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神鳥使いと呼ばれた男  作者: TUN
第六章 来たるべき刻 ~避けられぬ運命~
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367話 蒼刃の向く先(別視点)

 



「…………」


 ――十数秒程そうしていただろうか。神気を纏い戦闘態勢を維持したままの司がソラリスの消滅を確信したのか、ようやく身を翻して動き始める。

 未だ解けぬままの金と銀の目は健在。足取りは軽くもなく重くもなく、ただ無言で鋭い目つきはどこへ向けているかは不明である。衆目を浴びながら立ち尽くしているジークらの元に向かうと、ようやく宝剣から手を離すのだった。


「ウチらが主の勇姿、しかと見させていただきましたよ。お疲れ様でした、フリード様」


 労いを真っ先に投げかけたのはナターシャだった。肩膝をついて司を迎える表情は凛々しくも明るい満面の笑みであり、二人の関係性と状況をよく表していた。内心では司はこんなに畏まられると困ると言いたくなっていたものだが、どうせ聴き入れはしないだろうと悟りその言葉を呑み込むほかなかったようだ。この状態のまま気楽に反応することに決めたらしい。


「勇姿って……こんなバケモンみたいなのがか? 無理あるだろ」

「フフ、ご謙遜を」

「……そこはバケモンくらいはご遠慮願いたいところではあるんですけどねぇ……。てかバケモンならそれはソラリスに言え、ソラリスに。記憶からすら生まれるとか俺よかよっぽどバケモンだろ」

「いえいえご冗談を。貴方の方がよっぽど化物ですよ」

「……あのー、冗談じゃないんですけど。褒め言葉で言ってくれんのは分かってるけど……ハァ……」


 化物という名の褒め言葉……身内だからこそ伝わる意味合いを理解してはいるが、ソラリスと比べられてどこか複雑に感じてしまう司は肩を落として困ったように溜息をついた。

 このやりとりは恐らく暫く終わらないと……そんな予感がして。




「……あれ……? 私達……」

「うっ……ごしゅ……じん……?」

「お? オイツカサ、コイツらが!」




 そこに、丁度良いタイミングで朗報が舞い込んだようだ。両手にこそばゆい感触がしたヴァルダは気が付くとすぐに司を呼び、見えるようにと両手を前へと差し出した。


「目ぇ覚めたか! 良かった……手荒になっちまってゴメンな? ……これで全員、ちゃんと揃った……!」


 司が飛びつくようにヴァルダの掌を覗きこむと、酷く衰弱した様子ではあるがポポとナナが目を覚まして動いているようだった。半目で首だけしか動かせていないが二匹が動く様子を直に見た途端に心は安堵で溢れかえったのだろう。先程まで殺意を持って戦いに望んでいたとは思えない、ここ一番の柔和な笑みへと切り変わっている。


 最早別人ではないかと錯覚しそうな気がするこの豹変振り。しかし、これが司の元なのだとヴァルダらはどこか安心するのだった。



「一先ず一段落、か……」

「うん。どうやら今回はそうなったみたいだな。――お前にとっちゃあれから約一年だ……お疲れさん。やっぱお前が全て決めてくれたな」

「お前らがそこまで持っていってくれてたからな。ホント、良か――っ!」


 ポポとナナを引き取り、ようやく落ち着けるところまでこぎつけたこともあるのだろう。まるで糸が切れるかのように司の足が崩れ、身体が斜めに傾いた。


「お、オイ!? どうした!?」


 幸いにもヴァルダがすぐ傍にいたこともあってそのまま倒れることは免れた。まさかの事態にヴァルダが慌てながら司を支えると――。


「いや……なんつーか…………一段落したしコイツらも目ぇ覚めてくれたと思ったら気ぃ抜けちゃって……ハハ……」


 申し訳なさそうに、だがそれでいて嬉しそうに司はそう言うのだった。どこも身体に異常が起こったわけではなく、単に力が入らなくなっただけのことであったようだ。


「なんだそりゃ。変なところで締まらんのは顕在か……。――で・す・け・ど? 俺は役得ですけどね……むふふん♪」

「あ? ちょい待てーい。今すぐ離せこの変態、いや離れろ変態」


 要らぬ心配だったのなら話は早い。司と接触するこの状況に何を思ったのか、ヴァルダの目がキラリと光った。

 ヴァルダを知る者なら一度は脳裏をよぎる、対象は司だけの恒例行事。また良からぬことを考えた邪な恒例タイムの始まりが無防備な司へと突然襲い掛かったらしい。


「ん~む、これが激戦を潜り抜けたご褒美か……! ウマウマですわー」

「ちょ、てめっ!? キショイ手つきで触んな、つかホールドすんな!?」


 既にポポとナナのお守りから解放されている身のヴァルダは自由も同然。『転移』で司の背後へと回り込んだかと思うと、するりと司の上半身に手を忍ばせる。

 しなやかでねっとりとした手つきは嫌らしく、司の顔も同時に引き攣りを極まらせる。更にただでさえ見ているだけで悪寒が止まらなくなりそうな光景に加え、当の本人が昇天しそうな破顔を見せていることも拍車を掛けていると言えるだろう。


