31話 臨時講師の依頼
ポポとナナと絆を確かめあった次の日、俺はギルドに来ていた。
5日も過ぎていたとのことだったので、何か情報が入っていないかを聞くためだ。
現在カウンターでマッチさんと会話中である。
「それで、何か変わったことってありました?」
「いえ、それほど変わったことはありませんでしたよ? …あるとしたらそうですねぇ。ラグナ大森林のことくらいでしょうか…」
「ラグナ大森林で何かあったんですか?」
一体なんだろうか?
「いえ、大したことじゃないんですけどね、どうやら活性化の兆候が出ているみたいなんですよ」
「活性化…。昨日…じゃなかった、この前のセシルさんの言っていたことですか?」
昨日と言いかけて訂正する。
どうも間違えてしまうな…。この感覚のズレはすぐに治りそうにもないな。
「ええ。あの後職員を派遣したところ、どうやら活性化の兆候が確認できたんですよ。今はまだ平気でしょうが近いうちにモンスターの狂暴化が始まるでしょうね。現在職員と護衛の冒険者が現地に滞在して記録を取り続けてます」
「そうなんですか…。大変ですね~」
「近いうちに冒険者の方々にも声が掛かるはずですよ? 流石にギルドの職員ではモンスター退治はできませんので…」
「そのときは参加しますよ」
「ええ、お願いしますね」
俺は快く返事をする。
まぁこれは冒険者の義務的なものでもあるだろうし、それに断る理由がない。
それにしても活性化ねぇ…。この世界は本当に大変だなと思わざるを得ませんな。
こんなんだと森の近くに住みたくはないし、おちおち安心して眠れなさそうだ。
なんというか物騒すぎる。
そんなことを俺が考えていると、マッチさんが気になることを言った。
「でも変なんですよね。活性化って周期が大体決まっているんですけど、今回は随分と早いというか…」
だそうだ。
今回の活性化はちょっといつもと違うらしい。
「へぇ~、何か悪いことの兆候じゃなきゃいいですね」
「そうですね。まぁ、偶にこういうこともあるみたいですから偶然でしょう」
マッチさんはそう言って苦笑する。
あ、なんかフラグっぽい気がするんですがそれは…。
…。
とりあえず気にしなーい。
私は何も聞いていない。そういうことにしておこう。…いいね?
そんな考えはさておき、まぁ実際のところ、昨日の奴の言葉が頭に残っているので内心では心配している。
警戒は怠れない。記憶に留めておこう。
そんな時ギルドの奥の扉が開き、中から誰かが出てくる。
その人は中年の男性。
当ギルドのトップ、ギルドマスターだ。
俺とマッチさんはそちらを向く。
「む。お主…帰って来ていたのか」
ギルドマスターが話しながらこちらに近づく。
少し驚いた顔をしているのは、5日間俺がいなかったからだろうか?
「あ、どうも。お騒がせしたみたいで…」
「…帰った来たのなら別にいい。それにちょうどよかった」
この1ヶ月の間ギルドマスターとは何度か話をしたので、最初の時ほどの緊張と威圧感はもう感じなくなった。
いや、感じてるのかもしれないので気にならなくなったと言うべきか。まぁ要するに慣れたんだと思う。
というかちょうどいいって何?
「えっと、何か用でしょうか?」
俺は気になったので聞いてみる。
「ちょうど人を探していたのだ。そこにお主を今見かけたのでな…。お主なら適任ではあるし、だからちょうどいいと言った」
「はぁ…。そうですか」
「マッチよ…。こやつを借りてもいいか?」
借りるって…俺はモノじゃないんですが…。
でも、傷モノにしちゃやーよ?
「あ、はい。私は構いませんが…」
「よし、私についてこい。部屋で茶でも飲みながら話そう」
そう言ってギルドマスターは出てきた扉へと踵を返した。
…あの~、全然ついていけないんですけど~。
話が急すぎやしませんかね?
