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神鳥使いと呼ばれた男  作者: TUN
第六章 来たるべき刻 ~避けられぬ運命~
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344話 VS巨イナル三魂③

 


「何放心してやがる!」

「……っ――!!!」


 ポポ……ナナ……!


 ポポとナナが目の前の白い壁の内側に閉じ込められ、そのまま目が離せずに放心していると……いつの間にかジークの拳が腹に叩き込まれていた。腹の肉が潰される勢いの拳に備えることも出来ずただ無防備なまま吹き飛ばされ、俺はそのまま地面と水平に飛んでいた。


 いってぇ……。守れなかった途端すぐコレだよ、全部自分が悪いだけだけど。


 自業自得の結果に悪態をつきながら、景色が横伸びに過ぎ去っていく。――ただ、頭の中ではまた時が止まったように遅く感じられてはいた。




 ポポとナナとの繋がりは感じられない。『断崖城壁』は内側と外側を独立した力で完全に遮断するためそのせいだろう。次元の違う距離……これ程近くて遠く感じるなんてものは他にも早々ないに違いない。

 中にはネズミがいるから戦闘は絶対に避けることができないはずだ。ポポとナナが個々で『覚醒』ができるようになっていたところで、果たして『勇者』の魂を持つネズミに太刀打ちができるのかは分からない。




 ポポとナナが、負けるかもしれない……? あの二匹が……?




 ――いや、んなわけあるか……! アイツらも閉じる間際に言ってたじゃねぇかよ……勝ってくるって。その言葉を信じない主人が一体どこにいるってんだ!

 勝てる根拠があろうがなかろうが、俺はただその言葉を信じる。こんなの理屈じゃないっての。それにアイツらもこれで遠慮することなく戦えるはずだ。


 どうせ俺には『断崖城壁』をどうにかできるわけがない。だったら俺が今やることなんて決まっている……! アイツらを信じて、アイツらが信じてくれた俺のやるべきことを果たす……! 

 ボケっとしてる暇があったらさっさと身体を動かせ俺の馬鹿!




「っ!」


 目の前の二人を倒せ……! それが今俺にできる最善……!


「「っ!?」」


 背中にぶつかる風圧を強引に掻き分け、身体を受け身が取れる態勢へと変えて着地する。殺しきれなかった分の慣性は足の踏ん張りとエスペランサ―を地面に突き立てることでカバーし、勢いが収まったと同時に敵の二人を見据えて状況を確認した。


