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神鳥使いと呼ばれた男  作者: TUN
第六章 来たるべき刻 ~避けられぬ運命~
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347話 極限の武闘③

 



「ふっ……ぐっ……!!!」

「ぬっ……おぉあ゛っ……!!!」




 身体中に行き渡っていた感覚全てが拳に集中する。


 俺らが同時に放った『ゼロ・インパクト』は完全に互角だった。拳を押し返しては押し返される一進一退の拮抗は、時間にしたら数秒にも満たぬ一瞬の出来事だったはずだ。しかし、それが今はとてつもなく長い間のことのように感じる。


「っ……!」


 肩が軋み、右腕全体が内部から爆散しそうなくらいに圧迫している。それどころか付け根から捥げてしまいそうな程で、握りしめた拳が自分の指の骨を砕いてもおかしくない。

 ただ、互角の攻撃力に同じく命を削った力でぶつかり合っているのだ。これは相応の反動としてはむしろ低い方である。




 ――でも、互角なのはその二つの要因のみ。お互い同じ『技』を繰り出したのは確かだが、力の込め方はそれぞれ違う。

 ジークはスキルの力であるオーラを、そして俺は純粋に魔力を込めている。深く掘り下げれば質や性質の違いなどが挙がってくるのだろうがどちらも言ってしまえばただの力。

 あとは俺の魔力とジークのオーラ……この力の差が勝敗を分けるだろう。


 ジークのオーラは拳に全集中しており、正真正銘100%の力で応戦している。対する俺はまだ魔力に余力を残している状態だ。




 だったら決まっている。勝つのは……俺だ!!!




「うぉらああああぁあああああっ!!!」

「ッ!? っぶぁ――!?」


 ジークの拳に纏っていたオーラに亀裂が走り、そして割れる。一気に力を失った拳の威力を押し返し、今度は俺がジークの顔面を思い切り殴りつけると、重力をものともしない勢いでジークが吹き飛ばされていく。


「カ……ァ……ッ!? ――さ、『支えろ』……!」

「っ!? ぁ――!」


 その飛ばされたジークと一瞬、俺は目が合った。鋭い目つきが更に際立ち、獣のようにギラついている。

 まともに顔面を殴られたというのに、ジークは意識を飛ばすどころか未だに戦意を失っていなかった。それどころかここからの切り替えに動き出していたのだ。

 吹き飛ばされた勢いを殺すために拳に集中していたオーラを身体全体に回し始めると、そこから伸ばした槍を何本も地面へと突き刺して態勢を整えようとしたのだろう。俺とジークを結ぶ一直線の跡を地面に作りあげていく。


 こなくそ……!

 まだだ……! まだ終わってない!


「『龍の脚撃(レグナート)』!」


『ゼロ・インパクト』は確かに決まっても、威力を削がれてしまってジークのタフさを超えることはできなかったようだった。

 まともに身動きのできない状況ならば、迂闊に使えなかった大振りであるこの一撃も当たると思い、咄嗟に俺は足を振り抜く。すると予想は的中し、ジークは『龍の脚撃(レグナート)』を回避できずにそのまま食らうが――。


「そいつぁ俺には効かねぇ――「『龍の脚撃(レグナート)』!」ぐっ……!?」


 お前にこれが大して効かないなんてのは俺が十分わかってんだよ……! 

 だがよ、流石に連続で食らえば身動きぐらいは奪えるだろ?


「『龍の脚撃(レグナート)』!! 『龍の脚撃(レグナート)』!!!」

「がっ!? うぶっ!? て、テメェ……っ!」


 最初の『龍の脚撃(レグナート)』を弾いたジークに立て続けにまた『龍の脚撃(レグナート)』を俺は放った。『龍の脚撃(レグナート)』の連打を受け、ジークの呻き声と忌々しい声が漏れる。

 ジークの勢いを殺すための動作が全て『龍の脚撃(レグナート)』を捌くための力に回されたのだろう。吹き飛ぶ力を殺すために地面に突き刺していた槍が消え、吹き飛ぶ力が『龍の脚撃(レグナート)』によって更に加速する。


 よし、そのままいっちまえ!