と、俺が呆然としていると…
「どうした? 早くついてこい」
そんな俺を見てギルドマスターが催促する。
「あっ、ハイ!」
慌てて後を追う。
そうして俺はギルドマスターの後をついていったのだった。
◆◆◆
ギルドマスターについていくと、どこかの部屋に案内された。
部屋に入って正面には立派な机があり、隅の方には大きいソファーが2つ向かい合って置かれている。
どうやらギルドマスターの部屋っぽい。
初めて入ったよ。
「あちらのソファーで座って待て、今茶を淹れる」
「あっ、別にお構いなく…」
ギルドマスターがお茶を淹れると言い始めたので、俺は遠慮した。
だって普通ギルドマスターが淹れるようなものじゃないし、恐れ多くてしょうがないんだもん。
秘書的な人はいないのかな?
「まぁそう言うな。…というより私が喉が渇いたからというのもある」
「あ、そうですか。でしたら、お願いします」
「うむ」
なんだ、あなた喉乾いてたんですね…。
俺はそのついでってことか。…いや、それがなんだってんだって話ですけども…。
俺はギルドマスターがお茶を入れるまでの間、ソファーで座っていた。
◆◆◆
「今日は従魔の2匹はいないのだな」
お茶を入れ、ソファーに座ったギルドマスターが俺に向かって言う。
ポポとナナは現在ここにはいない。
俺がいなかった5日間の間をノンストップで動き続けたらしく、疲れがどっと押し寄せたのかまだ爆睡している。
現在『安心の園』でダウン中のはずだ。
ぐっすりと眠っているあいつらを見てわざわざ起こす気にはならなかったし、一応俺がギルドに行っているという書き置きはしておいたので、起きたらすぐに来るとは思う。
「ええ、色々ありましたからね。疲れて眠っているんですよ」
「…大体想像はできるな。まぁお主が慕われている結果だろう」
「はは、ありがとうございます」
「…まぁいい、本題に入るか」
そうしてくれると助かります。
流石ギルドマスター、話が早いね。
「はい。内容の方は?」
「それなのだがな、急な頼みだがお主には王都に行って教師を務めてもらいたい」
「………え?」
「ああ…、教師と言っても臨時だ。1週間程の間だが…」
「王都で…臨時、教師…ですか…」
「うむ」
いや、うむ…じゃねーよ。王都行って…教師をしろ?
随分と急な話だ。
というよりなんで? それに王都ってどこ?
てかこの町の学院じゃなくて?
「あの、理由をお聞きしても?」
「うむ、今からそれを話そう」
ギルドマスターから説明を受ける。
「実は王都にある魔法学院から依頼が来ていてな…。冒険者を招いて、生徒に冒険者としての心構えや在り方を指導するというものなのだが、これは毎年あるもので、年間の授業のカリキュラムに組み込まれているものだそうだ」
ふむふむ。
「去年もその前の年も、この依頼を冒険者ギルドの方では受けている」
「それを今回俺がやれと…?」
「そうだ。その学院の学院長が私の友人でな、優れた冒険者を選抜してほしいと言ってきたのだ」
「なるほど、事情は分かりました。でも俺、優秀ではないですよ?」
俺、冒険者の経験浅いんですけど…。
「…何を言っているのだお主は。確かにお主は現在Cランクだが、そんな枠で収まるような奴とはギルドの方では思っていないぞ?」
ギルドマスターが呆れた顔をして言う。
いや、俺が言いたいのはそんなことじゃないんですが…。
「それは戦闘においてのことでしょう? 確かに戦闘においては自信がありますが、俺はまだ冒険者になって1ヶ月の新米ですよ? 冒険者は戦闘が全てではありません。俺には戦闘以外の経験が他の冒険者の人と比べて圧倒的に足りないですし、心構えとか聞かれても答えられませんよ。今のランクだって、ほとんど実力があったから成り上がれたようなものですし…」
これこれ。
「それが理解できているだけでも充分平気だと思うがな。確かにお主は冒険者になってまだ1ヶ月の新米だ。だが、戦闘においては勿論のこと。その他の面もランクにそぐわぬ素質を持っているとギルドは判断している」
「そんな、買い被りですよ」
「ギルドの職員は冒険者の行動、発言を注意深く見ておる。中でもお前は礼儀や作法が群を抜いてしっかりしていると聞いているぞ?」
ん~?
