34話 メ〇ルスライムの気持ち
さて、王都に入ったはいいが学院は一体どこにあるんだろう? まったく分からん…。
俺方向音痴だしなぁ。人に聞くしかないか…。
それで俺が辺りを見回して人を探そうとしたそのとき、後ろから声が掛かる。
「よぉ兄ちゃん。何かお困りかい?」
「俺たちが聞いてやるよ」
振り向くとさっきの2人組がいた。
…あー、やっぱ来たか。なんかテンプレすぎて嫌になるなぁ。
今はコイツらを相手にしている場合じゃないし…。
ふむ。
…。
……。
………。
特に良い案は思いつかんし、普通に逃げようか…。
面倒ごとは起こすなってアイツらともさっき約束したばっかりだもんな。
「あっ!」
「「ん?」」
俺は何気ない顔で2人組の後ろを指さす。
そして2人が後ろを振り向いたところで…
「さいなら~」
そう言って一目散に逃げ出す。
まんまと引っかかってくれてありがとう。
おバカ検定1級を進呈いたします。
HAHAHAHA! 今の俺の気分はメ○ルスライムだ。
良かったね! 倒さなくても戦闘勝利ですよ。喜べお二人さん。
そうすると当然…
「あ! オイコラッ!」
「待てよてめぇっ!!」
この2人がついてくるわけで、素直に逃げ切れるわけがない。
ゲームみたいにいけばいいのに…。
経験値はあげませんよ!
いや、まぁぶっちゃけ逃げるのなんて簡単なんですけどね。
単純に高速で移動して撒くとか、魔法を使って足止めするとかさ…。
ただ周りには結構な人がいるため、そんな目立つようなことはできない。
一般的な速度で逃げつつ、とりあえず人気のないところを探すか…。
◆◆◆
とりあえず走ること3分くらい。
2人はというと…
「はぁ…はぁ…。待てって言ってんだろゴルァッ!!」
「はぁ、ぶっ殺すぞオラァ!!」
大声で怒鳴り散らしながら、まだついてきている。
涼しい顔の俺とは対照的に随分とヘトヘトな様子である。
しつこいねー、アンタら。
さっさと諦めてよもう…。周りの視線も痛いんですよ、ホント。
俺がウンザリとしていると、あまり人気のなさそうな細い裏路地を見つけた。
しめた! あそこに行こう。
俺はその裏路地に入り込む。
そして人がいないかどうかを確認する。
…いないな。チャンスだ!
人がいないことを確認した俺は魔法の『インビジブル』を発動する。
パチンッ!
すると遅れて2人が路地に入ってくる。
が…
「はぁ…あ? あいつ…どこ行きやがった? ぜぇ…」
「確かに…はぁ…入ったよな?」
2人は突然俺がいなくなったことに驚いているようだ。
まぁ実際はいるんだけどな。
――『インビジブル』
これは光属性の上級魔法で、光の屈折を使って姿を見えなくすることができるものである。この魔法を掛けられた対象は全方向から見ても確認することはできず、隠れたりするのに非常に役に立つ優れものだ。
一見チートっぽい気もするが、ちゃんと欠点はある。
まず、この魔法は動いてしまうと効果を発揮しない。光の屈折が意外と繊細なのか、動くと魔法が解けてしまう。
そしてこの魔法、夜にはまったく効果を発揮しない。
光さえあれば大丈夫ではと思ったのだが、どうやら太陽の光ではないと駄目なようで、太陽の光のみ屈折させることができることが分かった。
そしてこれで最後なんだが、消費魔力がとても多い。
上級というだけあってかそれなりに魔力を消費する。
どれくらいかと言うと、…まぁ俺はあまり気にならないくらいのものだが、一般の魔法使いが使ったらそれなりにキツイんじゃないかと思えるくらい。
まぁそんな感じの魔法である。
「はぁ…まだ近くにいるはずだ…。はぁ…探すぞ!」
「ぜぇ…分かってらぁ」
俺がいないと分かると、2人はそのまま走ってどこかへと行ってしまった。
2人がいなくなったのを確認し、俺は魔法を解く。
これでどうやら完全に撒いたみたいだ。
てかいい加減諦めてよ…。その時間をもっと有効に使えや。
ハロワ行け。お前らみたいなやつでも欲しいと思う企業は多分ある。
「はぁ…。まぁ、さっさと人に場所聞かないとなぁ」
俺は裏路地を後にし、学院を探すのであった。
◆◆◆
「えっと、ここでいいんだよな?」
俺はあの2人組に追いかけられた後、人に道を聞きながらなんとか学院に辿り着くことができ、安堵していた。
あの裏路地からここまで、走って移動して1時間くらい掛かったぞ…。
王都広すぎ…。グランドルが可愛く見えてくるわ。
「とりあえず、グルッと周ってみるか…」
学院の建物は確認できる。だが俺は学院を囲う柵の外側にいるため中には入れていない。今学院のどの辺にいるかが分からないので、時計回りに移動を開始する。
そうすればそのうち門が見つかるだろう…。
だがその考えは甘かったようだ。
ザッ、ザッ…。
…。
ザッ、ザッ…。
……。
ザッ、ザッ…。
………。
オイ。
角が見当たらないんですけど。
敷地広すぎない? 結構歩いてるぞ?
