表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神鳥使いと呼ばれた男  作者: TUN
第六章 来たるべき刻 ~避けられぬ運命~
340/531

338話 運命開始 ~鼓動~

「お礼を言われることなんてしてませんよ。俺達はアイツを殺したかったから殺しただけなんですから」

「そうでありますか。ならそれでも結構でありますよ」


 俺と『漆黒』の話はここらが区切りどころか。雰囲気からそれとなく察し合い、そこから一度間を置いて無言の時間を作ることになった。


 お礼を言われたものの、俺達は自分達の為に『影』を殺しただけだ。そのことに後から発覚した事実としてお礼を言われても困るのが正直なところである。


 ――ただ、『漆黒』にはまた改めてこの話をしようと思う。こっちも少し掘り下げて『影』の過去の話を聞いてみたいし、そこから『ノヴァ』に対する不可解な点を紐解く何かを得られるかもしれない。

 何より『漆黒』の比較的まともそうな人格? にはこのような場ではなくきちんとした状況で向き合いたいと今の会話で思ってしまっている。




「――で? 結局テメェの目的は一体なんなんだよ? それに元メンバーがいるってどういうことだ」




 無言の空間崩壊――。

 俺らが間を置くことで次の話題を振りやすくなるのは俺らだけではない。ここにいる者全員にその効果はあり、異論の多い話題飛び交うこの状況で黙っていることには少々無理がある。


 特にコイツは。


「こういうことで……そのまんまの意味だが?」

「そういうこと聞いてんじゃねェんだよ。なんで敵対してる組織の奴とつるんでんだってことだ!」


 はいはい、言われなくても分かってるっての。

 ……ったくこのチンピラ沸点低くて見てるだけで腹立つわー。


 なんというか、ここまでコイツに対して腹が立っているとまともに相手したいという気持ちは一切湧かない。

 事実を言いつつ適当に流して、なんか癪に触ったら正当防衛ってことで沈めとくのもアリかもな。


「はぁ……『ノヴァ』の他のメンバーから俺の話を聞いたらしくてな、戦いたくなって喧嘩売りに来たんだよ。そんでタイマンで殺し合って……俺が勝った。これでいいか?」

「どこがだ。つーか殺してんじゃねェのかよ」


 怒鳴らなかったこととその要らん冷静なツッコミだけは評価してやろう。


「俺が勝ったんだから殺さなかっただけだ。アイツは殺す気あったみたいだけどな」

「殺しにきた奴を生かす? 正気かお前」

「正気だよ。事実今は殺さなくて本当に良かったと思ってるくらいだ。アイツ根は良い奴すぎるし」


 本当は殺す気でやったけどしぶとく生き残ってくれたのが正しいんですがね。ジークの生命力本当に意味不明ですし。

 あとさっきから正論言われてて俺はお前の正気を疑うぞ。


「何度も何度もアイツには助けられてきたよ。それは俺ら全員が間違いなくそう感じてるくらいにな」

「ええ。ジーク様がいることでむしろ『ノヴァ』の抑止力となって……これまでの被害はマシであったと言えるのかもしれませんね」


 ジークという存在が俺らにもたらしてくれたものは計り知れないだろう。ヒナギさんの言うことは間違っていない。

 思い出は勿論、その圧倒的強さによる抑止力は、俺が単独で迂闊に行動したとしてもジークがいるから安心できる程だった。ジークがいれば『ノヴァ』が来ようと問題ない。俺と並んで皆を守れる存在……それがジークだ。


「アイツがいなかったら俺達はここにいなかったかもしれない。アイツは強い奴と戦えるからって理由だけで向こうに加担してただけなんだ。『ノヴァ』に最も近い場所にいながらその目的も知らなかったくらいの馬鹿で……自分の信念にまっすぐな奴なんだよ」

「殺し合いに発展してまで戦おうとする奴なんてゴメンだな。イカれてやがる……」

「あっそ。ならそれでいいんじゃね。お前にアイツの良さを分かってもらおうだなんて思っちゃいないし、お前がどう思おうがアイツは俺の仲間だ、もう『ノヴァ』じゃない。これに異論は認めねーよ。……何か文句あるか?」

「っ……」


 文句があるかと聞いたが、文句を言わせる気はさらさらない。少しだけ握りこぶしをチラつかせてチンピラ2を脅し、有無など言わせなかった。

 つい先程力を見せつけたこともあって他からの反応もなく、ジークへの問題意識を無理矢理捻じ伏せることができたらしい。


 ジークが快く思われないのは俺らだって分かっている。アイツ自身から過去に何人か間接的に犠牲者を出す要因になってしまった旨も聞いている。ジークが『ノヴァ』として作った罪はあるのは否定できないため、今のジークに対する不信感があるのは自然な反応だろう。


