表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神鳥使いと呼ばれた男  作者: TUN
第六章 来たるべき刻 ~避けられぬ運命~
341/531

339話 運命開始 ~交錯~

 



「あん? コイツも喋んのかよ」

「何、喋っちゃ悪い? ならどうしよっかな……喋っちゃ駄目なら伝える方法がこれだけになっちゃうんだけど……」


 急に出てきたナナも話せることを何気なく口にしただけであったのだろうが、その言葉をナナはどう受け取ったのか即座に行動に移し始める。


 急に出てきて……一体何をするつもりだろうか?


「っ!? な、これは……!?」


 俺が何事かと見守っていると、チンピラ2の座る椅子の足が氷で固定され、机に置いていた手にも氷の手錠が出て身動きが思うように取れなくなる。すぐに誰の仕業かは分かってしまうわけで、こんな一瞬で形成される氷の正体はナナが独自に使うオリジナルの魔法以外にないだろう。誰が見ても何の魔法か分かるはずもない。


 今回の会談では別に自分が話すことはないということでナナは静観すると言っていたのだが、今はそんな約束を反故にしてでも実力行使をやりたくなったようだ。

 多分、ストレスの塊であるチンピラ2に我慢できなくなっていたのだろう。気持ちは十分分かる。


「こっちが穏便に済まそうと下手に出てればその下品な口からはペラペラペラペラと……。さっきから耳障りなんだけど?」

「魔法か!? んだこれ……かてェ……!」


 ゆっくりと机の上を歩いて『灼熱』に近づくナナの声は冷たい。歩調がゆっくりであることもそれを強調していた。

 いつ魔法を使ったのかも分からない魔法の発動はチンピラ2に反応することを許さず、驚きの声を上げながら手錠から抜けようと手をしきりにチンピラ2が動かしてもナナの氷は微塵も動かず強固に固定されていて微動だにしない。


「これは警告とさっきのが嘘なんかじゃないっていう証明ね。これ以上喚くなら全身の血液をゆっくりと凍らせて苦しませて殺すから」

「うっ……! て、め……! この程度で俺の動きを封じたつもりかよ……!」


 突然、氷の手錠表面が潤った光沢を放ち始め、形がみるみる変形していく。違和感に気が付いたナナも足を止めてチンピラ2の手錠部分に注目する。

 どうやら机に水が広がっていく様子から氷が溶けているようだ。流石に厚みの少ない氷は耐久性が著しく低下していたようで拘束力はなく、氷の破片を飛び散らしてチンピラ2が手錠から解放され自由になってしまう。


「俺に氷は効かねェよ。残念だったなチビ」

「発熱できるんだ? 『灼熱』ってそういうことね」


 お得意の氷が通じずにいたことで少なからず動揺するかと思いきや、ナナには何の変化もない。淡々と公言されているチンピラ2の二つ名の意味を理解し納得しただけのようだった。

 そこから始まるナナとチンピラ2の睨み合い。果たして睨み合いの末にどんな動きがあるのか……声を掛けてはならない雰囲気があった気がして、周りで見ている俺らはただ見守るのみだ。


「……」

「……」

「……え? そんだけ?」

「あ?」


 少し沈黙し睨み合っていた二人だが、チンピラ2はともかくナナにはそんなつもりはなかったらしい。一向にチンピラ2が行動を起こさないから動けなかっただけに過ぎず、真新しいことをしてくる気配もないことに呆気に取られてしまっていた。


 冷たい声をしていたナナの声はその時点で一転し、丸っきり別物へと変わってしまう。更に死んだ魚の目をして落胆する様子は期待外れという意味よりかは、蔑みや哀れみの感情が込められているように見える。


「……なぁんだ、熱くなれるだけのムサ男とかないない。うっわぁ……ホントにこれだけなの? つまんない男……」

「うるせーな! 馬鹿にしてんのかテメェ! あと俺が小物みてェな言い方すんな!」

「いや、実際小物っぽいってか小物だし」

「っ、焼き殺すぞテメェ……!」

「あー……じゃあウェルダンでいいよ。美味しく焼けるといいね」

「オイ飼い主ィッ! んだこのふざけた馬鹿鳥はっ!!!」


 ナナに何を言っても埒が明かないと思ったんだろうか? 俺に直接抗議してくるチンピラ2。


 ふざけた馬鹿鳥と言われても、俺から見ても今はふざけた馬鹿鳥まんまだからどうしようもないわ。つーか救いを求める相手間違ってるだろうに。


 一応ナナに視線だけ送ってみると――。


「だって『灼熱』っていうくらいだからどんなもんかと思ったのにさー、結局はその程度なんだもん。それなのにあんなに粋っちゃってさ……ポポの方がよっぽどその名前似合ってるなぁと思っちゃうじゃん?」