結構おちゃらけてる発言してると思うんだけどなー。
普段は猫被ってるだけなんだけどなー。
初日に問題起こしてるんだけどなー。
まぁ別にわざわざ言わないけどねー。
「確かに発言や礼儀は意識していますが、ほとんど我流ですよ? 間違った部分もあります」
「聞く限りそれもほんのわずかだ。問題ない。中には意識することすらしない輩もいるくらいだからな…。そこについては安心していい」
「…そうですか」
「そんなに気にしすぎるな。過去にはドミニクもこの依頼を受けたことがあるのだぞ?」
は? なんて?
俺はその発言に驚く。
は? アイツが?
いやいや、おかしいでしょ。だってあんなんだぞ?
世紀末に出てきそうな感じのチンピラ…。それがドミニクの印象だ。
俺はギルドマスターに疑いの眼差しを向ける。
「まぁお主が疑うのも分かるが、少し前までは誠実なやつだったのだよ。Cランクになった辺りから、どんどん腐っていってしまったがな…」
「アイツが…ですか」
「まぁ被害者のお主からしたら信じたくない気持ちは分かるが、事実だ。だから安心しろ。奴にもできたのだから」
「…そうですね」
意外なことを知ることができた。
まさかドミニクがギルドマスターから褒められるほど誠実だったとは…。
嘘くさいが本当のことなんだろう。
てかあの一件以来ドミニクを見ていないな。いや、見たくないですけども…。
ただ、ほぼ毎日冒険者の依頼をやっていた俺が見かけていないとなると、もうこの町にはいないのかもしれない。
それと俺の記憶からも消えてくれないですかねぇ?
「では、受けてくれるか?」
ギルドマスターが俺に聞く。
まぁお願いされるのには弱いので受けてもいいのだが、その前に聞きたいことがある。
「その前に聞きたいことがいくつかあるのですが…」
「なんだ?」
「臨時講師として招かれるわけですが、当然俺は講師の教訓を学んだことはありません。そんな俺にも勤まる内容なのでしょうか?」
「無論だ。その辺りについては学院側がサポートをしてくれるはずだ。基本は向こうの職員の指示に従っていれば問題ないだろう」
なるほど。俺が1週間の内容を全て考え実行しろ、というわけではないようだ。
それは助かる。
俺は手際がよくないんだ。しっかりケアしておくれ。
「わかりました。では次です。相手にする生徒というのは平民でしょうか? それとも貴族でしょうか?」
これが怖い。
王都というくらいだから、貴族は結構な数がいそうな気がする。グランドルにもそれなりにいるにはいるみたいだし…。
直接会話はしたことはないが、聞くところによると平民を見下すようなやつが多いみたいだ。まぁこれは育ちの違い、周りの環境が違うことからくるものだろうししょうがないだろう。
できれば関わりたくはない…。でも無理だろうなぁ。
「学院は魔法の才があるものは幅広く受け入れることを売りにしている。貴族、平民はもちろんいるし、学院長がスラムで拾ってきたような者もいると聞く」
あちゃ~、やっぱりな…。まぁそれはしょうがないか。
てか学院長すげぇな!? スラムの子とか…大胆すぎると思うぞ。
「…その学院長、大胆と言うか何というか…凄いことしてますね」
「私もそう思う。普通はそんなことはしないからな…。まぁそこが良い所でもあるし、尊敬できるところでもあるな…」
ギルドマスターは呆れとも笑いとも取れる顔をして言う。
でもなんだかんだ関係は良好なように見える。
親友なのかな…?
「話が逸れたな…。他には?」
「はい。えっと、なぜこのギルドに依頼が来ているのでしょうか? 王都のギルドに依頼すればいいのではないのですか?」
冒険者ギルドは世界中のどの大陸にも存在し、一部例外はあるものの、村や集落といった過疎地域でもない限りは支部が必ずと言っていいほどある。
ならば普通は王都のギルドに依頼をするはずだ。俺だったらそうする。
なぜわざわざグランドルのギルドに依頼を出しているのだろうか?
単純に知り合いであるギルドマスターの所だから…か…?
