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神鳥使いと呼ばれた男  作者: TUN
第六章 来たるべき刻 ~避けられぬ運命~
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329話 暗躍(別視点)

 



 ◇◇◇




 一方、最高位特別会談が開かれている頃――。




「ん?」

「む?」


 ギルド本部へと続く道にて、互いにすれ違うようにして出会す少年と老人の姿があった。決して人の行き交いの少ない道ではないが、今日この道で人を見たのは二人とも初めてだったため、顔を見るや否や一瞬急ぎ足を止めた。


「よぉ、爺さん。そんな急いでどうしたんだ?」

「ふぅ……急ぎで届けねば、ならん物があって、な……。と、届けに行く途中、だが……?」


 少年が声を掛けるも、息を切らして話す老人の顔は険しい。ここまで走ってきたようであり、年功を語る皺に汗が溜まって光り呼吸の荒さを強調している。


「喋るのも一苦労かよ。あんま無理すんなよ? アンタもういい歳だろ」


 老人を労る少年はまだ老人とは対照的に随分と若い。こちらは若さゆえか、老人と比較して疲れが微塵も表れていない様子である。

 少年は大きな体格もあってかなり威圧的な印象を受ける見た目をしており、司風に言えば不良だ。――特に背中に見える武器は圧巻の存在感を放っている。


「フッ、まだ小童に心配される程では、ないわい。――が、この道のりは少し身体に響くがな」

「ここらは少し荒れ道だもんな」

「道に文句を言っても仕方あるまい、それがどうしたという話だ。行かねばならぬから動くのが人というものよ」



 老人は若者に強気な態度で返そうとするも、どうやら自分の身体は正直なことは悟っているらしい。認める気持ち半分、認めたくない気持ち半分といった感じである。

 ただ、ニヤッと笑う顔には暗い気持ちは見られない。


「元気なこって。……で、そいつが届け物か? 大事にしてるみてーだけど」


 老人の疲れた様子の内に若干興奮している気配を感じた少年は、最初のやり取りを思い出して老人が持つ長物の包みに目を付けて聞いてみると――。


「うむ。儂の客からの依頼品だ。これはそ奴の為に打ったものなのでな、早くそ奴の手元に渡るべきなのだ。儂のところにあったところでコイツが嘆くだけだしな」

「なるほどな。へぇ……それが……。爺さん、アンタなんて言うんだ?」

「ジルバ。街の鍛冶師の一人だ」

「ジルバ……そうか、アンタが……」


 目を凝らして包まれた老人の見せる届け物の長物を見ながら、少年は老人が明かすその名に一瞬だけ反応する。ジルバも勘が鈍いということはないが、それ以上に今は気が散っていることもあってそれに気が付くことはなかった。


「なんだ、名は知っておったのか。それよりこれの異彩を感じ取ることができるとは……お前も相当できるようだな? お前、名を何という?」

「アレク。アレク・アステイルだ」

「……ふむ。お前は少し前に出会った小僧と似ているな……。あ奴は今頃どうしているのやら……。入り用があれば儂の工房に来てみろ。背中のそれの補修でも強化でもしてやらんこともない」


 アレクに似た雰囲気を持つ人物に心当たりがあるのか、久々に思い出したように話すジルバ。アレクはジルバのお眼鏡に叶ったようで、アレクの背負う武器を指摘してそう言うのだった。


「え? いいのか? 今会ったばっかなのにサンキューなじいさん」


 アレクにはジルバが何を言っているのかは詳しくは分からなかったものの、ジルバの申し出は素直に有り難いと感じた様だ。驚きながら感謝して喜びを露わにしている表情には年齢相応の色が見えなくもない。


「フッ……ここ最近は面白い奴によく出会う。さて、少し息抜きになった。時間も惜しい……ではな」


 自分の眼に適う者は少ない。それを自覚しているジルバにとっては非常に名残惜しくはある少年との遭遇であったが、今はそれよりも優先すべきことがある。ジルバは少年に別れを告げると再び足に鞭を打って動かし始めたが――。