 口を尖らせ、何故か俺に向かって不満な顔で文句を垂れていた。


 というかそれは言うなナナ。確かに熱くなれるだけならショボいと思わんでもないが、それは言っちゃいかん。コイツの唯一のアイデンティティなんだから。




 ――その時、何かがはち切れた音がした気がした。




「ぶっ殺してやる……!」


 ナナが白けた目で落胆した気持ちを堂々と口にしていく姿にチンピラ2は思い切り憤慨し……やがて我慢の限界を超えたのだろう。席を立ちナナを見る目が獲物を狩る獣のようになる。


 全く早すぎる我慢の限界ですこと。


「お前知らねェだろ、熱がどんだけ怖ぇモンなのかをよ……!」

「待て『灼熱』!?」


 マスターが止めてももう遅い。『灼熱』の周囲の空気が熱で歪み、ぐにゃりと柔らかくなる。本人の身体から溢れ出した熱波がゆっくりと周りに波及し始め、膨大な熱量は隣に座っていた人達には堪らなく辛かったようだ。席を離れて遠目から見つめさせる程で、気が付けば席に着く者は誰一人としていなくなっていた。

 唯一『灼熱』から離れなかったのはナナだけで、今も『灼熱』の目前で佇むことができているのは魔法で自分の周りの温度を一定に保っているからのようだ。平然とした様子なのには正直安心した。まだ巨大化もしていないのだから。


「この近距離で平然としやがるのはゼビアくらいだと思ってたぜ。チビのくせにちったァやるんだな?」


 ゼビアさんも『灼熱』とは対極にある力を持っているらしいのはともかく、『灼熱』の言わんとすることは分からんでもない。


 何故なら、熱量だけなら大したもので、『灼熱』の触れている机がすぐに焼き焦げてしまう程だったからである。熱い空気を吸う度に喉と鼻が焼けそうになるのはまるでサウナのようであり、最早密閉されていない此処でそう感じるのは確かに脅威ではある。


 Sランクなだけあるというか、近づくだけで一苦労、むしろ居合わせるだけで相手への攻撃になるなら破格の力と言えるのかもしれない。




「なんだ、あるんじゃんそういうの。あと熱が恐ろしいなんて私達はお兄さん以上に知ってるつもりだから。でもそっちこそ知らないでしょ、冷気もどれだけ無慈悲なのか……!」




 対極にある力同士なら、どちらか一方の力が勝れば勝負は決する。熱波を押し返す勢いでナナの周囲の温度が急低下し、活動できる範囲を広げていく。




 ナナの奴こんなとこで張り合うつもりか? これ以上は止めないとマズイか……。




「お互い頭に血が昇りすぎだ! 落ち着け!」

「「っ!?」」


 熱波と冷気がぶつかり合い、それらを発生させるために使っているであろう魔力の余波も常人には耐えられるようなものじゃなかった。だがそんな阿鼻叫喚な環境に颯爽と勇ましく飛び込むのはかのマスターであった。


「オイ、テメェ何して……!?」

「生身で平気なの!?」


 熱波と冷気の板挟みとなったマスターの安否が気になるのか、ナナはともかくチンピラ2も心配している様子だ。流石にマスターには仲間意識があるようである。


「この程度であれば多少は耐えられる。……が、辛いものは辛い。早く抑えてくれ……!」


 そう言って、目を伏せて頼み込むマスターの声に余裕はなかった。――が、それでも暫くは平気そうでもある。

 しかし一方は滲んだ汗もすぐに気化して消えて行き、反対側は身体の芯から凍えそうな極寒なのだ。身体が反射的に今すぐに離れろと警告する環境下で余裕でいられるわけなどなく、余りの苦痛に一体どんな拷問だと叫んでもおかしくないはずだった。その苦痛をマスターは抑えて必死にナナ達を止めようとしている。


 マスター、アンタどんだけですか。魔族は他種族よりも身体が強靭であることは知ってたけど、特に対策しなくても生身で耐えられるんかい。同じく荒事が苦手に見える魔族の姐さんもできるのか? だったらとんでもないんですけど。

