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神鳥使いと呼ばれた男  作者: TUN
第六章 来たるべき刻 ~避けられぬ運命~
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337話 運命開始 ~胎動~

ちょっと短いけど投稿です。

遅れてすみません。

 


「正確には、カミシロ様ではなく私達の仲間の一人が止めを差しました。なので現在相手は幹部が六名存命であることになります」

「ヒナギさん……」


 それ……必要だっただろうか? 俺の代わりにシュトルムが殺してくれただけだから大した違いなんてないだろうに。


「カミシロ様。私達はもう貴方と共に彼らと戦うことを決めています。全て一人で背負おうとしないでください。シュトルム様も今の言い方をされたらきっと怒りますよ」


 俺は不服そうな顔でもしてたんだろうか? ヒナギさんから窘められ、ちょっとムッとした表情に少しだけ気圧されてしまう。


「どういうことで……ありますか……? その者が止めを……?」


『漆黒』は抑揚のない声と哀しげな目をしながら、ヒナギさんの補足に気を止める。向こうが知りたいのは事の真実であり、俺の発言に誤りがあったなら普通の反応である。

 あわよくば俺にだけ恨みでも抱いてくれればいいと思ったものの、一度疑いを持たれてしまったら払拭することは非常に厳しく難しい。自分の招いた自業自得な結果に結局は嵌るだけだった。


 嘘をついてもすぐにバレてちゃ世話ないったらありゃしない。ヒナギさんの言葉が正しいと分かっているのに、余計な口出しをされたことに少しだけ反論したい気持ちがある自分がなんともガキそのものだ。

 まぁ、そんな自己中な考えがあるから毎回俺の思惑通りになんていかないんだろうけどな……。


「……すみません、訂正します。そいつは俺らの仲間です。そしてオルヴェイラスを治めている現王でもあります。今は別行動中ですが」

「現王……!? それはつまり、王自らが手に掛けたと……!?」

「はい」


 まさか襲われた被害者の国の王が賊を返り討ちにしたなどと、こんなこともあまり聞く話ではないだろう。俺だって最初はそんなことにさせるつもりはなかった。




『明日『影』のこと話すんだろ? その時は遠慮なく俺の名前持ち出せよ、正式名称でな』




 昨日の作戦会議で会話した内容が脳内で再生される。


 ……ありのままを話そう。昨日シュトルムに釘を刺されたまんまの展開になったし。


「既に王族と関わりがあったのか……」

「おーぞくとぞくちょーってどっちが偉いの?」

「王族じゃないッスかね……規模的に」


 静観していた周りも口を挟み始め、緊張感のあった場がまた賑わいを再燃しようとしている。王族が絡んでいる話をしたすぐ後に俺が既に密接に絡んでいることが発覚したのだ。そこに何かしらの疑問があるのも無理はない。


 ちんたら話してたらまた余計な横やりが入ってきそうだ。その前に全て話してしまおう。


「物好きな奴でしてね、王に相応しくなることを目的に身分を隠して冒険者をしてたんですよ。アイツが身分を明かしてくれたのは、俺達がオルヴェイラスに着いた時でした。……ちなみにこの大陸にも一緒に来てますよ。昨日、貴方を殺そうとした俺を止めたアイツです」

「っ……」

「『漆黒』さんが望むならそいつと会いますか?」

「……」


 ビクリと『漆黒』が「会う」という言葉に反応し、顔を上げて俺を見つめてくる。俺の申し出が願ってもないことであると……そんな眼差しをしているように見えた。


 会いたいなら拒否することはしない。俺だったら逆の立場で拒否されたら腹が立つからだ。


「……」


 弟を殺されて憎まない気持ちがある程ドライな人なら楽なものだ。ただ実際そんな人はほんの一握り程度の数がいるかどうかだろう。『漆黒』は反応を見る限りドライな人物には見えそうもない。


 また黙りこんでしまったが……さぁ、どう出る? もしシュトルムを殺そうとするようであれば俺が全力で止めてやればいいだけの話。それが『漆黒』にとって報われず一生晴れない恨みとなったとしても、こちらにも事情というものがある。


 そして……『漆黒』が口を開いた。




「会って……昨日のことも含めお礼を言わせて頂きたいですな」

「え……?」


 俺が警戒していたのとは裏腹に、『漆黒』から告げられた望みは予想外すぎるものであった。


「弟が人の道を外れたのであれば、これは当然の報いだったのでしょう。国を貶めようとしたならば……。あの、遺体はどうされましたか?」

「塵になったので残っては……」

「そうですか……」


 悲哀がこちらにも伝わってきていた表情は収まりを見せ、今では少し穏やかな優しい目をして『漆黒』は話を進めていく。この変わりようには別の意味で気圧されてしまいそうである。


 本当か今の言葉は? 嘘じゃない? さっきまでの表情は何だったんだ……?