「それはな、単純に私がギルドマスターで良い人材を選ぶことができるというのもあるのだが、王都は色々としがらみが多くてな…。ギルドに貴族の息が掛かっている可能性があるので、人選が難しいことが原因だそうだ」
あ、そうなん? これが社会の闇ってやつですね。
一つ勉強になりますた。
でもこういうのってホント面倒だよな。
そんなものとは無縁に暮らしてた俺はそういうのは分からんぞ…。
とりあえずそういうことね。なんとな~く分かったよ。
「…分かりました。色々と分からない点が埋まりましたよ」
「それはなによりだ。それで、どうする?」
「…受けさせてもらいます。まぁギルドマスターのご指名ですし」
「そうか、助かる」
俺はこの依頼を受けることにした。まぁ良い経験にもなるだろう。
それに、うまくいけば色んな情報が聞けるかもしれない。
忘れがちだが、俺たちの最終目標は地球への帰還だ。それの足掛かりを常に探していかねばならない。
色々な考えはあるが、とりあえず王都に行くことが決まったし準備をしないとな。
旅支度ってやつだ。
「それで、王都にはいつ行けばいいのですか?」
「今日だ」
「………」
その一言に俺は黙る。
…。
あのさぁ…何で全部急なのかなぁ? 今日って何よ?
まぁどことなく予想はしてたけどさぁ。
流石にひどくないか? お兄さん怒っちゃいますよ?
「今日だ」
「いや、聞こえてますんで…」
俺が聞こえていないと思ったのか再度伝えてくる。
火に油を注がないでくださいよ…。
モンスターの巣にぶち込みますよ?
「…スマンな。手違いでこの便りがくるのが遅れたらしく、ギリギリの日程になってしまったのだ。許せ」
ギリギリにも程があると思うが…なんだ、そういう事情があるのか…。
それなら仕方ないのかな?
そういうのを聞くとどうしても怒れない。
「はぁ、しょうがないみたいなのでいいですよ。じゃあ俺はすぐに準備してきます」
「スマンな。昼になったらもう一度ギルドに来てくれ。お主の従魔なら王都には今日中に着くだろうからな」
「王都がどのくらいの距離かは知らないので何とも言えないのですが…」
てか王都の場所知らないし。
それにマジでギリギリすぎる日程じゃね? それ…。
ポポとナナの早さで行かないと間に合わない距離ってことだろ?
俺以外無理じゃん。元々俺に頼むつもりだったんじゃないだろうな? アンタ…。
「色々と言いたいことはありますが、とりあえずそれは今はいいです。それで、王都ってどこにあるのでしょう? 俺知らないんですが…」
「お主知らんのか? この大陸で一番有名だから知っていると思っていたが…」
そらこの大陸の住民はそうなんだろうよ。
でも俺は地球人。グランドルの町と依頼で立ち寄った村や町くらいしかしらないし…。
まぁ許せ。
ギルドマスターの発言を脳内で真似してみる。
誰も聞いちゃいないがな。
「王都はグランドルを東に行った所にある。お主が以前行った『魔滅の山』よりかは遥かに近いぞ」
「遥かに…ですか。なら多分平気でしょう」
「うむ。とりあえず準備をしてくるといい。私はお主の紹介状を書いておくとしよう」
「それを向こうに着いたら渡せばいいんですね?」
「そうだ、察しがよくて助かる」
「分かりました。では一旦失礼しますね」
時間があまりないのでここで話を終わらせ、そして俺は部屋を後にする。
ドアに手を掛けて部屋を出る前にもう一度振り返る。
まぁ、もう一度挨拶をするためである。礼儀というものだろう。
「…!?」
「失礼しました…? あの、どうかしましたか?」
そのときにギルドマスターを見たのだが、酷く驚いているような顔をしていた。
どうしたのだろうか?
…ハッ!? 何か背中に付いてたのか!? だったら恥ずかしい!