 アンタ漢すぎるわ。嫁さんがいるのも頷ける。俺が出るところに代わりに出てくれるとは。


「さっさとお前がそこ退け! コイツら、どうせもう殺ってやがる……!」

「まだ決まったわけではない。それに死にたいのか? どうせ誰も敵いはしない。彼の従魔達にさえ我々は恐らく敵わぬ。手加減されているのが其方には分からないのか?」


 俺がマスターに惚れ惚れしている間にもマスターの食い止めはなお続いている。怒りに我を失くしつつある『灼熱』を宥めるため、そして『灼熱』の熱波を結果的に防ぎ止めて拡散しないようにしたナナの影響すらも間近で受けながら言葉をぶつけている。


「手加減? ハッ、意味分かんねーよ。やってみなきゃ分からねェだろ!」

「落ち着け! 我が聞いた話では神鳥達はまだ上の姿があるはずだ。それすら出していないのだぞ。自分と相手の力量を図ることすら忘れたか!」

「あ? んだと……」

「少し考えれば分かるだろう? あの彼の従魔達だ……並大抵な訳がなかろう。取りあえずその怒りを一度落ち着かせろ。其方はもう少し冷静さを保つことを覚えるべきだ」

「……」


 やはりマスターの声には逆らえないのだろうか。少しずつ『灼熱』の熱が色々な意味で収まっていく。相対的にナナも冷気を出すのを抑え始めており、このまま順当に行けばお互いに鎮火することだろう。


 厳しい言葉の中に優しさが感じられる……。俺はマスターの言葉遣いにはそんな気遣いを感じられた気がした。怒った相手を逆上させず、ゆっくりと悟られない程にソフトに宥めていくのはマスターの人柄あってこそのように思える。簡単に言うならば大人だ。


「そんなら冷やそっか~? あ、むしろ発熱しちゃうかな?」


 そこにこんな馬鹿がいなければベストだったんですけどね。さっきからナナ、流石に煽りすぎ。


 魔法で作った氷を『灼熱』の眼前で宙で回転させているのは挑発行為以外のなにでもない。

 当然――。


「このチビ……!」

「其方も煽るのは勘弁してほしいものだぞ」


 ナナの一言で『灼熱』がすぐに苛立つのも無理などなかった。


 ホレ見ろ、ロクなことにならんぞ全く。今回は俺が怒る前に偉大なるマスターが止めたからなんとかなったからいいものを。




 ナナの態度にも呆れたマスターは大きな溜息をして肩を竦めると、改めて『灼熱』へと向き直る。


「もし彼らが本当に『光陰』を殺したのなら、誰も知らなかった事を彼らがわざわざ言う必要がどこにある? 黙れば何の問題にもならなかったはずなのにだ」

「……ですな。殺しをわざわざ周りに吹いて回るのは注目を集める意思を持つ者くらいでしょう。もし神鳥殿にその気質があったのなら、先程の実力から見てこんな回りくどいやり方をする必要などないでありますな」

「……」

「抑えろ『灼熱』。其方が多少過激な気質である経緯を知っているからこそまだ許せる。これ以上は見過ごせなくなるぞ」

「……ちっ、クソったれ……!」


『漆黒』さんも加わった宥めにようやく降伏の意思を示す気になったチンピラ2の熱が、完全に消え去った。勿論余韻ならぬ余熱は冷め止まないままだが、熱源が無くなった今その心配をする必要はなさそうだ。


 そこでようやく聞こえてくる安堵の声。同じSランクだからこそ自分と同等の脅威である存在の暴走は危険なものであると分かっているからだろう。緊張した空気がなくなったことで身体の重荷が取れたように全員がスッキリした顔になっている。


 だが、ここまで暴走しかけてもマスターがコイツを許そうとできるってことは、『灼熱』に相応の何かがあったのは確実ってことになる。しかも最初の方は些細なことですら口を挟んでいたはずの人達が、一歩間違えれば大参事になっていたかもしれないというのに文句の一つも出してこないのは変である。


 マスターが同情する程の理由って……一体なんだ……?

 さっきグランドマスターもチラッと言ってた『灼熱』が成し遂げていること? ってのも関係してんのか?


