35話 メイド=忍者?
「ここだ」
警備員さんに案内された俺は、現在学院長の部屋の前に立っている。
ここまで来るのに、意外にも時間は掛からなかった。学院長室はどうやらこの広大な敷地内の端の方に位置しているらしい。
普通真ん中じゃね? とか思ったりしたのだが、まぁ何か意味があるのかもしれない。
学院長室の扉はなんというか高校の校長室みたいな扉で、いかにも学園って感じがする。
校長室なんて入ったことないけど、この懐かしい感じは気のせいではないだろう。
あぁ…高校楽しかったなぁ。ぶっちゃけ目的もなく入った大学と、商業の知識を身に付けたいと思って入った高校とでは名残惜しさが全然違う。
大学は親が行けって言ったから行ってるだけだしな…。そこに俺の意思はほとんどない…。
ま、飲んで飲んで飲んで時々吐いてー、ってな具合に一応楽しんでますけどね。
「じゃあ僕は持ち場に戻る」
俺が高校時代のことを懐かしんでいると警備員さんから声が掛かる。
あ、ここまであざーした。
フロムさんによろしくおなしゃす。
「ここまでありがとうございました」
「仕事だからね、それじゃ」
警備員さんは笑ってそれを言うと、元の持ち場に戻っていった。
さて、俺もさっさと入りますかね。
俺はドアをノックする。
すると…
「入りたまえ、鍵は開いている」
中から澄んだ声が聞こえた。
どうやら女性の声っぽい。
俺はドアノブに手を掛け、中へと入った。
「失礼します」
「君がツカサ君だね? アルガントの招待状で大体は把握しているよ」
俺が入ってすぐにその女性は答えた。
俺はその人をしっかりと見る。
アルガント? なんだそれは? エレガントの間違いか?
…いや、まぁ冗談ですけど。
てかネタ抜きでマジで誰なのよ? もしかしてギルドマスターのこと?
…まぁいいや。
「貴方がこの学院の学院長でしょうか?」
一応確認のため聞いておく。
確認重要だ。
俺の問いに女性はすぐに答えてくれた。
「フフフ、いかにも。私はこのセルザード学院の学院長を務める、マリファ・アステイルだ。よろしく頼むよ。私のことは好きに呼んでくれて構わない」
「初めましてアステイル学院長、ツカサ・カミシロです。よろしくお願いします」
俺はペコリと頭を下げる。
この学院長さんはマリファというらしい。
名字呼びで、アステイル学院長って呼べば問題ないか…。
…にしても美人だなぁ。この学院内での人気は高そうな気がする。少々男まさりな喋り方だが…。
アステイル学院長は青い髪のロングを、少し大きめの髪留めで留めてまとめている。
服装は何かよく分からないマーク…この学校のシンボルだろうか? …が刺繍された上着を羽織っており、身長は俺よりも少し大きい。スタイルはボンキュッボンで、モデル顔負けの身体つきをしている。
一瞬2つの大きなメロンに目を奪われたが、そこはまぁ俺も男なのでご容赦願いたい。
条件反射でつい見ちゃうんだもん。むしろ見ない奴は男ではない、絶対に。
そういう人はアレですよ、巷でよく言われるホモとかゲイとか…。多分その類の人種なんでしょうねー。
大きな胸は神に匹敵する象徴であり男のロマンだ。その神が与えし2つの丘を我々男はエデンと呼び、崇め奉らなくてはならない…と私は考える。
…。
…冗談が過ぎました。これはこれで女性に対して失礼でしたね、はいはいごめんなさい。
でもおっぱいは私好きです。大きくても小さくてもどちらでもOKです、大好物です。
ヘイ! カモン!
…。
「ふむふむ。…手紙に書いてあった通りの人物みたいだね(ボソ)」
俺がそんなことを考えているとマリファ学院長が何か言った…と思う。
小さくて聞き取れなかったので、何を言ったかは分からない。
「はい? 何か言いましたか?」
「いや、なんでもない。それと、できればマリファと呼んでくれないか? 姓名で呼ばれるのはあまり好きじゃないんだ」
「あ、はい。わかりました」
…?
何かあったのかな?