「クソ、何発もメンドくせぇ――ぐぁっ!? ……か、壁!? しまっ――!」

「食らえ…………!」

「グボっ!?」


 ジークが白い壁に強く背中を打ち付け、自らの状況を把握した時に見せた一瞬にして最大かつ最後の隙を見逃さない。

 四発目の『龍の脚撃(レグナート)』を放った瞬間から、右足に全体重をかけて貯めていた力は十分なまでに至った。動いて足のエネルギーを無駄にしないためにも、俺は『転移』でジークの元まで移動し、そのまま回し蹴りの要領でジークの腹部へと靴底を叩き込む。

 オーラの鎧で覆われているとはいえ、今の俺の右足の威力の余波だけでもジークにダメージを与えられているようだ。ジークの吐血がボロボロになったコートに降りかかる。


龍の脚撃(レグナート)』でジークを戦闘不能にすることは不可能だ。あくまで『龍の脚撃(レグナート)』はジークの身動きを奪い、攻撃に集中させるということにあった。

 俺が今目をつけていたのはジークの背後に迫っていた『断崖城壁』の存在であり、あらゆる力に耐えられるこの防御壁ならば、どれほどの力が加わっても壊れるという心配が要らない。今からやる突き進む力から逃れられることもなく、満遍なく力を叩きこめることだってできると踏んだのだ。


 ヴァルダ、お前が発動したコレを利用させてもらうぞ……!




「ジーク、絶対死ぬなよ!」




 ジークを殺す気は俺にはない。だが殺す気でやらなければコイツの戦意を失くすことはできないと思い、俺は最後ジークに強く願いも込めてそう言った。


 逃げ場もなく、ゼロ距離での攻撃以外をお前にすることはもうない。それ以外の攻撃は殆ど意味がないと見せつけられてしまったから……。

 だから通じてくれよ……そんでもって必ず耐えてくれ。これが今の俺にできる大きなリスクなしの純粋な最強の攻撃だ! 

『ゼロ・インパクト』が内部から圧力を拡散させるなら、俺のは外部から内側に収束していく。

 お前の『技』でもない、俺自身が編み出した『技』! 未来の俺も使った『技』だ!


【体術】最強の『龍の脚撃(レグナート)』をも上回る一撃を食らいやがれ……!





「『神龍の脚撃(レグナ・ヴリエル)』!」

「ゥ゛ッ――!?」





 黒と白で構成される龍を模した力の塊の放出。それは放出と同時に反発した影響で正反対へと俺の身体を飛ばし、ジークを荒れ狂う暴風で弄びその場に留まろうとする。

 力の収束が終わらない限り止まない嵐はジークを呑み込もうと一直線に力を注ぎ、全体から一点へと力を変えて威力を極端に増大させていく。


 もうジークの声は暴風にかき消されて何も聞こえてはこなかった。




 ◆◆◆




 ――やがて、『神龍の脚撃(レグナ・ブリエル)』は力を使い果たしたように筋のようになって消えると、途端に訪れたのは静寂であった。耳を叩く勢いで鳴り止まなかった暴風の音は一切なくなり、より悲惨になった死んだ世界へと逆戻りした。


「……」


 渇いた風を感じながら、仰向けに倒れたままのジークの元へとヴァルダが強襲してこないかを警戒しながら近寄る。少しばかり右足に痺れがあって足取りが重いが、これはゼロ距離で『神龍の脚撃(レグナ・ヴリエル)』使ったことによる代償だろう。本来は『龍の脚撃(レグナート)』同様に遠距離から放つ『技』なのだから。


 少しだけジークの状態を見て安堵したせいか、忘れていた身体中の痛みが一斉に襲い掛かって激痛に汗が噴き出す。俺も傷だけを見れば全身打撲に、抉られたり斬られかけたことによる切り傷だらけだ。特に『ゼロ・インパクト』を使った右手は握ると激痛が走る程で、どうにかしてある程度回復させなければエスペランサーも思う存分に握れそうもない。


「んくっ……んくっ……プハァッ! ハァ……ハァ……くそ、全然回復しねぇ。勘弁してくれよな……」


 少しでも痛みを和らげるために『アイテムボックス』から回復薬を取り出し、一気に飲み干した。後味のあまり良くないいつも通りの味を噛みしめつつ、痛みが殆ど引かないことには悪態をつくしかなかった。


 まだヴァルダが控えていてこの消耗は正直大きすぎると思ったのだ。まだ俺がそれなりに動ける程度で戦闘を終えられたのは前回と比べてかなり状況は良いだろう。しかし、魔力を温存する方針でいたつもりが結果的にかなり消耗することになってしまったのは否めない。

