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神鳥使いと呼ばれた男  作者: TUN
第六章 来たるべき刻 ~避けられぬ運命~
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353話 滅びの一撃

 



同調暴走(シンクロバースト)』。俺だけでなく、俺らの最後の切り札。


才能暴走(アビリティバースト)』は俺の魔力を対価にポポとナナを全快させ、更に俺のステータスの半分の数値を加算させる『覚醒』状態にするものだ。一気に戦闘能力を向上させ、二匹の持つ本来の力を最大限引き上げる恐ろしく強大な力。これまでに幾度となく猛威を振るってくれた頼もしい力である。

 ポポとナナはそれを自発的に今回やってみせたわけだが、『同調暴走(シンクロバースト)』はその逆のようなものに近い。使えば俺が全快し、ポポとナナのステータスの数値全てが俺に加算される。



 ただ一つだけ大きく違うのは、使ったら最後……ポポとナナの力はスキルを除いて全てが失われる。そして発動終了後に俺にその力が残るわけでもない。

才能暴走(アビリティバースト)』が魔力を対価にしているなら、『同調暴走(シンクロバースト)』は二匹の能力を対価にするのだ。この一度限りの使い捨ての力だからこそ、これまで迂闊に使う真似は出来なかった。




 それを今使ったのだ。

 ポポとナナの力を、俺の上昇したステータスで扱えるようになった以上、戦闘能力はこれまでの比じゃない。


「っ……どんだけだよ。景色が歪む程の魔力濃度か……!」


 普段は自然と抑えられるはずの魔力。内なる魔力を無闇に振りまくのは力の制御が出来ていないとされ、未熟であると捉える者も多い。

 しかし今の俺は魔力が有り余りすぎ、抑えること事体にむしろ疲れてしまいそうに感じる程だった。一度抑えることをやめ、勝手に溢れては流れ出そうとする魔力に身を任せると、ヴァルダ達には今の俺達はそんな風に見えているようだった。


「ふ……ふふふっ……! フハ、フハハハハハッ! ――あ~……いいぞ、こっちが絶望したくなるくらいに凄まじい力だ! 流石だよツカサ……!」

「……」


 俺を見て警戒の色を強くしたヴァルダであったが、それもほんの一瞬の反応に過ぎなかった。今は狂ったように笑い喜び、まるで好奇心を剥き出しにした感情を隠せない子どものようである。

 笑いすぎて涙が滲んだのか、目元を擦るヴァルダに俺は若干気味の悪さを覚えそうだった。俺の中にいるポポとナナも、俺の目を通して今そう思っているようだ。


「やっぱり、これだからお前の力は面白い。お前はあらゆる力と調和して己が力とし、それを余すことなく発揮する。それがお前のおぞましい力の一端だ」


 違ぇよ。余すことなく発揮できてねぇから今魔力漏れてんだろ。

 ――まぁ、それでもそれすら気にならないくらいさっきとは別格ではあるがな。


「上げても何も出ないし、それとまだまだこんなもんじゃねーから」

「だろうな。……あー良いな、その希望に満ちた今のお前が、これから絶望で染まることになるんだからなぁ」

「……言ってろ」


『同調』状態もずっと続くわけじゃない。時間は有限……コイツの狂気に一々付き合ってはいられないしさっさとカタをつけて皆の元へ向かう!

 後悔させてやるよ、俺らを敵に回したことをな!


「ポポ!」


 ポポの名を叫んで呼び、宿るポポの力を右手に集中させて掲げる。右腕全体が炎に包まれ、ポポの協力も得て作り出した炎は急速に成長して業火へと……そして果てには劫炎へと成長して渦を巻く。


「『猛き命の踊り火よ、猛炎の舞子(メルティライズ)』!」

「あ゛?」


 俺が炎を纏ったの見るとすぐ、ネズミが慌てたように早口で何かを口ずさむ。


 なんだありゃ……? ――ああ、アレがポポが言ってた耐性ってやつか。……無駄な足掻きを。




 火への耐性を付けられたところで何も思わなかった。ネズミのポポの業火に耐える程の防御力と耐性は確かに脅威だ。それこそ超級に耐えられる耐性力と遜色ないレベルだろう。


 だが、それが俺とポポの劫炎に耐えられる保証になるわけじゃない。生き物としてナナの毒が効いたんなら、生き物として耐えられない火力をぶつけちまえば関係ない。


 毒だろうが炎だろうが、耐えられなけりゃどっちも変わんねーだろ? 苦痛を知ることもなく焼け消えろ……!


 この劫炎を、ポポのもう一つの力である風の力で解き放つ――! 


「『グレイシャr「遅ぇ」っ!?」


 右腕を振り下ろそうとしたタイミングで反応し、俺の動き出しそのものを阻害しようとしたヴァルダがまたも無詠唱での超級発動を試みたようなので、その前に左手にナナの力を宿して逆にこちらが邪魔をしてやる。

 ステータスが上昇した分、今はヴァルダの動きすら鈍く感じる程だ。多少速いと思うくらいで、俺らには脅威に映りもしない。ナナの補助もあって息をするように魔法の速射がヴァルダを捉える。


「っ……うぉっ……!?」


 幾重にも編み込まれた氷の鎖でヴァルダの上部全体を雁字搦めにし、締め付ける。身体を圧迫され変な声が聞こえるが、ただ締め付ける程度では拘束する程度が限度だったようだ。

