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神鳥使いと呼ばれた男  作者: TUN
第六章 来たるべき刻 ~避けられぬ運命~
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349話 最強の壁(別視点)

 



「(先手必勝です――!)」


 開戦した直後、真っ先に動き出したのはポポであった。いきなり接近を試みることはナターシャの放つ不気味な圧力もあって危険だと判断し、まずは様子見ということで黄金の輝きを放つ『羽兵』を従えて『皇帝』の構えを取り、『羽針』として一斉に射出する。

 至ってシンプルな切り出しではあるが、下手に凝った真似をして相手に無駄な情報を与えるのも後々厄介だ。ポポは長期戦になることも視野に入れ、慎重に相手の未知数の力がどんなものであるかを見極めようとしたのである。


 果たして群れを形成して迫る『羽兵』もとい『羽針』をどう対処するのか。ポポがナターシャを目を凝らして観察していると――。


「くっ……!」

「(……? う、『羽兵』程度の攻撃で……?)」


 ナターシャは奇妙なことに『羽針』を避けることはできないどころか、ダメージを負っていた。


 確かに『羽針』はどれも岩ならば容易く打ち抜けるだけの威力はある――が、逆を言えばその程度なのだ。常軌を逸した強さを持つ者達にとっては岩を貫く程度の攻撃など、急所や弱点を狙わない限りは大した決定打にはなり得ないはずである。

 しかし、何故か有効打となっているような光景が繰り広げられれば拍子抜けしてしまうのも無理はないだろう。


「(いや、それなら好都合というだけのこと! 押し切る……!)」


 ナナに自分の持っていた殺意を預けたつもりではあったが、屠れるチャンスを無駄にするような甘い考えはしていない。ポポが好機と判断し、一気にナターシャへと接近する。その巨大な翼を打ち付けるようにして――。


「貴女が女性とて容赦はしません! 『剛翼衝波』!」

「ッ――【四源解放(リヴェーシック)】!」


 ポポの振るった翼が、衝撃波を引き起こしてナターシャに直撃する間際だった。たった一言ナターシャが呟いただけで、『羽針』以上の威力を持つ『剛翼衝波』に微動だにすることすらなく、ナターシャはその攻撃を耐えてしまったのだ。躱すでもなく、真正面から受けきってである。


「っ!? (防がれた!? いや、弾かれたのか……!?)」


 ポポが疑いたくなるのも無理はない。威力は間違いなく『羽針』を遥かに超えているのだから。巨獣が爪で地面を削ったような跡は目に映る証拠である。


「……やはりお強い。強化(・・)しなければ腕が飛ばされていたかもしれません。ですがなによりも、その反応しきれない速さは厄介ですね……!」

「ッ……!? なら、これならどうです! 『炎熱衝波』!」


 優勢かと思いきや一気に劣勢に陥ったような錯覚を覚えたポポは、咄嗟に身に封じ込めていた熱を解放し、ナターシャへと向かって放出した。

 物理的な攻撃が効かないのであれば別の手段を用いるまでと考えたのだろう。イーリスでツギハギの人形……『光陰』だったモノを寄せ付けなかった程の熱量は炎と遜色なく、瞬く間に視界を緑黄色に揺らめかせながら襲い掛かる。地面に生い茂っていた緑が溶けるように影を失くす。

『光陰』に対しても得体が知れずにゾッとしたものだが、ポポはナターシャにもそれと同じ感情を今抱いたのだ。


「『猛き命の踊り火よ……猛炎の舞子(メルティライズ)』……っ!」

「な……こ、この熱量に耐えるんですか……!?」


 再びナターシャが呟くのは、また詠唱に似た何かだった。そしてポポはまたも愕然とする他なくなる。

 ポポの攻撃に対し、ナターシャは元々避ける意思すらなかったのだろう。ただその場に立ち尽くし、周囲が熱で変わる中唯一変わらない姿をそこに主張していたのだ。僅かに顔を歪めたのも一瞬のみで、襲い掛かる熱など脅威ではないとでも言うかのようにポポの放つ熱に平然と耐えてしまう。


「凄まじい熱量……耐性を付けても少々厳しいですね。……『母なる群青の底より祝福を……海の檻唄(ティアブリード)』」

「(まただ!? アレはスキル? 一体、どんな力なんだ……!?)」

「『呼応せし始まりの息吹……『聖樹の標(セフィロト)』」 


 次々に何か力を施しているであろうナターシャは止まらない。ポポはその実態が全く掴めず、どうするべきか判断に苦しむ。せめてもの抵抗として『羽針』を仕向けてはいるものの、既にナターシャにその刃は届く兆しすらない状態だった。