 超級魔法を使えるヴァルダを相手にする以上、こちらも超級魔法を使うことは視野に入れていたのだ。それが超級魔法を使えば大部分の魔力を失う段階まで来てしまっているとあっては、構想していたものそのものが破綻しかけているようなものだった。

 勿論原因は『龍の脚撃(レグナート)』の連発に『神龍の脚撃(レグナ・ヴリエル)』の使用だ。ただでさえ最上位のスキル技を四発に加え、それ以上に負担の著しい『技』を使ってしまったのだ。使わなければ今の結果は掴めなかったとはいえ、惜しい気持ちは隠せない。




 残存魔力はあと半分程度ってところか。さて、どうしたもんかね。




 取りあえず、気持ちほんの楽になる程度の癒しを施した後は口元を拭い、手放してしまったエスペランサ―を手元に戻して落ち着かせることにした。そして空になった瓶をそのまま適当に放り投げ、伏したジークへと声を掛ける。


「生きてるな?」

「……ぅ……」


 ジークの胸元にぶちまけられた吐血は十分致死量に達していそうで尻込みしそうだったが、案の定まだ死んではいなかったらしい。俺の声に反応し、閉じた瞼を薄く開いて呻いて返事をしてくる。


 流石は不死身じゃねぇのかって疑う奴だな。まぁそれがあったから信じてここまでできたわけだけど。


「さ……流石、だな……。い、今まで……グフッ!? ……ど、どんだけ、手ぇ抜いて……やがった……」

「は? どこ見たら手ぇ抜いてるように見えんだよ」

「……それがだっての。アホか」


 また血反吐を吐きながら、息も絶え絶えにジークは口を開く。苦しいはずなのに、どこか満足気な様子で、でもどこか諦めたような顔で。まったくもって意味が分からない。


 何故に今にも死にそうな奴に俺は頭の心配をされてるんだろうか? 解せぬ。

 まったく……何を見たら今の戦いで俺が手を抜いてただのと思えるのかは知らんが、本気でやったのは嘘偽りなんてない事実だ。

 こんだけ苦戦して辛勝を勝ち取ったんですけど俺……。




 まぁそれはともかくとして。


「――意識あるうちに一つだけ教えろ。なんでこんな真似をした? 敵対はお前の意思なのか?」

「……ああ、そうだ」

「本当に俺を殺す気なら、なんで最初に『ゼロ・インパクト』を撃ってこなかった? そうすりゃ俺、死んでただろ」

「……」


 どうしても聞きたかったジークの本心を聞いてはぐらかされてしまったものの、誤魔化し様のない事実を突きつけるとジークは沈黙してしまった。


 これが俺がジークに情けを掛けてもらっていたと思った理由である。背後を取り、あんなに無防備を晒して確実にどんな攻撃も当てられる状況は正に千載一遇のチャンスに等しかった。それをわざわざ不意にするとはとても思えなかったのだ。

 しかも、鎖も四本目を解放せずに三本に留めて本気ではなかった。ジークの最大の実力を俺よりも知っていた(・・・・・・・・・)ヴァルダがそこに何の疑問も抱かないこともそもそもおかしいのだ。

 明らかにここに至るまでの過程が意図的なのでは? としか思えないと感じる程に。


「フン、知るか、よ……。そん、ときゃ……それが、最善に思えたん、だよ……!」

「ハァ~……。バーカ、お前嘘が下手なんだよ」


 頑なに口を割らないが、馬鹿正直でもあるジークには呆れてしまいそうだった。本人は本心を隠し通しているつもりであるらしいが、ぶっちゃけ皆も分かるくらいに顔と態度に出ていておかしいくらいである。


「……旦那にも、言われたな……」


 対してジークはバレた理由やその自覚がないようで、少し考えた素振りをした後そう言った。シュトルムとそんなやり取りがあったことは初耳だが、少しは思い当たる節がないこともない様子である。


「お前がこんな真似に出た理由は、ヴァルダが関係してんのか? 何か聞いたとかさ。お前が『ノヴァ』側だってのは、やっぱりどうしても信じられないんだよな俺」

「……」


 質問をして、また一瞬の無言。

 俺が聞いて少しの間無言になるということは、その質問に対して何か言葉を選んで考える必要があるということだ。必然的に俺の質問に含まれたワードが関係していることを示しているようなもので、ジークはこのことに気が付いてはいないらしい。