「あらぬ疑いをして済まなかったな。其方ももうこれ以上はやめてくれ。ただ、疑われたのも致し方のないことでもあったと分かって欲しい」

「あー……うん。了解」


『灼熱』に対する疑問が浮かび上がっていた俺だが、一先ず騒ぎは一人の漢によって収められたことに今は一息つかせてもらいたい。


「流石ウィネスさん。やっぱり頼りになるねぇ」


 机によじ登った小人さんが皆の気持ちを代弁した一言を部屋の中心で軽快に言うと、皆反応はそれぞれだが同意である気持ちであると感じ取ることはできた。


 ぶっちゃけマスターがしたことは偉業に等しいだろう。だってSランクが暴れたらそれこそ天災に匹敵するだろうし。

 この栄誉を称えて、マスターという言葉がゲシュタルト崩壊するくらい「流石マスター」と皆でコールしてもいいレベルだと俺は思うぞ。


「見てないで其方も止めてくれ……」

「何言ってんのさ! 熱して冷やされたら完全な保存食にされちゃってたよ。誰が好き好んで非常食になった僕を食べるのさ!?」

「死ぬのは前提なのか……。其方の悲観はユーモアに溢れているな」

「あ、ホントに? えへへ~照れちゃうなぁもう。奥さん褒めても何も出ませんことよ?」

「ハハ……」


 マスターに半分唆された小人さんは言葉を真に受けたのかデレ顔で両手を頬に沿えている。これはまだ童顔だから許せるが、仮にもしムサイ男だったらそれは放送事故である。


 肝心のマスターは誰も止めに入らなかったことに苦笑いだったのに小人さんのアホさに乾いた笑いになる始末。小人さんの反論に俺も賛成ではあったのだが、この無性にヴァルダを彷彿とさせるノリには反射的に大反対を訴えたいものである。


 アレ、俺も嫌いじゃないけどヴァルダが言うのは嫌いです。あと追加でこの人も。







「皆様、そろそろ落ち着きましたか?」







 物語で言うなら大団円? 的な状況と言えたのかもしれない。それか一時の安寧とか。

 ただしどんな結果になっていようが現実である限りそこで話は終わらない。グランドマスターの一声が停滞していた時を動かした。


「大きな騒ぎにならなくて何よりです」


 グランドマスターは独りだけ崖っぷちになった部屋の隅へと移動し、俺ら全員を眺めて安堵しているようだった。薄く浮かべた笑みは整った顔も相まって美しく、まるで絵画に描かれた聖女のようだ。


 でも何であれだけ騒ぎになって貴女は落ち着いていられた? どんだけ肝座ってんのよ。

 まぁ慌てふためいてたら美しいとは思うこともなかったんでしょうけども。







 ――ゾワ……。







「っ!?」

「ふぅ……少々予定よりも時間を使い過ぎましたね。もう少し貴方様(・・・)から伝えることを伝えて欲しいところではありましたがこれ以上は流石に――もう待ちきれません」


 グランドマスターの丁寧に編まれた三つ編みの銀髪が解け、一斉に風に流され始める。

 キラキラと光を反射する見事な銀髪は一層美しさを際立たせているのに、ついさっき美しく見えたはずの姿がそうは映らなくなっていた。不穏すぎる気配が立ち込めていたのだ。


 何か途轍もない悪寒が走った気がして俺は身体を身構えたまま硬直してしまう。

 グランドマスターの姿を見たからか? ……違う。もっと別の何かだ。これまでにない程の何かが今迫っている気がする……! 


「ご、ご主人……」

「何か変……?」


 ポポとナナもその何かとやらを敏感に感じ取ったのだろう。素早く俺の肩へと戻ってくると困惑して共にグランドマスターを見つめて様子を伺っている。


 そこから、少しの間グランドマスターの独白が始まった。


「皆さんが手を取り合い協力しあうことの難しい人達であることは百も承知でした。これまでにあなた方Sランクの方が真に一致団結した瞬間をこの数百年もの間私は見たことがありませんからね。今落ち着いていたところでそれも時間の問題でしょう。どうせすぐにでもまた仲違いになるだけです。まぁ考えるだけ無謀に等しいですし正直そんな光景など期待はしていなかったからどうでも良いのですが、いつの時代も醜く自分は特別であると傲るのだけは変わりませんね。その気持ちを振り払って一丸となっていれば過去のいくつかの悲劇は防げていたでしょうに」

「グランドマスター……?」

「やはり運命はそう変えられない。つまり、あなた方が団結できないのは最早運命なのでしょう。これでもまだマシになったのかもしれませんが……未来のあなた方は死ぬべくして死んだのですね。愚かなものです……」


 さっきからこの人は何を言っている……? それに未来? 何故そんなことが言えるんだ……?