神様の時もそんなことあったしな…。
と俺が考えていると…
「あ、ああ、いや…何でもない。やり忘れた仕事があったことを思い出してな…。こちらも重要な案件だったのでつい…な」
「あ、そうでしたか。…ギルドマスターも大変ですね。まぁ頑張ってください」
「…あぁ、お主も…な…」
「…?」
少々ぎこちない気がしたが…きっと気のせいだろう。
俺は今度こそ部屋を後にした。
◇◇◇
「危なかったが…気づかれずに済んだようだな」
司が部屋から出ていった後、ギルドマスターが呟く。
額には汗が一筋流れており、光を反射しているのか輝いている。
「まさか…あれほどの力を身に付けていたとはな…」
窓に近づき外を見る。
その視線の先には走ってギルドから出て行く司の姿があった。
「…『聖眼』」
ギルドマスターがそう呟く。
それと同時に、ギルドマスターの片方の目が灰色に変わる。
両目とも黄色だったはずだが、今では右目が黄色で左目が灰色となっており、オッドアイのようになってしまっている。
『聖眼』…
『聖眼』とは『魔眼』の一種である。
『魔眼』は様々なものがあり、現在では『聖眼』・『邪眼』・『縛眼』・『操眼』・『幻眼』が確認されている。
どの『魔眼』も非常に強力かつ貴重なものであり、有している者は限りなく少ないと言われている。
『魔眼』を使えるようになる理由は未だに明らかになっていない。
ある日突然開眼したという者もいれば幼いころから使えたという者もいたり、研究者の間では要因がいまいちつかめないのが現状だ。
例外として他者の『魔眼』を自分に移植し、使用する…という者も稀に存在する。
その場合は本来の持ち主同様に扱えるため、冒険者などが扱った場合は非常に強力な戦力の底上げとなる。
ゆえに、『魔眼』を扱えるものは極力そのことを話さない。
『魔眼』を求めている者に殺され、奪われてしまう恐れがあるからだ。
ギルドマスターも過去に襲われた経緯があり、学院の友人にのみ扱えるという事実を伝えている。
『聖眼』を発動したギルドマスターの視界には誰かのステータスが映っている。
もちろん司のステータスである。
『聖眼』の主な能力は、対象の能力値を把握することと、封印術を扱えることだ。
また、相手の善悪の度合いを見抜くこともできる。
ステータスを見ることくらい朝飯前というものだろう。
「レベル1000越え…超越者か。まさかこの目で見る日が来るとはな…。少し見ない間に一体何があったのだ? やけに成長が早いとは思っていたが…。それに何というステータスだ…。私を遥かに越えているぞ…」
ギルドマスターはその事実に驚き溜息を吐く。
ちなみにギルドマスターのレベルは500程である。
支部とはいえ、トップを任されているということもあってその実力は本物だ。
そして本人も自分の強さに自信を持っていたのだが、こうも圧倒的な強者を目の当たりにしてしまうと少し自信を失くしても無理はないかもしれない。
ステータスの初期値やレベルアップによる上昇値というものはそれぞれ人によって異なる。
初期値だけ高く上昇値が低い者もいれば、その逆の者もいたりと様々だ。
ギルドマスターはというと、このどちらもが非常に高く、人類トップクラスの能力を持っているいわばエリートである。
正直こちらも人間を辞めているほどの強さを持っていたが、相手が悪いというか何というか…、比べる相手を間違えている。司に至っては論外だ。
比べるということ自体が間違っていると言えるだろう。
『聖眼』で見れるのはあくまでレベルとステータスのみであり、スキルなどは見ることができない。
司のレベルの高さは【成長速度 20倍】によるものだということには気づけていないが、レベルが現実離れしているのでそちらに意識が向いてしまってもしょうがない。
「あやつに危険性がないのが救いか…。命拾いしたのものだ、私も…この町も…」
司が視界から消える。
と同時にステータスも見えなくなった。
ギルドマスターはステータスを見るのと同時に、司の善悪の度合いも確認していた。
善悪はどうやら色で判別できるらしく、黒だと悪で、白だと善ということらしい。
まぁ、確実にそうというわけでもないみたいだが…。
それでも、司に見える色は限りなく白に近いものであったので、危険性がないと判断したようだ。
ただ、それでも1つ恐怖に感じたことがある。
それは司のレベルがまだ上昇しているということだ。
それは【無限成長】によるものなのだが、そんなことは知る由もない。
そもそもレベルというものは100くらいの切りのいい数字を目安に止まるのだ。そこから才能のあるものは200、300とレベルの限界が違ってくる。
ギルドマスターは500が限界のようで、これ以上はもうレベルアップをすることがない。
500が限界の者は世界でも一握りの数しかいないことを考えると、司の規格外さがよく分かる。
だから、1000を超えてなお未だに成長を続ける司に恐怖を抱くのも無理はない。
「問題はないと思うが、一応マリファには伝えておくか」
ギルドマスターは懸念事項が増えたことでため息を吐く。
そして机に座り、筆をとるのであった。




