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神鳥使いと呼ばれた男  作者: TUN
第六章 来たるべき刻 ~避けられぬ運命~
335/531

333話 頂点の衝突②(別視点)

 ◆◆◆




 連続的に響く重低音が止まらない――。




 セシルとアレクが一歩も譲らぬ戦いをしている一方で、シュトルムとカイルも既に交戦を始めていた。最初はセシルとアレクのぶつかり合いを眺めていただけなのが、いつの間にかに。

 セシル達の戦いぶりには見劣りしてしまうのは否めないものの、こちらの戦いの質も桁違いに高いものであり凄まじい。高度かつ繊細な魔法を巧みに操るシュトルムと、見慣れぬ魔導銃を扱うカイル。歴戦の猛者であろうとどちらも見る者を釘付けにしてしまうことだろう。


「おらよ!」

「(……っ、悪ぃなセシル嬢ちゃん……! どうやら俺の方はヤベェかもしんねぇ……!)」


 セシルがアレクと互角以上に渡り合っていることは喜ばしいことだ。負け戦よりも勝てる見込みのある戦の方が良いに決まっているのだから。

 ただ、シュトルムはどうも自分は勝ちの目が低いことを早くも認めなければならなくなったため、心の内で弱音を吐いてしまうのだった。それは自分自身を不甲斐なく思っているからに他ならない。


「くっ……うっ……!」

「おー、中々やんなぁシュトルム。精霊の力なしでも相当できるじゃないか」


 シュトルムが水魔法である『アイスシールド』に魔力をふんだんに込め、カイルの撃ち続ける弾幕から身を守っている。これは攻めることをやめてカイルの攻撃を受けることに変更したからである。既に最初に構えていた剣は腰に戻している。


 シュトルムの移動速度ではカイルの攻撃から逃れることが出来なかったのだ。銃弾に反応してから避けていたのでは間に合わず、かといって銃弾を察知したり予測するだけの能力はシュトルムにはない。そもそも銃を扱う者と相対した経験が皆無であった。

 魔法による放ち合いならまだしも、詠唱も何も必要とせず引き金を引いただけで高速の弾が飛来してくるのでは最早別次元の話だ。無詠唱を使っても対処など間に合うわけがなく、カイルに軍配が上がるのも無理はない。

 シュトルムが一方的に辛そうにしている反面、カイルは涼しい顔でその様子をじっくりと観察しているようで、シュトルムが身体を小刻みに震わせ続けていようがその態度は崩れることはなさそうである。


「(どうすりゃいい……!?)」


 完全に自分の間合いを把握したカイルはシュトルムを寄せ付ける隙を全く見せず、シュトルムはそれまでずっと攻めあぐねていた。それならばいっそのこと思いきって守りの姿勢に移行したはいいものの、途端に自分を一歩も動けなくされてしまったことにシュトルムは後悔している最中だった。

 歯を食いしばって全力の力で抵抗するシュトルムは今、何らかの対策を講じなければと焦りに焦る。既に残された時間は少ないと心をすり減らし、滴り落ちていく汗が時間と心の余裕を減らしているように見えてしまう。



「(マズイ、もう、これ以上は……!?)」


 カイルの弾が強固な氷の盾を貫いて盾の面積が削がれ、シュトルムの身体に銃弾が掠め始めた。


 防御なら他の魔法で対応するのが得策なのだが、精霊の力が封じられている以上適正のある水属性以外の魔法は使うことができないのだ。魔法を得意とした戦いをするシュトルムにとっては致命的であり、攻撃の手段と防御の手段がかなり限られてしまっていた状況だった。その状態でカイルと今戦えているのはステータスが急上昇したことが幸いか。上昇していなければ瞬殺されていただろう。


 シュトルムはやむを得ないと……盾に込める魔力を無理に限界まで引き上げる。割りに合わない虚脱感が大きくなることも気にしてはいられなかった。




「こ、の……! か、カイル……お前……! 本当の実力隠してやがったな……! こんなの……Aランクどころじゃねぇだろっ……!」


 苦しい状況下にあったが叫ばずにはいられない。また虚脱感を忘れたいからでもあった。シュトルムも仮にも【超越者】に到達した身であり、それがこの体たらくを晒さなければならないとはどんなふざけた冗談だと言いたくなる気持ちも無理はないだろう。