「――ああ悪い、それはちょい勘弁してくんな」

「むっ!?」




 自分の横を抜けて去ろうとしたジルバにアレクは制止の声を上げたと思えば、ジルバの持つ長物を奪い取るように取り上げる。

 それは見事な豪快かつ繊細な動作だった。ジルバにとっては消えたように手元から無くなったに等しかったほどである。


「オイ小僧! 一体何の真似d……う゛っ!?」


 ただ大事に抱えていたものがいきなりなくなれば流石に気が付くというもの。異変を感じたジルバもすぐに状況を理解して反応をしたのだが……その時には既に終わっていた。

 振り向いた先にアレクはいなかったのだ。アレクは何時の間にか振り向いたジルバの後ろ側に回り込んで首に手刀を叩き込んでいたのである。


「こんな宝剣に近い武器(・・・・・・・)を持たれちゃまだ困るんだよ。1日だけ待ってくれ」


 ダラン、と事切れたように倒れそうになったジルバをアレクは手で支えると、軽々とジルバを担ぎ上げて足早に荒れ道を逸れて街路樹の中へと姿を消す。

 手際の良すぎる動作は超一流と称しても良い程で、当然目撃者など誰もいなかった。




 ◆◆◆




「……」


 オルドスの街とギルド本部から非常に遠く離れた地点。ほぼ立ち入り禁止区画に指定される人の手の入らぬ岩山の頂上で、一人の青年はうつ伏せになって大型の機材のレンズを覗きこむ。機材の先端には砲口が付いており、レンズ越しに遠方を眺めているようだ。片目のみで捉える者達に意識を全力で注ぎこんでいる。

 その砲口が向く先には、4人の男女が空中にできた不思議な輪を見つめている。各々で反応がそれぞれ違うため輪の中が一体どうなっているのかは分からないが、青年にはなんとなくだが分かるらしい。疑問符を浮かべながら納得した様子を見せる。


 一方的に青年が4人を見つめているこの状況に、当の4人は知る由もないだろう。視認することはおろか、ここまで離れていては気配を感じることすらほぼ不可能である。

 更には自然に溶け込み人がいないことが前提の立地もあるため、見つかることの方が難しいとさえ思える。




「――遅くなった。悪いカイルさん」

「お? 来たかーアレクー。回収はできたかー?」


 このような場所には誰も来るはずはない。――常人ならば。

 この場にやってきたのはアレクだった。断崖絶壁に近いこの岩山を駆けあがり、青年……カイルの元へと息一つ切らすことなく馳せ参じる。


 アレクの方を見向きもせず、そのままレンズを覗き続けるカイルの間延びした声は、それだけ見るものに集中しているからこそであった。アレクがここまで来るのは当たり前で、そんなことに意識を割いている暇はないような態度にも見えてしまう程だ。


「なんとか。こっちの動向は?」

「それがなぁ……ジークの奴今動くに動けないみてぇでさ。――ホレ、見てみ」


 カイルはアレクに聞かれた事への返答として、覗いていたレンズから一度身を引く。そしてアレクはカイルと入れ替わる様にしてレンズを覗きこみ、その4人の周囲に展開されているモノにやや顔をしかめるのだった。


「うっわ……アレは包囲網潜り抜けるとかそんな話じゃないな。流石に無理だろ。どんだけ精霊呼び寄せてんだよシュバルトゥム殿下は」

「ん? ああ、そっちもヤベェのか。俺はセシルの奴が『天使の衣』を展開してんのがヤベェって思ってたんだが」

「カイルさんは精霊見えないからしゃーないよ。……取りあえずどっちもヤバいくらい警戒してるってのは分かった」

「お前みたいに俺も見えたら良いんだけどなぁ…………お? これが聞いてた究極の『武』ってやつか」

「それでいいんだろ?」

「多分な。聞いてたとおりっぽいしこれで間違いないと思うが……うん、なんつーか、スゲェ。語彙力なくて申し訳ないと思うくらいには」

「全くだな」

「うっせ。――でもこんなの持たれたら確かに怖かったな。取りあえずしまっておいてと……」


 アレクが持っていたジルバから奪った究極の『武』。それは本来ならヒナギの手に渡るハズだったものである。チラリと包みを開いて中身を確認すると、カイルはまた丁寧に包んでは虚空の彼方に消し去るのだった。


「あれ? ジルバのおやっさんはどうした?」

「取りあえずアジトに運んどいた。……ちょっと強めに叩きすぎたかもしれないから暫くは起きないと思う」

「そうか。まぁあのおやっさん頑丈だからよ、拳が鉱石みてぇなもんなんだし他の部位も似たようなモンだろ。平気平気」


 若干申し訳なさそうな顔をするアレクとは裏腹に気にするなと流すカイル。手を無造作に振る仕草が本心からジルバへの仕打ちを大して気にしていないようであり、扱いの雑さにアレクは苦笑いしそうになる。




「――よし、会談ももう始まってるし俺らも行くとすっか。早いとこジークを解放しとかないと向こうも進まねぇ」


 閑話休題。

 カイルは脛に着いた砂を払いながら立ち上がると、レンズ代わりにしていた機材のベルトを肩に掛けて背負いこむ。機材はかなり大型であるため見た目相応の重さがあるにも関わらず、カイルは小物を取り扱うかのように重さを気にしない。


「頼りにしてんぜ? アレク。セシルは任せた。シュトルムの方は俺に任せとけ」

「ああ、俺も最善は尽くす。そっちは頼んだ」


 二人は岩山の上からレンズ越しに眺めていた地点を見据えると、強風荒れ吹く足元の悪い中で断崖絶壁の淵に足を掛ける。そして身を投げ出すように岩山から飛び降りるのであった。

※6/23追記

次回更新は月曜です。

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