 しかし、俺らはもう仲間なのだ。ならばその罪を共に背負い、アイツが罪を晴らすというなら見届け、その力になりたい。

 結果的に『ノヴァ』と敵対する道を選ぶことになったジークなら、それが罪滅ぼしになるのではとも考えているが……それは甘く考えすぎているか。でも罪を償うどころか世界規模の話ではあるから一考の余地はありそうだが。


「文句がないならまぁいい、話を戻す。俺がここに来てまでアンタ達に伝えて聞きたかったことってのは、『ノヴァ』っつー組織がアンタらの命を狙っているから注意しろよってことと、この話を聞いて今後アンタらがどう動くかってこと。そんで後は……絶対に伝えておく必要があると思ったことが二つあったからってくらいかねぇ。……ポポ、頼む」

「はい」


 文句が出なくて当たり前なことはさも図々しく思われているだろう。だが知ったことか。今後を考えたらこんな小さな問題に躍起になっていては話にならない。


 俺はポポに呼びかけ、指で指示を出しながら肩から降ろして机の上に乗せた。

 小さな身体を机の上で主張するポポに視線が集中する。黄色と緑色の鮮やかな色彩は単色のテーブル上では非常に目立ち、茶色の机の上では地面に咲いた花のようだった。


「どうも初めまして皆さん。ご主人の従魔のポポと申します」

「あ、聞き間違いじゃなかったんですね」

「鳥さんが喋ってる! え、なんで!?」


 トテトテと小さな足音を立てて前に躍り出たポポが、しっかりした声で口を開く。すると恒例の驚きの声がチラホラと上がる。


 やはりSランクの間でも喋る従魔というのは珍しいものであるようだ。特に『武神』の子ども心をくすぐったようで、机にのめり出してポポを凝視している程だ。


「従魔の分際で会談に口を挟んで場を乱すのも憚れましたので……暫し静観させていただきました。急に話したことで驚かれたのであればすみません。しかし、今から話すことは私が関係している話です故……少々お時間を頂きたいのです」

「ず、随分と達者に喋るのだな……」


 こんなのポポからしたら普通のことだぞ、ウチの子舐めんな。その代わりナナは無理だからいくらでも舐めて結構だ。


「俺が命を狙われてるなんて言ったところで、口だけじゃ何も信じてはくれないでしょう。Sランクの力を持ってしても個人の力じゃ生き延びられない……それを証明する証拠がここにある」


 俺はポケットに手を突っ込み、奥に引っかかっていたモノを掴んだ。顔も知らない長年Sランクとして貢献してきた人の遺物。それをポポの隣へと静かに置いた。


「ネームプレート? もう持ってたの? ……って、あれ……? それ、『光陰』のじゃない?」

「なんでテメェが……」

「……じょ、冗談、ですよね……?」


 小さなネームプレートはどうやらSランクに配布されるものであるらしい。刻まれている文字が小さいため全員目を細めて見ているが、刻まれている文字が俺のものではないことに気が付くや否や反応に変化が出ていく。


 ようやく実感できたか? 実力に大した違いなんてない仲間がやられてるってことに。


「ここ最近連絡が取れてないとか話してましたけど、『光陰』さんとは二度と連絡が取れるわけがないんですよ。だってもう犠牲になってるんですから」

「「「っ!!?」」」

「俺らが知ってる限りじゃ最初のSランクの犠牲者ですね。イーリスでコイツが敵対した人物が落とした物で本人の物かどうか確認する必要があると思ったんですが……やっぱり、その反応だと本物なんですね」

「嘘ッスよね……『光陰』さんが死んだ……?」

「オイ、これは一体なんの真似だ? 俺らの中でもトップクラスのアイツが死ぬわけねェだろ!」

「死ぬんだよ。だからこれがここにあるんだろうが」


『死』という部分を強調してみたがその必要はなかったと言った後に気が付いた。やはり実物を見せるのは手っ取り早いようで、既に現実は叩きつけられていた。

 Sランクの立場になる経緯で修羅場を潜り抜けてきた猛者は多いかもしれない。しかし、頂点に君臨したことでその過程を忘れてしまっている人は多そうだ。

 強敵と敵対する恐怖。常に命が散るとも限らない極限の戦場の空気を忘れたのであればそんな人は戦力外だ。今現実を目の当たりにして食って掛かってきてる情緒不安定のチンピラ2はその可能性が特に高そうだが……さっさと落ち着いて欲しいものだ。


「何度だって言ってやる。アンタらも大概の力は身に付けているとは思う。でも連中はその上を軽くいくんだ。単純な力比べだけでも下手すりゃ下っ端如きにこっちが負ける戦力……それが奴らの強さだ。連中が本気になったら太刀打ちなんてできない。いい加減分かれ、お前達は連中から見たらただの獲物だ」