「まぁな、これでも最高位のランカーなんだ。通常の基準なら弱ぇつもりはねぇよ…………おっと!?」

「最高位!? ――がっ!? ……ちっ!」


 飄々と話している最中に、絞り出した魔力でなんとかシュトルムが魔法で横槍を加えても、カイルは易々とその攻撃を回避する。カイルは戦闘に集中していないように見えてそうではないようである。気になる発言の回答を得られぬまま、カイルが回避の際に撃った弾の威力はその時だけ出力を一瞬上げたらしく、シュトルムの盾を壊しつつ反動を利用して後ろへと飛び退かれてしまう。


 身体を掠める程スレスレの回避は敢えてそうしているのだろう。所詮攻撃は当たらなければ意味がないと言っている姿に見えてしまう。


「――なぁシュトルム。多分だがこうして全盛期の昔よりも思い切り戦える感覚はどうだ?」

「はぁ? いきなりなんだよ……」


 盾を壊された衝撃でシュトルムは盾ごと吹き飛ばされて地面を転がった。氷の破片の一部が頬を引っ掻いて血が薄っすらと滲んでいることには気づくこともなく、シュトルムはカイル言葉に返事をした。


 怪我に気が付いているいないは関係ない。シュトルムには何故自分の過去の環境を知っているのかが気になってしまったのだ。

 カイル達はセシルの天使の姿を見ても元々知っていたようで大した驚きを見せることもなかった。自分の精霊の力にしたってそうで、完全に対策まで練られてきてしまっているくらいなのだ。一体どこまで自分達のことを知っているのかと不気味に感じてしまっていたのである。


「その域にまで行っちまったら鍛練とかしようと思ってもあんまし丁度良い相手になる奴がいなくてどこか物足りなかったろ? ……精々今は思う存分がむしゃらに経験しとけ、そして感覚を完全に取り戻しとけ。お前がアイツの助けになる気があるならな……」

「どういう意味だ……何言って……」


 カイルの意味深な言葉にシュトルムは戸惑わされてばかりいた。こちらを混乱させようとしているがどこか助言のように聞こえなくもない。何より自分の知らない何か(・・)を知っているであろうカイル達だからこそ深く追求しそうになり、簡単に出てきた言葉だとしても戯言だと切って捨てることができなかった。




「――で、隙だらけだがいいのか?」

「ッ!? ぐあっ!?」




 ただ、シュトルムの思考はそこで中断した。一発分の鈍い音が弾けた時、既に自分の身体には手遅れの異変が起こってしまっていたからである。ガクンと膝を曲げてうつ伏せ気味になってしまう。


「つっ……! てめっ……!」

「油断禁物、ってな。安心しろ、今のは貫通性の弾じゃねぇから大事には至らねぇし、そうならないようにしてるからよ」


 痛みから生まれた苛立ちをそのままカイルへと向けるシュトルムであったが、カイルはやれやれと肩を落とすのみで気にした様子は見られない。魔導銃の砲口からは硝煙が遠慮なく天に昇っていく。


「シュトルムさん! 今撃たれて……!?」

「大丈夫だ! そのまま離れてな!」


 むしろ一番気にしたのはアンリで、自分の代わりに戦ってくれている仲間が傷つけられてしまえば心中穏やかでいられるはずもない。反射的にシュトルムに駆け寄ろうとしたようだが、シュトルムは元気だと主張するかのように拒んだことで接触することは避けられたようである。

 実際シュトルムは鈍痛が骨の内側から殴ってきていたが、アンリの心配そうな顔に無理に平然な表情を作ったようだった。それが作ったものであるとアンリは分かってしまっていたが。




「……そうか、Aランクにしちゃ随分とギルドマスターがずっと特別視してたが……そういうことかよ。カイルお前……Sランカーだったのか……!」


 痛みに苛立ちも植え付けられたものの、それは一週回ってシュトルムをある程度目の前に集中させることに繋がったらしい。傷む足を堪えながらシュトルムは先程言い掛けた言葉の続きを聞かず、自分で先に答えを叩きつけるのだった。


