表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神鳥使いと呼ばれた男  作者: TUN
第六章 来たるべき刻 ~避けられぬ運命~
342/531

340話 巨イナル四魂 

遅くなってすみません。

許してくんさい。

「姉御とお前は無事みてぇだな?」

「ジーク……何が起こってる!?」

「知るか。……まぁ普通じゃねぇってのは間違いねぇだろうよ」


 俺とヒナギさんの背後にいるジークが、壁の瓦礫から飛び上がり俺らのすぐ横に着地しそう言った。恐らくこの場所まで地上から駆けあがって来たのだろう。部屋の入口だった場所から現れたようには見えなかった。

 取りあえず俺は『障壁』を解き、ヒナギさんと少し身体を離してジークへと身体を向ける。


「お? ジーク君までご来場とはこれまた早い。やっぱり予定通りにはいかないもんだね」

「……」

「チッ……ヤベェくらい不穏な気配を感じて来てみりゃ……。なんでお前がここにいやがんだ? オイ変態」


 不穏な気配というのは所謂ジークの直感だと思われる。ヴァルダと、そして女性にも言いたいことは何かしらあるのだろうが、その言葉を噛み殺して溢れ出る殺気が先行して、刃物のように鋭く肌を刺激する。


「変態の羅針盤が示した先が此処だっただけさ。俺の棒もここを指していてな」

「あ゛?」

「こんな時にまでそれやめなっての」

「あでっ!?」


 自信満々に股間を指差すヴァルダのいつもの馬鹿さにはジークのみならず女性も共通の悩みを持っていたのか、呆れた表情で殴りという名のツッコミを入れる。

 鈍すぎる音が人から出たような音には聞こえてこない疑問はあったが、そんな取りなどどうでもいい。


「というよりジーク、そっちはどうした!?」


 今はこちらの方が気がかりである。

 俺とジークは持ち場があり、そこにいることに意味があるのだ。そこを離れてしまっては元も子もない話である。


「安心しろ、あっちはもう平気だからよ。……それよか今はアイツらだろ」


 俺にはジークが平気と言った意味がまだ何も分からない。考えに考えた結果が戦力の分散に落ち着いたのに、平気と言える程の理由は思いつくわけもない。

 ジークは俺のことなどお構いなしに、ヴァルダ達の方に意識を配る。


「……セシルと同じ天使に、ネズミの野郎までいやがるとはな……」

「ネズミ!?  あの人が……!? それに天使って……」

「セシル以外にも生き残りが他にいた……そういうことだろうな。翼が黒かろうがありゃ天使と一緒だ。魂の匂いも同じみてぇだしな」


 セシルさんと全く同じ大きさの翼が黒い点に疑問はあったが、ジークが嗅ぎとった匂いでその判断をするなら事実なのだろう。獣人や魔族の人だって耳や爪、姿が多少違かろうが種族の分類は統一されているのだ。天使も例外じゃないはずである。


 そしてグランドマスターが天使であることが発覚したことで、消去法でもう一人の女性の方がネズミだということも分かった。


 まだ顔があまり拝めていないけどこれが龍人……。ローブから覗く竜のような鱗に、女性でも屈強に見えるこの身体。こんな明らかに厳つい見た目とか、聞いて想像していた以上だ。見た目からも雰囲気からも圧倒的強者感が抑えきれないくらいだな。


 俺が天使であるグランドマスターと龍人であるネズミに目を奪われていると――。


「構えろツカサ、チビ達。……姉御もだ。アイツらは一筋縄じゃいかねぇぞ……!」


 ジークの声に、その気持ちをすぐに忘れさせられることになる。


「ちょ、ちょっと待て!? 構えるって、ヴァルダと戦うってことか!?」

「俺の経験則が言ってんだよ。コイツらは敵だってな」


 ジークの手元に逆手に持たれた武器が淡い青さを見せ始め、主の魂に呼応する。

 こんな状況でジークが冗談を言うとは思えないし、そもそも言うような奴でもない。自分の持ち場を放棄してでもここまでやってくる程の不穏な気配をジークは感じたようだし、それがこんなことを言い出す理由ならば疑いたくはない。


 でも、ヴァルダだぞ? こんなの……。


「フッ、流石は『闘神』。その察しの良さは君の世界一の部分の一端か……。まったく侮れないよ……巨イナル魂を宿しているだけある。その魂は是非とも頂いておきたいな」

「「「っ!?」」」


 今、なんて言った……? 


