのない巻き込みはともかく、こっちからは何もしないと誓ってやるさ。しかしそれも駄目で敵対するというのであれば悪いがここで消えてもらうしかない。


 もう俺は既に人を殺めた身……もう後には退けやしないのだから。




「……皆も聞くことに異論はなさそうだ。聞かせてくれないか? 君の話を」




 明確な発言こそ聞けていないものの、ウィネスさんはこの膠着状態を肯定と一緒と捉えたらしい。なら俺もさっさと話に移らせてもらうとするに限る。


 果たしてどれだけの人が俺がする話をまともに受け入れるかは分からないが、俺は俺で最低限の譲歩はしておくだけだ。生き残る可能性のある選択肢はくれてやったと……後で言えるようにな。


「少し長くなるのは勘弁して欲しい。俺がこれまで、どんな人に会って何をしてきて……何をしてしまったのか。この世界の歴史とここにいる人達……今この瞬間とどれだけの繋がりを持っていたのか。……聞いてくれ」




 俺が視てきたその全て。時代は過去、体感にして約一年に及ぶ波乱万丈な昔話の幕開けだ。




 過去があって未来は存在する。俺らの今に繋がる俺らを作った過去を今……知ってくれ。


 全ては礎とも呼ばれる遥か昔、そこから始まる。



次回更新は土日辺りかと。

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