かれこれ10分は直線に歩いているが、未だに角が見えない
流石有名なだけあるのだろうか? それともこれが普通なの? 私が無知なの?
それからさらに歩くこと5分、ようやく角が見つかった。
ふぅ、無限ループに嵌ったのかと思ったぜ…。
そして俺は角を曲がる。
……もう勘弁してくれ。
そこには果てしない道が続いていた。まぁ当然だが…。
学院の敷地一辺の長さであれだけあるし、そりゃそうですよねー。
…心が折れそうだ。
でも急がないといけない。
もう日が暮れ始めているし、悠長なことはしていられない。
さっさと門を見つけないと…。
俺は走ることに決めた。
王都に来てからずっと走ってるな…俺。
かったるいなぁ…。
◆◆◆
「マジかよ…」
結局の所、門は難なく見つけられました。
なんか凄く厳かな造りをしていて、THE貴族って感じの門です。建物についても同様で、どの建物も高くて非常に綺麗です。
アハハ、僕もこんな校舎に通えたら良かったのになぁ。
でも時計回りは一番遠回りだったようです。
最初に逆回りで進めば1つ角を曲がった所に門はあったのに…。まったくツイてないですね。要らぬ労費をしてしまったようです。
…。
とまぁ、変なキャラは置いておいて、さっさと紹介状を渡そう。
俺は門の脇に立っている警備員さんらに近づいていく。
するとどんどん近づく俺に警戒を抱いたのか、警備員の一人が俺に声を掛けてきた。
「こんな時間に何か用か?」
少々警戒心をあらわにしている声色だったので、どうやら俺の考えは当たっていたようだ。
はい、怪しくはないです。
表面上はなっ!! 頭ん中はくるくるパーですよー。
…ゴホンッ。
…いや、至って善良な一般市民ですけども。
そして用件を伝える。
「あの、グランドルのギルドから来た者なんですけど、学院長にこれを渡して欲しいのですが…」
「グランドルのギルドから?」
ギルドという言葉を聞いて少し表情が変わった。
ギルドって信頼あるんだねぇ。
素直にそう思った。
警備員さんは俺が差し出した紹介状を受け取る。
「…中身を確認しても?」
あれ? いいのかな? こういうのってあんまり良くない気がするんだけどなぁ。
もしかしたら機密事項とかあるかもしれないし、それにプライベートな内容が含まれている可能性も…。
学院長とギルドマスターは友人だしありえる。
さてどうしたものか…。
…。
やっぱり直接渡してもらうのが一番か。
「えっと、もしかしたら中身は機密事項があるかもしれませんので、直接渡してもらえると助かるのですが…」
「そうか…。なら少し待っててもらえるか? 確認してくるよ」
「はい。お願いします」
「フロム、少しここ頼むな」
「あいよ」
警備員さんは持ち場が同じの人にそう告げると、どこかへと行ってしまった。
そして声を掛けられた警備員さん、名前をフロムというらしい人がその抜けた持ち場につく。
歳は…20代半ばくらいかな? とりあえず若いのは分かるな。
俺が言われた通り待っていると、声が掛けられる。
「よぉ少年。ギルドから来たって言ってたが、何かのおつかいか?」
「ええっと、ここには依頼で来たんですが…」
俺はその言葉に半笑いで答える。
やっぱりなぁ…。
「依頼? 少年がか?」
「そうですよ。これでも一応成人を迎えてますので…。冒険者ですよ」
「お? そうだったのか! 悪い、分からなかった」
「よく間違われるのでいいですよ」
待っている間、並んで会話をする。
「へぇ~、それで少年は何の依頼でここに?」
その少年って呼び方は変わらないのね…。
まぁいいけど。
「学院の臨時講師をやれと言われまして…」
「臨時講師? そういやまだ見つかってないとか言ってたっけ…。それが、少年?」
「柄じゃないんですけどね」
「なんだ見つかったのか。ってことは少年、中々優秀…?」