 聞き間違いであって欲しかった。魂という概念自体はヴァルダは既に知っている。しかし、その魂を頂きたいだなんて言い出すことは完全におかしい。

 それに魂を欲している奴らなんて限られているのだ。


 つまり――。




「今の口ぶりでもう分かんだろ。アイツは……『ノヴァ』側なんだってことをよ……!」

「嘘、だろ……」

「そんな……」

「まさか……」


 ジークの言葉には俺だけじゃない、ポポ達やヒナギさんも信じられないといった表情で放心した言葉を呟いてしまう。

 これまで何度も俺達に助力し、俺の要望に応え、陰ながら支え続けてくれていた頼れる奴。そんな奴が突然敵であっただなんて言われて動揺しない方が無理である。


 今までの俺らとヴァルダの良好な関係は全部、まやかしだったっていうのかよ……!


「だからあの時言ったじゃないか。『ノヴァ』は必ず現れるってな……」

「ぁ……」


 言葉を失くしていた俺に向かい、ヴァルダは不敵に笑いながら俺をおかしい奴を見るような目でそう言った。俺はその時、ヴァルダとの一番新しい最後の会話を思い出す。


 ボルカヌに向かう前にヴァルダの店に訪れた時、あの時は理由は言えないが確実に今日『ノヴァ』が現れるという言葉を俺は信じた。何故理由を言えなかったのか……今分かった。

 話せるわけがなかったのだ、本人が『ノヴァ』であったのだから。必ず現れると断言できたのはそれが理由で、招集が予定より早まろうが関係ないわけである。


 でも未だに信じられない。やめてくれ……そんな嘲笑するような目で俺を見てくるな。それだとジークの言葉を俺は信じなきゃいけなくなる……!




「……悪ぃなツカサ。コイツが只者じゃねぇってのは内心分かってたんだがな、まさかそうだとは思わなかった。しかも、まさか俺ら並みの強さまで隠し持ってるとは思わなかったけどな……!」

「え?」


 そこに更にジークによる追い打ちが掛かり、絶望的な気持ちになった。


「ご主人とジークさん並に強い魂……? それって……」

「なるほど。それならジークさん程の力で今まで見抜けなかったのも合点がいきます。ジークさんの力に抵抗できるのは、ジークさんと同等の力を持った人くらいでしょう。つまりヴァルダさんの持つ魂は――」


 耳元から聞こえてくるポポの声は皆の考えていたことの代弁そのものだった。ただ、俺とは対照的やけに落ち着いた言い方は少し八つ当たりしたくなるものだったが。

 その声を皮切りに、初めて明確に謎であった真実が明かされていく。


「改めて自己紹介しとこうか? 遥か昔より生まれし『呪解師(ディスペルデ)』が一人、ヴァルダ・エグレネスタだ。お察しの通り俺に宿っている魂はお前等と一緒で異世界人のものだよ。永きに渡る我が悲願を達成すべくここに参上させてもらった……!」

「っ! マジかよ……! てかお前等って……?」

「あ、まだ確証はなかったんだっけか? ジーク君はお前も薄々分かってただろうが『英雄』の魂を宿してるのさ」

「……や、やっぱり……!」


 俺はジークのことを一瞬見て、すぐにヴァルダの方へと視線を戻した。言われた通り薄々分かっていたことではあるし、驚き自体はそこまで大きいわけじゃない。むしろ今まで抱えていた疑惑が晴れたことによる納得の気持ちの方が大きい程だ。


 ただ、ここで新たな疑問が生まれてしまう。

 なんでそんなことが分かるのかと。


「んでナタさん……こっちの人が有してるのは『勇者』の魂ってわけだ」

「なっ!? 『勇者』の……!?」

「……」


 ヴァルダに何故魂の元の持ち主が分かるのか問い詰めようとしたが、こちらの度肝を抜く事実にそれはまだ叶わなかった。


 あの『勇者』の魂を……この人が……!?


