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神鳥使いと呼ばれた男  作者: TUN
第六章 来たるべき刻 ~避けられぬ運命~
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358話 未来の始動(別視点)

 



 クーの極大な攻撃が炸裂し、ポポの脅威は一旦遠ざかった。――ただ、途端にヴァルダらを守っていた砦も軋みを顕著にさせ、発現を保つことが出来なくなって消失して消えてしまう。


「……済まぬな。どうやら余波で解いてしまったようだ」

「綻びが既にできてたからね。消えるのはどうせ時間の問題だったと思う」

「そうか……」


 自分の持つ力が影響してしまったと思ったクーだが、ヴァルダが『断崖城壁』が解かれたことはクーが直接的な原因ではないと言うと、クーも安堵したのか気を楽にしたようでヴァルダから視線を逸らして彼方を見つめた。その先は自分の放った攻撃が着弾した地点……。威力が強すぎたことで周囲に砂塵が舞ってしまってよく分からないが、クーの鋭い眼光は全てを見通しているかのように真っすぐにのびている。


 そして――。


「なぁ主ら。一つ確認しておきたいのだが……」

「ん?」


 クーのの太い声が、緊張を掻き分け三人の耳へ。恐らくは自分達の次の動きに関してのことかと考えた三人は、一斉にクーの次の言葉を周りに警戒しながら待つ。


「我、主達に敬語使った方がいいだろうか? 癪に触ってはおらんか? 思えば久しく誰かと会話してすらいなかった故……」

「「「……」」」


 その集中からの、予想だにしない一言で訪れる一瞬の間……。


「(めっちゃどうでもいい)」

「(何故にこの状況でそれを?)」

「(天然かよ)」


 ポポという存在を一時的に退けたことで、心にほんの少し生まれた余裕を無理矢理表に出したとでもいうのか……。クーの発言に対し、そんなことは今気にすることでもないだろうという考えが三人の間で共有されてしまう。逆に三人には溜息が生まれ、そして同時にフリードに対して八つ当たりのように呆れを感じざるを得なくする。


 存在感だけで、こんな謙虚な性格の祖竜がいてたまるかと……。




「――で? チビ助の奴はどうなったんだ? やったの、か……?」

「分からない。直撃はしてたみたいだが――「来るよ! アンタ達構えな!」っ!?」


 クーのお蔭でこれ以上ない程の緊張が解けたのも束の間、ナターシャの叫びが皆の意識を強制的に引き戻す。また迫りくる、絶望のオーラを唯一ナターシャは察知したのだ。

 言葉が届いたが直後、純白のクーにポポは対照的な黒いシャボン玉のように現れ出ると、理性を失くした獣となって襲い掛かる。


「ギュア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ッ!」

「むっ!? 『解』の力で……引き剥がせぬ程、だと……くぅっ!?」


 クーが自分の持つ力を跳ね除けられたことに驚愕しながら、ポポによって降りかけられた黒炎に炙られ苦悶の声をあげる。黒炎はクーの輝く鱗を呪いのように燻らせて焦がし、染みを作り、果てには炭と変わらない見た目へと猛烈な速度で変えていく


 如何にポポが巨大化による3m程の体格を誇ろうと、竜であるクーの全長10mと比べると圧倒的に差はある。誰が見ようとクーの方が圧倒的な体格ではあるが、その身に秘めた力の大きさは見た目に比例するわけでもなく、クーに軍配があるわけではなかったようだ。

 神獣すら上回る力を持つ……それが今のポポだった。


「(黒い……炎……? なんだアレは……)」


 自然発生した炎や魔法で発現した炎。これまで生き永らえてきた時間の中で様々な炎を見てきたヴァルダであったが、黒を纏った炎はこれまで目にしたことはなかった。持ち前の知識に少しでも抵触するのであれば、そこから分析を済ませて対策や最善の行動に移れる自信はある。しかし、その判断のできない初見がヴァルダの動き自体を鈍らせてしまう。

 ポポの使っている黒炎はそれくらい異質だったのだ。今この場で――この世界であの黒炎について知る者は何処にもいない。


 幸いにも鱗は分厚いのか、それとも火に耐性でもあるのかクーにはまだ余力がありそうだったものの、それでも踏ん張って耐えていることには変わりない。そこで、急遽割り込んできた邪魔者のクーへと標的が映ったことでヴァルダらから一瞬だけポポの殺意が向けられなくなったのを察した一人が、後ろめたさを殺して勇猛果敢にも再度牙を剥く。


「『リベリオンクロス』! 『貫け』!」

「ギュッ――!?」


 ジークである。格上の相手に対し機を逃すなど愚の骨頂だと言わんばかりに、動けなかった味方の先陣を切って我先にと自分の直感を信じてポポに向かって飛び出したのだ。足場を作ることも、滞空する術も持たないというのに……。