「一応Cランクではありますね」
「マジか! その若さでそれは凄いな。俺も前は冒険者やってたが、戦闘のセンスがあまりなくてな、結局D止まりだったんだよなぁ」
「そうだったんですか…。それで今はこの仕事を?」
「ああ。給料は悪くないし、冒険者よりかは安定してるしな。それに死と隣合わせってわけでもないからいいもんだよ」
俺も地球だったらこういう仕事に就けたらなぁと思う。
安定した給料と安全な環境、それさえあれば仕事はなんでもいいしな。
俺は職種は特にこだわりがない。
冒険者になったのだって、身分証明が手軽に出来て日銭が稼げるという2つがあったからであって、それ以外にあるのであればそちらにしていただろう。
「まぁ、冒険者に危険は付き物ですもんね」
「そーそー。家庭を持っている身としちゃあこの仕事で良かったのかなとは思ってるぜ」
「あ、奥さんいるんですか…」
「いるぞ? 今年で4年目になるな。去年娘も生まれたしな」
あらま、これは驚き。
といってもこの世界の人はどうやら結婚が早いみたいだし、これが普通なのかな?
晩婚化している日本とは大違いだ。
日本の場合は経済的に余裕がないとか、1人身の方が楽みたいな傾向が強いからだが、こっちの世界ではその傾向は低いのか?
こっちの世界の仕事とか実態を俺まだよく知らないんだよね。
まぁ、いずれ帰るつもりだから知らなくてもいいんだが、大学に通っていた身としてはそういうのは気になる…個人的に。
「それはそれは…おめでとうございます」
「ありがとな。少年はいないのか? コレコレ」
そう言って小指を立ててくる。
近所のおばさんかよ…。今時そんなことやる人まだいるんだな…。
てかこっちの世界でもそれは共通なのね。
それにしても…彼女か。
いたらそりゃ嬉しいけど、俺は結構努力しないとできないと思うぞ。自分で言うのもあれだが、面倒くさい性格してて顔も良いわけではないし…。
それにすごい背が低いしな。
これって結構大きな問題だと思うんですよねー。
今更言ってもしょうがないけど。
なので俺はフロムさんに適当に言葉を返す。
「いるわけないじゃないですか。こんなナリですよ? 無理ですって」
「そうなのか…。確かに背は低いけど、少年結構モテそうな顔してると思うんだがな」
「ははは、ありがとうございます」
まぁこれは社交辞令みたいなもんだな。
遠慮しなくてええんやで?
「まぁ、何かあったら俺に相談したまえ! 人生の先輩としてアドバイスをしてやろう!」
「その時はお願いしますよ」
「して少年、名前はなんて言うんだ? 聞いてなかったんだが…」
「ああ、自己紹介が遅れました。俺、ツカサ・カミシロって言います」
「ツカサ…。東の出身か?」
「そうです」
「随分と遠くから来たんだな。まぁ他の大陸から来るやつはその比じゃないけど…」
「色々ありまして…」
実際『東の国』とやらがどの辺りにあるか知らないので、なんとも言えない。
この大陸にあることは間違いないんだけど…。勉強不足だな…俺。地球でもこの世界でも…。
………。
ま、する気なんてないんですけどね!
「ほ~ん。まぁご苦労なこって…。っと、戻って来たみたいだな」
俺の色々、という発言から何かを感じ取ったのか、フロムさんは深く追求はしてこなかった。
そして先ほどの警備員さんが戻ってきたことにいち早く気づく。
「確認が取れた。学院長が部屋まで君を連れてくるようにと…。着いてきてもらえるか?」
どうやら確認が無事取れたらしい。
その言葉に俺は頷いた。
「じゃあ行こう。フロム、もう少し頼むな」
「へいへい、いい子にしてるって。ツカサ! またな!」
「ええ、またお話しましょう」
フロムさんと短いやりとりをした後、俺は学院長の部屋へと案内されたのであった。