 龍人の女性は無言なまま佇んで微動だにしておらず、未だヴァルダを殴った時以外は口を閉ざしたままだ。その佇まいが放つ雰囲気が武人のように見え、魂の元の持ち主を知ってしまった今それが名実共に嘘ではない雰囲気なのだとしか思えなくなってしまう。

 手に持っている杖のようなものも一見細いように見えるが、それはこの人が巨躯で手も大きいからそう見えるだけに過ぎず実際は大きい。ローブから覗ける身に付けているであろう装飾も厳かで高圧的なものがあるようで、コートを羽織っただけでいつも通りのヴァルダとの差は一目瞭然である。


「あの! 確かそちらの方は『ノヴァ』と対立していたのでは? ヴァルダ様が『ノヴァ』なら、何故一緒に……?」

「……」


 ピクっと、ネズミがヒナギさんの言葉に反応したように見えた。

 ヒナギさんの言う通り、確かにネズミは『ノヴァ』と対立していたはずだ。でなければ『ノヴァ』を抜ける前のジークと相対することもなかっただろう。


「そんなの、ツカサ達が強すぎるからに決まっているでしょうに。異世界人の魂にまともに対抗できるのは同じく異世界人の魂を持つ者だけだ。俺一人で立ち向かったところで勝ち筋が見えないのは分かりきった事実だからな……こっちもそれ相応の戦力で相手をしないといけないのは当然だろう?」

「それは……」


 さっきの言葉は、嘘でもなく本気で言ってるんだな……。俺らを殺すために、魂を奪うためにネズミを自陣に引き込んだってことか……。







「――御託は別にいい。要はお前らが敵なのは変わらねぇってこったろ? ……『ノヴァ』なら殺す。……それだけだ」


 ジークが腰を落とし、手に持っていた武器をオーラへと戻した。そしてそのまま拳にオーラを灯してその手を引き、ヴァルダ達に向かって言い放つ。


 あれは一体なんだろうか? 朝練でも見たことがない技だ。


 ただ、構えを必要としないジークが構える程だ。その覚悟と威力を同時に語っているようでもある。ジークの密かなとっておきの技なら、その効果は凄まじいものなはずだ。




 理由がハッキリしないのであれ、ネズミは『ノヴァ』側につくことになった……そういうことなのだろう。

 出来れば早いうちに接触して仲間になれないかと考えていたこともあった。だが、ネズミにも理由があるのかはともかく『ノヴァ』の助けとなってしまったのなら関係ない。

『ノヴァ』は問答無用で殺し、排除する。ジークの言うことはごもっともだ。




「……いい度胸だ。なら遠慮なく攻撃してくるといい。既にこちらの準備もできていることだしな……!」

「ご主人! 迷ってる暇ないよ! とにかく今は構えとかないと!?」

「急いで下さい! 腹を括ってくださいご主人!」


 ポポとナナが言うように、俺はすぐにでも臨戦態勢にはいらなければならない。ヒナギさんだってすぐにでも動けるような構えは取っている。


 戦力的に見れば天使のグランドマスターの実力はこの二人には届きはしないのだろうが、それでもSランク達を一瞬で無力化させるだけの力は持っている。こっちは俺とジークに、ポポとナナとヒナギさん。仮に俺とジークがヴァルダとネズミの相手をしたとしてそう上手くいくとは思えないし、何より戦力を整えてこの場にやってきたとヴァルダが豪語するくらいだ。人数と実力で勝っていたとしてもこちらが不利である可能性は高い。



 でも、それ以前にまだヴァルダと戦うことに納得できていない自分がいるんだよ……!