「それよりここまで来るのは大変だっただろう? そこの椅子にかけたまえ。お茶でも飲みながら明日からの話をしようじゃないか」
そしてマリファは指を鳴らす。
静かな部屋にパチンという音が鳴り響くと、どこからともなくメイドが現れた。
「お呼びですかマリファ様」
「おおぅっ!?」
えっ? あなたどこから湧いたの? 部屋から入ったの? それとも最初からそこに?
分からんがとにかく驚いたので、俺は変な声を出してしまった。
「茶菓子の用意を頼む」
そんな俺の状態には目もくれずマリファはメイドに用件を伝える。
「かしこまりました。少々お待ちくださいませ」
メイドはそう言ってドアから出て行く。
ドアを開くときに音がしたので、ドアから入ってきたという線は低そうだ。
となると…最初からいたってことか? だとしたら何者だよあのメイドさん。
急に現れて…忍者みたいだったな。
「ほら、席に座って待ちたまえ」
「あの、あのメイドさんは一体どこから…?」
「メイドだからあれくらいは普通さ」
さも当然ですと言わんばかりの返答をされてしまった。
なんかはぐらかされた気がしなくもないが、メイドさん…パネェっす!
俺は割り切ることにした。
◆◆◆
それから、現在俺とマリファ学院長はソファで対面して座っている。
メイドさんが持ってきてくれたお茶があるので、互いにそれを飲みながら会話をする。
「さて、改めて言うがここまで来てくれてありがとう」
「いえいえ、仕事ですから」
「そう言ってくれると助かるよ。…それにしてもよく間に合ったね。便りが届くのが遅れたらしいから、今日までに間に合わないかと思ったのだが…」
「今はいませんが俺の従魔のおかげですよ。王都には初めてきましたけど、グランドルからここまでで半日くらいで着きましたし」
ポポとナナ様々である。
「そんなに早く移動ができる従魔は聞いたことがないんだけどね」
らしいですね。
でもうちの子達は特別なんです。
「自慢の従魔ですから」
「私もそんな従魔が個人的に欲しいものだがね…」
マリファ学院長はしみじみと俺を見つめて言う。
あげませんよ?
俺は目でそれを訴える。
「まぁ、それはいい」
どうやら伝わったようだ。
しかし…
「それにしても…本当に冒険者に見えないな。一般人にしか見えないぞ?」
「ははは、よく言われます」
言われてしまいました。
やっぱりか…。
「でも…その服がただならぬ力を持っているのは分かるから、仕方ないとは思うがね」
「!? なぜそれを…?」
急な発言に俺は不意をつかれ動揺してしまった。
こんなことを言われたのは初めてだ…。
てか嘘…。バレた?
「優れたモノや道具を見抜く力くらいは持っているつもりだよ。どんな力を有しているかまでは分からないけれどね」
「そう…ですか…」
流石は学院長といったところか…。
その名は伊達ではなく本物のようで、ギルドマスターの友人というのも頷ける。
「まぁ言いふらしたりすることはないから安心したまえ。だが、気を付けたほうがいいぞ? 私は能力までは見抜けないが、中には全てを把握できるような人物も存在するからな…」
げっ! マジかよ…!