 司を苦しめた『技』を凝縮し、ポポの身体の側面目掛けて全ての武器を差し向けると、武器達は蒼い散弾となってポポへと直撃する。勿論、圧倒的に力の差がある以上致命傷になどできるものではなかったものの、ある程度効果はあったのだろう。クーに襲い掛かる黒炎が勢いを減らし、ポポの身体が僅かにグラついた。


「(好機――!)ヴァルダ、俺に上手く合わせろよ!」

「っ!? 分かった!」


 離れていくジーク後ろ姿から告げられた中身のない突然の頼み。その考えるのではなく感じればいいやり取りは、ヴァルダの硬直していた身体は自然と自分が気が付く前よりも早く動き出させる。


「ガラ空き、だぜ……!」

「貴様……!」


 ここでジークは恐れを知らない蛮勇さを見せる。ポポに向かって飛び出したジークは、得体の知れない黒炎を使い、姿すら真っ黒に染まったポポの首元の羽を思い切り手で掴み上げたのだ。まともに触れて安全な保障もないのにである。

 一応は念の為か予防策として青のオーラを身に纏ってはいるものの、それでも不気味なモノを見た直後でできる者は早々いないだろう。


「灰燼トナッテ散ルガイイ!」

「っ……!? あづ――!」


 ただジークの蛮勇も虚しく、首根っこを掴まれて不快、というよりも目障りだったのか……ポポがジークを排除するために内から黒炎を滾らせて包み込み始める。オーラがあっても熱がジークに貫通して届いているようであり、余りの熱さにジークの顔が引き攣る。


「『ミラージュエッジ』!」

「っ!?」

「(――っしゃ、サンキューヴァルダ!)」


 窮地のジークを救ったのは三つの軌跡――。ヴァルダの投擲した得物が三つに分裂し、ジークをすり抜けてポポの翼と胴体全てに直撃して大きく抉ったのだ。裂けた身体から吹き出るのは血ではなく黒い飛沫であり、まるでガスのように液体ではなく気体を思わせる見た目である。


 しかし、空を縦横無尽に飛び回れようとも、その飛ぶための部位を痛めつけられてなんともないなんてことはほぼ有り得ない。吹き出たものが血であろうがそれ以外であろうがそこの部分は変わらない。飛べなくなってしまえば重力に従って自由落下するだけである。そして飛んでいるのが基本となっている状況で、その行為そのものを封じられたのだ。

 ポポの身体と意識が身を安定させるために咄嗟にジークの排除という優先順位を引き下げ、飛ばなければという意識に切り替わる刹那――。


「落ちやがれぇええええっ!」


 僅かな隙を突き、そこから更に僅かな隙を突く……。ここまで隙を突けば結果は大きな隙と変わらない。

 ジークはポポの首根っこを思い切り引いてポポのマウントを取ると、頭上のジークに向かって首を曲げて向いた顔面にもう片方の掌を思い切り押し当てる。そしてあの最大威力を秘めたパイルバンカーの突きを、役目を果たした手で肩を支えながらゼロ距離でポポに向かって突き出した。

 下方に向かって放たれるその絶大な一撃は、まるで雷が落ちたかのようだった。




「――むぅ……人の子でありながら見事なまでの勇ましさと力。恩に着るぞ」

「ハッ、お互い様だろ」


 ジークの一撃が地表に到達し、地面を轟かせた後。そのまま落下するだけだったジークはヴァルダの用意した足場を伝って元の場所に戻るなり、軽いやり取りをクーと交わし合う。

 初めはクーが撃退し、今度は自分達が撃退した。お互いに対等な立場に戻ったのと同時に、僅かな間で戦友のような意識を既に感じ始めていたのだろう。お互いの持つ力の大きさを認め合うに至ったようだった。







「小癪ナ……!」








 憎し気に恨みつらみをぶつけてくる声が、これでも止まらず向けられ木霊する。

 確かに地表に落ちたはずだ。それでもなお、刈り尽くすまでその殺意が止まることは決してないというのか。音もなく、ポポが再び上空に姿を現す。


 更に――。


「無傷、だと……!?」


 黒い飛沫をまき散らしていたはずの裂けていた部位。通常なら傷になっているはずが既に塞がり跡形もなくなっている。それ以外にも、最高威力かつ貫通性能が極めて高い一撃を頭部に直撃させていたにも関わらず、微塵もその影響を伺わせない様子は現実的ではなかった。

 司ですらまともに受けていたら即死してもおかしくない攻撃が効かなかったことに、ジークはただ目を見開いてその部位を見つめることしかできなかった。


「(まただ……また魔力感知すらできなかった。確かにポポからは魔力を感じるのに何故――いや、魔力じゃなくて俺の感知する力事体を否定してる……? 魔力に連なる事柄全てを思うがままに否定すると……。しかもジーク君の直感でも動きを悟れない状態なんて【隠密】越えもいいとこだろ……)」