 俺にはどうしても、何があっても、ヴァルダが敵である事実が受け入れられない。心が否定してしまう。







「くらえ――」

「っ!? ま、待てジーk――」







 唐突だった。

 動き出したジークを呼び止めようとした瞬間には身体に力が入らなかった。身体が小刻みに震え、足が今にも崩れ落ちそうだった。全身の皮膚が膨張して張り裂けそうに痛い。

 元々驚きの連続で鼓動の早かった心臓が、更に激しく脈打ち始めるのは盛大に酸素を求めているからか……。どんどん強まっているのを止めることはできないが、俺は呼吸すらままならないどころか声も上手く出せない状態になっているのは間違いない。


 俺がジークと最後まで叫ぶことはできなかった。何故なら――。


「かっ、ぁ……!? じ、じー、く……? 何、を……っ!」

「『ラグナロク』」


 俺が後ろを振り向いたすぐそこにはジークの顔があったから。今も筋肉をすり潰す勢いで押し当てられた拳は、ジークが俺に危害を加えている何よりの証明だった。


 俺の掠れた声がジークに伝わったのかは分からないが、例え聞こえていたところで結果は変わらなかったのかもしれない。気づいた時点で既に事は終わっていたのだから。

 迷いもなければ容赦もない、ジークの凄まじい一撃が背中から全身へと打ち付けられ、意識が一瞬で吹き飛びそうになった。


 これ……『ゼロ・インパクト』か……!?






「……あ、あ……うそ……ご主人っ!!! しっかりしてっ!?」

「っ、ジークさん!!! 一体何の真似ですかぁああああっ!!!」


 自分が今どこを見ているのかも分からない。倒れて地面を? それとも真横か? 朦朧とした意識を保つ中ポポの激怒した声だけがよく聞こえてきた気がした。


「ぅっ……ぁ……! ハッ……ハッ……ッ……!?」

「カミシロ様! カミシロ様!?」


 身体だけは無意識にすぐにでも今の俺の状態に対応しているのか忙しない。

 ヒナギさんの悲痛な声もすぐ近くから聞こえてくる。


 あぁ、いつの間にか俺は倒れてたんだな。確かに身体が重いし動かない……。

 一気に脱力したのは今の一撃による影響なのかな。もう体感で分かる、すぐにでも激痛が遠慮なく襲ってくるやつだコレ。


「悪いな、お前等とは言ったが……ジーク君はとっくにこっち側なんだ。……いやぁ実に下手な山門芝居だったな? ヒヤヒヤしたよ」

「うっせ。とにかくこれで第一段階クリアだろ」


 ヴァルダとジークは互いに俺の対極の中心としているらしい。片耳に大きく声が入って来るならそういうことか。

 ヒナギさんに抱えられた力のない身体でヴァルダを見ると――。


「しかし無防備な状態でジーク君が三本外しててその程度とは。これは完全に見誤ったな……!」


 向けられた掌に何やら光が見えたかと思うと、それが俺とヒナギさん目掛けて放たれていた。


 追い打ちか……! か、かわせない……。ヒナギさん、俺は構わず逃げてくれ……。


 ボーッとした頭でそれだけを考え目を瞑ってしまうと、ヒナギさんが俺を抱え込むようにして抱擁してきたような気がした。

 今ならどんな攻撃を食らってもすぐにお陀仏になりそうな俺には有難い配慮だが、ヒナギさんがそれで傷つくことになったら俺は……。


 クソ……!







 ……。




 …………。




 ………………。




 長い一瞬だと感じながら諦めていたというのに、一向に何の変化もないし起こらない。

 相変わらずヒナギさんの抱擁という名の守りは変わらず続き、俺は意識を手放すことはなかった。




「ご主人! 大丈夫!?」

「良かった……! まだ無事ですね?」


 その理由は、すぐ目の前にあった。


 ヒナギさんの抱擁が解かれ、開かれる身体の隙間から広がる視界の先には、ポポとナナの二匹の姿が。


「今度は、私達が守る番です……!」

「……!?」


 大きい巨大化した状態。ポポとナナが唯一単体でできるはずの強化――のはずだった。

 今目の前で立ち塞がってくれている二匹は更にその先、俺の力なしには成し得なかった姿をそこに晒している。




 美しい金と銀の光を零れさせ、『覚醒』した姿のポポとナナがそこにはいた。


※7/31追記

次回更新は木曜です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