「ん? ああそういやさっき言いかけてたな。――でも惜しい、Sランカーではないんだ俺」

「最高位はSランクの筈だろ。じゃあなんだって言うつもりだ?」


 カイルの答え合わせに納得がいかずシュトルムの顔が少し曇る。

 確信を持って答えを出していたうえに、それ相応過ぎる力を見せつけられてもいたのだ。またSランクが冒険者の名誉ある最上の証であるなど世間の常識にも程がある。子どもでも知っている当たり前の常識が自分にないはずがないとカイルの言葉に今更しょうもない嘘をついてどうなるのかと呆れそうになったくらいだ。




「俺はグランドマスター勅命、SSランカーの一人だ」




 しかし、その考えは誤っていたのだと改められることとなる。


「……SS……だと……!?」


 Sランクよりも上の位が存在するなど聞いたこともないシュトルムは絶句する。驚きに声が出ないのであればまだ良かったのかもしれないが、それ以上に絶望に叩き落される意味合いに聞こえていたの方が強い。


【超越者】でようやくSランクに少しいるかいないかの立ち位置なのだ。ならばSランクよりも上であるSSランクはどうなるというのか? 

 実際攻撃してきてはいるがこちらの身を案じて手加減までしてくる程だ。目的は足止め……と言っていたがそこに何の目的があるのかは分からない。だがそれだけの力量の差があるのは間違いない。今まさに自分は手も足も出ない有様であり、実感を言葉にされた途端に恐怖が一斉に襲い掛かられる錯覚に陥ってしまう。


「ホラまただ。集中しろって」

「っ!? うぁ……っ!」


 油断するなと丁寧に忠告を受けたばかりでもまた隙を晒してしまったシュトルムに、カイルは戒めろと言わんばかりに肩に遠慮なく銃弾を撃ち込んだ。

 撃たれる直前に咄嗟に後ろへと後退しようとしたシュトルムだったが、撃ち込まれた肩は殴られた衝撃そのものとなり回避を中途半端に終わらせてしまったようだ。思った以上にカイルとの距離を引き離せないままたたらを踏んだ。


「中距離なら余裕で俺のレンジ内だ。でももうここまでか? なら終わらせんぞ」


 シュトルムの動きに潮時を感じたらしいカイルが、手に持つ魔導銃を強く両手で握りしめる。軽々と大型の銃を扱ってきたカイルが身構えるということは、それ相応の何かを仕掛けてくるということである。


 カイルの目も本気だとシュトルムが分かった時には、銃の砲口の奥底が、収束する機械音を立てて薄紫色の光を帯びた――。




「『ラピッドファイヤ』」

「っ――!?」




 砲口からはガトリング砲の如く目まぐるしく光の弾が放出され、砲口から出ていく度に激しく光る明滅はずっと直視することも辛い程だった。明滅の回数は数えることなど不可能な回転速度を誇り、見た目だけを気にするなら花火のようでいて美しくもある。


「う、おぉおおおっ……!?」


 光の弾が列を為して目指すのはシュトルム一点のみ。見てから防ごうと思っていたら蜂の巣にされていたかもしれない。しかし、間一髪でシュトルムは戦闘不能にされることはなかったようだ。


 カイルが砲撃を始めるほんの少し前に、シュトルムは両手をカイルへと向けて突き出し魔法を既に発動していたのだ。今度は『アイスシールド』ではない魔法である。

 唸り声を張り上げながら氷を精製し続けるシュトルムにカイルの弾があと寸でのところで塞き止められ、シュトルムには辛うじて届いてはいない。両手から極太の氷柱を生み出そうとするシュトルムの魔法は壊されてはその度に氷を補修し、何度も何度も抵抗を続けることを繰り返す。


 ――一秒、二秒と時が過ぎていく。


 苛烈な攻撃と堅牢なる防御が拮抗する一進一退の攻防は、どちらが先に手を緩めて根をあげるかが勝負の分かれ目のようにも見えた。

 その時、鳴り響いていた爆音が急に鳴り止んだ。




「ハァッ……ハァッ……!」


 攻撃が収まったことで、氷柱の後ろ側に隠れるシュトルムは盛大に空気を求めて呼吸を荒げる。防いでいる間は全力で力を込めていなければならず、呼吸をする暇すらなかったのだ。もしも攻撃が未だなお続いているようであればシュトルムは今立ってはいられなかった。