 一方で、ヴァルダはジークとは別の部分に着手し、こちらの方が問題であると感じていた。そこで魔力どころか今の自分達の力全てを否定していると錯覚させる程の力の差をヴァルダは確信し、この時点でとある考えに達したようだ。自分達の最善……生き残るための道はこれしかないと。


「察するにシステム下の力は全て通じないと見た方が無難か。となるとナタさん、どうやらコイツらと同じくシステム外であるナタさんの【龍気法】だけが頼りっぽいぞ」

「とは言われてもね……。『闘神』の真っ当な一撃であの程度のものじゃウチの力が通じるとは思わないよ? アンタ」


 ナターシャは自分の力を当てにされたところで困るとでも言いたげにヴァルダに言い返す。実際この輪の中で最弱でもあるナターシャの言い分は間違っておらず、弱音どころか士気を下げるマイナス発言も無理はない。


「通じなくてもいい……この際生き残ることだけが最優先だ。魔力関連は通じない、クーの『解』の力でも祓えず、最高の物理を誇るジーク君の純粋な一撃でも駄目なんだ。――ならもう……今のポポとナナは戻って来るアイツを当てにするっきゃないだろ」


 但し、それはこと攻撃に関してというだけである。ヴァルダは酷い話、ナターシャに攻撃を一切期待などしてはいない。ここで期待していたのは、攻撃以外についてである。

 ナターシャは攻撃能力は大したものではなくとも、防御においてはヴァルダとジークを上回る能力と立ち回り、そして『龍気法』を駆使した補助能力の数々を持つ。それらは組み合わせが無数に存在し、汎用性に秀で過ぎた万能な後衛として力をいかんなく発揮させるのだ。


 全てのケリは全ての始まりに託すことに決め、ヴァルダは迎撃態勢から一転して防御の陣へと切り替えて号令を掛ける。



「各自自分の最も得意な範囲でいいから守りに徹してくれ。周りを優先するな……自分の身を第一に考えろ!」

「ちっ、こんなアクシデントで俺らがここまで追い込まれるたぁな。――お前の判断なら従うっきゃねぇ……情けねぇぜ自分が」


 守りが性に合わないジークもヴァルダの指示の前には従わざるを得ない。全身にオーラを纏い、『クロスリベリオン』に使っていた分の全てを守りの力へと迅速に変える。




「ツカサが消えている今、新たな未来の始まりは俺らに委ねられている。クーが現れてなおこの時間の消失が起こらないなら、過去は正しく確定されたということだ。――なら俺が記憶を縛り付けておく必要はない。最後の枷を外させてもらうぞ……!」


 誰かに向けるでもなく独り言のように確認された事項を述べていくヴァルダの姿は、まるで世界そのものに確認を取っているようでもあった。


 ヴァルダは掌から文字の羅列が刻み込まれた拳大の白い球体を出現させてそのまま掴みとると、球体を握力のままに握りつぶしてバラバラに粉砕する。白い欠片となって地表に向かって落ちていく破片が光の反射で煌めきながら雪の様に舞い、光の粒となって溶けるように消えていく。


「……?」


 たったそれだけの光景で、静かに終わってしまったヴァルダの行動。クーはその行動の意味を知るよしもないだろう。

 ただ、世界には確かにその瞬間から変化は起こっていた。既に施されていた者達の目覚めと、そしてヴァルダの内側に流れる魔力の流れと密度を中心に。この行いの意味を理解できているのは同じく全てを知るジークとナターシャくらいのものである。


 右手に携えていた双刃剣(ダブルセイバー)を肩に担ぎ、左手を空に向かってヴァルダは伸ばす。すると、ヴァルダの手元には舞い降りるように虚空から一つの本が落とされ手中に収まった。鎖で幾重にも巻かれ、厳重に封の為された分厚い本が。

 右手には双刃剣(ダブルセイバー)、左手には本を構えたヴァルダの雰囲気がこれまでと比べどことなく変わった――。




「防御に徹するだけならもう少しの間やりようはある! アイツのためにも絶対に死ぬんじゃないぞ! 各自まずは生き延びることだけを考え時間をとにかく稼ぐんだ! アイツが来るまで死力を賭してなんとしてでも生き延びろ!」

「「「おおっ!」」」




 先程の現段階での最強のスタイルと、今の段階での最強のスタイルでは意味がまるで違う。今の状態こそが、何も心配する必要のなくなったヴァルダの最強の姿だった。




次回更新は火曜辺りです。


※10/28追記

明日までお待ちを……。

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