流石に【異世界のジャンパー】って名前を見られたらマズいぞ。
狙われるに決まってる…。
…まぁ俺専用の装備らしいから盗まれても問題ないが、俺の存在が怪しまれるのは避けたい。
もしかしたらもう怪しまれてるのかもしれんけど…。
う~む、どうしたもんか…。
「わかりました。以後気を付けます」
とりあえずそう返しておく。
考えておかないとなぁ。
「うん。そうしたまえ」
忠告ありがとうございました。
「さて、話が逸れたが、そろそろ本題に入ろうか?」
「…そうですね」
俺は頭を切り替えて耳を傾ける。
一瞬忘れかかったけど仕事だもんな。
「聞いているとは思うが、君にはこれからここで臨時講師として働いてもらう。期間は1週間ほどだ」
「はい。存じています」
「ただ君が1週間の間すべての授業を行うということはないから安心したまえ。基本は君とペアを組んだ職員の指示に従って動いてもらう」
ふむふむ。
聞いていた通りだな。
「難しいことはしないから特に気にすることはない。やることといったら冒険者の在り方や心構えの指南、それから戦闘訓練といったところかな」
ん? 戦闘訓練もあんの? それは知らないや。
聞いてみる。
「あの、戦闘訓練って一体どういうものなんでしょうか?」
「1対1での形式のものからチーム戦のものまで様々だよ。生徒が冒険者と実際に立ち合うことを目的としているんだ」
「あ、そうですか」
なるほどー、分かりました。
…それよりもなんか冒険者に拘っている気がするのは気のせいか? なぜ冒険者をここまで推すのだろう…。
聞いてみっか。
「あの、こちらに来る前から思ってはいたんですけど、学院がここまで冒険者を推すのはなぜでしょうか? 理由があればお聞きしたいんですけど…」
「聞いていないのかい? この学院の生徒は卒業後の進路が冒険者になる割合が非常に高いんだ。それが理由。他にも兵士になったり、知識や能力が優秀な者は学者への道を踏み出す者もいるが、大方冒険者になることが多いな」
あ、そうなんだ。冒険者って…そんなに人気の高い職業なのか?
ってことは俺って下手なことはできないってことだよね? 生徒に冒険者の変な部分を見せるわけには行かないか…。
いや変なことするつもりなんてないけどさ。
「なるほど、そういう理由があったんですね」
「そういうことだ。詳しいことはこの資料に全て書いてあるので明日までに目を通しておいてくれ」
そう言って俺に資料を十数枚ほど渡してくる。
うへぇ、面倒くさい。しゃーないけど…。
「…分かりました」
「手間を掛けさせてすまないね」
マリファ学院長が苦笑して言う。
顔に出てましたか…。気ぃ使わせてすんません。
「いえ、問題ありませんよ…。ですが…」
少々気になっていたことを俺は聞く。
「この辺りに何処か泊まれるところはありませんか? まだ宿を見つけていないんですよね」
これ。
1週間こちらにいる以上拠点は必要になってくる。
流石に1週間野宿とかは洒落にならんぞ…。外はまだまだ肌寒いし、風邪を引くのが目に見えてる。てか衛生上あんまりよろしくない。
暖かいご飯とベッド、それからお風呂、んでもって美人のお姉さんが欲しいところだ。
俺がそんなこと考えていると、マリファ学院長は何やら溜息を吐いている。
すんませんねぇ、準備悪くて。
「アイツ…何も言ってないのか…。まったく変わってないな」
むむ? 溜息の原因は俺じゃない感じ?
「宿に関してだがそれについては心配ないよ。こちらで既に準備しているからね」
「あ、そうなんですか?」
「うん。こちらが招いているわけだし当然だ。安心したまえ」
「ありがとうございます!」
ラッキー!! 宿の心配はいらなそうだな。
「キリの良い所まで話したし案内しよう。ついてきたまえ」
「あっ、はい!」
俺は飲みかけのお茶を飲みほして立ち上がる。
立つ鳥跡を濁さず…ってね。
見る人によっては食い意地が張ってるとか言われそうだが、俺は出されたものを残すのは忍びないと感じる派なので、そんな残すような真似はしない。
「そんなに慌てなくてもいいんだが…」
そんな俺を見てマリファ学院長が苦笑して言う。
「…すいません。残すのは勿体ないし失礼なので…」
「まぁ個人的には好ましいと思うんだが、ここの学院、貴族もいるから気を付けたほうがいいぞ。貴族にはそのような行為は好ましく映らないからな」
「あー、気を付けます」
「すまないね」
意識はしておこう。
多分大丈夫だとは思う。
「リース」
「お呼びですか?」
「はぅっ!!」
マリファ学院長が誰かの名前を呼ぶと、先ほど現れたメイドさんが再度現れた。
メイドさんの名前はどうやらリースというらしい。
てかまた変な声出ちまったよ…。
ビックリするようなことは慣れんなぁ…。
「片付けておいてくれ」
「かしこまりました」
「…」
そしてリースさんは片づけを始める。
「では行こうか」
「…ハイ」
俺はマリファ学院長の後に続いてドアを出た。
こっちのメイドさんって…凄いんだなぁ。
なんとも不思議なものだ。