「厚みを増やして防ぎきったのか。やるじゃないか」

「ハッ……ハッ……! (マズイ、もう身体に力が……)」


 カイルが銃口を地面に向けて無防備を晒し、感心したようにシュトルムへと投げ掛ける。シュトルムはというと魔力を消費しすぎたことによる虚脱が臨海に達しつつあり、平静を装うことも無理な状態でそれどころではない。


 カイルの一層強まった苛烈な攻撃を防ぐためにシュトルムは全力で魔力を込めて対抗したのだ。それにより当然消費する魔力も跳ね上がってしまっており、シュトルムは魔力も体力もほぼ失いかけていた。最早足を一歩動かすこともままならず、極度の疲労に耐えかねて盾代わりにしていた氷柱の発動を自分の意思なく止めてしまう程だった。


「……流石に限界だな」


 氷柱が地面に崩れて割れると、冷気がフワッと宙を舞う。シュトルムの姿を確認したカイルは冷静に状態を確認すると一言だけそう言った。

 シュトルムはというとカイルに目を向けるのが精一杯だった。


「すげぇよシュトルム。咄嗟でその魔法の応用の仕方は大したもんだ。スタミナも精神力も悪かねぇ。今のでまだ倒れねぇんだからお前自身も大概だなぁ……」


 嫌味かと、シュトルムは内心カイルに舌打ちを打った。

 状況を見れば、自分とお前の今の差を見て何を言いだすのかと言いたくなる気持ちも無理はない。




「ふぅ。さてと――」

「(っ!? せ、せめて最後くれぇ……!)」




 千載一遇の機会が訪れたと、シュトルムの残された意識が過敏に反応した。


 これまでまともな油断を一切見せてこなかったカイルだが、ここまでくれば万が一もないと考えたのかもしれない。

 恐らくカイルは魔導銃に込められていた魔力が枯渇したのだろう。ポケットから小型のカートリッジを取り出し、銃へと装填しようと視線を下に落としたのである。


 よくよく考えてみればずっとインターバルもなしに魔道具を扱い続けることなどできるわけがない。今さっきの攻撃は明らかにカイルの大技……その代償がないわけがないと。

 魔道具ならば魔力が枯渇するのは当然で、所詮は消耗品である道具に過ぎないのだ。


 この猛攻の果てに訪れたカイルの一瞬の隙。もう体力すらも枯渇してしまっては次を待つことは不可能だ。絶対に一太刀浴びせる覚悟で残された魔力を掻き集め、シュトルムは魔法を放とうと震える手をカイルへと向ける。




「『転移』」

「(なっ――!?)」





 ――無情とはこのことか。自分の運命をシュトルムは呪った。


 シュトルムが手を向けた直後、逆にそれを狙って合わせたようにカイルがシュトルムの眼の前から忽然と姿を消したのだ。そして背後に気配がした時には既に、肩甲骨に固いものを押し付けられる感覚がしていた。


 カイルはシュトルムの右肩に魔導銃を突きつけ、今にも弾丸を撃ち出すことができる状態でいたのだ。


「悪いな、実はまだ魔力は残ってんだわ。油断したように見えてたならそりゃ勘違いだし……魔法は俺にだって使えるんだぜ?」

「(っ……くそったれ……!)」


 最初から、勝ちの目など一切なかったのだ。

 何段階も先に進んだ技術にカイル自身の高い身体能力。この二つだけでも手も足も出ないというのに、上級魔法までも無詠唱で行使されては言葉も出ない。


「(一度も攻撃出来ず、か……ハハ)」


 最後は最早笑えてしまえそうだった。ただ口にすることはできなかったため心でシュトルムは自嘲する。

 振り返ることくらいはできたであろう気力も消え失せ、シュトルムの身体から力が抜けていく――。




「『マグナブレイズ』――!」




 全てを諦めた顔をしたシュトルムには最後の手向けなのか、残りの魔力全て込めたと思しき威力の光線が……シュトルムの姿を掻き消した。


次回更新も早めを頑張ります。


※7/8追記

次回更新は明日です。

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