 どうやら二人は追撃を迫っては来ていなかったようだ。どちらかといえば躊躇したような感じか? まぁどうでもいいが。


「物理と魔法を無効化する別次元の特異点が顕現した魔法『断崖城壁』。これを力づくでどうにかできるとしたら神くらいなものだろうな」

「……ああ、俺もそう思うよ」


 不毛な地に突如として出現した白き巨城。この場に相応しくない雄々しく尊大な姿を背に抱えたヴァルダが悟ったように言い、まさしくその通りであると俺も思う。


『断崖城壁』……この解き放たれた力は術者本人であろうと任意で解除する以外にどうにかできるとは思えない。

 それ程に絶対的で一方的な力。ふざけた力を誇る超級の中でも非常に極端な部類だろうさ。


「……ただ、今のお前はその神に迫りそうな気迫がありそうだけどな」

「あ? 神? んな大層なモンと並べられたら神が不憫だろうが」


 また演技で引きつった顔になっているヴァルダの言葉が、俺の神経を逆撫でする。


 全く冗談も大概にして欲しいんだが? 神は絶対的な象徴みたいなものだろうに。

 ただの一般人がその神と肩を並べられるだなんておこがましいにも程があるわ。


「――で? ネズミも一緒に閉じ込めたのは……最初からそのつもりだったのか?」

「そうだ。元々お前の相手は俺とジーク君で務めるつもりだった。余裕があればナタさんも一緒にとは思っていたがな。……お前の方は愛鳥達がいなくなって寂しいか?」


 へぇ? 俺のこと心配してくれんのか。それはそれは……随分と腹ただしい限りだな。

 けど、良いことを聞いたよ。元々そのつもりで使ったとなれば希望はありそうだ。


 ヴァルダがネズミを顧みないで閉じ込めたわけじゃない可能性があるなら、アレ・・をどうにかできる可能性が生まれてくる。

 超級を使ってくるような奴だ……まだ修得してから月日の短いポッと出の俺よりも詳細を詳しく知っていても不思議じゃない。


「……寂しいさ。どっかの馬鹿が『断崖城壁』なんぞ使いやがったからな。……でも有難いっちゃ有難いかもな、今の状況的に」

「有難い?」


 一瞬は状況は最悪だと、俺もそう思った。しかし、この状況は実際は決して最悪ではないとも思えたのだ。――いや、むしろポポとナナが解放される見込みがない可能性を除けばある意味かなり良いと言えた。

 俺が有難いと言った意味が分からなかったのか、ヴァルダが首をかしげながら呟いた。


『断崖城壁』は外側と内側を完全に遮断し、互いに干渉することをできなくしてしまう。

 それはつまり、俺達側から向こう側に対して何も出来ないのと同時に、向こう側もこちら側に対して何もできないことを指す。


 要はどれだけ暴れ回ろうが周囲への被害拡大の心配が要らないのだ。


『断崖城壁』の特性をポポとナナはある程度知っている。ならきっとやってくれるはずだ。アイツらの『神鳥』としての本当の強さが解放される条件は幸か不幸か整った。


「良かったのか? アイツらを一緒にして、俺から引き離して。ネズミ……多分死ぬぞ?」

「……」

「俺らって意外と一緒にいると相性悪くてさ、俺は単純な力が強すぎてアイツらを巻き込みかねない。でも、アイツらは俺や他の人がいることで持ってる力を存分に……普段は本気がどうしても出せないんだよ。変な話だよな、【従魔師】が従魔と一緒に戦えないってのもさ」


 普段ポポとナナの足を引っ張ってるのは俺なんだ。アイツらには【隠密】がないから、これまで俺以上に周りを考えなければいけなかった。

 一緒にいることで力が発揮できなかったとしても、それでも一緒にいたのは勿論奥の手のためでもあるが、俺の目が届く範囲にいて欲しかったからでもある。

 もしアイツらが理性を失った時、アイツらを止められるのは恐らく俺だけだからである。


「いつも……ポポとナナは俺に、特にナナは遠慮してくれてるんだ。アイツスイッチ入ると容赦ないからさ、やろうと思えば無差別に大半の奴を簡単に殺せちゃうんだよ」


 これは紛れもない事実。だからこそナナは普段は水属性の魔法しか殆ど使わないのだから。

 ポポが一点集中の技ばかりを使うのも同じような理由である。


「アイツらが紛れもない『神鳥』だと知ってるのはまだ俺だけだよ。絶望しろとか言ってたがポポとナナだけの組み合わせは俺でも手が付けられない……。絶望すんのはそっちだ」


 魔力を否定する力と肯定する力を前に為す術なんてない。考えられる対抗策は単純な力のみ。それ以外は何も出来ず、ただ蹂躙されるだけだ。




「――ま、お前のポポとナナへのその信頼は分かったよ。しかしお前こそナタさんがどんだけ凄いのか知らんだろ。ポポとナナが手に負えないくらいヤバいのはこっちだってある程度知っている。だからこそ、俺やジーク君よりもナタさんの方が適任なのさ」


 あぁそうかよ。全部計算済みってか? アイツらも随分と舐められたもんだ。

 なら話は終わりだ……!


「そんじゃあもういいか? こっちもとっとと始めるとしようや!」

「「っ!?」」


 最初は向こうから仕掛けられた。だから今度は俺から仕掛ける。

 俺はネズミがどんな力を隠し持っているのかは知らんが、それはポポとナナの神髄を知らんお前らも一緒だ。余裕でいられる気持ちはネズミの力を信用してのことでもあるだろうからまぁ分かるっちゃ分かる。




 だけどよ、本気で戦えるのは俺もなんだってことに気が付いてんのか?