 ポポの心境に、最初の光景はまぐれであったのか、それとも単純に舐められていただけなのかという不安が微かに募り始める。


「(猛炎に群青……息吹……? 耐性と言っていたからこれは各属性を指しているのか……?)」


 僅かな言動を頼りに出来る限りの予測を立ててみるが、まだまだ信憑性に欠けるばかりで形になどなるわけがなかった。これが普通のスキルや力であるならまだ救いはあったのかもしれない。

 というのも、ナターシャの見た目には一切の変化が現れていないのだ。スキルは大抵は見た目に何かしらの形で変化が現れるためすぐに気が付くことができる。ポポ達の『才能暴走(アビリティバースト)』などはまさにその例だろう。だがナターシャが使っているであろう力にはそれが見受けられないのである。これではナターシャの挙動に警戒するだけで精一杯で、予測をつけることすらできないようなものだった。




「――ポポ! 飛んで!」

「「っ!?」」

「『極楽瘴土(ヘルヘブン)』!」




 その状況を打開しようとする声が、ポポの後ろから力強く轟いた。

 焦ってはいるが集中はしているポポは即座に声に反応し、言われるままに地上を離れる。そしてポポが離れた直後、地面は瞬時に泥沼の海へと姿を変える。

 見渡す限りに広がった泥沼は地面に生えた草花、大きく実った木々を呑み込み、無慈悲に沈ませていく底無しの沼であった。


「まさか私もいること忘れてないよね?」

「っ!? 泥沼ですか……!」


 ポポと共に上空で羽ばたくナナが冷たい声で呼びかけるナターシャは泥沼に足を取られ、少しずつ沼へと呑み込まれているような状態だった。

 このまま時間が経過すれば泥沼に沈み、窒息して死ぬのは時間の問題だろう。しかし、身動きの取れない状況に陥っても平静を崩さない様子で見上げているのが気に食わなかったのか、それとも元々そうするつもりだったのか――。


「滅多刺しになれ……!」


 空中からは氷の棘を、そして泥沼の中からは土の棘を数え切れない程に出現させ、ナターシャを取り囲む。

 ナターシャを覆い隠す程の棘の数は、ナナの殺意の大きさそのものだ。その殺意がナターシャ一人へと一気に向けられ身体を刃で埋め尽くすが、ナターシャは手に持っている杖を弧を描くように振るって刃を弾き、粉々に打ち砕いて防御してしまったが。


「この程度ではウチは殺s「じゃあ次」っ!? これは……!?」


 ポポの攻撃が通じていないため、自分が仕向けた棘も効かないであろうことは予想済みだったらしい。ナナは次への攻撃を既に始めており、ナターシャが気が付いた時にはほぼ完成させていたようだ。

 いきなり、辺り一帯が不自然な程に暗くなる。


「落ちてきて……空!」


 ナナが展開していたそれは、ナナの制御を外れて重力に従って落下を始める。地表に近づく程に暗がりを濃くし、ナターシャからすれば壁が迫りくる思いであっただろう。そして身動きすら取れない状態は恐怖以外のなにものでもなかったはずだ。


「『大空転落(スカイフォール)』!」


 あまりにも大きすぎる質量が、ナターシャの埋もれる泥沼の海を覆い尽くして圧殺した。ポポとナナの眼下に広がるのは泥沼ではなく、透き通るように輝く巨大すぎる一枚の氷の岩盤であった。質量に任せた冷気が空気を冷やし、みるみる周囲の温度を低下させていく。


 ナナが上空から落としたのは、周囲一帯の水分を根こそぎ集めて作り出した分厚すぎる氷である。上空を覆うことはおろか、グランドルの街に匹敵する規模の氷の質量が生み出す力は途轍もない大きなエネルギーとなって泥沼へと落ち、計り知れない被害を周囲へともたらしていた。

 鼓膜を突き破ってもおかしくない重音、衝撃だけで胸を殴られたような圧迫感、そして、押し出された泥沼が溢れて巨大な津波になる程だ。人がいれば間違いなく使えない無差別な大規模攻撃は、隔離されたここであるからこそ使えたものである。


 冷気漂う真下を眺めながら、ポポとナナはその一部始終を見届ける。


「ナナ、こんなに大規模な魔法を使って大丈夫ですか? 魔力が……」

「この程度減ったに入らないから気にしなくていいよ、それよりも集中しよ」

「っ、そうですね」


 これだけの規模である。消費してしまった魔力も常軌を逸しているだろう。ナナの身を案じたポポだが、ほんの少し疲れを見せている程度のナナを見て一応は安心したのだろう。言われた通りナターシャの気配を探るために集中する。