 これは誰もが使える魔法でもなんでもない、俺らが今作った只の即席の魔法だ。まだ名前も存在しない。


「っ!? しまった、これは……!?」

「お前に魔法は効かないんだろ? だったらその魔法そのものを使わせねーよ」


 魔法が効かないことでナナを追い詰めたんだ。なら俺は魔法を使わせないことでお前を追い詰めよう。



 雁字搦めにされて身動きが取れなくとも、『転移』の前にはちゃちな拘束は全て無意味だ。魔法が使える限り簡単に抜けられてしまうだろう。


 ただ、今の俺にはポポとナナの両方の力が宿っているのだ。当然、ポポの魔力を否定する力も宿っている。そして、今雁字搦めにした魔法にはその魔力を否定する力を組み込んであり、ヴァルダが魔法を使って抜け出せないのも魔法の発動を封じているからである。


「俺らは魔法を使わせてもらう。お前らには一切使わせねーけどな。……お得意の魔法が封じられた気分はどうだオイ」


 魔力の肯定と否定する力の融合。ポポとナナの力を掛け合わせた理不尽なこの力を前にお前らは為す術なんてないんだ。

 誰にも俺らの行動を邪魔させはしないし、行動なんて俺らがさせはしない。一方的な力で恐怖に貶めて、絶望のどん底に突き落とす!


「あばよヴァルダにネズミ。あの世で一生後悔するんだな」

「「っ――!?」」


 ジークにだけは被害が及ばぬよう、ポポの『羽針』を密集させて作った鎧で覆い隠して身の安全を確保する。

 あとはもう何も配慮し考える必要はない。この振り上げた右腕を振り下ろすだけ……。




 この空間ごと滅べ!




「『黄金(こがね)』――」
































「――人の忠告は聞くもんだぞ?」

「…………」




黄金(こがね)』によって、辺り一帯は黄金の輝きをもって焼き尽くされるはずだった。


 なのに……どうしたんだ俺の身体は……? 今、確かに右腕を振るったはずなのに……なんで振り下ろされないで止まってる……?


 身体が……動かない……!




「あの時言っただろ、俺はお前に嘘はつかないと。それにさっきも真の敵はすぐ近くにいるってヒントまでやったはずだ」

「…………!」




 ヴァルダが冷めた目で、俺を見て話している。ヴァルダを拘束していたはずの魔法は解け、完全に自由の身になったヴァルダが俺にゆっくりと無警戒に近づいてくるのを止めることができない。


 視界がグラついて、焦点が定まらない……!




「そっくりそのまま返してやる。なぁ……今どんな気分だオイ? 俺を殺したいんだろう? そうだろう?」

「……っ……!」




 いつの間にかすぐ近く、この手でヴァルダの顔面を握りつぶせる……そんな距離で煽りの言葉をされて身体を動かせない自分がもどかしくて仕方がない。文句の一つでも浴びせてやりたいのに……。


 声が……まともに呼吸すらできない……!




「な、ん……っ……ぅ、そ……だろ……っ……!?」




 ボヤけた目で、激痛の走る方である腹部へと視線だけ向ける。なにやら普段から見慣れたような造形をした何かが突き出ているようだ。


 俺の腹から、真っ赤にその身を染め上げて。




 意味が分からなかった。そして同時に信じたくなかった。その生えているものがエスペランサーだということを。




「あ゛っ……! ハッ……カッ……!?」




 糸が切れたように足に力が入らなくなり、膝から崩れ落ちてあとはなし崩し的に倒れ伏す。

 腹と口から溢れる血流が止まらない。溺れたように喉に血が詰まり、むせ返って出ようとする吐血と酸素を求めた身体がぶつかり合う。身体の対応が何もかも追い付かない状態だった。


「『同調暴走(シンクロバースト)』――こっちが負け確定のその力に俺らが対策を立ててないと思ったのか? 俺らが絶対に勝ち目のなくなるそれを……」

「っ……!」

「随分考えたぞ? お前はどうやったら確実に嵌められるのか。力に任せた強攻策はその力のせいで難しい。罠に嵌めようが同じ……お前の逆鱗に触れちまえば結局は一緒だ。肝心のポポとナナを省こうがどうせお前は命を削ってまで俺らを確実に上回ろうとするだろう。こっちの目論見も遂行する上で天秤にかけて……どうしようか本当に迷った」

「っ……て、め……っ……!」

「そこでコイツの存在だ。お前がいくら強くなろうが関係なくその身に届く一振りの一撃を絶対に与えられる。そしてポポとナナと同様お前に最も近い場所で、かつ意思を持って自由に動き回れる。……ジーク君を引き入れた最大の理由も要はコイツに取り入るためさ」


 嘘だ……こんな、こんなことが……! こんなところで全部……!

 たった一撃で、たった一瞬で、『同調暴走(シンクロバースト)』すら全部覆されたのか……!?




「よくやってくれたエスペランサー――いや、『勇者』さん』


 目の前が真っ暗になり、認めようのない気持ちと苦痛のみで俺の全てが埋め尽くされる。

 そこに不意に、どこかで聞いたことのあるような声が聞こえてきた。




『やぁ、エスペランサーから色々と聞いたよ。もう出てきて平気かな?』

「ゆ、う……しゃ……っ……!?」

『ごめんよ。死にそうな君にこんなことを言うのも変だけど、おひさ』


 無邪気な態度で苦笑した『勇者』が、俺のすぐ目の前で宙に浮かんでいる。ヴァルダの隣に突然現れ、うっすらとした残留思念の姿で。


 アンタはあの時消えたはずじゃ……!?


次回更新は土曜です。


※9/22追記

更新は朝までにしときます。

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