 ただ、今回の沈黙は長かった。もしかしたら口を開けばボロが出る程度のことは分かったのかもしれない。これ以上ジークを痛めつけて拷問紛いのことなどできるわけもなく、その間に自分の中で思考を重ねる。




 最初に言ってた『ノヴァ』だという言葉は果たして本当なのか? であればこれまで一緒に『夜叉』や『銀』や『虚』と敵対した事実は一体……。もしも今までのこと全てが演技だったとしたらそこに一体何の意味があったのかって話になる。

 そもそもいつからジークとヴァルダは結託していた? セシルさんがいて何故それに気が付けなかったのかも分からないし、気が付かなかったのならつい最近まではそうじゃなかったということか、心を見抜けないようにできてしまう手立てがあったりするのか?

 ……あ、でもさっきジークが最近じゃない的な発言してなかったっけ? いやでも待て、それが演技なのか本心なのかもそもそも分かんねーか。うわぁ……頭こんがらがる。


 でも、ジークを突き動かす何かがあるってことは確かなんだよな。







「――やれやれ、随分とはしゃいだみたいだな?」

「っ!? ヴァルダ……!」


 呼吸を忘れる緊張再び――。


 思考中に割って入るヴァルダの声に、一気に全神経をそっちに持っていかれる。背後からした声に咄嗟に振り向くと、そこにはいつ現れたのかも分からない神出鬼没の如く、ヴァルダが俺の背後に立ちながら頭を掻いてそう言う姿があった。

 辺りを見回して確認しているのは俺とジークの戦闘跡であるらしく、一体どんな心境なのかは掴めないが別段驚いた様子がないのは大方想像通りであったと思しき態度である……そんな印象か。


「ふむ……やはり(・・・)対人戦最強のジーク君が歯が立たないとなると……確かにこのままではお前にはどう足掻こうが勝てんな。俺も同じ末路を辿るのは明白、それこそ無理ゲーというものだ」

「ヴァルダッ! 一体お前等何が目的だ! ジークに一体何を吹き込みやがったっ!!!」

「……話してやる必要性は感じないな。――『光、力生み出す我が糧となれ。闇、糧喰らいて我が力となれ』」

「「っ!?」」


 ヴァルダはいきなり現れては独り淡々と冷静に告げるだけだった。俺の大声を無視すると、詠唱なのか何かをすらすらと口ずさむ。すると両手の甲に小さく複雑に描かされた紋章のようなものが浮かび上がって光を放ち始め、可視化できる程の魔力の帯を身の回りに漂わせ始めて非常に濃密な魔力の放出を開始する。

 ヴァルダを中心に漂う無数の魔力の帯は互いに干渉と不干渉を繰り返して折り重なっては剥がれ、だがやがてバラバラで不規則だった力を無理矢理凝縮したように小さな光の塊へと変えると、自分の胸の中へと押し込めるようにして取り込んだ。


「『禁忌・身喰らい(ウロボロス)』」


 その瞬間――ヴァルダの身体からは濃い光と闇が溢れ出始める。漏れでる光を、同じく身体から滲み出る闇が覆い尽くそうと繰り返す光景は終わることのない無限の様相を思わせ、力を溢れさせようとしているのか、それとも抑え込もうとしているのかの判別ができない姿へと変貌を遂げる。


 俺にはヴァルダの背後に、大蛇が自分の尻尾を食うために牙を突き立てているような姿が見えた気がした。そのせいか、蛇に睨まれた蛙の様に動けず、圧倒されていた。


「なんだよそれ……」

「ほんじゃ、第二ラウンドといこうか。せっかくこれまで殆ど使ったことすらない最強スタイルまで準備してやったんだ。消耗した状態で今の俺を相手にどこまで抗えるのか……『守護者(ガーディアン)』たるお前の果てしない希望の限界を見させてもらうぞ」

「気ぃ、つけろ「っ!」ツカサ……。アイツは……」


 ヴァルダが刃を俺に差し向けると、ジークが死力を振り絞り、俺に何かを伝えようと話しかけてくる。ヴァルダのことであれば耳を傾けないわけにもいかず、ジークの次の言葉を俺は警戒を保ったまま待つ選択以外を取れなかった。

 だが、聞かなければ良かったし聞きたくないことであったと……聞いてから思うのだった。




「ヴァルダは、俺よりも強ぇぞ……!」


~投稿が遅れた原因~

①急な飲み会 ②二日酔い ……です。

さーせんした。


※8/28追記

次回更新は木曜です。

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