「無駄だ無駄。両手が塞がっていれば振りほどけまい? それに『身喰らい(ウロボロス)』を使ってるから簡単に解けると思うなよ!」

「だぁああああっ!? なんで無駄に本気出してんだコラ!」


 絶望に囚われたポポ達と張り合える力をここで使うという無駄使い。司が吠えるのも無理はなく才能の無駄使いにも程がある。


「昔の俺と今の俺を比べる絶好の機会だゾ? どうだどうだ? ん? ここがええのんか~?」

「っ……こ・の……! こんだけ余力残しといてさっき死に掛けてんじゃねーよアホッ! 今ここで死ねや!」

「ぶふぉぁっ!? あ、ありがとございまーすっ!?」


 触れていれば魔法を使わせなくすることのできるヴァルダだが、流石にそこまで徹底してはいなかったらしい。それは欲望が生み出した油断か……最後の良心とも言える油断に司は感謝しつつ、魔法で作りだした氷の拳でへばりついたヴァルダの顔面を殴るのだった。


 気持ちの悪さは限界を超えて振り切れていたが、それ以上に呆れの方が強かったらしい。というのも、司がこちらに戻るまでの間苦戦していたであろうことは状況的にすぐに分かることであり、司もだからこそ一人で事を全て片付けた一面はある。しかし、それが全霊の力を振り絞っているように見えてまだ力を結構残していたとあらば話は別だ。何故全力を尽くさなかったのかと呆れてしまっても仕方のないことだ。


 もっとも、事が終わったからこそこんな馬鹿をする力が湧いた……という可能性も否めなかったりするのだが。


「わ、我が人生に、一片の悔いなし……ガクッ!?」

「アンタって奴は……」

「悔いだけ残して死んでいけ! まったく……!」


 殴られてお礼を言うヴァルダにドン引きするナターシャと怒り心頭の司は、ヴァルダが仰向けに倒れたまま拳を掲げる姿を見ていた。そしてまたかと……最早それしか言えなくなりそうになるのだった。


「ちぇー、いつものやり取りじゃんかよー。一年お預けされたってのにつれねーでやんの」

「俺じゃなくてそれはお前だろ! やかましいわ! お前がソラリスなら殴り殺してるトコだっつーの!」


 不満を垂れながらのっそりと起き上がるヴァルダに激を飛ばし、司はそのまま移動した。その先で頭上を見上げるとそこには、首を下げて見下ろしてくるクーがいた。


「すまん、あのアホのせいで後回しにしちゃったな。クーもお疲れだった。ヴァルダ達助けてくれたんだろ? サンキューな」

「父上……!」

「今まで元気だったか? 俺が言えた義理じゃないが……」

「はい……! ずっと……探していました……! でも、やっと会えた……!」


 後ろで司とクーの空気をぶち壊しかねない、「アホとはなんだ」とキーキー喚くヴァルダの声は聞こえていないようだった。

 クーの顔を撫でながらお礼を言うとクーは再び目に涙を溜め始めるが、これまでどれだけ流し、そして溜め込んできたかが司にはそれとなく分かってしまう。それを考えると胸が痛み、同時に自身が取り返しの付かないことをしたと……後悔の念で一杯になるのだった。




「(感動の再会か……。こっちも安心したぜ、お前の根が変わってなくてよ)」




 千年という長い時間を経ての再会。それも親子の再会となれば感慨深いものである。

 血の繋がりだけが親子の証でないならば、種族の違いもまた同じ。親子の証にならないという理由にはならず、司とクーが見せる光景はジークにも伝わっており、暖かい想いをひしひしと感じる程であった。


「(もう完全にお前にゃ届かねぇ。でも悔しいけど誇りに思うぜ、お前を選べたことをな)」


 司が一瞬の一年の間で本質が何も変わっていないことも判明し、ジークが見届けるべきものは全て見届けてしまった。残るは自分の問題……それだけである。




「(ここらが潮時にゃ丁度良い、か……。あばよ、後は上手くやれや――)」




 安心は満足へと……そして満足したからこその決断が迫っていた。

 もうこれ以上は無理矢理抑えつけていたモノを縛るのは無理であると判断し、人知れずジークは一つ青いオーラの塊を作り出すと、自分の首裏に鋭利に伸びる刃を置いた。

 蒼いオーラは透き通る様に晴れ晴れとした清涼さで、とてもこれからやろうとすることを感じさせない色合いに光っている。




「え……ジーク何して……!?」




 司達の視線の先にジークは映っていない。しかし、遠目から見ていた者達の中には一部この不穏な光景を見ていた者が僅かにいた。これは偶然か必然か……まさかのセシルである。

 薄く笑みを浮かべて不自然な挙動を取るジークはセシルの心に激震を走らせてしまう。何故ならジークの取ろうとする行動を理解してしまったから。しかも冗談でもなく本気で実行しようとしていたから。


「(……悪ぃな、こんな最期で)」

「ジークッ!!! 駄目――!!!」


 ジークはセシルの視線に気が付いていたのか、不意に視線だけセシルに向けると心でそう呟き伝える。それはセシルを王と選んで特別視していたからなのか……その答えを聞くよりも前に、ジークのオーラが自らの命に刃を振り下ろした――。




 セシルの叫びは……間に合わない。

 ジークの首裏に飛ぶ鮮血が宙を舞い、異変に気が付いた者達全員を釘付けにした。


申し訳ありませんが年内でのボルカヌ編完結は無理でした。※分量的に残り一話分あります。

丁度区切り良いんでここで切りますが、完結は明日になります。


それでは皆様良いお年を! 来年も地道に投稿していきます。

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