「神鳥殿。貴殿の危惧されてることにはならないのでご安心してくだされ。某に復讐の気持ちがないと言えば嘘になりますが、実はそれ以上に感謝の気持ちの方が強いのでありますよ」


 俺の心はそんなに顔に出ているのか、『漆黒』にも見透かされた言葉を食らう俺。どうやら俺の疑問に答えてくれているようだ。


「弟は昔から異常だった。まるで心がない者のように平然と悪事を働き、特に他者を傷つけることに関して全く抵抗のない行動が目立った。我が家系が代々人目を忍んだ暗殺業を生業としていたことを良しとし、殺人に取りつかれてしまっていた。忽然と姿を消してから早数年……結局何も変わっていなかったのですなぁ……」


 感慨深く複雑な心境なのか、『漆黒』の独白に誰もが耳を傾け押し黙った。『影』と過ごした記憶を辿っているようでもあるようだが、その段階で『影』が逸脱した人物であったことが示唆されている。


「神鳥殿」

「はい」

「王は昨日、貴殿を止めていた。大罪人である弟と瓜二つの某は貴殿と同様、王も即座に手に掛けようとしてもおかしくなかったはずなのに」

「……」

「しかし王はそうはされなかった。これはあの方が理性を持って判断できる人であった証拠であります。精霊の助言があったからとはいえ衝動的な気持ちを抑えることは難しいでありましょうし、弟が死んだのは……当然だったのですよ。弟は死ぬべくして死んだ」


 弟が死んだことに思う部分はあるが、それ以上に安堵の方が強いのか……。自分の弟を死んで当然だと……実の弟をそう思えてしまうなど考えたくもない。実際俺にも弟がいるからすんなりと話を受け流すことは難しかった。




 あり得ない話だが、立場が違えば俺もそう考えてしまえていたかもしれないのかな。……怖い話だ。

 俺の場合は弟が『影』と比較して比べる必要もない程に良い子で心底良かったと思う。どこに生まれるかなど天が決めることだし、結局運の要素が強いというのが俺の結論。あんなことがありはしたけど、俺は恵まれていたんだな。


 皆、元気にしてっかな……。


 暫く声も顔も見ていない俺の家族が無性に懐かしい。最近はホームシックが収まっていたけど会いたい気持ちに変わりはないし、俺の達成すべき目標の優先順位は違くとも根底に根付いているものが変わることはない。


「弟の最期を見届け頂きありがとうございます。某の身内の膿を排除していただいたことに感謝を。やっと、悩みの種が消えたでありますよ」


『漆黒』は深々と頭を下げるとお礼の言葉を俺へと述べた。


 身内からですら、最後は情けを掛けられないのか。

 哀れだな……『影』のやつ。――いや、そんな気持ちを理解する奴ですらなかったからこそか。




 しかし昔から、か……。『漆黒』さんの話を信用したとして、何故こうも同じ血を分けた兄弟同士でここまでの差が出るのかね? 個人差や性格があるにしても育った環境は同じはずなのに。

 確かにさっき暗殺業をやってるとか物騒なことは言っていたが、あくまで黙認されてる範疇の生業っぽいしこの世界じゃ珍しくはあってもおかしなことではないと思われる。


 その世界の中でさえ異常と言われる『影』は、じゃあ何故誕生したのだろう? 先天的な資質? 後天的な資質? 果たしてそこには理由が本当にないのだろうか? 




 そもそも『執行者(リンカー)』達は何故あんなにも強力な奴らばかりが集まったんだ? あの時東で神様は言っていたはずだ、異世界人の魂はこの世界の人とは差がありすぎると。

執行者(リンカー)』達もこの世界の人である。それでSランクよりも強いということは魂もより強靭であるという考えになるわけで……最早異世界人クラスでないと対処できない魂を持った集団が自然に生まれ、1000年も前から人目に付かずに組織を組めるまでに集まれるものなのか? その時点で何かがおかしい。





 運と言ってしまえばそれまでだけど、運で済ませられるレベルだろうか? 何か引っかかる……。


本日もう一話投稿します。

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