 しかも話を聞いてるととても他人事のようには聞こえてこないし、なんで俺がキツくなってやがんだよ……! 話の意味なんて全く理解できないのに。


 思わず自分の胸倉を掴んで痛いのかも分からぬ感覚を押し殺す。呼吸も荒くなりそうだったが、意識だけはせめてグランドマスターから離さないようにした。

 どうやらヒナギさんとポポとナナは俺のような症状を抱えてはいないようで、これは俺限定の症状であるらしい。


「私の言っていることの意味は伝わらなくても結構です。我々を死に追いやった贖い人達の末裔にそのような資格もないのですから。ただせめて、かの偉大なお方と愛する人の最期の願いは叶えさせてもらいます……!」


 っ!? 来る――!?


「過去を現実にする瞬間(とき)はようやく来た。私の役目もこれで……ようやく終わりを迎えられる……!」


 グランドマスターの背後に大きな何かが盛大に広がった。それは足元に伸びていた人影を凌駕し、左右対称となって人影に組み合わさる。


 そう、それはまさに――。




「――封じられし力を解き放て――」




 セシルさんのような、天使と全く一緒の姿だった。




 それからは寸劇の連続だった。次から次へと起こる驚きの連続に対応が遅れるばかりで、終始圧倒されるだけだった。


「ヒナギさん!」

「カミシロ様!?」


 グランドマスターから突如として放たれる黒いオーラが、大波のように俺らを襲った。咄嗟に俺はヒナギさんを引き寄せて正面に『障壁』を張り、決してこのオーラに触れないように収まるまでの間ジッと耐える。ただ、他の連中がどうなったかは分からない。


 オーラのせいで視界が塞がれ周りがよく見えない。

 他の奴らはどうなった? 無事なのか? 声すら聞こえてこないが……。




「こ、これは……!?」

「どういうこと、なのかな……。……え……?」


 心配していたものの、オーラは長引くことはなく案外すんなりと収まった。しかしすぐに次に目を奪われる光景に直面してしまうことになる。

 唖然としたナナの声に釣られるまでもなく俺も同じ気持ちだった。一瞬で何が起こったのだろうか。Sランカーは全員、恐らくオーラが原因で奇妙な黒い球体に閉じ込められていたのである。


「「「『……!』」」」


 閉じ込められた人達が必死に内側から球体を破壊しようと試みているようだが、球体は微動だにしていない。しかも聞こえても良いはずの声や音も聞こえてはこないらしく、完全に内側と外側で遮断されてしまっているようだった。


「グランドマスター……! 一体何を! それに、その姿は……!?」


 Sランカー達の安否もそうだが、何より気になるのはグランドマスターの今の姿だ。人族だと思っていたが真っ黒な黒い翼を生やしている姿を見てしまってはそれが間違いであったとすぐに気が付かされる。

 翼を持つ種族は天使以外に存在しない。色だけを除けば天使と酷使した姿である以上、それに類似する何かであるのは間違いないだろう。




「見りゃ分かるだろ? ヴィオさんもセシル嬢と一緒ってことさ」

「っ!?」 

「どうやら状況は整ってるみたいさね」



 俺がグランドマスターを問い詰めるために声を大にして叫ぶと同時に、グランドマスターの両隣にどこからともなく現れた二人の人物がその声を邪魔してくる。


「な、なんでお前がここに……!?」

「おー、驚いてる驚いてる。やぁツカサきゅん、おっひさー……でもないけど元気してた?」


 この飄々とした話し方はいつもと変わらない。そんな奴が今ここに出てくるなんて全く予想していなかった。


 ヴァルダ……!? お前、グランドルにいるはずじゃ……!? 

 それに、この大きい女の人は誰……?


「お待たせしてすみません。あとのことはお任せしましたよ、お二方」

「合点!」

「任せてくれ」


 俺らが戸惑いを見せているのとは裏腹に極めて自然な振る舞いで意思疎通を交わす三人。ただでさえグランドマスターが突然動き出し、そこに乱入してくる二人もいたのだ。これだけで済んだらまだ良かったと切に思う。




「チッ……なんとか間に合ったか……!」




 脆くなったこの部屋の床を踏み抜こうとする勢いで、向こうを任せていたはずのジークまでもがこの場に勢いよく参上した。


 もう何がなんだか俺には分からなかった。


※7/27追記

次回更新は日曜です。

日曜中に更新しときます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