 正直動揺もあるんだろうけどそれ以上に苛立ちの方が強かった。

 仕方のなかった部分も含め、俺がここでSランカー達から感じた全部が集結していくのを感じる。それは伝えたいことがこうも中々伝わらないのだと実感すると共に呆れてしまいそうで、何故自分がこんな回りくどいことをしてやらなければならなかったのだと叫びたくなるくらいだった。




「お前が殺したんじゃないのか?」

「……」


『光陰』の事実を伝える上で危惧していたことが現実になろうとしていた。

 たったその一言、言われようのないことを言われるのが嫌で……この事実は言わなくてもいいと考えていたのに。




「違いますよ。その人だった人を殺したのはご主人じゃない。私です」

「は?」

「だから私がお話しさせてもらってるんです。その義務があるでしょうから」


『光陰』を殺したのは自分であるとはっきりと話すポポの目がいつになく真剣身を帯びている。この小さな存在がそのような所業を行うとは想像もつかなかったのか、呆けた声が出る始末だ。


「だった……?」


 ポポの『だった人』という奇妙な言い方は事実を知る俺らからしたら意味は分かるが、何も知らない人からしたら違和感でしかなく当然そこに疑問を持ったようだ。なんでも人ならあるはずの気配がなく、獣であるポポの鋭敏な感覚ですら感じない無機質な雰囲気を纏っていたらしい。


「はい。全身ツギハギだらけで、切り刻もうが痛覚も感じず何の感情もない戦闘マシンのようでした。口元は開かないように縫い付けられていましたし、それで生命を維持できるとは思えなかった異形の存在でしたよ。対処のしようがないので燃やし尽くしたのですが……そこから出てきたのがこのプレートだったんです」

「それって……生きた人を使ったって、こと……?」

「恐らくは。本人が生きている可能性はまだありますが……連絡がついていないと聞いてその線は低いと考えています。あの方は本人だったのでしょう」


 限りなく望みの低い可能性も最早ゼロとなりつつあった。心なしか覚悟を決めていたポポにも落胆の色が見え、見ているだけでこっちが複雑な心境にさせられる。


「お前らがそのプレートを持ってる時点で今のが作り話の可能性があるけどな。何を狙ってるのか知らねェが馬鹿だな」


 しつけぇな。しかも一番嫌な展開にしやがった。


 チンピラ2の猛追が無駄に激しくこの上なく面倒臭い。

 俺らが殺しているしていないに関係なく、そもそもプレートを持っている時点で疑わしいのだ。そこから殺した殺していないが判明したのだとしても、見せた段階で俺らが疑いを掛けられるだけ……しかも事実が明確に判明するまで解けることがない。それを確認する術はリオールの人に尋ねるくらいでしか無理なものだろう。ただ、既に身内の人からの証言など効力は薄く、更にもっと質が悪いのは『光陰』であった確証が持てないということもある。


 悪条件に悪条件が重なりすぎていたため面倒なことになるのは始めから分かっていた。だから話すことはせず見なかったこととして扱おうと最初は考えた。


 だが言わなければ特に疑いを掛けられることもなく闇に葬れたはずなのに、ポポはそれを嫌がったのだ。自分が最期を見届けたからと、その事実はせめて伝えておきたいと譲らなかった。




 そのポポが今話したことが作り話だとは……笑えないな。全然笑えねーよ。

 一体俺らに何のメリットがあるんだそれ。


「殺していないとどう証明するってんだ?」

「証明はできません。そしてしようとも思ってません。死んでいようがそうでなかったのであろうが私が『光陰』さんだった人を殺した事実は変わらない。そこに罪があるというなら受け入れましょう。でもそれは事が終わったあとにでもしt「ポポ、もういい」


 ポポが決めたことだからポポに全てを委ねたいが、納得できないものを俺は許容したくはない。このまま続けるとポポはあらぬ罪を自発的にでも被って自らを罰するだろう。それを止めるためにポポの声を途中で遮った。


「ポポ、その必要はねーよ。証明だとか証拠だとかさ、そんなものを示す以前に俺らは自分らがやってないことに対してそんなものを提示する必要性なんてないんだ」


 どうせ真摯にこっちが向き合ったところでその想いが伝わるとは思えない。変に悪知恵ばかりが働きそうなチンピラ2は特にな。


「別に俺らにデメリットしかない今の話を信じなくてもいいし疑うなら疑えばいい。それで俺らをどうにかする気になったならいつでも来い。まぁその時は――」




『俺が何が何でも立ち塞がる』




「うん、私がそいつら全員返り討ちにする。ご主人の手なんて借りる必要ないし」





 ――そう言おうとしたところで、俺の肩から離れてポポの隣に降り立ったナナは、さらりと俺の言葉の続きを奪っていった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