「アイツ魔力使ってないのかしんないけどさっきから感知できないんだよね。気配探れない?」

「それも無理そうですね。さっきから気配を微塵も感じとれないんですよ。なんというか……無というか自然すぎるというか……」

「そっか。…… (効いてるといいん) (だけどなぁ)


 ナターシャから一切伝わってこない、そこに存在しているという気配。先程から二匹の疑問としてあったが、やはりその疑問は変わらないままであった。

 取りあえずはそれが未知の力に繋がっているという可能性もあるということにし、引き続き気配をポポとナナは探り続ける。




「あの人、どうなったでしょうか?」

「さぁ? 物理が無理なら窒息死させてやるって思ったんだけど……アイツそんな甘かないでしょ。これでプチっと潰れててくれたらそれはそれでいいんだけどねー」

「――『果て無き天より調律を奏でよ……空の調べ(シリウス)』」

「……ホラ」




 ナナがこの程度で死ぬとは思っていないと言おうとした矢先であった。思いの他すぐ近くで、本音を言えば聞きたくないナターシャの声が聞こえてくる。

 そちらに視線を向ければ、上空にいる自分達と同じ目線に立つナターシャがそこにはいた。ほぼ無傷で、浮いていたのだ。


「空まで飛べるのか……!?」

「飛ぶとは少々違いますがね。浮いてるといったところでしょうか?」


 ナターシャが地面に足を付けている様子はない。そしてポポ達のように羽のようなものがあるわけでもない。浮ける原因すら分からず目の前に浮遊されてしまうのは気味が悪い姿でもあった。


「やっぱ『転移』で逃げたんだ?」 

「いえ、正直『転移』は間に合わなくて……流石に堪えましたよ。あれ程の質量に沈むのは初めてでした」

「っ!?(アレ食らってこの程度? まさかそんな――いや、全身泥まみれだし本当っぽいか……)」


 ナターシャがもしも回避していたのなら、泥の付着した部分は腰辺りまであるかどうかという程度だろう。だが、今全身に付着している様子であるのを見て、ナターシャの言うことが嘘ではないとナナは思った。


 完全に、あの質量の攻撃すらも耐えきってみせられたのだ。どんな攻撃も通じない恐るべき防御力。ナターシャの持つ力はまさしく化物である、と。

 それと同時に、ナターシャがどういった傾向にあるのかをなんとなく理解し始めてもいた。


「……へぇ、『転移』もどき(・・・)を使わなかったのはなんで?」

「そう易々と使える都合の良い力でもないのですよ。どんな力にも付け入る隙はある……ただそれだけのこと」

「ふ~ん……で? さっきから受け身ばっかでそっちからは仕掛けてこないわけ?」

「その意思はありません」

「……本当に? ――攻撃できない(・・・・・・)の間違いじゃないの? もしかするとだけどさ」

「え?」


 淡々と告げるようで、だが確信を突いたようにナナは突きつける。ナターシャの持つ力の傾向を。ポポとナナの攻撃を跳ね除ける程の力の正体の秘密を。

 既に判明しつつある異世界人の魂を宿した者が宿す力の傾向、それを元にして。


「お気づきになりましたか? 別に隠すことでもないですが……」

「やっぱりそういうことか……」

「ナナ、もしかして……」

「うん、そういうことだね。ご主人はまだ分かんないけど、超級魔法まで使うヴァルダは多分魔力。ジークの攻撃の破壊力は攻撃力に特化してるって考えていいかも。そうするとアンタは……防御力に特化してるってところなんじゃない?」


 少しの間、沈黙が走った。ポポとナナはナターシャがどう答えるかを待ち、反応をそのまま待つだけだった。

 そして、どこか我慢比べのようでもあった時間は終わりを告げる――。




「ご明察。ウチに『闘神』やフr……お二方のご主人様のような馬鹿力はありません。ウチが有するのはその真逆の力です」

「うっわ……まさか超耐久とはね。これは予想外だった」

「ウチが唯一誇れる最強の部分……これを打ち破れる者はこの世にたった二人だけしか存在しない自負があります。故にウチからお二方に攻撃することは致しません。……望むならいくらでも付き合いますよ、お二方の気力が尽き果てるまで……!」




 終わりを告げたのは謎だけである。まだ戦いは終わりを告げてはいない。

 むしろ真の我慢比べはここから始まるのだった。


※9/7追記

次回更新は月曜です。

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