「アイツらが勝つのに、主人の俺が負けていいわけねーよな? 有り難いことに『断崖城壁』にわざわざ守ってもらえんなら俺が一々周りに配慮する必要なんてねーや」


 攻撃の度に逐一【隠密】を意識する必要はもうない。ポポとナナに被害が及ばず、この見知らぬ場所でならどれだけ破壊しつくそうが問題ない。

 ジークとヴァルダを、動けなくなるまで破壊する。お前等相手にはそれくらいで丁度良い。


 希望はまだある。ネズミが『勇者』の魂を持っているならそんなに簡単に強大な戦力を捨てる真似をするとは考えにくい。

 助ける手段が……『断崖城壁』を解除する手段がある可能性はまだあるんだ。そのためにも、何としてでも聞きださねぇとな。




「エスペランサ―、ジーク相手じゃ今のままだと分が悪い。もう少しコンパクトになってくれ」

『……』


 右手に持つエスペランサ―に呼びかけ、できるようになった変形でショートソード程度の大きさと形へと変形させる。姿形は基本そのままに。

 エスペランサ―の通常状態は比較的大きめなのだ。しかし俺自身の体格もあって若干扱いにくさがあり、どうしても動作が多振りになってしまうことがこれまで多かった。それを改善したのがこのコンパクトにした形状だ。


「形状変化!? いつの間に!?」


 ジークがエスペランサ―を凝視し、驚きを露わにしている。今まで誰にも見せたことがないうえ、できるとは思っていなかったのだろう。


 でもこれはチャンスだ。

 隙ができた……なら仕掛ける!


「ジーク、お前の反応速度に俺はついていけない。それは認める――」


 小さくした分エスペランサ―自身の能力は低下してしまう。素の状態が最も力を発揮できる形状のため、破壊力はさっきと比べると流石に劣る。

 だが――その分俺の機動力は上がる。


「っ――う゛ぁ……っ!?」

「だからさ、単純な俺の機動力とお前の超反射……どっちが上かハッキリさせようか? どっちかがぶっ倒れるまでな……!」


 やられたらやり返す、それが子どもの道理に思われようと別に構わない。

 ジークの超反射に対しての対抗策は一回限り限定で普段の朝練から考えてはあったが、あまりにも消耗が激しいので躊躇していた。――が、そんなことを気にしている余裕はもうない。考えられる策は全て放出し、コイツらの後ろにまだ他の奴らがいようが後先考えているようではこの場面すら切り抜けることはできはしない。



 俺は『転移』と力任せの飛び出しを組み合わせ、ジークの懐へと潜り込む。そして腹を殴り、ヴァルダのいる方向に向けて思い切り拳を振り抜いた。


「ジーク君! ぐっ!? ……機動力に全振りしたのか……!」


 吹き飛ばされたジークを受け止めようとしたヴァルダが衝撃を受けきれずに一緒に地面を転がり、俺の変化を察したようだった。


 ジークが未来予知ばりの反射をするなら、俺が『転移』してジークを視認する前にまた『転移』してしまえばいい。一度目の『転移』で既に反応した先に俺がいなければ、ジークの一度目の反射は空振りする。――反射を逆手に取ればいいのだ。またジークの後方に『転移』することで振り向く動作の時間も稼ぎ、それに加えさっきまで以上の速度で動けば俺が速度で劣ることもない。




「ジーク君、多分今のツカサの気の持ちようだと三本だけだと瞬殺される。……四本目を(・・・・)解放するんだ」

「ああ。分かってる――!」

「っ!?」


 優勢になった確信があった。戦力的に、特に気持ちの面は大いに。しかしそんなものは一瞬だけだった。

 殴り飛ばしてからそのまま仰向けに倒れたままのジークが、ヴァルダの声に応えた直後膨大な量のオーラを身に纏った。全身を青い炎で包まれたと言わんばかりの異形な変貌を遂げたのである。そこからゆっくりと立ち上がる姿はこれまで以上の化物さを感じてしまう。


「……!」


 息を呑むしかできなかった。

 オーラの量はジークの扱えるはずの量を遥かに越えており、ジークを薄く覆っていたオーラの量は分厚く、それでも余りある分が頭上へと迸っている。


「っ……成程。本気を出せるようになったのは、俺だけじゃないってことかよ……」


 使えるオーラの量が増えるということは、ジークの攻撃も守りも増大することに等しい。

 背中に嫌な汗が滲むのを感じながら、俺はジークから目が離せなかった。


※8/17追記

次回更新は日曜です。

多分夜です。

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